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コロナ禍は人災
新型ウイルス肺炎が世界に拡大 安倍首相が対策巡り会見(写真:ロイター/アフロ)
新型ウイルス肺炎が世界に拡大 安倍首相が対策巡り会見(提供:ロイター/アフロ)

全世界に対し責任があるのは習近平で、一党支配体制による忖度と言論弾圧に諸悪の根源がある。日本が初動に失敗し感染拡大させたのは習近平に対する安倍首相の忖度で、日本国民の命と生活に重大な危機をもたらしている。

◆コロナ禍の真犯人は習近平

日本のジャーナリストの中に、「習近平を敵視するとは何ごとか、習近平は(コロナの戦場における)戦友である」という趣旨のことを書いている人がいるのを知って驚愕を覚える。

もう何度も多くのコラムに書いてきたが、コロナ禍(新型コロナウイルス肺炎の災禍)の真犯人は習近平で、しかもこれが人災であるということは言を俟(ま)たない。

蔓延した最初の原因は湖北省の省都である武漢市政府が患者の発症を隠蔽したからだ。1月5日に上海市公共衛生臨床センターが「これまでにない新型コロナウイルスだ」と検査結果を発表したのに、武漢政府は「確かに原因不明の肺炎患者はいたが、その問題は既に解決している」として北京に良い顔をしようとした。昨年12月30日には武漢の李文亮医師等が「この肺炎は(2003年の)SARS(重症急性呼吸器症候群)の時のコロナ肺炎に似ている。人‐人感染もする」と警鐘を鳴らしたが、1月1日、武漢公安は李文亮を「デマを流し社会秩序を乱した」として摘発。李文亮自身も新型肺炎に罹り2月7日に亡くなった。

武漢政府が市民の命を重んぜずに北京の顔だけ見ているのは一党支配体制がもたらしたものであり、李文亮を摘発したのは一党支配体制を維持するために不可欠な言論弾圧があるからである。

それでもせめて医師や医療機関の警告を重要視すればいいのに、習近平は武漢市の忖度報告だけを信じて1月17日からミャンマーを訪問し、19日から21日までは春節祝いのために雲南省巡りをしている。   

しかし1月18日、浙江省で同じ肺炎患者が発症したため中央行政省庁の一つである国家衛生健康委員会が動き、SARSの時の功労者であった中国免疫学の最高権威・鍾南山院士率いる「国家ハイレベル専門家グループ」を武漢視察に派遣した。一瞬で「SARS以上の危機がやってくる」と判断した鍾南山は北京にいる李克強総理に報告し、李克強が雲南にいた習近平に知らせて、1月20日、習近平の名において「重要指示」を発布させた。

この瞬間から中国はパニックに突入し、1月23日には武漢封鎖に踏み切ったが、もう遅い。それまでに500万人に及ぶ武漢市民が武漢から脱出し、中国全土に散らばっていった。

1月30日になってWHO(世界保健機関)はようやく緊急事態宣言を出したが、「貿易や渡航に関する制限は設けない」として緊急事態宣言を骨抜きにした。WHOのテドロス事務局長はエチオピア人で、エチオピアへの最大投資国は中国だからだ。

◆「たるんでいた」安倍内閣

このWHO宣言に対して、アメリカやロシア、北朝鮮、台湾、フィリピンなど数多くの国が「中国からの渡航者の入国を一律に禁止する」措置を講じたが、日本は湖北省からの渡航者を規制しただけで中国の他の地域からの受け入れは野放し。2月12日になってようやく浙江省だけを渡航規制区域に加えたが、ザルに水だ。結果、日本はWHOから「警戒国」に列挙されるほど感染を広げるに至った。

日本の外務省の発表によれば、3月7日時点で27カ国・地域が日本に対する入国制限を実施し、入国後の行動制限を設けたのは63カ国・地域に上るという。日本は「危険な国」という印象を世界に広げ始めているのである。

その原因は、これも何度も書いてきたが、4月に習近平を国賓として来日させることになっていたからだ。その習近平のご機嫌を損ねてはまずいと、習近平に忖度した。

もちろん東京オリンピック・パラリンピックや中国人観光客によるインバウンドも考慮したのだろうが、しかしマカオなどの場合は3月1日のコラム<中国人全面入国規制が決断できない安倍政権の「国家統治能力」>に書いたように、北京政府の管轄下にある中国特別行政区であるにもかかわらず、2月5日から中国大陸からの入境も中国大陸への渡航も一律禁止している。なぜならマカオ経済はカジノでお金を落としてくれる観光客によってのみ成立しているので、思い切って大陸からの入境を全面禁止した方が感染拡大を食い止め経済的打撃が少ないと判断したからだ。そのためこれまでの累計患者数を10人に食い止めることに成功している。3月7日現在で、32日間、新規感染者はゼロだ。

マカオでさえできる判断と決断が、安倍内閣にはできなかった。

マカオを管轄するのは中国政府(北京)の全人代(全国人民代表大会)常務委員会で、この委員会が、マカオがこのような措置を取ることを許可したということは、安倍首相が同様の英断をしても問題はなかったことを意味する。

しかし、そのような、日本国民の経済を守るための思考もできないほど、安倍内閣はたるんでいたのではないだろうか。

その証拠に、たとえば2月16日に首相官邸で開かれた「新型コロナウイルス感染症対策本部会議」(全閣僚がメンバー)には、小泉進次郎環境相と森雅子法相および萩生田光一文部科学相が欠席している。

小泉氏は地元の後援会の新年会に出席し、萩生田氏は地元の消防団関係者の叙勲祝賀会に出席。そして森氏は福島県内の書道展で挨拶するため欠席したことが明らかになった。

これに対して2月19日、菅官房長官は記者会見で「必要な公務や用務であれば欠席はやむを得ない」との認識を示しているが、これが「新型肺炎の対応について政府一丸となった対応」を強調してきた安倍内閣の実態だ。

おまけに森氏は3月3日、アリババの馬雲(ジャック・マー)がマスクを送ったことに対して、自身のツイッターに、「友人のジャック・マーが、日本に手を差し伸べてくれました。 素敵なメッセージと共に100万枚のマスクを送ると表明してくれました。是非記事を読んでみてください。 昨年12月にも東京で語り合う時間がありました。次再開する時にしっかりと感謝を伝えたい。ありがとうジャック」と書いている。

この事実は軽視してはいけない。

日本国民の命を水際で必死になって守らなければならないはずの入国管理局を管轄する法務大臣が、コロナ対策本部会議を欠席して書道展に出席していただけでなく、中国に諂(へつら)わんばかりのツイート。

馬雲と会ったことがあるのが自慢なのか。

「ありがとうジャック」とは、何という「おぞましい」ばかりの表現だろう。

これが、こともあろうに水際を命がけで守っていなければならない法務大臣の言葉か。

このツイートは、中国がコロナを発生させ全世界に蔓延させたことは「できるだけ見ないようにして矮小化させる」という習近平の望みを叶えてあげている安倍政権の全てを物語っている。きっと安倍政権の中では、この「中国共産党への阿(おもね)り」、「習近平への諂い」が常習化しているのだろう。だから、このようなツイートが自然に出て来る。

ただ「たるんでいる」というだけでなく、日本国民の命や安全な日常生活より、習近平への忖度が優先されている安倍政権の意識が、いかんなく発揮されているツイートなのである。これを任命者である安倍首相は咎めもしない。

この一点を見ただけでも、現在の感染拡大は、安倍内閣がもたらした人災であると断言できるのではないだろうか。

◆日中首脳は「同じ穴の狢(むじな)」か

習近平は初動の失態をカバーすべく、2月7日に李文亮医師が亡くなってからは、「コロナ防疫対策は、全てこの私が主導してきた」と異様なまでに強調するようになった。

中国共産党の管轄下にある中央テレビ局CCTVも、声を張り上げて「偉大なる習近平国家主席の主導の下に、全人民は防疫戦役に立ち向かっている!」と繰り返している。初動の遅れを取り戻そうと、「この私が」に必死なのである

武漢市書記に新しく就任した王忠林等は3月6日、「武漢市民はみな『恩を感じる教育』を展開しなければならず、習近平総書記に感謝し、共産党に感謝し、党の言うことを聞き、党と共に歩み、強大なエネルギーを発揮していかなければならない」と述べた。

これに対して多くのネット民が激しい批判のコメント書き込んだので、一瞬で元の情報は削除された。しかし中国大陸以外の中文情報がそれを捕えているので、たとえばこちらから見ることができる。

安倍首相が初動の失態を埋めようと、ここのところ「この私が」主導力をアピールするための思いつき指示を次から次へと出しているが、両者とも同じ穴の狢と見えてくる。

同日、中国政府は1月と2月の輸出が前年同期の17.2%減であると発表したが、日本も「第二の武漢」同様、後を追うことになるのではないだろうか。

◆実体経済だけでなく金融においても

シンクタンク中国問題グローバル研究所の理事の一人である白井一成氏は、投資家でもあるため金融に関して詳しい。3月3日、特別寄稿として「新型コロナウイルスと経済の関係」を投稿してくれた。その中で彼は以下のように書いている。

――各国は、傷ついた企業に救急的な融資を実行するだろうが、これは、資金繰りを利益でなく借り入れで繋ぐということである。問題の先送りである。各企業は、売り上げが減少するなかで借入比率を高めることとなり、結果として金融危機への負のエネルギーを蓄積することになる。(中略) 実体経済が縮小するなか、高水準のレバレッジ比率が引き金となり、最終的にはリーマンショックのような大きな流動性危機が発生する可能性がある。

その上で筆者に「足元の経済状態から、世の中は、流動性危機(資金蒸発と金融機関破綻)が発生するシナリオに向かいはじめた可能性が高い」と忠告してきた。

白井氏はまた、以下のような見解も述べている。

――現時点において、各国中央銀行に状況を好転させるだけの手立てはあまり残っていない。各国政府の素早く大規模な財政出動が望まれるが、数カ国を除き、そのような賢明な判断がなされないのではないかと危惧している。予防的で大胆な政治判断は、強力なリーダーシップがないと難しいからだ。コロナウイルス拡大に伴う世界的景気減速の責任の一端は、日本政府を含めた初動を誤った複数の国家にあった。ウイルスが世界的に広まってしまった以上、世間の注目は感染の拡大防止から経済対策に移る。安倍政権には、リーダーシップを発揮し流動性危機の発生を食い止めてほしいと切に願う。

実に示唆的な見解だ。

第二の失敗を食い止めるためにも、この声が安倍政権および全ての国会議員に届くことを祈ってやまない。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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