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習近平失脚説 噂とフェイクと報道のフローチャートPartⅡ
米LAで反中デモの瞑想をする法輪功信者(学習者)(写真:ロイター/アフロ)

本稿では、7月14日の論考<習近平失脚説 噂とフェイクと報道のフローチャートPartI>(以後、PartⅠ)の続きを書く。PartⅠの最後に書いたように、7月8日のTBSの<「中国で権力の移行が起きている」”独裁”強めた習主席”失脚”あるのか【7月8日(火)#報道1930】|TBS NEWS DIG>が土台としていた台湾の沈明室氏は、毎日のように法輪功のメディアである大紀元と接触をしていたことがわかった。また7月8日の中央日報の長老は政治介入、側近は要職から排除…習近平氏“秩序ある退陣説”(2)(中央日報日本語版) – Yahoo!ニュース(7月16日の午後の時点で全面削除)では、大紀元の情報をニュースソースにしている記述が多く、フェイクXを発信している「時代媒体」も大紀元を大絶賛している。

著名人であるマイケル・フリンは頻繁に大紀元の番組に出演し、そのたびに自身のXで大紀元への感謝を述べている。

日本のメディアあるいはチャイナ・ウォッチャーが、これら大紀元の情報を軸として報道しているということは、日本の中国関連情報が全体として大紀元情報で動かされていることを意味する。

すなわちそれは、法輪功が日本あるいは世界における中国関連情報をコントロールしていることにつながる。事実、アメリカメディアのNBCやニューヨーク・タイムズなどは、アメリカにおける大紀元の急成長の原因を分析し、巨大化がもたらす影響力を危惧している。分析のポイントは「人が飛びつきそうな右翼偽情報とトランプ1.0選挙時代に共和党議員周辺などを抱き込んだことだ」と言っていいだろう。

日本はそれを見抜けないまま、マスコミに動かされていっていいのだろうか?

◆大紀元と緊密に連携しながら活動している台湾の沈明室氏

台湾の研究者・沈明室氏は自分自身の個人情報を大量にネットで公開している。その中の個人動態の情報を見て驚いた。4,5年前からの取材履歴があるのでデータは膨大になるが、少なくとも7月2日から11日までを取り上げてみると、9日間に14回も大紀元の取材を受け報道されていることがわかった。平均的に1日に1回以上は取材を受け、それが大紀元で報道されているという、まるで「大紀元のお抱え研究者」のような位置づけになっているではないか。

彼が公開した情報に基づいて図表1を作成してみた。

図表1:台湾の研究者・沈明室氏と大紀元との関係

沈明室氏が公開している「個人動態」を転載の上、筆者が赤や黄色の印を付けた

図表1にあるThe Epoch Times(エポック・タイムズ)は大紀元の英語表記である。またリンク先の7月2日以前に頻出する「新唐人TV」も、PartⅠでご紹介した通り、法輪功が主催するメディアの一つだ。法輪功関係は黄色マーカーで示した。赤で囲んだのはTBS番組の取材である。

ということはPartⅠで描いたフローチャートのうち、真ん中の「7」は法輪功に染まっているということになる。

◆フリンも中央日報もフェイクXの「時代伝媒」も大紀元情報に染まっている

それだけではない。

PartⅠフローチャートの「6」にある、トランプ1.0で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたことがあるマイケル・フリン氏も情報源は書いてなかったが、実は他のXで大紀元に対して感謝の念を述べたり、頻繁に取材も受けたりしている様子を書いている。

たとえば2025年1月15日には<インタビューをしてくれた@JanJekielekと@EpochTimesに感謝する>というXを発信しており、インタビュー画面が動画としてXに載っている。背景にはまちがいなく【EPOCH TIMES】とある。その一場面のスクリーンショットを図表2に示す。

図表2:大紀元(THE EPOCH TIMES)の取材を受けているマイケル・フリン氏

フリン氏のXからのスクリーンショット

2025年7月5日のフリンのXにも@EpochTimesが書いてあり、古くは2024年12月28日のXの動画の背景にも図表2同様の【EPOCH TIMES】という文字があるのを確認することができる。念のため、動画のスクリーンショットをもう一枚、図表3に示す。

図表3:大紀元(THE EPOCH TIMES)の取材で熱弁するマイケル・フリン

フリンのXにある動画のスクリーンショット

これ以外にも数多くの大紀元の取材を受けているフリンのXがあり、そのいずれにも「ありがとう!大紀元!」という意味の英語が書いてある。

彼もまた、法輪功の色に深く染まった著名人の一人であることがわかる。

韓国の中央日報(日本語版)に関しても、PartⅠで述べたように、PartⅠで描いたフローチャートの「10」にあるブランドン・ワイチャートの評論(情報源:大紀元)を採用するだけでなく、詳細に見れば、たとえば「自殺説が出ている何宏軍・政治工作部常務副主任」に関しては、大紀元の情報「9」にある蔡慎坤氏が書いた<中共軍内部混乱の噂が広まる 専門家は3点に焦点を当てて分析>に基づいており、他の権力闘争説に関しても大紀元情報に準拠している。但し、冒頭にも書いたように、中央日報のこの記事は、(1)と(2)を含めて、7月16日の午後の時点で完全に削除されており、今では見ることができない。おそらく筆者のPartⅠを見て、慌てて削除したものと推測される。

PartⅠで触れたフェイクXを発信している「時代伝媒」氏もまた、2020年11月8日に「大紀元、尊敬に値するメディア!」というXを投稿し、2020年12月26日には「大紀元は責任あるメディアだ、信頼に値する」とポストし、大紀元を絶賛している。ただ「時代伝媒」氏は中国語でアメリカから発信している人なので、筆者の論考を読む機会はなかったのだろう。削除されていない。今も閲覧可能だ。

◆法輪功カラーに染まるフローチャート

これらを総合的に鑑みると、図表4のような、新たなフローチャートが出来上がる。これを「フローチャートPartⅡ」と名付けることにしよう。法輪功の象徴的カラーは「黄色」なので、法輪功に染まった発信者とその寄せ集めの日本の報道を、濃淡をつけた「黄色」で表した。

図表4:法輪功カラーに染まる日本メディアのフローチャートPartⅡ

筆者作成

いかがだろうか?

日本語のメディアが、ほぼ黄色に染まっていることがお分かりいただけたと思う。日本は法輪功の思惑にコントロールされていたということになる。

なぜ、このようなことが起きてしまったのか?

◆ニューヨーク・タイムズとNBCの大紀元「巨大化」に関する分析

2020年10月24日、ニューヨーク・タイムズは<大紀元はどのようにして巨大な影響力マシンを生み出したのか>(有料)という見出しの報道をしている。冒頭には「2016年以来、法輪功が支援する大紀元は、フェイスブックへの攻撃的な戦術と右翼の誤報を用いて、反中国、親トランプのメディア帝国を作り上げてきた」と書いてある。

話は非常に長いので、ここで全てをご紹介することは不可能だが、ニューヨーク・タイムズは手法として、たとえば以下のようなことを挙げている。

  • フェイスブックで大量のページを利用して、人々が関心を持ちそうな娯楽や漢方的健康法などのテーマから大紀元のページへと誘導していった。その際、大量の偽アカウントを創り出すなどして、世論誘導を図った。
  • 法輪功はかつて中国政府が「邪悪なカルト集団」と位置付けたことから迫害を受けてアメリカに移ってきたが、迫害の事実を説明する過程で誇張が多すぎるように見えた。しかしアメリカの右翼(の誤報)を取り上げることによって、米政界へと食い込んでくるようになった。
  • ブライトバートの元会長でトランプ政権1.0の最初の7ヵ月間だけホワイトハウス首席戦略官を務めたスティーブン・バノン氏は2020年7月のインタビューで「大紀元に非常に感銘を受けた。彼らは2年以内にトップのニュースサイトになるだろう」と言った。
  • 大紀元の元従業員は(法輪功にまだ家族がいるので匿名を条件に)「ソーシャルメディアの怪しい戦術に頼ったり、危険な陰謀論を推し進めた」、「法輪功とのつながりが見えないようにしたりした」、「トランプとフェイスブックを受け入れたことで、大紀元は党派的な大国になった」、「その結果、世界規模の誤情報マシンを生み出し、非主流の物語をくり返すことによって主流に押し上げた」、「Qアノン陰謀論を広め、不正投票に関する歪曲された主張を広めた」などと述べている。
  • 大紀元はCovid-19を「CCP (Chinese Communist Party=中国共産党)ウイルス」と名付けトランプを喜ばせた(筆者注:トランプ1.0においてトランプは「China Virus」と書いたカードを手にしながらスピーチをしたことは有名)。

(以上、ニューヨーク・タイムズ報道の概略)

2023年10月13日、アメリカの大手メディアのNBCニュースは<陰謀論に満ちた大紀元は、いかにして主流メディアになり数百万ドルを稼いだのか>という見出しで、大紀元の成功物語の背景にあるものを抉(えぐ)っている。冒頭にはサブタイトルのように「この保守的な報道機関は、税務書類によると、2年間で収益を685%増やし大金を蓄えている」と書いてある。

ではNBCはどのように大紀元を評しているのか、要点を拾い上げる。

  • 大紀元の編集上のビジョンは、極右的な偏向と陰謀論に支えられている。
  • 反ワクチン活動家で大統領候補のロバート・ケネディ・ジュニアは大紀元を最も信用に値する情報源だと言っている。
  • 非営利団体として、大紀元はほとんどの連邦税を免除されているのに、特定の政党と組んでいる。
  • 法輪功の創始者である李洪志は「空中浮遊、壁を通り抜ける術、未来を予見する術」などに優れていると、法輪功学習者(信者)は讃えている。中国政府は法輪功を「カルト」として弾圧したので教祖・李洪志は1997年にアメリカに移住した。
  • 大紀元は、フェイクニュースコンテンツや、詐欺師によくみられる戦術を採用して刺激的で可愛いコンテンツや偽アカウントでアクセス数を増やし誘導した。
  • 大紀元は、スティーブン・バノンやグレン・ベッグあるいは極右の下院議員(共和党)のポール・ゴサールなどの熱烈な推薦文を掲載して、誤情報を信頼できる情報として流すことに成功した。
  • 資金源は法輪功学習者の「寄付金」が主たる供給源だが、さらに実名が分からない多くの「寄付者」からの寄付金が増えていった。大紀元は収益を、自分自身の組織や法輪功という宗教運動に関する他の組織(新唐人テレビや神韻など)に注いでいる。
  • ニュースサイトの信頼性を評価する超党派の企業であるNewsGuardによると、大紀元のニュース記事とオピニオン記事の両方には、「歪曲された、誤解を招く、または根拠のない主張が頻繁に含まれている」という。(以上、NBC報道の概略)

アメリカのこの二つのメディアによれば、日本における旧統一教会の動きにやや似ているところもあるが、いずれにせよ二つのメディアとも、大紀元情報の信憑性に対しては疑問を抱いているということができよう。

筆者自身としては法輪功に関する是非に関しては一切論評しないが、ただ「客観的事実」と比較して大紀元情報を分析してみると、「論理性なく誇張された内容が多く、その非論理性を、著名な人に話させることによって正当化している」という傾向を見出すことができる。

もちろん大紀元の精神性としては「反中共」が基本にあるので、「反共あるいは反中的世論が大半を占める日本」においては歓迎されるのだろうということはわかる。

しかし、それが非現実的であった場合、日本国民にどれだけのメリットをもたらすのかと考えると、冷静な、客観的、科学的判断をしなければならない。その意味では7月8日のTBSの番組(図表4の「8」)は非常に研究に値する内容なので、PartⅢで、解剖を試みたい。日本の「精神的土壌」を見極めるためと、旧統一教会がもたらしたのと類似の悲劇をくり返さないためだ。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。『米中新産業WAR』(仮)3月3日発売予定(ビジネス社)。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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