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中国の中央軍事委員会要人失脚は何を物語るのか?
中央軍事委員会主席 習近平(写真:ロイター/アフロ)

1月24日15時、中国の中央軍事委員会副主席(張又侠)と委員(劉振立)が「重大な規律違反」の疑いで調査を受けていると国防部が発表した。当日23時になると新華網が「反腐敗の成果」だと詳述している。すなわち二人は腐敗問題で調査受けているということになる。

日本では今なお、習近平の反腐敗運動は権力闘争であるという間違った分析をしたがる人たちがおり、軍関係になると「粛清」という言葉を使う人さえいて、日本人の中国分析を誤導し続けている。それは日本国民を「井の中の蛙」に追いやり重大な損失を与えるのみなので、真相を解明したい。

◆現時点で中央軍事委員会メンバーは2人だけ

昨年10月26日の論考<中国、軍幹部大量逮捕の背後に横たわる真相を暴く>で詳述したように、昨年10月の軍幹部の大量逮捕の背景には、習近平が長年にわたり信頼してきた「苗華」という人物の深い腐敗問題が絡んでいた。これを見抜けなかった習近平は、見抜く力がなかった歴然たる事実と、「腐敗の闇の深さ」に打ちのめされたことだろう。

そのため腐敗撲滅のための組織である紀律検査委員会系列で経験を重ねた劉昇民を副主席に持ってきた。

ところが、もう一人の中央軍事委員会副主席であった張又侠までが腐敗に染まっており、同委員会委員の劉振立も同じ腐敗問題で失脚したことは、中国の腐敗の深刻さを物語っている。その結果、現時点では中央軍事委員会のメンバーは、習近平を含めて2人だけになってしまった。それを図表に示す。

図表:現時点での中央軍事委員会メンバー

公開されている情報に基づき筆者作成

これを以て日本のメディアは「粛清」とか、「独裁強化」あるいは「党の軍隊から習近平の軍隊に変わりつつある」など、日本人の耳目に心地いい分析ばかりをしているが、これはやがて日本にとんでもない災禍をもたらすことになるだろう。

◆反腐敗運動がもたらしたハイテク国家戦略の成功例

くり返しになり申し訳ないが、昨年10月26日の論考<中国、軍幹部大量逮捕の背後に横たわる真相を暴く>で触れたように、中国の腐敗の度合いは日本人の想像を遥かに超えたものがある。信じない方は拙著『中国人が選んだワースト中国人番付――やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』(2014年)をご覧いただきたい。大地に染み込んだ「賄賂の文化」を実感していただくことができるだろう。それが江沢民政権時代に一斉に花開いた。

このままでは「中国は腐敗で滅びるか」あるいは「永遠に世界の組み立て工場から抜け出すことはできない」と覚悟した習近平は、2012年11月の党大会で総書記になったスピーチで「反腐敗」を宣言し、2013年から反腐敗活動を本格化させた。こうして2015年に発布されたのがハイテク国家戦略「中国製造2025」である。2025年までに中国のハイテク化新産業の国内生産化を達成させるのが目標だった。昨年2025年にその成果を発表したが、2015年に立てた目標を遥かに超えて、線幅の非常に狭い一部の半導体以外は、ほぼ全ての分野で国内生産化を達成し、おまけに世界一である分野が多い結果を生み出している(詳細は2025年出版の拙著『米中新産業WAR トランプは習近平に勝てるのか?』)。

現在、トランプ関税で中国がアメリカに対して圧倒的に勝っているのは、このハイテク国家戦略の目標達成に中国が成功したからだ。その結果トランプは、今年1月18日の論考<トランプG2構想「西半球はトランプ、東半球は習近平」に高市政権は耐えられるか? NSSから読み解く>に書いたように、習近平とトランプによるG2構想を提唱するまでに至ったのである。

トランプはトランプ1.0の時に「中国製造2025」の重大性に気づき対中制裁に入ったが、日本は対中制裁にのみ同調したが、「中国製造2025」の重要性には気づいていない。ただひたすら習近平の反腐敗政策を「権力闘争」と叫び続けて、習近平の恐るべき目標である「反腐敗を通してハイテク国家戦略を達成する」という決意を完全に見逃してしまった。

その最大の原因は、NHKが連日のように特定の「中国問題専門家」に間違った解説をさせ続け、ひたすら「習近平の反腐敗運動は権力闘争である」と主張させ続けたからだ。NHKが言うなら正しいだろうと、この解釈が全てのメディアに浸透し、気が付けば日本はハイテク新産業において、遥か彼方へと落ち込み、完全に落伍してしまった。

今さら高市政権が気がついても、もう遅い。

少しは期待したが、結局は「さあ、人気のある私を選びなさい!」と言わんばかりに、「党利党略」よりは「私利私略」のために衆議院を解散してしまったからだ。あれだけ「解決しなければならない問題が多すぎて、解散などしている暇はない」と12月中旬まで叫び続けならが、突然前言を翻したのだから、もう何も信用できない。

日本はGDPも世界二位から五位まで下落してしまったので、ハイテク産業においても比較の対象ではなくなっている。その原因は習近平の「反腐敗運動」を「権力闘争」として日本全国を誤導してきたからだ。

◆「2027年、建軍100周年記念」の奮闘目標達成と「腐敗」という課題

習近平はハイテク国家戦略を発布した同じ2015年に、軍事大改革を行なって、軍隊のハイテク化にも成功している。それらの基本にあるのも「反腐敗運動」だ。腐敗が蔓延(はびこ)ったままでは、どの分野においてもハイテク化は達成できない。

2023年2月15日 の論考「習近平は2027年までに台湾を武力攻撃する」というアメリカの主張の根拠は? でも少し触れたように、2020年10月26日から29日まで北京で第19回党大会の五中全会(第五回中央委員会全体会議)が開催され、10月29日に<第19回党大会五中全会公報>が中国共産党網で発布された。同年11月26日、新華網には<国防部が、2027年の建軍100周年の奮闘目標実現をどのように理解するかを紹介した>という報道がある。それによれば「2027年の建軍百年の奮闘目標」は以下のようになっている。

  1. 機械化、情報化、インテリジェント化の融合発展を加速させる。
  2. 「軍事理論、軍隊の組織形態、軍人メンバー、武器装備」の現代化を加速させる。
  3. 「質量の高さを堅持すること」を第一に置き、効率を優先させる。
  4. 国防力と経済力を同時に高める。

このうち「4」は軍民融合を表し、それ以外は全て「軍のハイテク化」を目指していることが読み取れる。これが建軍百周年に向けての「奮闘目標」だ。

ハイテク国家戦略「中国製造2025」の基礎は「腐敗の撲滅」にあり、反腐敗運動を徹底したことにより、中国の新産業におけるハイテク国家戦略は成功した。

しかし、軍隊におけ「反腐敗」は貫徹されていない。

その理由はどこにあるのか?

一つは戦争をしていないために、ふんだんに投入される国防費の消費が少なく、不正を働く隙間が十分にあること。

二つ目は皮肉なことに「奮闘目標」の「4」にある「軍民融合」が災いしたのだ。このことは昨年10月26日の論考<中国、軍幹部大量逮捕の背後に横たわる真相を暴く>でも触れた。

また、前掲の今年1月24日の新華網は<軍の反汚職闘争「堅塁攻略戦、持久戦、総体戦」に断固として勝利せよ>というタイトルで、今般の軍事委員会要人の失脚に関して以下のようなことを列挙している。

  • 腐敗は党と国の大義の発展における最大の障害だ。人民軍の脱皮と再生を促進し、強力な軍工産業の発展に強い推進力を与えるために反腐敗を貫徹しなければならない
  • 反腐敗には「禁止区域」は存在しない。誰であろうと、どんなに高い地位であろうと、腐敗が関与している限り、決して容認しない。
  • 人民軍は、腐敗と戦えば戦うほど強くなり、反腐敗運動が徹底的に行われるほど、建軍100周年の奮闘目標達成の確実性が高まる。
  • 今年は「十五次五カ年計画」の初年度であり、建軍100周年の奮闘目標を達成する年でもある
  • 人民軍を世界水準の軍隊に建設することを加速させ、中国式現代化による強国建設と国家復興の大事業を包括的に推進するための強力な戦略支援を提供しなければならない。(新華網のまとめは以上)

そのためには、「軍から腐敗を徹底して排除しなければならない」というのが習近平の決意だ。それを建軍100周年記念までに何としても達成しようとしている。達成されれば、米軍と互角になるという計算だ。

これを見誤ったら、「中国製造2025」同様、日本はひたすら中国に後れを取って落伍するのみである。安全保障上の問題にも重大な禍根を残すことになる。米中を中心として世界情勢も見えなくなり、日本という国家を誤導する。

そのことに厳しい警鐘を鳴らしたい。

(なお、奮闘目標の「2」における軍組織に関しては、長くなりすぎたので、機会があれば別途解説するつもりだ。)

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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