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「習近平は2027年までに台湾を武力攻撃する」というアメリカの主張の根拠は?
アメリカのバーンズCIA長官(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
アメリカのバーンズCIA長官(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

2月2日、米CIA長官は中国が2027年までに台湾を武力攻撃すると発言し、証拠もあるとしている。同様の発言は2021年3月から始まっており、その後ますます激しくなっている。その根拠はどこにあるのか?

◆バーンズCIA長官「習近平が2027年までに台湾武力攻撃する」という証拠がある

アメリカのバーンズCIA(中央情報局)長官に関し、今年2月2日、<“CIA chief warns against underestimating Xi’s ambitions toward Taiwan”( CIA長官、台湾に対する習近平の野望を過小評価しないよう警告した)>と、ワシントンのロイター電が報道した。バーンズはワシントンのジョージタウン大学でのイベントで概ね以下のように述べたとロイターは報じている。

――ウィリアム・バーンズCIA長官は木曜日、「中国の習主席はウクライナにおけるロシアのあまりに貧弱なパフォーマンスを見て驚き動揺し慎重になっているだろうが、しかし彼の台湾に対する野心を過小評価すべきではない」と述べた。

バーンズ長官は、「アメリカ政府は“諜報活動などで得られた情報”として、習近平が2027年までに、(現在自立している)台湾を侵攻するための準備を行うよう軍に指示していることを把握している」と述べた。「ただし、これは必ずしも習が2027年や、ほかの年に台湾を侵攻すると決断したということではない。習の関心や野心が、いかに真剣かを示すものだ。彼の野心をみくびってはならない」とバーンズは付け加えた。

◆2021年3月の米・インド太平洋軍デービッドソン前司令官発言が事の始まり

それ以外にも、これまで数多くのアメリカ軍関係者やCIA関係者が、間断なく「中国は2027年までに台湾を武力攻撃する(侵攻する)」といった類の発言をしている。

その口火を切ったのは米インド太平洋軍司令官フィリップ・デービッドソンで、彼は2021年3月9日に上院軍事委員会の公聴会で、「今後6年以内に(2027年までに)中国が台湾を侵攻する可能性がある」と証言した

これに対して2021年6月17日、マーク・ミリー統合参謀本部議長が米議会下院軍事委員会の公聴会で「近い将来に台湾武力侵攻が起きる可能性は低い」と述べ、6月23日になると、さらに一歩進んで「中国が台湾に2年以内に軍事侵攻する兆候は、現時点ではない」との見解を示した。

ミリーがデービッドソンの発言をやんわりとではあるが否定したことに関して、筆者は2021年7月10日のコラム<「バイデン・習近平」会談への準備か?――台湾問題で軟化するアメリカ>で考察したことがある。

2022年9月16日になると、CIAのデービット・コーエン副長官が、習近平が「台湾を2027年までに奪取するのに十分な軍事力を中国軍が備えるよう指示した」と主張した

今年1月24日になると、デービッドソンが来日して、自民党の国防部会・安全保障調査会・外交部会で講演し、「2027年までに、中国が台湾を侵攻する可能性がある」と主張。一昨年、米議会軍事委員会の公聴会で明言したことについて、この見解は現在でも変わっていないことを強調したとのこと。

中には「直感」で「断言」する者まで出て来る始末だ。

今年1月27日、マイク・ミニハン空軍大将が、内部メモで「2025年までに中国が台湾に侵攻し、米中戦争が起こり得る」と警告した。理由に関して聞かれたら、「直感だ」と答えたことが話題になっている。

こういった「直感」という段階にまで至ると信憑性が薄まる。そのためか、<ペンタゴンさえ、ミニハン発言から距離を置きたいと言い出す始末だ>

それでもなお、2月2日に冒頭のバーンズの発言があったという流れになる。

最近台湾を訪問したハリス氏は2月7日、米インド太平洋軍のハリー・ハリス元司令官は米議会の下院軍事委員会で「中国の台湾侵攻の意向は明確だ」と発言。ハリスはデービッドソンが2021年に上院で行った証言を引用し、「われわれはデービッドソンの警告を自らの責任で無視している」と嘆いたのである。

こうして、結局のところ、「事の始まり」だったデービッドソンの発言に戻ったわけだ。だとすれば、なぜデービッドソンが、2021年3月9日に、なぜ「2027年までに中国が台湾を侵攻する可能性が高い」と言ったのかを追跡するしかない。

◆第19回党大会五中全会における習近平の発言―2027年は建軍百周年記念

実は、2020年10月26日から29日まで北京で第19回党大会の五中全会(第五回中央委員会全体会議)が開催され、10月29日に<第19回党大会五中全会公報>が中国共産党網で発布された。公報の全文は約6800文字あるが、その中の「確保二〇二七年実現建軍百年奮闘目標」という、わずか「17文字」が、「建軍百年に向けた奮闘目標を確保しよう」と書いてあるだけだ。

それも公報の最後の方に付け加えられているのみである。

さらにその後の末尾には「要保持香港、澳門長期繁栄穏定、推進両岸関係和平発展和祖国統一」(香港、マカオの長期的な繁栄と安定を保ち、両岸関係の平和的発展と祖国統一を推進しよう)とあるだけで、「台湾」という文字さえ出てこない。「両岸関係」というのは台湾海峡の両岸で「大陸と台湾」のことを意味している。「祖国統一」は建国当時から何度も何度も唱えられてきた言葉で、新たに習近平が言った言葉は何一つない。

唯一新しいのは、「2027年は中国人民解放軍の建軍百周年記念なので、頑張ろう!」と呼びかけただけである。何に向かって頑張るかに関しては「加速国防和軍隊現代化、実現富国和強軍相統一(国防と軍隊の近代化を加速し、豊国と強軍の統合を実現する)」である。

同年11月26日、新華網には<国防部が、2027年の建軍百年の奮闘目標実現をどのように理解するかを紹介した>という報道がある。その中で国防部は記者の「どのようにして実現するのですか?」という質問に対して、おおむね以下のように答えている。

――第一は情報化・スマート化で、第二は軍隊の現代化、特にハイレベル軍人の養成が必要になります。第三は「質」の高さを堅持することで、ハイレベル化発展と効率を優先させることを目指します。第四はやはり「国防力と経済力を同時に高めること(筆者注:軍民融合)」です。(回答の略記は以上)

何のことはない。

CIA長官のバーンズ氏が言った「証拠をつかんでいる」という、その「証拠」とは、この言葉でしかないのだ。

2027年が中国人民解放軍の「建軍百周年記念」であることをアメリカは認識していないことになろうか。あるいは公報の英訳を誰かがまちがえたのかもしれない。

◆アメリカ側の「2027年」推測は、習近平の「2027年建軍百周年」発言以降

その証拠に、アメリカ側の「2027年」という発言は、中国国防部の記者会見以降に突然出現し始めている。その時系列をお示ししよう。

図表:習近平の「2027年 建軍百年記念」発言とアメリカの「2027年 台湾武力攻撃」発言に関する時系列

筆者作成

これでお分かり頂けただろうか。

アメリカ側の「2027年台湾武力攻撃説」は、習近平が「2027年」という言葉を初めて口にした2020年10月29日以降の出来事だということが明確だ。

習近平はそれまで、2027年に関して声明を出したことはない。この時が初めてである。

◆「中華民国」台湾と積極的に国交断絶したのは誰か?

そもそも「中華民国」台湾と積極的に国交断絶したのはアメリカで、ニクソン大統領再選のためだ。キッシンジャーは忍者外交までした。

アメリカの自己都合で「中国」という国には「中華人民共和国」しかないとして、共産中国を国連に加盟させたではないか。その結果、共産中国は高らかに「台湾は中国の領土である」と宣言した。どんな理屈を付けようと、「一つの中国」原則を認めたからこそ、「中華民国」台湾と断交したはずだ。

だというのに今度は「統一させる野心を持っている」として、その中国を潰そうとするのは、都合がよすぎるのではないのか。戦争が起きないのならば、潰していただいても構わないが、必ず戦争が起きて日本人が巻き添えになる。それだけはごめんだ。

日本人はこれでもなお、アメリカが唱える「2027年台湾武力攻撃説」を信じて国家命運を賭けていくのだろうか。アメリカのあとを追って、あわてて「中華民国」台湾と国交断絶をしたのは日本ではなかったのか。そして「一つの中国」を認めた。

天安門事件後の対中経済封鎖を、イの一番に解除して中国を支援し経済大国中国形成に尽力したのも日本だ。

そのようなことをしておきながら、結局自民党はアメリカに追随して「あのデービッドソン」を招聘して講演会を開いた。なんという皮相的な動きだろう!

自民党の関係者は、このコラムに掲載した時系列をしっかり認識してほしい。

「自民党よ、真相を見極める努力を怠るな!」と言いたい。

先の戦争が始まる前にはまだ生まれていなかったため、それを食い止める努力はできなかった。しかしせめて今、これからの戦争を食い止めるための努力はしたい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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