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抗日戦争中、中共軍は日本軍と水面下で「不可侵条約」を結んでいた 解除された台湾の機密軍事情報が暴露
湖南省に聳える毛沢東像(写真:REX/アフロ)

9月1日の論考で<台湾で機密解除 抗日戦争戦場での手書き極秘報告集が暴く「中共軍と日本軍の生々しい共謀」記録発見>と書いたが、この機密解除された同じ記録から、抗日戦争中、中共軍は日本軍と水面下で「不可侵条約」を結んでいたことが判明した。記録の時期は1940年12月。

また、7月10日の論考<習近平、BRICS欠席して抗日戦争「七七事変」を重視 百団大戦跡地訪問し「日本軍との共謀」否定か>で、毛沢東が上海にある日本の外務省管轄の岩井公館に潜り込ませたスパイ藩漢年に「華北一帯における中共軍と日本軍との停戦」を依頼していたことを証拠物件となる図表付きで示した。それを証明するかのように、台湾の軍事機密資料の中の一つには「江蘇省一帯における中共軍と日本軍の間の不可侵条約が結ばれていた」ことが記録されている。

ふしぎなのは、その現象の一つとして「中共軍が日本軍の代わりに綿花を購入運搬し、その見返りに日本軍から弾薬を贈ってもらった」と書いてあることだ。

なぜ――?

当時、日本軍は軍需製品の一つとして中国の農家に強制的に綿花を作らせ、華中の生産量の92%を日本が購入していた。それなのになぜ日本軍が自分で購入運搬しないで中共軍に購入運搬させたのか?

唯一考えられるのは、中共軍が「見返りの弾薬が欲しいために、積極的に日本軍の手伝いをすることを申し出た」ことだ。岩井公館における藩漢年のスパイ行動から見ると、そういうことしか考えられない。

悩みに悩んだ末に、遂に見つけた。

今年5月に中国政府のシンクタンク中国社会科学院の研究者が、「1940年初頭、蒋介石が中共軍への弾薬配給を停止したために、中共軍は激しい弾薬不足に追い込まれていたこと」を書いている論考を発見したのである。理由は「国共合作をしているのに、あまりに中共軍が国民党軍を攻撃ばかりしてくるから、蒋介石が激怒したから」だが、その事には論考は触れていない。中国政府側の論考なので、言えないだろう。

しかし国民党側の軍事機密記録には、「中共軍が日本軍とは戦わずに日本軍と結託ばかりして、国民党軍への攻撃に集中している」事実が、至るところに書いてある。蒋介石としては「自分を攻撃させるために中共軍に弾薬を配給する」というようなバカげたことを続けられるわけがないと判断せざるを得ない。

◆【1248号】文献:民国29年(西暦1940年)12月17日(12月18日11:05審査)

今回発見したのは民国29年(西暦1940年)12月17日に、戦場から重慶の蒋介石委員長宛てに送られた電報である。

前回同様、まず「國史館臺灣文獻館」に所蔵されている【1248号】文献(典藏號:002-090300-00209-054)を図表に示す。

図表:【1248号】文献

國史館臺灣文獻館より転載

前回同様、図表に関して、「國史館臺灣文獻館」が資料整理のために分類した「件名」と、実際の「戦場現場からの手書き極秘報告」の内容の和訳を以下に示す。( )内は筆者が説明のために加筆。

【件名】顧祝同(陸軍司令官、江蘇省政府主席)が蔣中正(蒋介石)宛てに打電。電報によれば、益林(地名。江蘇省塩城市阜寧県益林鎮)の中共軍は日本軍に代わって綿花などの物資を購入・運搬し、しかも日本軍と不可侵条約を結んでいた。すでに各部隊に対し、厳重な警戒と全力の固守を督促した。

【戦場現場からの手書き極秘報告】重慶・蒋委員長宛て、機密。韓主席(韓徳欽、江蘇省主席、江蘇省保安司令)の亥元戊電の要旨:霍師長守義(=霍守義師長)の徴午電によれば、益林の中共軍は淮安(わいあん)(江蘇省中西部、淮河の流域にある都市)の日本軍に代わって綿花二万斤を購入・運搬した。淮安の日本軍は大量の弾薬を(中共軍に)お返しとして贈った。また中共軍は淮安の日本軍と不可侵条約を既に締結しており、淮安の日本軍は「永遠に中共軍の駐屯地には進攻しない」という声明を出したという。なお、日本軍は先月、国民党軍側を積極的に攻撃し、臨澤(地名)の要点を奪取した後も、なお出動を重ねて擾乱(じょうらん)している。しかし中共軍が国民党軍側を擾乱し、陶家林・霖直港・蘇家を経由して移動した際には、日本軍は中共軍に対しては全く動かなかった。その結果、湖西の中共軍の大部隊が無事に通過して東へ移動するのを黙認した。かくの如く、日本軍と中共軍が互いに通じ合い、結託している情況は明白である。この件に関して、すでに各部隊には、厳格な警備と全力の固守を命じた。顧祝同 印

(【1248号】文献に関する和訳は以上)

問題は冒頭に書いたように、なぜ日本軍が自分で綿花を運ばずに中共軍に頼み、そのお礼として弾薬を中共軍に差し出したか、ということである。

◆中共軍の弾薬は枯渇していた!

今年5月8日、中国政府のシンクタンク中国社会科学院が中国歴史研究院とともに運営する近代史研究所が、<隠されてきた手:1941-1945年、八路軍と新四軍の弾薬供給に関する新たな研究>というタイトルで、中共軍の弾薬が枯渇していた事実を率直に認めている。非常に詳細にその実態が書いてあるが、あまりに長いので本稿に必要な部分だけをいくつかピックアップすると、以下のようになる。( )内は筆者注。

  • 中国共産党の軍事力の拡大を抑制するため、(蒋介石率いる)国民政府の軍事委員会、軍司令部および関係する戦場は、1940年初頭に八路軍と新四軍への弾薬供給を停止した。同時に1940年初頭までに、基地地域の民間弾薬のほとんどが回収された。
  • 1940年初頭、八路軍と新四軍は二つの主要な弾薬供給源(蒋介石から配給される供給源と民間の弾薬保持者から購入する供給源)を失い、補給網に深刻な混乱が生じた。1940年2月末までに、八路軍司令部は弾薬備蓄をほぼ枯渇させた。状況はさらに悪化し、1940年末には司令部ではすべての弾薬が枯渇し、各部隊への大規模な弾薬補給が困難になった。
  • 彼ら(八路軍や新四軍などの中共軍)はまた、傀儡軍(汪兆銘傀儡政権の軍隊)を利用して弾薬を入手しようとした。たとえば、八路軍司令部は1940年1月30日に全部隊に対し「敵軍(日本軍)および傀儡軍から弾薬を購入することは可能である」と指示した後、1941年1月13日にはさらに全部隊に対し「(日本軍および汪兆銘傀儡政権から)弾薬を購入する」よう指示を出した。(筆者注:習近平が言うように、「中国共産党こそが抗日戦争の中流砥柱(主要な柱)である」ということであるなら、その日本軍から政敵・蒋介石率いる国民党軍をやっつけるために弾薬を買うなどということはあってはならないはずだ。だというのに、毛沢東は「日本軍から(国民党軍を攻撃するための)弾薬を買え!」と全中共軍に指示を出したことになる。弾薬を買った相手を攻撃することはあり得ないので、中共軍はかくして、日本軍を攻撃することを控えるしかかなっただろう。毛沢東が本当に倒したいのは政敵・蒋介石であって、誰が天下を取るかということにしか関心がないことが、この指示により明確になるのではないだろうか?) 
  • 八路軍と新四軍への弾薬供給のために秘密裏に弾薬を収集・蓄積することは、1941年から1945年にかけて、傀儡軍との「コネ」を創り上げるための主要な手段の一つであった。
  • この方法を最大限に活用して弾丸を入手するため、傀儡軍の「コネ」は八路軍と新四軍と密かに合意を交わした。また「虚偽の戦闘」を捏造して報告した(戦っていないのに戦ったと報告して、弾薬がその戦いで消耗されたから弾薬が足りないという報告書を作成したという意味)。
  • 機会を積極的に探し出し、機に乗じて盗むということは、傀儡軍の「コネ」を通して弾薬を集めるために使う、もう一つの重要な手段である。この手法は通常、傀儡軍の兵器庫を標的とし、傀儡軍内で軍事装備や物資の取り扱い責任者によって実行された。彼らは自らの地位を利用して、容易に傀儡軍の兵器庫に出入りできる。
  • (汪兆銘傀儡政権は日本軍によってコントロールされているが)日本軍が傀儡政権に発給する経費は限られていたため、傀儡軍は十分な食料も衣服も給料も得られない状態に陥ることが多かった。
  • このような状況下で、八路軍と新四軍が傀儡軍の「コネ」により金銭や現物で弾丸を購入することは、傀儡政権の生活状況の苦境を軽減したため、傀儡軍側も積極的に弾丸を集めて八路軍と新四軍に供給し続けるよう促した。(以上)

かくして中共軍の汪兆銘傀儡政権および日本軍との結託が深まっていったものと解釈できるが、中共軍が汪兆銘政権に近づいたきっかけが、まさか弾薬の枯渇にあったとは知らなかった。

たしかにそう言われてみれば、拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』で書いたように、藩漢年が岩井英一に「中共軍と日本軍との間の停戦を申し込み、その後、汪兆銘政権の汪兆銘に会いたいと依頼したのは、1940年前後に迫っていた時期だった。

◆本日が「抗日戦争勝利80周年記念祭典」の日である皮肉

これらの事象が点と点を結ぶ形で立体的に浮かび上がってきた事実を文書化できる状況に至ったのが、本日(9月3日)北京で盛大に行われている「抗日戦争勝利80周年記念祭典」の日であるとは、なんと皮肉なことだろう。

毛沢東の日本軍への停戦依頼までは知っていたが、まさか具体的に不可侵条約まで結んでいたなどという実態までは知らなかった。その原因の一つが、中国政府のシンクタンク中国社会科学院系列のウエブサイトに出ていたのを昨夜発見したということにも、感慨深いものがある。

中国政府のシンクタンクである中国社会科学院が、ここまでの真相を暴いてしまったということは、中国共産党が「日中戦争中、毛沢東は日本軍と共謀していた」という事実を認めざるを得ない方向へと導いていることに、中国社会科学院およびその執筆者は、気が付いているだろうか?

毛沢東は稀代の戦略家であり、天下を取るために鋭い頭脳を使っただけで、至って正直であったと思う。だから抗日戦争勝利などを祝ったことがない。そこまでは淡々と事実を受け止めるだけで、日本が二度と侵略行為などをしなければ、大きな問題は生じない。

いま問題なのは習近平政権が「中国共産党こそが抗日戦争の中流砥柱(主要な柱)である」などと高らかに叫んでいることである。江沢民が1995年に「中国人民抗日戦争勝利記念・反ファシスト勝利記念祭典」などを全国的に始めなければ、このようなことにはならなかっただろう。江沢民は自分の父親が汪兆銘傀儡政権の官吏だったという過去を打ち消すために「反日」へと舵を切った。反日教育を始めてしまったからには、習近平としても逆戻りはできなくなってしまう。それが本日の盛大な「抗日戦争勝利80周年記念祭典」へと追い込んでしまったという見方をすることができる。

こうなってしまったからには、中国社会科学院のこの論考は、いつか削除されるかもしれない。関心のある方々はダウンロードしておかれることを推薦したい。

しかし、ここまで来たからには、真実が明るみに出る日は近いようにも思う。

それが現実になることを、ひたすら祈るのみだ。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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