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欧米が恐れる「中国製造業の津波」
中国のEV津波を怖れる欧米(写真:ロイター/アフロ)

4月4日のジャネット・イエレン米財務長官に続き、14日にはドイツのオラフ・ショルツ首相、そして24日からはアントニー・ブリンケン米国務長官と、欧米政界の北京詣でが続く。共通しているのは、廉価な中国製が大量に欧米、特に欧州に押し寄せてきている「EVの津波」だ。ならば、買わなければいいだろうと思うが、圧倒的な中国の生産力に敵(かな)わない。

◆仏メディアが「中国製造業の津波」警戒

2024年4月4日、フランスのメディアRFI(Radio France Internation)

の中国語版は<欧米は中国工業の天変地異的津波の到来を厳重に警戒している>という見出しの報道をした。記事は

――2月末、何千台ものBYDのEVを積んだ巨大船「エクスプローラー1号」が深圳から出航し、ドイツのブレーマーハーフェン港に入港した際、2010年頃に中国の安価なソーラーパネルによってヨーロッパの太陽光発電製品が消し去られるという悪夢が再び襲ってきた。

という書き出しから始まっている。それによれば4月3日、EUは、市場競争を弱体化させるために不当な補助金を得ているとして、中国の太陽エネルギーに対する調査を開始すると発表したとのこと。

記事は続ける(以下、概略)。

――4月4日にはイエレン米財務長官が訪中したが、訪中前から米政府高官は「バイデン政権は中国の過剰な工業生産や海外からやってくるダンピングが、アメリカの関連産業の発展に支障をきたすことを懸念している」と警鐘を鳴らしていた。イエレン長官は、中国が安価な製品の拡散を抑制するよう中国政府に圧力をかけるだろう。

EUは2030年までに再生可能エネルギーを現在の22%から42.5%に引き上げる目標を掲げており、EU域内市場担当委員のブルトン氏は「ソーラーパネルは欧州にとって戦略的に重要だ….. 中国に対する調査は、欧州の経済安全保障と競争力を保護することを目的としている」と述べた。

太陽光パネルの急速な普及は、世界市場での価格の暴落の恩恵を受けているが、同時に中国への依存度を高めている。ブリュッセルによると、EUの太陽光パネルの97%は「アジアの巨人」(=中国)から輸入されている。それにより欧州のメーカーは大きなプレッシャーにさらされている。

中国は景気回復の鈍化と国内消費市場の低迷により、「太陽光パネル、EV、リチウムイオン電池」に代表されるグリーン製品を世界に「投げ込み」、中国自国の経済を活性化させている。欧米は、中国が余剰エネルギーを世界に放出することで、新たなエネルギー政策の加速が打撃を受けることを恐れている。

「中国の産業津波」という表現は、決して「はったり」ではなく、こんにち中国は「製造業の超大国」になり、OECDによると2020年、中国製造業の生産額は世界全体の35%を占め

1位にランクされているだけでなく、他の9つの製造国(注1)を合わせた比率よりも大きいのだ。中国の国内消費が低迷すれば、世界的な製品のダンピングは、世界の産業、経済、政治生態学にまで影響を与えるだろう。(RFIの記事の引用はここまで)

注1:RFIの記事には「中国制造业产值占全球比率35%排名第一,是美国首的其他九个制造大国的和。」とあり、おそらく、その原文だろうと思われるコラム<China is the world’s sole manufacturing superpower: A line sketch of the rise>にも“China is now the worlds sole manufacturing superpower. Its production exceeds that of the nine next largest manufacturers combined.”と書きながら、そのコラムでは「中国と残り8ヵ国」のグラフが描いてある。そこで本稿は、OECD(経済協力開発機構)のデータの最新情報がに基づいて(最新データとして2020年のデータしかない)、1位の中国と2位から9位までの合計の割合を図表1に示すことにした。

 

図表1:世界製造業における各国の割合

OECDのデータを筆者が和訳してグラフ化

OECDのデータを筆者が和訳してグラフ化

たしかに「中国35%」に対して、「アメリカを含む他の8ヵ国合計34%」となっており、中国が圧倒的に世界一であることが見て取れる。

ここにある「太陽光パネル、EV、リチウムイオン電池」こそは、3月4日のコラム<不動産業からハイテク産業に軸足を移す中国経済>で書いた「新三様」のことである。どうやら「新三様」は中国国内外で花盛りになっているということになろうか。

「中国製造津波論」の火つけ役は2023年12月4日のフランスのル・モンドの<中国と欧州:不可能な経済デカップリング>という記事だったかもしれない。そこには「中国への貿易依存度を下げたいのに下げられない」という欧州のジレンマが書かれている。

――4000億ユーロ。この数字は驚異的であり、過去数ヶ月間、欧州はこの通知に取り憑かれてきた。これは2022年のEUの対中貿易赤字額であり、「史上最高」であると、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は11月16日にベルリンでの演説で強調した。何よりも皮肉なのは、欧州が中国への依存を減らそうとしている時に、彼らはかつてないほど中国と密接に結びついていることだ。(ル・モンドの記事の引用はここまで)

もちろん悲鳴を上げているのは欧州だけではない。

今年3月3日にはアメリカのウォールストリート・ジャーナルが<世界はもう一つのチャイナ・ショックに見舞われている>と書いているし、3月12日にはアメリカのニューヨークタイムズが同様のチャイナ・ショックを描いている。

◆圧倒的に世界を引き離す中国のEV

中国製造業の中でも、圧倒的に世界を引き離しているのがEVだ。

図表2に示すのは、世界各地域と中国のEV販売数比較図である。これは中国の「乗用車市場情報連席会」崔東樹秘書長のWechat公衆号にあるデータを基に、筆者が標記などに関して和訳し、グラフ化したものである。

図表2:中国と世界各地域EV販売台数推移

「乗用車市場情報連席会」崔東樹秘書長のWechat公衆号を基に筆者作成

「乗用車市場情報連席会」崔東樹秘書長のWechat公衆号を基に筆者作成

図表2を作成するに当たり使用したデータを計算すると、中国のEV販売台数は中国以外の地域全ての合計の1.6倍もあり、中国の独走状態が続いている。

この情況に対して欧米は、中国政府が民間企業に補助金を出しているから市場を歪めているとして「北京詣で」をしているのだが、補助金なら、どの国も巨額の金額を出しており、しかもアメリカなどは「補助金を貰った企業は中国と連携してはならない」という排除条件まで付けているが、実は中国は補助金などとは全く関係ない内部事情でEV産業が動いている。

そこには複雑な中国国内のサプライチェーンや原材料などの問題が潜んでおり、それを書き始めると膨大な文字数を必要としてくるので、それはまた別のチャンスに譲りたい。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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