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2002年の高市発言「日中戦争は自衛のため」が、いま中国で吹き荒れている
特別国会閉会後に記者会見する高市早苗総理(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

日本のネットでは最近、2002年当時の田原総一朗氏のテレビ番組に出た高市早苗氏の日中戦争に関する回答が、【資料映像】[今では言えない?]高市早苗(現首相)の歴史観に田原総一郎が一喝『自存自衛というのは無知だよ。国会議員やってるのおかしい』(SanaeTakaichis.views on history) – YouTubeという形で出回り話題になった。

今年7月27日、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」の微信(ウェイシン、WeChat、中国版ライン)が<高市早苗黒歴史、再び明るみに!と題して、2002年に田原総一郎氏から「無知!幼稚!」と罵倒された高市氏の「日中戦争は自衛のため」発言を報道した。

すると中国のネットは荒れ、その勢いが台湾にまで波及して、7月29日、台湾の「中天新聞」のテレビ番組が激しい口調で高市批判を展開し、7月30日には大陸にエコーして戻り厦門(アモイ)衛視(衛星テレビ)が「高市早苗は悪の極み!」と叫び、台湾の中天新聞のテレビ番組の一部を切り抜いて報道。

2002年当時の「高市発言」は2025年11月の「高市発言」と根本的には何も変わっていない。このような思想傾向は、岸信介(元総理)の歴史観に根差していることは明らかだが、そこに統一教会が乗り、長いこと日本人の思考を方向付けてきたように思う。

◆2002年のテレビ番組で高市早苗は具体的には何と言ったのか?

冒頭に書いた【資料映像】[今では言えない?]高市早苗(現首相)の歴史観に田原総一郎が一喝『自存自衛というのは無知だよ。国会議員やってるのおかしい』(SanaeTakaichis.views on history) – YouTubeでは、おおむね以下のような会話がなされている。

田原:日本の戦争は自存自衛の戦争だと思うか?

高市:私はそう思います。

田原:冗談じゃないでしょ。満州事変なんて日本の軍隊がね、関東軍が仕掛けてやったんだよ、あれは。でっち上げて。あれは明らかに侵略戦争ですよ。中国だってね、日中戦争なぜやんなきゃいけなかった?あれがなんで自存自衛よ?

高市:う~ん、私は…

田原:中曽根さんだってね、満州事変はおかしいって言ってる。小泉さんも、おかしいって言ってる。なんで満州へ、なぜ日本が自衛のために攻めて行ってね、あんな国つくんなきゃいけなかったの?

高市:満州事変含めてってことですね?

田原:満州、日中戦争。

高市:そういう意味では、当時の国際的な常識、国際社会としての潮流から考えると、まあ、植民地政策っていうのが当たり前に行われててですね…

田原:全然違う!いいか?ワシントン条約で新たな植民地は作らないと、中国に対して門戸開放で攻めて行かないと、決めたじゃないか。日本もそれに調印してるじゃないか? まったくのこれ、違反だよ。あんなものをね、あなたがね、自存自衛って、無知だよ。そんな無知が国会議員やってるのおかしい。  

高市:少なくともね、私はセキュリティのための戦争だと考えてます。

田原:幼稚極まりない!  (切り取り引用は概ね以上)

田原総一朗の特徴として、相手が言い終わる前に相手の言葉を遮り、自分の主張を喋りまくるので、高市早苗の主張をもっと聞きたかったと思うが、要は彼女は「日中戦争を日本の自衛のための戦争で、当時は世界的潮流として植民地政策というのがあったのだから、日本も自国のセキュリティのためにやったのみだ」と言ったいるようだ。

高市早苗は総理大臣になると、自分が書いたブログである寬仁親王殿下の御霊が安らかでありますように | 5期目だ!野党だ!!永田町通信 平成21年10月~平成24年12月 | コラム | 高市早苗(たかいちさなえ)を削除したようである。しかしブログはアーカイブで保存されているので今でも読むことができ、そこには以下のように書いてある(更新日:2012年06月13日)。

――何年も前のことですが、私があるテレビ番組で、「首相や閣僚は靖国神社に参拝するべき」だという私見を述べ、先の大戦当時の日本国の国家意思について「自存自衛の為の戦争だった」と発言したことがありました。

この時、司会者からは「無知で下品」などと罵られました。司会者による人格攻撃に怒りを覚えながらも、生番組でしたので激高しないように必死に堪えました。

その直後に、寬仁親王殿下とご一緒する機会がありました。

殿下は、そのテレビ番組をご覧になっていたそうで、私の考え方に賛意を示して下さり、励まして下さいました。

その後、妃殿下のご実家である麻生太郎元首相ご一家のお話なども面白おかしく話して下さり、少々気落ちしていた私を思いっきり笑わせて下さいました。

                  (削除された高市早苗のブログより一部引用)

自分の主張が正しいのなら、自分の論理として主張すればよいものを、権威ある「寬仁親王殿下」の名を借りて、「殿下に肯定していただいた」と自分の正当性を主張するやり方はいかがなものか。そもそも皇族は政治に口を出さないことになっているのに、その規則を犯したことをご本人に無断で公開していることも非常識だ。ましてやいま現在「皇室典範改正」で問題となっている麻生太郎氏との「妃殿下」の個人的関係を明かしており、この消されたブログは、高市早苗の為人(人となり)を知る上で貴重である。

なお、テレビ番組における「田原・高市」の対話は、7月26日の田原総一朗氏、戦争観巡る高市首相への過去「無知」「幼稚」痛烈批判動画について聞かれ“回答”(日刊スポーツ) – Yahoo!ニュースの中にも出てくるので、一部参考にさせていただいた。

◆環球時報や台湾のテレビ局までが2002年の「高市発言」を非難

上記の報道が出た翌日の7月27日、環球時報が微信(WeChat)公衆号で<高市早苗の黒歴史、再び明るみに!を発表したのである。そこでは何枚かの写真が掲載されているが、その中の一枚である高市早苗の写真を図表1に掲載する。

図表1:環球時報の微信公衆号に掲載されている2002年のテレビ番組に出演したときの高市早苗の写真

環球時報の微信から画面キャプチャー

環球時報は同日、微博(Weibo、ウェイボー)でも同様の発表をしている。ここには少なからぬコメントが書き込まれているが、このニュースは中国のネットで拡散し、台湾までが同様の報道をし始めた。

7月29日、 台湾メディアの「中天新聞」が<高市早苗「APECで習近平に会いたい」だって?苑挙正が「絶対に不可能」と激怒:中国本土の譲れない一線を越えておきながら、氷を割ろうとでも思っているのか? 高市が態度を一変させ、中国大陸は「重要な隣国」と譲歩だと?呂礼詩が「北京はその手は喰わない」と反論>という、実に長いタイトルのユーチューブを公開したのだ。この番組の4分あたりから、高市早苗が2002年に言った「日中戦争(番組では対中侵略戦争)は日本の自衛のための戦争だった」という発言に対する強烈な批判が、台湾大学教授・苑挙正により展開されている。

7月30日には大陸の厦門(アモイ)衛視(衛星テレビ)が<高市早苗はかつて、日本が自衛のために戦争を始めたと妄言を吐いた、苑挙正が痛烈に批判:悪の極み!という見出しで、台湾の中天新聞で苑挙正が激しく展開した高市批判部分を切り取って報道。厦門あたりになると、距離的に近いことも手伝ってか、大陸と台湾と混然一体になっているという感を覚える。

◆朝鮮戦争でGHQが「戦犯」を出獄させる流れの中で誕生した岸信介政権と統一教会

2025年11月23日の論考<中国の「高市非難風刺画」は「吉田茂・岸信介」非難風刺画と同じ――そこから見える中国の本気度>の図表6でもご紹介したが、1950年6月に朝鮮戦争が始まり10月に中国が参戦すると、当時日本を統治していたGHQは米軍の弱さに慌て、牢獄にいた日本人「戦犯」を出獄させた。二度と軍事化してはならないと指令した日本に、「警察予備隊」(のちの自衛隊)の名を借りて戦闘能力を高めるため、戦犯として監獄にいた旧日本軍や旧満州国の幹部をマッカーサー(元帥)が釈放したのである。

中国ではそれを風刺するポスターが数多く作成され、街のあちこちに貼られ、「反対武装日本!(日本の最軍備反対!)」という歌が全中国を覆った。そのときの風刺画を再度、図表2、図表3として示す。

図表2:米帝国主義が日本の戦犯を釈放することに反対

1951年華東軍区第三野戦軍政治部が作成した風刺画を転載

図表3:マッカーサーが重光葵(A級戦犯)およびその他の戦犯を釈放

50年代初期に流行った連環画の1ページを転載

こういった時勢の中で岸信介内閣(1957年2月~1960年7月)が誕生した。岸信介の第二次世界大戦に対する歴史観は以下のようなものであったことを、A級戦犯被疑者として(1945年9月15日に逮捕され)拘置されていた巣鴨拘置所で述懐している(出典:岸信介の対外認識とアジア政策)。

  • 侵略戦争というものもいるだろうけれど、われわれとしては追い詰められて戦わざるを得なかったという考え方をはっきり後世に残しておく必要がある。
  • 今次戦争の起こらざるを得なかった理由、換言すれば此の戦は飽く迄吾等の生存の戦であって、侵略を目的とする一部の者の恣意から起こったものではなくして、日本としては誠に止むを得なかったものであることを千載迄闡明することが、開戦当初の閣僚の責任である。
  • 終戦後各方面に起こりつつある戦争を起こした事が怪しからぬ事であるとの考へ方に対して、飽く迄聖戦の意義を明確ならしめねばならぬ。(以上、原文のママ引用)

こういった信条を持つ岸信介を世界統一教会が見逃すはずがない。2022年7月22日の論考<中国は統一教会を邪教と位置付け、日米政界が統一教会に牛耳られているとみなしている>で触れたように、統一教会と自民党は「揺るぎなき絆」を結ぶに至ったのである。それは少なからぬ自民党員の組織文化として今も生きている。

それが2002年のテレビ番組における田原総一朗との対話の「高市発言」に如実に表れているのであり、総理大臣になって慌てて自分の過去ブログを削除しても遅い。

高市早苗の主張の善悪は別として、彼女の信条は今も変わっておらず、それ故に、日本が今後歩んでいく方向性を見極めるために、本稿の考察を試みた。

民主主義的な選挙が行われているように見える日本だが、まるで自民党一党独裁に近いような選挙結果が生まれる背景にも、統一教会の票集め力と、ほぼ自民党の組織文化化した思考傾向が、戦争を知らない年齢層の思考傾向そのものになっていて、少なからぬ日本人は決して「自由度の高い、束縛のない思考」の下で投票行動を行なっているとは限らない現実を憂う。高市早苗は、その思想傾向の真っただ中にあることを認識するためには、良い分析対象であったと思う次第だ。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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