
※この論考は10月24日の< China’s Scripted Politics and the New Quality Productive Forces >の翻訳です。
中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議(4中全会)が2025年10月20日から23日にかけて北京で開催され、「国民経済・社会発展第15次五カ年計画の策定に関する中共中央の建議」(2026~2030年)が採択された。米中間の緊張が高まり、世界経済が減速する中で開催された今回の議題と政策の文言は、国内政治だけでなく、外部圧力に対して、制度化された対応策を構築しようとする中国政府の試みも反映していた。
4中全会は政策見直しというより、制度の継続性と政治の安定を象徴する儀式となった。外部の論評の多くは後継問題や派閥政治に焦点を当てていたが、真の核心は別のところにあった。中国共産党は「新質生産力」(新たな質の生産力)というナラティブを通じて、「中国式現代化」の政治的基本原理と正当性を改めて明確にしようとしたのだ。
この概念が特に重要視されたことは、中国の経済運営の転換を意味する。つまり、要因主導からテクノロジー主導の成長へ、量的拡大から構造転換への移行だ。これは単なる経済戦略ではなく、政治的宣言でもある。対外的な封じ込めと国内の建て直しという二重の圧力下で、技術的自律性と制度的信頼性を通じて発展の正当性を保とうとする党の取り組みを象徴している。政治的に見れば、4中全会は審議の場ではなく、「台本どおりの政治」を入念に演出するもので、制度の表明と儀式的パフォーマンスによって党の中央権力と発展の方向性を再確認するものであった。
会議のコミュニケでは、「実体経済の強化、グリーン化の推進、ハイレベルな対外開放の拡大」を強調し、テクノロジーの管理と社会の安定を両立させる統治方針を示した。また、「5つの安定」(経済、雇用、企業、市場、期待の安定)に繰り返し言及し、地方政府に対し財政リスクの抑制と行政の結束維持を求める党の姿勢が浮き彫りになった。成長鈍化と国際競争激化の中、中国はこれらの措置全体を戦略的基軸として、制度的レジリエンスと技術的ナラティブにより体制の安定を維持しようとしているのである。
I. 台本どおりの政治から体制のパフォーマンスまで:儀式化した会議
中国共産党の全体会議を理解するには、まずその「台本どおり」という性質を理解する必要がある。4中全会は政策論議や交渉の場ではなく、事前に決められた方針を公に承認する場であった。議題、文書、さらにはレトリック上の表現に至るまで、すべては会議のずっと前に非公開の協議で決まっていた。会議は開催される前からもはや話し合いの場ではなく、パフォーマンスの場となっていた。
欧米メディアはこうした会議を後継問題や派閥争いの視点から解釈しがちだが、その見方は本質を捉えていない。第19回党大会以降、中国共産党の権力継承メカニズムは「後継者指名」モデルを放棄した。憲法改正、制度再編、中枢の強化を通じて、習近平は個人の権威と体制構造を融合させた。この体制下では、指導部の後継問題は話題にされなくなり、政治の安定と政策の継続性が優先されるようになった。そのため、今回の4中全会の政治的役割は、この統治パラダイムの正当性を再確認することにあった。
II. 政治サイクルの短期化の影響
第3回全体会議が丸1年延期されたことで、第4回と第5回の全体会議は異例の短期間で開催しなければならなくなった。慣例的に、次期五カ年計画は5中全会で審議することになっていたが、今回、党は第15次五カ年計画の議論を第4回に前倒しした。この対応は時間調整という受動的な事情だけではなく、政治の時宜や政策のタイミングを再び管理下に置こうとする指導部の積極的な姿勢の表れでもある。
中国共産党の政治サイクルでは、これまでは5中全会で経済計画に焦点を当ててきたのに対し、4中全会では統治や制度改革を取り上げている。これらの議題を2025年に融合したことは、制度設計と発展戦略を一体化させ、統治の安定を経済成長の軌道と結びつけようとする習近平の意図を示している。この調整は2026年3月の「両会」とも歩調を合わせている。「両会」では国家発展計画要綱が議題になる予定で、「党が政府を指導し、政府が法律を推進する」という党・国家の階層構造が強化されることになる。
III. 「新質生産力」:中国式現代化の中核をなすナラティブ
第14次五カ年計画のテーマが「質の高い発展」だったのに対し、新たな第15次計画は技術的自立と産業高度化を中心とした新しい国家的ナラティブを形成している。4中全会では、独自のイノベーション、中核技術での画期的成果、そして技術革新と産業革新の深い融合を通じて、「新質生産力」を育成することを強調した。
これは2023年に習近平が初めて提唱し、2024年に政府活動報告に正式に盛り込まれた概念で、今や国家戦略レベルに格上げされている。中国が「質の高い成長」から「テクノロジー主導」の発展に移行することを示すものであり、単にイノベーションを求めるだけでなく、生産性の論理そのものを再定義している。この変革を形成する5つの分野が、AIを活用した生産、デジタル産業化、ハイエンド製造、グリーンエネルギー転換、そして安全保障を重視したレジリエンスである。この構想は米国によるテクノロジー封じ込め策への対応であると同時に、ある種の制度的意味合いをも含んでいる。つまり、「イノベーション主導の発展」をイデオロギー的正当性として政治利用するものだ。
このナラティブの下では、第15次五カ年計画は単なる経済の青写真ではなく、政治宣言となる。中国政府は「技術的自立」と「制度的イノベーション」を並行して推進することで、国外からの衝撃に耐え得る国内循環型システムの構築を目指している。中央経済工作会議が「過剰生産につながるイノベーションを回避」するよう警告したことは、資源配分の一元管理とデータガバナンスを通じて産業政策を主導し、「新質生産力」をスローガンから統治メカニズムに進化させる意図を浮き彫りにしている。
IV. 軍部粛清と制度的安定:党による軍部支配の再確認
過去半年にわたり、中国では特に軍部で高官の間に異例の混乱が見られた。4中全会の前日、中央軍事委員会(CMC)の何衛東副主席や苗華委員ら複数の軍幹部が「重大な規律違反と法律違反」の疑いで捜査対象となった。会議のわずか2日前には、さらに9人の軍幹部が解任され、中央軍事委員会の委員は7人から4人に、政治局員は24人から23人に減少した。この動きは反腐敗運動の一環とされているが、政治的粛清の特徴が明確に見て取れる。
国外では「大規模な人事異動」が行われるとの憶測もあったが、政治局常務委員会のレベルでは何の変化もなかった。習近平の後継者問題や胡春華の最高指導部入りに関する噂は根拠のないものだった。唯一の調整人事として張升民氏が中央軍事委員会副主席に任命されたが、これは権力再編ではなく組織構造の微調整にすぎない。
したがって、今回の軍再編は運用上の調整というより、体制支配を象徴的に再確認するものだ。「党が軍部を指揮する」という長年の原則が改めて強化され、軍の規律と忠誠心が再び政治化された。中央軍事委員会の縮小は、習近平による防衛上の意思決定の継続的な中央集権化を示しており、潜在的な派閥の自律性を排除し、党が政治と軍の両方を指揮するという原則を強化している。この集約型統治モデルは、政治的安全保障の枠組みの中で制度の安定を強固にするものである。
V. 統治論理に国家主導路線が復活:政策調整から技術的支配まで
中国共産党の主要会議で差し迫った外交問題が取り上げられることは稀だ。4中全会は、米中関税紛争やAPEC首脳会議、開催が見込まれている習主席とトランプ大統領の会談と時期が重なったにもかかわらず、こうした問題は意図的に議題から外された。これは党の長年の原則である「内外分離」を反映している。つまり、国内政策は党の機構内で調整される一方、外交と宣伝は並行するルートで処理される。
この仕組みを通じて「一時的な安定」が維持され、政治的シナリオが突発的な事象に左右されることも、国際的摩擦によって国内の信頼が損なわれることもないようにしている。中国政府は制度的安定を通じて「大国統治」を制御できることを示そうとしており、不安定な外交の動きは対処可能な雑音として扱っている。
4中全会で発信された重要なシグナルは、国家主導の発展統治の復活だ。これまでのサイクルでは、国家、市場、社会が補完し合うことが強調されていたが、新たな第15次五カ年計画では、テクノロジー、データ、エネルギー、金融における国家の主導的役割が再確認された。この傾向は「党が国家を指導する」政策領域を超え、デジタル規制やAI支援意思決定システムを通じて、統治のミクロな次元にまで浸透している。アルゴリズムやデータインフラにより国家権力の境界が再定義される中、このような「技術を活用した統治」が政治領域と経済領域の境界線を曖昧にしている。
この転換は、「共同富裕」後の言説を拡張し、公平性、効率性、安全保障を一つの統治論理に統合するとともに、「安定」を政治的正当性の中核をなす言葉に変えるものだ。腐敗対策や軍の規律から債務処理、データ規制に至るまで、中国共産党は統治を、技術に裏付けされた政治支配という形に転換し、台本どおりの政治が制度的に持続可能であるようにしている。
VI. 台湾問題の戦略的先送り
4中全会のコミュニケでは、両岸問題に明確に言及し、「両岸関係の平和的発展の促進と祖国統一の大業の推進」という目標を再確認した。この表現は統一の放棄を意味するわけではなく、むしろ戦略的な先送りを示している。短期的なナショナリズムの動員よりも、「発展を第一に、安定を最優先」する現実的な選択をすることで、外部からの圧力と国内問題に対処する中で柔軟性と政策の継続性を維持するという中国政府の姿勢を反映している。
台湾の大陸委員会は、金門島が大陸の発展計画に組み込まれるとの予想が現実にならなかったことに注目した。台湾当局は金門島の主権について、中華民国に属しており「交渉の余地はない」と改めて表明し、政治と経済が交錯するこの計画がいかにセンシティブなものであるかが浮き彫りになった。
特に注目すべきは、2023年以降の習近平の演説では「統一」への明示的な言及が次第に減少し、「中華民族の偉大な復興」や「現代化」など、より広範なナラティブに組み込まれるようになったことである。2019年の「台湾同胞に告げる書」記念談話や2021年の中国共産党創立100周年記念談話では「完全な統一」を強調していたが、こうした強硬なレトリックとは対照的に、現在の言説では経済的レジリエンスや技術的進歩というテーマを重視している。
こうしたレトリックの修正は方針の放棄ではなく、計算された先送りを意味する。国内の問題と国外からの逆風に直面する中国政府にとって、当面の急務は国内の秩序と国外の平静であり、これこそが「新質生産力」と産業構造の転換を推進する上で必要な条件なのである。したがって、台湾に対する控えめな姿勢は、国家統一の緊急性より現実の経済を戦略的に重視したことを示している。
VII. 結論:管理下での安定という政治哲学
4中全会の意義は、あっと驚く政策ではなく政治的継続性の再確認にある。いわば制度的パフォーマンスとしての儀式の場であり、安定という言葉を通じて権威の正当性強化をはかった。中国共産党は発展をめぐる議論に「新質生産力」を組み込むことで、イデオロギーによる動員を、テクノロジーと安全保障を融合させた論理に置き換えた。同時に、軍再編と一時的な原則を通じて、不確実性の中でも体制の秩序を維持している。
この枠組みの中では、後継問題は語られず、台湾問題は先送りされ、外交での変化は取り沙汰されない。代わりに現れたのは、制度の安定を最重要視する統治哲学だ。中国政府にとって「安定」はもはや手段ではなく、究極の目的となった。何のサプライズもない4中全会が、逆説的に中国共産党政治の本質を示している。つまり、台本に従って不確実性に対処し、信念の維持を制度により管理する体制である。
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