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中国半導体最前線PartⅠ アメリカが対中制裁を強化する中、中国半導体輸出額は今年20.6兆円を突破
中国半導体メーカーの一つSMIC(写真:ロイター/アフロ)
中国半導体メーカーの一つSMIC(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカは中国が絶対にアメリカの半導体技術を越えないように、あらゆる手段で対中制裁を強化してきた。しかし対中制裁をすればするほど、中国は自力更生を強化し、遂に中国半導体の輸出額は年間1兆元(約20.6兆円)を超えるに至っている。

 中国は、少しでも技術革新があるとアメリカがそこを狙って対中制裁をかけてくるのを知っているので、2017年辺りから、最前線の技術成果を外に漏らさないようにしてきた。したがって中国半導体最前線の実態を突き止めるのは至難の業だが、このたび輸出額に関して中国共産党の機関紙「人民日報」が発表したので、それを突破口に筆者独自の視点から、シリーズで実態に迫ることとした。

 今回は、その第一報として「中国半導体輸出額の推移、中国半導体輸出の種類」を中心に分析する。

 

◆アメリカが対中半導体制裁をしている間に、中国の半導体輸出額は20.6兆円を突破

 今年12月5日、中国共産党の機関紙「人民日報」が<米国がチップ制裁を強化している間に、中国の半導体輸出は1兆元(20.6兆円)を突破>という発表をした。半導体に関して中国が一定程度の内部情報を公開するのは、最近では珍しいことだ。その冒頭には以下のようなことが書いてある。

 ●12月2日、バイデン政権は中国向け半導体の新たな輸出管理措置を導入した。新たな措置には中国の半導体企業200社が関係し、また高度なAI半導体に焦点を当てた136の中国企業と4つの中国企業海外子会社が関係する最終計画も制裁対象になっている。

 ●しかし、今年1月から10月までに、中国の半導体輸出は21.4%増の9311億7000万元(19.2兆円)に達し、月平均輸出額は約930億元(1.9兆円)だった。 過去3年間のデータから判断すると、毎年第4四半期は中国の半導体輸出の最盛期に当たる。この傾向によると、今年の11月までに、中国のチップ輸出は1兆元(20.6兆円)を超える。

 ●結果的に過去5年間のアメリカの対中制裁は、中国の半導体産業の継続的な発展と成長を妨げていないことが言える。(以上、人民日報より)

 

◆中国半導体輸出額の推移

 そこで、これまで中国の半導体輸出額は、どのように推移してきたのか、習近平国家主席が発布したハイテク国家戦略「中国製造2025」が始まった2015年からのデータを、日本円に換算して図表1に示した。データの取り方は、中国税関総署の<海关统计数据查询平台>から入っていって、複雑な形で検索した結果得られるものなので、そのURLそのものにリンクを張るのは避ける。

 

図表1:中国半導体輸出金額の推移(日本円に換算)

中国税務総署のデータに基づき筆者作成

中国税務総署のデータに基づき筆者作成


 

 図表1において、2024年の値は、1-10月の輸出金額から推測した。推測方法は2024年1-10月と2023年1-10月の金額を比較し、11-12月も1-10月と同じ成長率と仮定して算出したデータである。

 アメリカの対中制裁はトランプ1.0だった2017年辺りから始まり、2019年に激化していったが、2021年からバイデン政権に移っていったものの、バイデンもまた対中制裁強化というトランプ1.0の政策を受け継いだので、制裁は一層激しくなっている。

 一般に政権が変わると、それまでの政権が推進していた政策のほとんどを覆すものだが、バイデン政権は逆に、トランプ1.0よりも「より厳しい対中制裁」を強行することによって、トランプ1.0との差別化を見せつけようとしたのだ。

 どの政権に代わっても、「アメリカを豊かにする」というよりは「アメリカが中国などに負けてはならない」ということが先に立ち、ともかく「どのようなことがあっても中国を潰そうという方向」に動くが、世界はアメリカのためにのみあるのではなく、アメリカが世界の法律だという風にもならない。

 中国はアメリカにより痛めつけられることによって、「虐められ方」の規則を学び、中国自身の力によって、そこから立ち直る方法を見つけている。

 その結論に至る前に、もう少しデータ解析を試みたい。

 

◆中国製半導体輸出の種類

 同じく中国税関総署のデータに基づき、半導体の種類に関して図表に表すと、図表2のようになる。

 

図表2:中国が輸出する半導体の種類

中国税務総署のデータに基づき筆者作成

中国税務総署のデータに基づき筆者作成


 

 図表2から「記憶装置(メモリー)」の占める割合が43.1%と、一番大きいことが見てとれる。念のため次に多い「プロセッサー」は、わかりやすく言うと「演算プロセスを実際に動かす仕事をしている部品」で、「コントローラー」は「リモコン(=リモートコントロール)」でもわかるように、大きく分けて入力装置である。

 2024年11月22日、台湾のテクノロジー分野の動向追跡と分析を専門としている調査会社Trend Forceは、<China Makes Strides in Memory and Chipmaking, Reportedly Closing Gap with Korea and Taiwan | TrendForce News>(中国はメモリとチップ製造で発展を遂げ、韓国・台湾との差を縮めている)と報じている。その情報源は11月21日に韓国のパルス(Pulse)が報道した<China narrows chip gap with Korea, Taiwan through rapid advances>(中国は韓国・台湾とのチップのギャップを急激な勢いで縮めつつある)にあるようで、情報源に関してはやや複雑だが、要するに中国の半導体メーカーが最先端半導体分野でも著しい進歩を遂げているということが書いてある。

 特にSMIC(Semiconductor Manufacturing International Corp.=中芯国際)(エス・ミック)と、NAND(ナンド)に焦点を当てたYMTC(Yangtze Memory Technologies Corp.=長江存儲科技、長江メモリ)、ファブレスHiSilicon(ハイシリコン)、IoTチップメーカーのUNISOC(紫光展鋭)などの主要プレーヤーが先導しているとのこと。

 SMICは2030年代半ばまでにTSMCに挑戦する態勢を整えることができるのではないかと、特に注目している。ウェーハの生産能力と売上高の堅調な成長により、SMICの第3四半期の売上高は前年同期比34%増の21億7,000万米ドルと過去最高を記録した。全体の利用率は90.4%に増加し、粗利益率は20.5%に増加したという。

 アメリカの制裁により中国は、オランダの半導体製造装置メーカーであるASMLから最先端のリソグラフィー装置を取得することを禁止されているが、Pulseレポートによると、実はSMICには台湾のTSMCの主要な研究開発およびプロセス・エンジニアリング・スタッフが数多く採用されているので、中国大陸のSMICは、TSMCとほぼ対等に競争できる状況にまで到達しつつあるという。

 そこには梁孟松(りょう・もうしょう)という「巨大な存在」の男がいる。

 梁孟松は、今ではSMICのCEOだが、その昔は、TSMCに身を置いていた半導体業界のベテランだ。彼がいるために、SMICは2024年初頭に、古いDUVマシンで5nmノードの開発に成功し、新たなマイルストーンを達成したのである。DUVとは「深紫外光(deep ultra-violet)」のことで、200~300 nm程度の波長領域で、半導体製造装置の露光波長としてはKrF(波長 248 nm)やArF(波長193nm)エキシマレーザーあたりに相当する。

 SMICは2018年から2019年にかけて「TSMCの第1世代7nmプロセス」と同様の「SMIC 7nmプロセス」開発に成功しているが、2000年に設立されたSMICが、台湾や韓国の最先端半導体技術に追いつくのは時間の問題だろうと言われている。

 実は2024年5月24日に、中国政府が主導する「国家集成電路産業投資基金三期」が始動した。7兆円規模を投じる半導体ファンドだ。優先的な投資先としては、中国がアメリカから制裁されて最も困っている半導体製造装置エリアが考えられ、その候補として真っ先に挙がるのがSMICだろう。

 SMICはメモリ分野でも活躍していて、ファーウェイがアメリカによる制裁で苦しんでいるのを見て、「友軍」としてファーウェイに協力しているので、アメリカの制裁を受けた者同士、あるいは苦渋を呑んだ者同士が助け合って中国半導体を前に進めている。

 筆者自身はかつてアメリカのシリコンバレーで半導体企業を経営したり大手半導体企業で働いていたりした中国人博士たちを取材して『中国がシリコンバレーとつながるとき』という本を書いたことがある。実はSMICの梁孟松チームの中の何人かは、かつてシリコンバレーで取材したこともあり、アメリカを選ぶか祖国中国を選ぶかに関して苦しい葛藤をしていたのを知っているので、梁孟松には格別の興味を抱いている。

 今後、シリーズで書くつもりである「中国半導体最前線」の中で、ファーウェイの現状だけでなく、チャンスがあれば梁孟松本人の物語も書いてみたいものだと思っている。

 この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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