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自公惨敗により日本短命内閣(回転ドア)が続けば中国には有利
2024年 衆議院選挙 投開票日から一夜 石破首相が会見(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
2024年 衆議院選挙 投開票日から一夜 石破首相が会見(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

自民党が惨敗し、自公連携が過半数を割った。これに関して中国は強い関心を示し、日本メディアや米メディアの転載を主としながら、一斉に報道している。  

その中から見えてくるのは「日本に回転ドアのように短命内閣が続けば中国に有利」という視点だ。

◆中共中央宣伝部の管轄下にある中央テレビ局CCTVの速報

中央テレビ局CCTV端末は、28日の午前零時から朝7時にかけて、連続3本も速報で衆院選に関するニュースを報道した。

まず10月28日午前零時に<日本の連立与党 衆議院選挙で過半数を獲得できず>という見出しで、27日の日本の衆院選の最新の開票状況を速報した。立憲民主党など野党側が得票を伸ばし、自公連立が過半数を取れなかったことが明確になったとし、石破茂氏が10月1日に首相に就任したばかりなのに戦後最速の衆議院解散を9日に表明した結果だと結んでいる。

同日午前4時になるとCCTV端末は再び衆院選の最終結果が出たと報道した。概略は以下の通り。

 ●自民191議席、公明24議席、両党合わせても215議席で過半数(233)割れをした。自民党は2012年以降のすべての衆院選で過半数以上の議席を獲得してきたが、その優位性も失った。

 ●野党は、立憲民主党148議席、維新38議席、国民民主28議席など躍進した。

 ●日本は議院内閣制を採用しており、憲法は、統治するために衆議院において過半数が必要とは規定していないが、首相指名と議会決議の大多数の可決には過半数の票が必要であるため、議席の過半数を獲得するかどうかにかかわらず、衆議院で過半数を獲得できるかどうかは、連立与党が議会で発言する権利があるかを判断する重要な基準となる。

 ●日本のメディアは、選挙で惨敗する中、石破茂首相が責任を問われる可能性があると分析し、石破茂氏が権力を維持し続けることができるかどうかが焦点となっている。

 ●日本の衆議院選挙は4年ごとに行われ、現衆議院議員の任期は当初2025年10月に満了する予定だったのに、石破茂氏が新首相に選出された瞬間に、9日の衆院解散を表明したことが招いた結果だ。

同日7時42分になると、CCTV端末は、今度は<裏金の影に包まれた日本の衆院選 石破茂就任後初の「試験」は失敗に終わった>という見出しで、以下のような角度から石破首相の惨敗の原因を報道している。

 ●裏金スキャンダルに経済問題が重なり選挙に影響し、自公連立与党は大幅に議席を減らし、過半数割れをした。

 ●自民党側は維新や国民民主との連立を模索しているが、両党の党首とも自公連合には参加しないと表明している。

 ●自公連立が惨敗した背景の一つには経済の問題がある。近年、日本は自公連立のもと、世界第3位の経済大国からドイツに追い抜かれ世界第4位に転落した。日本国民の多くは経済生活の現状に不満を抱いている。

 ●そこに加えて自民党の議員だけが利益を得ているような裏金事件が明るみに出て、日本国民の政治に対する信頼は失われつつある。

CCTVにしては珍しくネット民のコメントがあったが、そこには「日本がアメリカの束縛から抜け出し自我(独立)を実現することを望む。なんならBRICS+に加盟してもいいんだぜ。共に手を携えて世界の平和と安定の発展を守っていかないか?」という皮肉が書いてある。

◆環球時報:日本は再び回転ドア首相時代に入るのか?

10月28日午前7時40分、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」電子版「環球網」は<米メディア「石破茂が下野すれば、日本は再び首相が頻繁に交代する時代に戻る可能性がある」>という見出しで、米メディアの見方を伝えている。

中国にとって最も関心が高いのは、アメリカが日本の政権をどう見ているかで、日本の首相が短命でコロコロ変わっていった時代のことを「回転ドア首相時代」と呼んでいる。回転ドア政権になると日本の発言力は極度に下落し、対米追随をしても威力がないので、中国としては喜ばしい。

事実、1989年6月4日天安門事件後の対中経済封鎖を解除させたときから1992年10月の天皇陛下訪中にいたる頃の日本の首相は、日本人でさえ印象的でないほど、回転ドアのように次から次へと交代していた。たとえば、その前後の日本の首相名と任期を書くと以下のようになる。

 1987年11月6日~1989年6月3日:竹下登

 1989年6月3日~1989年8月10日:宇野宗佑

 1989年8月10日~1990年2月28日:海部俊樹(第一次)

 1990年2月28日~1991年11月5日:海部俊樹(第二次)

 1991年11月5日~1992年8月9日:宮澤喜一

 1992年8月9日~1993年4月28日:細川護煕

この期間、中国は日本を思うように操ることができた。

1989年6月の対中経済封鎖を日本がイの一番に解除したことによって、中国のその後の経済発展を可能ならしめたし、1992年2月に訪日した江沢民は、「天皇訪中さえ実現すれば、中国は二度と再び歴史問題を提起しない」と約束しておきながら1994年から激しい反日教育を開始している(詳細は『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』)。

日本は中国に舐められているのだ。

加えて、このように日本の内閣に短命な回転ドアが始まると、中国は日本をさらにコントロールしやすくなる。それを手ぐすね引いて待っているのである。

環球網が引用しているのは27日のニューヨークタイムズ<Japan Election: Governing Party Projected to Lose Majority>(日本選挙:与党が過半数を失う見通し)やBBCの<Japan’s ruling party loses its majority in blow to new PM>(日本の与党、新首相に打撃を与え過半数を失う)などで、BBCは「自民党は深い穴を掘っており、そこから這い上がるのは簡単ではない」と述べている。

◆「嘘をついた」石破首相の自業自得

こんなことになったのも、もとはと言えば石破首相が「嘘をついた」のが原因だ。自民党総裁選期間中には、あれだけ「せめて予算委員会を開催してからでないと解散してはいけない。それが私の意見です」と何度も表現を変えながらも「すぐ解散」だけはしないと主張してきたのに、総裁に当選するや否や、まだ総理大臣の指名さえもらってないのに、9月末日の時点で「すぐ解散」を言い始めた。

この時点で、「この人は絶対に信用できない」という深い印象を持った。

主義主張の問題以前に、人間として信用できない総理を、国民の誰が喜ぶのかということだ。

総裁選の時には、あれだけ激しく「アジア版NATO」を主張して「私は防衛が分かっているんだ」という「軍事オタク」の側面を誇らしげに誇張しておきながら、総理になった瞬間に「アジア版NATO」を引っ込め、「そんなこと言いましたか」とばかりに平然としている節操のなさ。

「アジア版NATO」は究極の対中包囲網で、しかも非現実的な机上の空論に過ぎない。いかにも現在の安全保障状況の国際情勢を知らない素人が妄想するような代物だ。

それでいて10月20日のコラム<犯人は日本の外相か? 日中首脳会談「石破発言」隠し>に書いたような小汚い細工をする。「中国とともに闘う」ことと「アジア版NATO」精神は完全に矛盾するからだ。

 石破茂氏が首相になり「すぐさま解散」をしたことによって、日本は国際社会で激しく信用を失ってしまった。そのことが日本の国益を甚だしく損ね、日本国民にも多大なマイナスの影響を与えることを肝に銘じてほしい。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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