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中国ネット民 トランプ氏の「突き上げた拳」を熱狂絶賛――「これぞ強いリーダー!」
出典:中国のSNS微博(weibo、ウェイボー)
出典:中国のSNS微博(weibo、ウェイボー)

トランプ前大統領が選挙演説中に銃撃を受け顔に血を流しながらも天に拳を突き上げ「ファイト!」と叫んだ姿に、中国ネット民の絶賛の嵐が止まらない。「これぞ強いリーダーだ!」と、フランス革命時の「自由の女神」にたとえる言葉や、あの一瞬をみごとに切り撮った写真家に「今年のピューリッツァー賞は確定!」と、使ったカメラや撮影者の写真を貼り付けて大騒ぎ。

まるで自国の英雄を讃えるような反応ではないか。

14日にはトランプ銃撃事件が中国のSNSであるweibo(微博、ウェイボー)のトレンドワード・ランキングで削除されることなくトップを占め続けた。

そこには「打倒バイデン」の声が潜んでいるように見える。

◆習近平国家主席がトランプ前大統領に見舞いの意表明

まず、中国の外交部は14日、定例記者会見で記者の質問に対して、以下のように答えている。

 ――中国はトランプ前大統領が銃撃を受けた事件に関して、注視している。習近平主席はすでにトランプ前大統領にお見舞いの意思を表明した。

トランプが銃撃された事件に関して、中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVも速報で伝え、その後も詳細な状況を報道している

◆ネットでは一時、トレンドワード・ランキングのトップに

中国のSNSであるweiboでは14日、トランプ銃撃事件がトレンドワード・ランキングのトップとなった。図表1に示すのは7月14日9時から15日2時までのトレンド・ランキングのレコードで、実際上は14日の午前8時から午後7時頃までトップを走っている。

図表1:トランプ襲撃事件がトレンドワード・ランキングのトップに

 

出典:Weiboのランキングを記録するサイト(熱捜時光機)

出典:Weiboのランキングを記録するサイト(熱捜時光機)

 

図表1の左上にある「特朗普」は「トランプ」の意味で、ここには「トランプ銃撃に遭遇」と書いてある。縦軸はランキングを示し、横軸は時間経緯を示す。

これらの膨大な情報の中から、いくつかの興味深い投稿を2,3ピックアップしてみたい。

◆「トランプの拳」をフランス革命の「自由の女神」にたとえる中国ネット民

河南省の「大荔枝3832」さんは、トランプのスローガンMAGA(Make America Great Again)を用いて、「MAGAの宣言は角度を知っている。この角度を知っているキングは、自由が人民を導く図を完全に復元している」と書いて、「民衆を導く自由の女神」(1830年に起きたフランス7月革命を描いたドラクロワの絵)と並べて図表2のような組み合わせを作っている。たしかに腕を振り上げる角度が似ている。

図表2:拳を天に突くトランプとフランス革命の「民衆を導く自由の女神」

 

出典:weibo

出典:weibo

 

◆カメラマンに注目

四川省の「包容万物恒河水」さんは、カメラマンに注目し、それがかつてピューリッツァー賞を受賞したAP通信のEvan Vucci(エヴァン・ヴッチ)氏であることを指摘している。図表3に示したのは、「包容万物恒河水」さんが探し出したカメラマンEvan Vucci氏の写真だ。

図表3:名カメラマンEvan Vucci氏

 

出典:weibo

出典:weibo

 

「今回もピューリッツァー賞を受賞確定だ!」と、写真の撮影アングル自体を絶賛している。

このカメラマンが使ったカメラにも強い関心を持つネット民もいて、これは「どんなレンズを使ったのか?」という書き込みがあり「SONY a9m3+24-70gm1」だと指摘している。そしてそこには

     最後の愛国者

     神業だ!

     この神業でトランプを神にしよう!

といった趣旨の言葉までが書いてある。

◆削除されない「トランプ絶賛」コメントの背景に何が見えるか?

アメリカは、米中覇権競争において、常に中国を潰そうとしている国だ。

そのアメリカに現れた「銃撃されてもなお、天に拳を向けるトランプ前大統領」に、ここまでの爆発的な絶賛を送るコメントを、中国政府はなぜ削除しないのだろうか?

それは、トランプは、バイデン大統領のように中国の周りにクワッドやオーカスなどの小さな軍事的グループを形成させて対中包囲網を謀ったり、台湾の独立派を扇動して、中国が台湾を軍事攻撃するしかないところに追いやろうとしたりしないからだろう。

NATOの東方拡大の拠点を日本に置き、中国との戦争を起こさせようとしていることは、中国のネット民たちはみな知っている。

筆者は長年にわたり100ヵ国ほどの国から来ている留学生の相談業務に当たってきたが、中国人留学生の政治意識の強さは、どの国とも比較にならないほど際立って高かった。そのころ大学入試はいかなる分野であれ、「政治」の科目が入試の対象となり、小学校の教科書にも「政治」があったので、国際政治的感覚が養われているからだと思う。

したがって、現在、バイデン政権が何をしようとしているかをつぶさに観察しているネット民が多いので、民主党、特にバイデン政権が続くことを嫌がっており、トランプを好む傾向にある。

中国政府としては内政干渉になるので何も言えないが、ネット民が言っていることを肯定しているのでコメントを削除しないのだと考えていいだろう。

対米追随で自らの外交的戦略を持てない日本政府より、中国ネット民の動きの方が、今後の世界の趨勢を鋭敏に示唆しているように思われた。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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