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台湾抗議デモの背後にAIT(米国在台湾協会)とNED(全米民主主義基金)
台湾で展開された藍(国民党)白(民衆党)「国会改革案」に対する抗議デモ(写真:ロイター/アフロ)
台湾で展開された藍(国民党)白(民衆党)「国会改革案」に対する抗議デモ(写真:ロイター/アフロ)

5月21日から高まりを見せた台湾における立法院の国会改革案に反対する抗議デモのきっかけを作ったのは、5月20日に発表された「国際学者30人による共同声明」だった。発表したのは元AIT(American Institute in Taiwan)所長の司徒文(William Anthony Stanton)や民進党議員などによる、立法院での記者会見の場である。

国際学者30人のほとんどはアメリカ人などの外国人で、外国人が他国の立法府に対して審議内容に関する批判を共同声明として発表するのは、内政干渉の極みではないのだろうか?

AITはNED(National Endowment for Democracy)の活動根拠地のようなものなので、民進党がAIT関係者とともに記者会見に臨んだのは、如何にNEDと民進党との癒着が激しいかを物語る。

 

◆立法院における記者会見

5月20日、司徒文・元AIT所長、民進党の林楚茵・立法委員、台北市議員趙怡翔(民進党)などが、台湾の立法院で記者会見を行なった

AITは日本台湾交流協会のように、米大使館代わりの役割を果たしているが、2023年11月20日のコラム<米国在台湾協会は3回も台湾総統候補者を面接試験し、柯文哲は常に選挙状況を報告するよう要求されている>などに書いたように、台湾の総統選挙を監視し、国民党(党色:藍)と民衆党(党色:白)との野党連合(藍白合作)を破局に追いやり、民進党から総統を出すことに成功した(参照:2023年11月24日のコラム<台湾総統選「藍白合作」(野党連携)破局!>。全体像は拙著『嗤(わら)う習近平の白い牙』の【第二章 台湾世論と頼清徳新政権】)。

そのAITの司徒文・元所長をトップリーダーとした記者会見を立法院の中で開催すること自体、普通では考えられない話だが、そこで発表された内容は、概ね以下のようなものである。

 ●野党が立法院に提出した国会改革案は違憲である。そのためAITの元所長である司徒文や楊甦棣(Stephen M. Young)を含む30人の国際学者が本日、共同声明を発表し、野党の国会改革案に対する厳しい懸念を表明した。

 ●共同声明は、国民党と民衆党が提出した国会改革案は、国際立憲民主主義の規範を逸脱し、法の支配の概念を覆し、手続き上の正義に違反していると指摘した。共同声明によると、一連の改革の主な争点には、「国会侮辱罪の導入」、「総統が立法院に施政方針に関して報告し、質疑応答に応じることを義務付けること」、「立法府の調査権限の拡大」などがある。これらの改革は、表面的には合理的に見えるかもしれないが、実際には台湾独自の憲法の枠組みと立法の精神に反し、他の立憲民主主義国の立法権を超えている。

 ●共同声明ではまた「ほとんどの立憲民主主義国では議会侮辱罪が存在するが、これは通常、法廷で証言するための召喚状を無視したり、司法捜査の過程で嘘をついたりすることに適用されるのであり、政府高官が国会で意見聴取される過程で、国会侮辱罪で起訴されるような民主主義国はない」としている。(記者会見の概要は以上)

 

◆共同声明に署名した国際学者30人のリスト

何よりも注目されるのは、記者会見で公表された共同声明「台湾立法院で提案された立法改革に関する国際共同声明」に署名した「30人の国際学者」のリストだ。

図表1に、声明文に書いてある署名者のリストを、国籍や肩書などを和訳して示す。

図表1:共同声明に署名した国際学者30人のリスト

共同声明署名者に基づき筆者作成

共同声明署名者に基づき筆者作成

 

一目で分かるように、まずアメリカ人に関しては黄色のマーカーで示した。

アメリカ人が14人もいる。

その中には2人も、元AITの所長だった人が含まれている。それは赤文字で示した。

27番目にある単仲偕(香港)以外は、みな外国人だ。

そのほとんどは、基本的に「第二のCIA」と称されるNED関係者およびその影響を受けた人々である。

このような外国人が、他国の立法府の会議場で記者会見を行ない、国会で審議される内容に関して不適切だとして批判声明を出すこと自体、他国への内政干渉で、あり得ないことではないかと驚くばかりだ。

たとえば日本で、駐日中国大使館の元特命全権大使や親中団体が集まって、日本の国会議事堂にある会議室で、国会での審議内容に関する批判声明を発表するなどということがあり得るだろうか?

これが駐日米国大使館関係であったとしても越権行為として排除されるのではないかと思われる。外国人記者クラブで発表するのは、まあ許可はされるだろうが、それにしても日本の国会で審議中の法案に関して、関係のない他国が批判表明をするのは、やはり越権だろう。

 

◆共同声明の通りに拡大した抗議デモ

「30人の国際学者による共同声明」の後半には「5月17日、民進党の議員らは、十分な検討と実質的な議論なしに国会改革案の成立を阻止しようとし、立法院での衝突を引き起こした。その結果、何百人もの民衆が立法院の前に集まり、国会改革法案に反対した。5月21日に国会改革法案が再審議されることになっているが、その時には数千人以上の民衆が抗議集会に集まるだろう」と書いてある。

すると、共同声明で予告した通りに、5月21日には3万人規模の抗議デモが起き、5月24日には10万人に膨れ上がった。抗議の主張は「中共が立法院をコントロールしている」、「多数野党が強行採決をした」、「民主が後退した」…といった内容が中心だ。

抗議デモは民進党支持団体が呼びかけたと、少なからぬメディアには書いてある。民進党系列であることは確かだが、その「核」になっているのは上述した「AIT元所長などのアメリカ人を中心とする国際学者30人による共同声明文」であるという明確な相関を見いだすことができる。

すなわち、共同声明は「抗議デモを呼びかける檄文」であったと言っていいだろう。

それがどんどん膨れ上がっていくかと思われたが、5月28日に行なわれた抗議デモに参加したのは7万人と、やや勢いを陰らせていった。

 

◆民意は「立法院の国会改革案に賛成」が多い

それも、そのはず。

5月24日に財団法人「台湾民意基金会」が発表した「5月17日の国会乱闘に関連する民意調査」によれば、なんと、「57.5%の台湾人が、国会侮辱罪の立法に賛同している」ことが分かった。図表2にその結果を示す。

 

図表2:「国会侮辱罪」に対する民意調査の結果

 

台湾民意調査基金会のデータに基づき筆者作成

台湾民意基金会のデータに基づき筆者作成

 

台湾民意基金会の説明によれば、「賛成」は若い人に多く、「20-24歳」の年齢層では、「賛成:80%」にも及ぶとのこと。

立法院で法案を決議するには3度の審議が義務付けられており、「国会侮辱罪」は「一読、二読、三読」という3度の審議が終わり、5月28日に可決しているが、この調査はそれ以前のデータだ。

この事実も、如何に「国際学者30人の共同声明」が一般台湾民衆の民意から乖離したものであるかを示している。

 

◆台湾のネット掲示板における書き込み

民意調査以外にも、個々人のネットユーザーによる膨大な意見表明がネットには溢れている。

たとえば台湾最大の掲示板PTTにある「国際学者30人の共同声明」に対するさまざまな書き込みを含めて、ネットに溢れる書き込みのいくつかを拾ってみると、以下のようなものがある。

 ●米国は他国の内政に干渉するのが好きだなぁ。

 ●私は外国勢力が台湾の内政に干渉することを恐れていない。

 ●われわれは一人一票の制度に基づいて投票し、立法院の委員(国会議員)を選んだ。その民意を無視するのか?

 ●うわー、内政干渉だ――!

 ●彼らは正義なのか?

 ●一人一票の台湾人の民意により、野党委員(野党議員)が多くなっただけだ。それを覆すのは民主的行為なのか?

 ●この法案は民進党の利益を損なうからなのか?

  40%(与党:民進党)<60%(野党:国民党+民衆党など)が民意だ。

 ●アメリカはどうぞ台湾から出て行ってください。

 ●外国人は黙れ。外国人が内政に干渉するのは違法じゃないのか?

 ●利己的な外国人は台湾の民主主義に干渉するな。

 ●なぜ今、これほど多くの外国人が台湾の裁判官になろうと焦っているのか?台湾民意と、お前ら30人の私見のどちらが民主的なのか?

 ●台湾独自の民主主義を壊すな!

 ●民進党は中共が台湾に干渉していると批判しているが、アメリカが内政干渉するのは良いのか?アメリカだってダメだ!誰も内政干渉してはならない。

(以上、ネットの書き込みの一部分)

 

なお、5月28日を以て、野党が提案していた国会改革案「総統の国家状況報告の定期化/国会侮辱罪の罰則/国会調査権/国会聴証権/人事同意権」など5法案は全て三読を経て可決した

これらの内いくつかは、2012年に民進党が国民党の馬英九政権時代の立法院で提案したもので、台湾のネットでは「民進党は自分が提案したくせに」と激しい非難が飛び交っている。これに関しては追って、機会があれば考察したい。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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