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米国在台湾協会は3回も台湾総統候補者を面接試験し、柯文哲は常に選挙状況を報告するよう要求されている
AIT(米国在台湾協会)台北支所(写真:ロイター/アフロ)
AIT(米国在台湾協会)台北支所(写真:ロイター/アフロ)

台湾総統選における野党連携「藍白合作」(藍は国民党、白は台湾民衆党)を発表した翌日の11月16日、台湾の国営通信社である中央通信社(中央社)は、柯文哲候補(台湾民衆党)が「今年2月以来、AIT(米国在台湾協会)から常に選挙に関する現状報告をするように要求されてきた」と語ったと報道している。

その1ヵ月前の10月17日にはシンガポールの「聯合早報」がAITの理事長(バイデン米国大統領の側近)が10月15日から台湾を訪問し3人の総統選立候補者を「面接試験した」と報じた。ここ半年間で3回目の「面接試験」であるという。10月20日のアメリカの国営放送VOAも、今回の台湾訪問は「3回目の面接試験を行うためだ」と説明している。

台湾の選挙はアメリカの管轄下にあり、総統選候補者はアメリカの顔色をうかがいながらでないと行動できない状況にあるようだ。立候補者は先ず訪米し「面接試験」に「合格」しなければならない。

「一つの中国」は国連で議決されたのではなかったのか?

台湾は誰のものか――?

 

◆柯文哲氏は2月から常に状況を報告せよとAITに要求されている

2023年11月16日、台湾の国営通信社である中央社は、台湾民衆党の次期総統選候補者である柯文哲氏に関して<柯文哲:米国は台湾の重要な同盟国だ AITが藍白合作に関して聞いてくるのは正常なことだ>という見出しで柯文哲がAITから状況報告を要求されてきたことを報道している(リンク先はその転載)。

それによれば、柯文哲は以下のように述べているという。

●民衆党は今年2月以来、毎週AITと連絡を取っており、AITの立場を考えると、AITが藍白問題を懸念して電話して来るのは当然のことだと思う。なぜならアメリカは台湾の重要な同盟(国)であり、台湾と良好な関係を維持する必要があるからだ。コミュニケーションを図り、誤解を避けなければならない。

●藍白の政党は昨日、馬英九・元総統の立会いのもとで交渉し合意に達したが、外界の一部は藍白合作に関して中国共産党が介入しているのではないかと疑問視している。

●藍白合作を決定したと発表するとすぐ、AITが私に電話してきて、中国が藍白合作に関与したか否かを説明するように要求してきた。

●今年2月から現在に至るまで、われわれ民衆党は毎週AITと連絡を取り、党事務局の局長、副局長、政治チームのレベル全て、ずーっと常にAITに選挙運動に関する報告をしている。私自身もAITのサンドラ・オウドカーク処長に「台米関係においてはノーサプライズを維持する」と保証し、訪米したときにも米政府高官にこの原則を維持し決して突然奇妙な動き(=中国と接近するようなこと)はしないことを誓った。

●私はこれまで、AITに対し、「どんな問題でも疑問があればいつでも電話して質問していい」と保証したことがあるし、「民衆党は何か新しい変化があったら、必ずAITに報告する」と誓ったこともある。したがって昨日、「藍白合作」決定を発表したわけだから、AITが「お前、何をやっているんだ!?」と聞いてくるのは正常なことだと思う。なぜなら私はAITに「何か変化があったら報告する」と誓っていたからだ(=それに違反したことになる)。

 

◆AIT理事長は総統候補者に面接試験

2023年10月17日、シンガポールの「聯合早報」は<米国在台湾協会(AIT)理事長が藍・緑・白の総統選立候補者に“面接試験”>という見出しで、台湾総統選立候補者の「面接試験」を報道している(緑は民進党のシンボルカラー)。以下、「聯合早報」の温偉中・台北特派員が書いた記事の冒頭部分だけを和訳して転載する。

――米国在台湾協会(AIT)のローラ・ローゼンバーガー理事長は、5日間の日程で台湾を訪問し、藍・緑・白三大政党の総統選立候補者と面談する。これは台湾の将来の総統候補に対する「面接試験」とみなされている。学者らによると、「アメリカは現場の一次情報を直接得ることによって、選挙情勢を評価分析しようとしている」とのこと。

ローラ・ローゼンバーガーは日曜日(10月15日)に台湾に到着したが、これは彼女が3月20日に就任して以来の3度目の台湾訪問となる。彼女はすでに月曜日(10月16日)に台湾の蔡英文総統と会談しているが、より注目されるのは、藍(国民党)、緑(民進党)、白(民衆党)三党の総統候補者との会談だ。

ローゼンバーガーはブリンケン米国務長官の補佐官を務め、バイデン米大統領の側近ともみなされている。台湾では3ヵ月以内に、すなわち2024年1月13日に総統選挙と立法院委員選挙が行われることになっている。中東でイスラエルとハマスの戦争が激化し、台湾の選挙戦が燃え上がっている時期に彼女が台湾を訪問したことは、アメリカが台湾問題と選挙情勢をいかに重要視しているかの何よりの証拠である。(「聯合早報」からの引用は以上)

 

◆アメリカVOAの報道も「面接試験」と表現

2023年10月20日、アメリカの国営放送VOA(Voice of America)は、<アメリカは台湾の総統選を高度に重視 両岸政策の最重要事項>という見出しで、AIT理事長の台湾訪問を伝えている。報道では、「これは半年間で3度目の台湾訪問で、何よりも野党候補者が連携するのではないかという懸念があるため、総統立候補者を【面接試験する旅】であった」と位置付けている。

何と言っても10月14日には「藍白合作」に関する話し合いが国民党と民衆党の間で行われたばかりで、その成り行きを確認するのが重要な目的だ。

10月18日には国民党の侯友宜と民衆党の柯文哲が同じフォーラムに出席したが、できるだけ目を合わさないようにするほど、「私たちは藍白合作をするつもりはありません」という印象をAIT理事長に与えようと涙ぐましい努力をしていた。(以上VOAから引用)

どの報道を見ても、アメリカが何としても「藍白合作」野党連携を阻止しようと躍起になっていることがうかがわれる。

 

◆台湾は誰のものか?

2023年7月29日の「聯合早報」は<自らアメリカへ赴いて面接試験を受ける 台湾総統選の奇怪な景色>という見出しで、今般の総統立候補者が全員が自ら積極的にアメリカに赴いて「面接試験」を受けに行ったと、「怪奇現象」として、以下のように報じている。

――陳水扁と馬英九は、それぞれ2000年と2008年に総統に当選し二期務めたが、総統に立候補した段階で、それぞれアメリカに「ご挨拶」に行き「面接試験を受ける」ような怪奇現象は起きなかった。それは「必要条件」ではなかった。

でも、今は違う。立候補者は誰もアメリカの影響力を無視する勇気はなく、アメリカの顔色をうかがい、少なくとも渡米して「保険」を購入しようとする。(引用以上)

 

台湾はアメリカの植民地ではない。

なぜそこまでアメリカの顔色をうかがいながらでないと行動できないのか?

そもそも1943年のカイロ宣言で台湾は日本から「中華民国」に返還されると宣言され、事実、1945年の日本敗戦により日本が統治していた台湾は「中華民国」に返還された。日本敗戦後、中国(中華民国)国内では政権を握る国民党(蒋介石)と、その政権を倒そうと革命を起こしていた共産党(毛沢東)との間で国共内戦(=解放戦争=革命戦争)が起こり、1949年に国民党が敗北して台湾に根拠地を置いただけである。今はまだ、その内戦過程にある。

台湾を含めた中国全土を統一する前に毛沢東は「中華人民共和国」の誕生を宣言した。旧ソ連のスターリンが「(中華民国の一地域である)台湾解放のために空軍や海軍を出して支援する」と約束したからだ。しかし北朝鮮の金日成(キム・イルソン)の甘言に乗り、スターリンは「台湾解放という中国統一」よりも、ウラジオストックに近い朝鮮半島の利害を優先したので、「台湾解放」が後回しになってしまった。金日成とスターリンの策略により、朝鮮戦争に強引に参戦させられた毛沢東は、自分の息子を北朝鮮の戦地で失い、「100年かけても台湾は解放する!」と台湾統一を誓ったものだ。筆者はこの言葉を、天津にあった小学校の担任の馬(マー)老師から聞いた。

台湾に立てこもった「中華民国」の蒋介石総統は、しばらくの間、毛沢東が統治する中国大陸全体を含めて「中華民国の領土」として、大陸奪還を試みていた。しかしアメリカが旧ソ連を倒すために旧ソ連と対立していた共産中国「中華人民共和国」の国連加盟に向けて積極的に動き、「中華民国」台湾を国連から追放してしまった(1971年)。共産中国は「中国を代表する国」として「中華人民共和国」しかないという「一つの中国」を相手国が認めることを国交樹立の絶対条件にした。したがってアメリカは「一つの中国」を認めて共産中国「中華人民共和国」と国交を樹立し、「中華民国」台湾と国交を断絶したのだ。

この時点で「中国」は「台湾を含めて中国の領土」と定める正当性を「政治外交的手段」で獲得したことになる。「平和統一」であるなら「台湾を統一することは合法的である」と国連が決議したに等しい

しかし2010年に中国のGDPが日本を超え、アメリカに近づき始めた。ひょっとすると近い将来にアメリカを超えるかもしれない。そのようなことになったらアメリカの一極支配が終わる。それだけはさせてはならないとばかりに、アメリカは、今度は台湾を駒に中国政府崩壊にチャレンジし始めたのだ。

だから『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』に詳述したように、「第二のCIA」であるNED(全米民主主義基金)が台湾に浸透し、「台湾有事」を創り出そうとしている。その強烈な浸透力のもと、このたびの次期総統立候補者はワシントン詣でをしているのである。

そのため、台湾の政権野党からの立候補者はビクビクしていて勢いがない。

政権与党の民進党の方が信念が揺らいでいないので、堂々としていて頼もしくさえ見える。野党が分立したままなら、圧倒的に民進党が勝利するだろう。

しかし民進党が勝てばNEDやAITの活動は一層強化され、台湾の独立傾向が強まり、結果として中国の台湾武力攻撃を誘うことになり、中国が台湾を武力攻撃すればアメリカが勝つ可能性が高い。そうすれば中国は崩壊してくれる。ただ、そのとき日本が再び戦火に巻き込まれるのは覚悟しなければならない。

日本人は「独立国家」として、どちらを選ぶのか。

台湾総統選は、日本人にも覚悟の選択を迫っている。

追記:但し台湾の政界人と台湾庶民は全く違う。筆者にも多くの台湾の友人がおり、何度かの台湾滞在中に感じ取ったのは台湾人の逞しさと忍耐強さだった。日本人よりも確かな判断眼を持っていて、しかも寛容だ。長年にわたる日本による統治に忍耐強く耐えてきた台湾人の強さと寛容さ。特に柔軟性が逞しさを生んでいることに深い感動を覚えたものだ。その台湾を利用して次の戦争を起こそうと準備しているアメリカに対して警鐘を鳴らしているだけである。台湾人が可哀想ではないか。台湾人への、人間としての尊厳を尊重しなければならないと思う。

この論考はYahooから転載しました。
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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