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習近平に手痛い軍幹部大規模腐敗と中国全土の腐敗の実態
習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)
習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

習近平国家主席が信頼を寄せていた李尚福元国防部長をはじめ、9名の軍幹部が腐敗問題で失脚したことなどを受け、1月8日、習近平は腐敗や汚職など党規約違反を審議する中央紀律検査委員会全体会議を開いて、党内になお蔓延(はびこ)る腐敗や汚職の一掃を求める談話を発表した。

2013年から始まった激しい反腐敗運動は、特に軍部に蔓延(まんえん)する底なしの腐敗を撲滅して軍のハイテク化を図るためだった。2015年末に行った軍事大改革の目玉はロケット軍の創設にあり、国家ハイテク戦略「中国製造2025」は、そのロケット軍を中心としたミサイルや宇宙開発を発展させることが主眼の一つだったのである。

スマホなどの線幅の小さな半導体に対する制裁をアメリカは強化し中国のハイテク産業の成長を何としても潰そうとしており、中国はそれに抵抗しながらミサイルや宇宙開発を成長させてきたというのに、実は内部から、しかも習近平の側近から、その成長を阻む腐敗問題が出てきたのでは、習近平にとってこれ以上の痛手はないだろう。

◆全人代代表を罷免された軍関係者

昨年12月29日、全人代(全国人民代表大会)常務委員会は全人代代表(議員)に関する公告(第二号)を発表した。それによれば、以下9名の軍関係者が罷免されている。

 ●中央軍事委員会連合参謀部軍人代表:張振中

 ●中央軍事委員会装備発展部軍人代表:張育林、饒文敏

 ●海軍軍人代表:鞠新春

 ●空軍軍人代表:丁来杭

 ●ロケット軍軍人代表:呂宏、李玉超、李傳広、周亜寧

装備発展部とロケット軍が多いが、上記9名の内、空軍の丁来杭以外の8名は、もともとロケット軍や装備発展部と関係している軍人ばかりだ。

これは昨年10月24日に全人代常務委員会が元国防部長で国務委員だった李尚福を罷免したことと関係している。李尚福は中国人民解放軍63790部隊(中国西昌衛星発射センターの中国人民解放軍第二十七試験訓練基地)の司令員からスタートし数多くの衛星発射基地などで航空宇宙関係の仕事をしてきて、2016年には中国人民解放軍戦略支援部隊(副司令員兼参謀長)、2017年には中央軍事委員会装備発展部長などを経ている。2022年には中央軍事委員会委員に、2023年には国務委員兼国防部長(国防大臣)にまでなっておきながら、腐敗問題で失脚した。そのため、李尚福と関係する装備発展部やロケット軍関係者が今般罷免された軍人たちの中にも多いのである。

◆全国政治協商会議の代表も軍事産業関係者3名を罷免

中国では全人代と全国政治協商会議を「両会」と称しているが、立法機関でない方の全国政治協商会議の王滬寧(おう・こねい)主席は12月27日に全国政協主席会議を開催し、以下の3名を罷免すると公表した。

 ●呉燕生:中国航天科技集団有限公司董事長、党組織書記

 ●劉石泉:中国兵器工業集団有限公司董事長、党組織書記

 ●王長青:中国航天科工集団有限公司副総経理、党組織メンバー

中国航天(宇宙)科技集団有限公司も中国航天科工集団有限公司も、拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』で詳述した「軍民融合」の中の巨大国有企業として宇宙開発に貢献している。

中国兵器工業集団有限公司は中国最大の武器装備製造会社で宇宙開発とは直接関係はないものの、劉石泉自身は、2019年3月5日の中国共産党新聞網によれば、2019年2月に中国航天科工集団有限公司の董事、総経理および党組織書記に就任している。1987年から中国航天部に勤務しているので、宇宙開発に関係した人物であるということができよう。

◆宇宙開発に関する「軍民融合」相関図

前掲の『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』のp.176-177をご覧いただくと、そこには【図表4-3 宇宙開発に関係する組織図】という「軍民融合」相関図がある。

その図表に今般の腐敗に関連した部局を赤線で示すという加工をしたものを改めて「図表1:宇宙開発に関する軍民融合相関図」として以下に示す。

図表1:宇宙開発に関する軍民融合相関図

図表1から明らかなように、全人代公告(第二号)には中央軍事委員会連合参謀部の副参謀長・張振中(元ロケット軍副司令官)もおり、連合参謀部から始まって、李尚福が部長をしていた中央軍事員会装備発展部(赤枠、中黄色)を中心として腐敗の流れが連なっている。李尚福が中央軍事委員会装備開発部部長に就任したのは2017年9月のことだが、2016年2月には戦略支援部隊の副司令官兼参謀長にも就いていたので、李尚福は装備開発部と戦略支援部隊という、中国人民解放軍の心臓部に当たるようなところで、測り知れないほどの大規模な腐敗の巣窟を形成していたことになる。

軍民融合という習近平の目玉戦略が全国政治協商会議代表を罷免された軍民融合骨幹企業にも影響を与えていることが図表1から見て取れる。国有企業でも「企業」が入れば「権力+金銭」という交易が始まるのは分かり切っているのだから、注意すべきだったはずだ。それが軍関係となると絶望的状況がやってくる。

赤い点線で囲んだのは発射センターだが、ここも李尚福が業績の基礎を固めてきた部局なので、疑義のある機関として今後とも考察を続けなければならない。

これらは全て、習近平が政治生命の全てを賭けて断行した反腐敗運動の目的である「軍のハイテク化」を中心とした強軍大国への夢を打ち砕くのに十分な破壊力を持っている。

◆万死に値する李尚福と中国全土の腐敗の実態

その李尚福を習近平は、この上なく信じてしまったのである。

だから2022年、2023年と破格の昇進をさせている。身体検査は十分にしていたはずなのに、それでも李尚福に連なる軍の大規模腐敗を見抜けなかった。

習近平にとっては、李尚福は万死に値する男だと言っても過言ではないだろう。裁判が始まれば腐敗の実態が曝(さら)け出されるだろうが、死刑になるにちがいない。

李尚福は習近平が愛(め)でた軍側近中の側近。このことからも習近平政権発足以来断行してきた反腐敗運動は、決して権力闘争のためではなかったことが理解できるはずだ。日本のメディアは「政敵を倒すための反腐敗運動によって権力基盤を形成した習近平」という「習近平」に対する「枕詞」をいつまでも付けていると、中国の実態を見誤るので、注意した方が良い。

それにしても中国の腐敗の闇は、なぜこうも深いのだろうか?

筆者は2014年に『中国人が選んだワースト中国人番付―やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ―』で中国腐敗の実態を書いたが、この「ワースト中国人」の元の言葉は、実は「2013年中国人クズランキング」という言葉が2014年1月1日の中国のネットに現れたことに由来している。当時はまだ「クズランキング」という言葉を書名に使うだけの勇気がなかったが、中国の大地に染みこんでいる「腐敗文化」という伝統と腐敗のスケールの桁違いの大きさだけは思いきり書いたつもりだ。

では、現在はどうだろうか。

2023年10月29日の新華網は<中央紀律検査委員会・国家監察委員会通報 2023年1月から9月までの全国紀律検査観察機関監督検査、審査調査状況>を公開している。

2023年1月から9月の間に、全国の紀律検査監察機関が受け取った通報は合計261万7000通で、そのうち立件されたのは47万件。内訳としては、「中央管理職級幹部54人、庁・局級幹部2,480人、県・処級幹部2万人、郷科級幹部5.4万人」となっている。その結果、党内処分(党懲戒処分)33.1万人、政務制裁10.8万人を含む40.5万人が処罰されたとのこと。図解すると以下のようになる。

図表2:2023年1月から9月の間に腐敗等により処罰された人たちの職務内訳

新華網のデータを筆者が日本語訳などして作成

新華網のデータを筆者が日本語訳などして作成


図表3:2023年1月から9月の間に処罰を受けた人たちの処罰方法の内訳

 

新華網のデータを筆者が日本語訳などして作成

新華網のデータを筆者が日本語訳などして作成

 

一方、2024年1月9日、CCTVは中央紀律検査委員会・国家監察委員会が主催する<テレビ特集≪たゆまず力を発揮し、深く推進せよ≫第四話≪一丸となって三不腐を推進せよ≫>を報道した(「三不腐」とは「不敢腐、不能腐、不想腐」を指す)。それによれば、第20回党大会(2022年10月)から2023年11月までの間に、全国紀律検査監察機関が立件した腐敗案件は67万件に及び、そのうち中央管理職幹部は86人、庁・局幹部は3,533人、県級幹部は2.8万人であったという。

◆現時点での軍事宇宙産業に対する影響

拙著『「中国製造2025」の衝撃』あるいは『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(第三章)に書いたように、習近平が反腐敗運動を断行したのは「半導体と宇宙開発」に注力し、国家ハイテク戦略「中国製造2025」を完成したいからだった。冒頭に書いたように小さな線幅の半導体に関しては、中国が開発すればしただけ、アメリカは次々と制裁を科し、中国の半導体産業が発展しないように潰しにかかってきた。

2018年12月24日のコラム<日本の半導体はなぜ沈んでしまったのか?>に書いたように、日本の半導体を潰すのに成功したからだ。

しかし宇宙開発とミサイル開発に関しては、アメリカは中国の成長を阻止できなかった。その両方に関係しているロケット軍の中でこれだけの汚職が進行していたとなると、その分野での成長を自ら削いでいるはずだ。

それをチェックするために、先ず宇宙開発に関して衛星を打ち上げるためのロケット発射の頻度と成功率に関して考察し、図表4に示してみた。

データは中国政府が最近の10年間は公開していないので、残念ながらウィキペディアに一部基づいた。2011年までのデータを中国政府のデータと照合してみたが、一致していたので、それなりの信頼性はあるものと判断される。

図表4:中国の人工衛星のためのロケット発射回数と成功率

 

中国政府のデータとウィキペディアなどにある長征ロケット発射記録を参考に筆者作成

中国政府のデータとウィキペディアなどにある長征ロケット発射記録を参考に筆者作成

 

では、ミサイル製造に関してはどうなっているだろうか?

中国はミサイルに関しては公開しないので、これはアメリカの国防総省の最近3年の調査によるデータに基づいて作成してみた。

図表5:中国のミサイル製造の推移

アメリカ国防総省のデータに基づき筆者作成

アメリカ国防総省のデータに基づき筆者作成

図表4と図表5を見る限り、軍部の腐敗は、それほど大きくミサイル開発や宇宙開発にマイナスの影響を与えていないように見える。開発製造には時間のズレがあるので、影響はこの後に出て来るのかもしれない。

中国は何千年も腐敗と共に生きてきた国だ。

共産中国になってからの中国は江沢民政権で腐敗がピークに達している。習近平はその後始末をし切れるのか、それとも中国はやはり歴代王朝通りに「腐敗で滅びるのか」、考察を続けたい。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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