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中国はウクライナ戦争停戦をどう位置付けているか?
訪露したときの習近平国家主席とプーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)
訪露したときの習近平国家主席とプーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)

ウクライナ戦争勃発1周年に当たる今年2月24日に「和平案」を発表した中国はいま、ウクライナ戦争の停戦をどう位置付けているかに関して考察したい。

◆中国のネットでは「アメリカの大統領選が終わるまで」の声

中国政府や中国共産党関連のウェブサイトが「ウクライナ戦争はいつまで続くだろう」とか「どういう状況が来たら停戦になるか」といった予測的な話題を書かないだろうことは容易に想像がつく。しかし、一般ネット民(ネットユーザー)の声は民間のウェブサイトで絶え間なく発信されている。

それは基本的に「来年にアメリカ大統領選が終わるまで停戦はないだろう」とする見方が多い。それも圧倒的に「もしトランプ(前大統領)が再選されれば戦争は終わるだろう」という期待が数多く見られる。

あまりに多いので、それを一つ一つ拾い出すわけにはいかないが、たとえば今年6月18日には<衝突すでに480日、ロシア・ウクライナはいつ停戦するのか、アメリカの大統領選が一つのキーポイントだ>というのがある。それによれば、「トランプが当選すれば、さすがに24時間以内に停戦とまではいかないだろうが、必ず希望を見出すことができる」と、トランプの再当選に期待している。

8月6日の<欧米は心配し始めた! プーチンは2024年のアメリカ大統領選まで露・ウ戦争を引き延ばすかもしれない>は、CNNの報道に基づいて考察し、やはり、トランプが再選すればウクライナ戦争を終わらせてくれるだろうと期待している。

ロシアの大統領選は来年の3月でアメリカの大統領選は来年の11月だ。

したがってプーチンとしては、「まずは来年3月のロシア大統領選に勝利して、11月に行われるアメリカの大統領選の結果を見てから動きましょう」と考えているだろうというのが、中国のネット空間における見方だ。

◆中国共産党系の「環球時報」が実はヒントを与えている

民間のウェブサイトが盛んに上記のような予測を立てているのも、実は予測を裏付ける「ファクト」のみを、まるでヒントのように中国共産党の機関紙「人民日報」姉妹版「環球時報」が早くから報道していたからだ。

今年3月17日の「環球時報」電子版「環球網」は<トランプは露・ウ紛争の停止を呼びかけ、「すぐさま平和を実現すべきだ」と言った>という見出しで、トランプのソーシャルメディアでの、現地時間16日の発言を報道した。

環球網はロシアのタス通信の報道を転載する形を取っているが、これは意図的で、「プーチンもそう思っている」ということを暗示するためだと解釈できなくもない。しかし、タス通信では信用できないという方もおられるだろう。

そこで、英文のオリジナル情報を探してみたところ、トランプ前大統領が独自に立ち上げたSNS「Truth Social」に<Preventing World War III(第三次世界大戦を防ぐために)>というタイトルで掲載されているのを確認することができたので、確かな情報として、安心してここでご紹介したい。

動画でトランプが言っている話の概要を以下に示す。

●ジョー・バイデン政権下の今日ほど、私たちが第三次世界大戦に近づいたことはない。核保有国間の世界規模の紛争は、人類史上前例のない規模の死と破壊をもたらす。私たちはそれを避けなければならないが、それには新しいリーダーシップが必要だ。

●ウクライナにおけるこの代理戦争は毎日続いており、世界戦争の危険にさらされている。私たちの目的はただちに一連の敵対行為と射撃を停止させることだ。一刻も早い平和が必要だ。

●私たちを終わりのない戦争に引きずり込み、外ではあたかも「自由と民主主義のために戦うふり」をしながら、私たち(アメリカ)を第三世界の国、第三世界の独裁政権に変えようとしているグローバリスト、ネオコン体制全体を解体するという完全な決意が不可欠だ。

●そのためには、ここ本国(アメリカ)にある世界独裁政権、国務省、国防官僚機構、諜報機関、その他すべてを完全に見直して再構築し、その地位を打ち破ってアメリカを第一に置く必要がある。

●私たちはNATOの目的と使命を根本的に再評価することを私の政権で開始した。しかし現在の(バイデン)政権は、ロシアが私たちの最大の脅威であるという嘘に基づいて、核武装したロシアとの紛争に世界を引き込もうとし続けている。今日の西洋文明にとって最大の脅威はそれ(=バイデン政権が創り上げた嘘)だ。(最大の脅威は)ロシアではない。

●これらのグローバリストたちは、アメリカの力、血、財宝のすべてを浪費し、彼らがここ国内で引き起こしている大惨事から私たちの気をそらしながら海外の怪物や幽霊を追いかけようとしている。 これらの勢力は、ロシアや中国が夢にも思わなかったほど大きな損害をアメリカに与えている。(スピーチの概要は以上)

なお、<Agenda47: Preventing World War III>では、トランプは「グローバリストのエスタブリッシュメント階級と、ウクライナ戦争を真剣に阻止し、ワシントンD.C.にあるネオコン軍産複合体全体を解体することに真に取り組んでいる人々との違いを説明した」という説明が加わっている。

しつこいようだが、万一にもうまくリンク先にアクセスできない読者のために、以下に「Truth Social」に掲載されている<Preventing World War III>の動画の上に書いてある文言を含めた画像を貼り付ける。

 

 

TRUTHからキャプチャーした画像

TRUTHからキャプチャーした画像

 

この冒頭に書いてあるのは概ね以下のような内容である。

――海外では、あたかも自由と民主主義のために戦うふりをしながら、その実は、私たちを終わりのない戦争に引きずり込み、私たちを第三世界の独裁政権に変えようとしているグローバリストのネオコン体制全体を解体するという、強い決意を持たなければならない!(概略以上)

なんと、これは筆者が「習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出 すのはCIA だ!」に書いたネオコン主導NEDの活動への批判と全く同じではないか・・・。

驚きだ――!

ということは、筆者が批判している「第二のCIA」NEDの実態は、トランプが批判しているバイデン政権の本質と同じだということになる。

バイデンが2009年からウクライナで画策してきたNEDの動きそのものだ。

トランプが言うところのネオコンの「腐敗」は、バイデンの息子ハンターの、ウクライナにおけるエネルギー利権などであって、ウクライナ戦争は、この個人的な「腐敗」に基づいてバイデンが仕掛けたものだ。

正義感が許さず、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』でも「習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出 すのはCIA だ!」でも、老体に鞭打ちながら命を懸けて真相を求めてきた。

まるで「遺言状」を書くような思いだった。

それが実は「トランプの怒り」と一致していたなど、今まで考えたことがなかった。

分析という作業が面白いのは、「分からないことを究明しようと追跡している内に、新しい発見にぶつかること」だ。

今回、まさか筆者の主張が「トランプの怒り」と、ここまで重なっていたとは思いもしなかった。もっとも「習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出 すのはCIA だ!」においても、トランプがネオコンでないこと、したがって戦争ビジネスを好まず「アメリカ・ファースト」により他国の干渉をしないこと、北朝鮮の金正恩と仲良くしてノーベル平和賞を貰おうとしていたこと・・・などは書いてきた。それでも本日の考察で得られた知見とは、また異なっている。まだ足りなかった。まだ足りなかったことを知るのは嬉しい。それこそが考察の喜びだ。

8月6日のコラム<中国政府転覆のためのNED(全米民主主義基金)の中国潜伏推移>の図表2で示した黒部分のへこみが、「トランプ政権時代だった」せいだとコラムで書いたのは正しかったということになる。

◆中国はウクライナ停戦をどう位置付けているか?

結果、本稿のテーマである「中国はウクライナ停戦をどう位置付けているか」だが、「プーチンが次期大統領に当選して、アメリカの大統領選でバイデンが落選するのを待つ」と、ストレートに言ってしまっていいのではないかと思っている。

8月14日には中国の李尚福国務委員兼国防部長(国防大臣)がロシアを訪問している。

バイデンはウクライナ戦争を仕掛け、停戦を許さなかったことによって、中国をロシアにより緊密になるよう近づけてしまった。対露制裁だけでなく、同時に激しい対中制裁を強化していくのだから、中国がこれまで以上に(かつてないほど)ロシアに接近するのは当然の帰結だ。

ロシアと北朝鮮は近い関係にあるし、イランとも仲が良い。

これら核を持っている国々を一つにまとめて敵に回すのだから、アメリカにとって有利なはずがない。台湾有事をNEDが創り出しても、アメリカは勝てない可能性だってある。そのときには日本人が徹底して犠牲になるのだが、アメリカにとっては第二次世界大戦同様、「知ったことではない」のかもしれない。理由は戦後のGHQ同様、あとで如何様にでも付けられる。

グローバルサウスを含めた世界人口の85%はアメリカの提唱する対露制裁に加わっておらず、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』に書いたように、中東が完全に中国とタイアップし始めた。それもNEDが巻き起こしてきたカラー革命に、中東諸国が嫌気がさしたからだ。

誰がどう見ても、アメリカに不利になる状況をバイデンは自ら創り出し、ウクライナ戦争から抜け出せなくなっている。

あとは大統領選でバイデンが敗北するのを待っているだけだ。

それが中国の現在地である。

なお、8月4日にCNNが行ったアメリカの世論調査で、55%のアメリカ国民が、バイデンが提唱するウクライナ追加支援に反対だという結果が出ている。

中露のアメリカ大統領選への「期待値」は高まるばかりにちがいない。

追記:なお、トランプ前政権にもそれなりの難点があり、筆者はドナルド・トランプ氏のすべてを肯定しているわけではない。ただ、ネオコン主導のNEDの動きに関して「ひど過ぎないか」ということを最近痛感しているため、トランプがジョー・バイデン氏のネオコンとしての本質を鋭く見抜いているので、そのことに大変驚いたのである。中国のネットがここまでトランプに期待しているのは、筆者とは無関係で、ただ単に客観的な中国ネットの事象を書いた過ぎない。バイデンを嫌い信用していないという事実をネット民の発信から読み取ることができるだけだ。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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