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中国政府転覆のためのNED(全米民主主義基金)の中国潜伏推移
習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

お約束通り、今回はNED(全米民主主義基金)が、いつ頃から中国に潜り込み、どのような形で中国政府転覆のための民主化運動を支援してきたか、その推移をご紹介する。データは全てNEDの年次報告書から得た。本邦初公開だ。

◆1985年から2021年までの中国における潜伏活動一覧表

前回(8月2日)のコラム<秦剛前外相は解任されたのに、なぜ国務委員には残っているのか?>の文末で中国におけるNED活動の全体像に関しては、折を見てご紹介するとお約束したので、その約束を守るべく、今回は全体像を眺めてみることにした。

もっとも、1983年に設立されたNEDが発表している年次報告書は、今のところ1985年から2021年までしかないので、そこから中国関係を拾いあげて地域別の対中国プロジェクト支援金の一覧表を作成した。

それを図表1としてご紹介したい。

図表1:NEDの中国における地域別支援金およびプロジェクト件数(1985-2021年)

出典:NEDの年次報告書に基づき筆者作成

出典:NEDの年次報告書に基づき筆者作成


図表1のうち、右端と最下段にある合計金額と合計件数は筆者が計算して記入したものである。その方が全体像を見ることができるので便利かと思い、合計数を示してみた。

1989年の天安門事件前である1985年から中国大陸本土の民主化運動への支援金が注がれていたのを発見したのは大きい。

NEDはそもそも世界最大の共産主義国家であった(旧)ソ連を崩壊させることが最大の目標だったから、1985年に旧ソ連に改革派のゴルバチョフがソ連共産党書記長に就くと、旧ソ連にも中国にも民主化運動のための支援金を拠出し始めた。しかし最大のターゲットは、あくまでも米ソ冷戦で何としても倒したかった旧ソ連なので、旧ソ連に力が注がれており、経済規模も軍事力も無視していいほどちっぽけな中国は、アメリカにとってはまだ如何なる脅威も与えない存在だったにちがいない。したがって対中支援の規模も小さい。天安門事件に対する影響に関して論じ始めたら膨大な文字数を必要としてくるので、ここでは省略する。

台湾は、1990年以降はNEDからの支援金はなく、むしろ台湾の方から出資して、台湾におけるNEDの活動を支え、2003年には財団法人「台湾民主基金会」を設立している。その詳細は拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の第六章に書いた。台湾とアメリカの関係は武器売却にしても民主化運動にしても、常に台湾がお金を出し、その代わりにアメリカが台湾を中共から守るという関係で動いている。

香港に関してはNEDの年次報告を見ると1991年から既に支援しており、NEDのウェブサイトにおける他の記録(会計報告)と多少異なっていて、「ブレ」が見られる。微少なブレは、他の国でも見られるが、今回の考察はあくまでも年次報告書のデータに基づいている。

チベットは早くから着目され、新疆ウイグルに関しては2005年から始まっている。

「中国全域」というのは、たとえば「ウイグルと台湾(あるいは香港)を連携させる」といった形で連動させる形態の支援を指しており、このプロジェクトは習近平政権になって以降の2016年から始まっている。

◆中国のGDP成長とNED運動の相関

中国が経済成長し、それに伴って中国の軍事力も高まるにつれて、アメリカに対する中国の脅威が増してきたわけで、その事実を確認するために、中国のGDPの推移とNEDの中国における活動規模の推移を考察することは重要だ。

そこで図表2に、「NEDの中国における活動規模と中国の経済成長との相関」を「NEDの対中国支援の合計金額」とGDPの推移を同時に描くことによって示すことを試みた。

図表2:NEDの中国における活動規模とGDPの推移

出典:NEDのデータを参照しながら筆者作成

出典:NEDのデータを参照しながら筆者作成


こうして全体の動きを見てみると一目瞭然。

中国が経済的に強大になっていくほどアメリカは中国に脅威を感じ、何とか中国政府を転覆させようという意図がうかがえる。

ただ一個所、「あれ?」と思わせる期間がある。

それはで囲んだ「2017年から2020年まで」のNEDの支援金だ。

この間だけ、赤線で示したNEDの対中支援額合計がGDPの増加に沿っておらず、むしろ減少したりしている。この期間に何があったのかを散々調べてみたが、ピッタリ「これは」と思しき事件は起きていない。

唯一、その期間はドナルド・トランプ前大統領の治世期間だったということが言える。

NEDはネオコン(新保守主義)が主導して設立されており、戦争ビジネスとも関係している。トランプはネオコンではないし、「NATOなど要らない!」と言ったほど、戦争ビジネスとも関係していない。

前掲の『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の第六章の【図表6-2 朝鮮戦争以降にアメリカが起こした戦争】に示した通り、2014年以降にアメリカが起こした戦争はない。それは2017年(大統領着任は2017年1月)にトランプ政権に移行したからではないかと推測される。ウクライナ戦争もトランプが大統領だったら、絶対に起きていなかっただろう。

◆中国各地域別に棒グラフで可視化したNEDの活動の推移

図表1のように数値があるのは正確で良いのは良いが、頭の中で一回数値を認識させてからでないと「一瞬で見て取れる」という形にはならない。

そこで数値を色別に可視化して、「なるほど」と「一瞬で見て取れる」ようにするために図表3を作成してみた。

図表3:NEDの中国各地域における活動推移(色別棒グラフ)

出典:NEDのデータに基づいて筆者作成

出典:NEDのデータに基づいて筆者作成


黄色で示したチベットに関して規模が大きくなるのは2007年からだ。2008年8月の北京オリンピック開催に当たり、同年3月にチベット騒乱が起きた。そのため聖火リレーに対する抗議運動も世界的に展開したことは、まだ記憶に新しい。

このとき一部の研究者から「チベット騒乱は西側が仕掛けた」という声が上がったが、その証拠はNEDのデータに表れていることを発見した。2007年から急激に黄色部分(チベット)の民主化運動支援金が増加している。

ピンクの新疆ウイグルに関しては、2005年から突如現れているが、これは2004年にアメリカ・ウイグル人協会(Uyghur American Association=UAA)がUyghur Human Rights Project(ウイグル人権プロジェクト)というプロジェクトを設立して、2004年からNEDの支援金を受け始めたからだ。NED年次報告の新疆ウイグル分類は2005年からしか出てこないが、UAAは2004年のプロジェクト立ち上げ段階からNEDの支援を受けている。

2020年の緑色の香港が非常に多いのは、香港国安法が2020年6月30日に実施されたことからも分かるように、香港でのあの激しい民主化デモの活動支援金をNEDが出していたからである。

あの香港におけるデモに関してNHKのニュースでは、某中国専門家に「日本の中国問題研究者の中には、香港でのデモの背後にはNEDがいるというようなことを言う人がいるのですが、私はそうは思いません」という趣旨のことを喋らせていた。「背後にはNEDがいると言っている人」とは、ほかでもない、この私だ。

NHKのニュース番組制作者にも、この某中国専門家にも、是非とも図表3における「緑」の香港パーツをじっくりとご覧いただき、現実を認識して頂きたい。NEDのこの実態を知らないと、日本自身がその中に組み込まれ、戦争に巻き込まれていくからだ。

2020年はまた、NEDのAsiaページにおいて、中国は四大重要ターゲットの一つと位置付けられている。だから2020年の対中支援額が突然増えているのである。

2021年に新疆ウイグル(ピンク)の民主化運動への支援金が突然増大しているのは、ポンペオ前国務長官が2021年1月19日に捨て台詞のようにトランプ政権最後の日に、ウイグルに関して「ジェノサイド」発言をしたことが影響しているのだろう。ポンペオはトランプと違い、ネオコン的要素を持っている。

2021年に茶色で示した「中国全域」が大きくなっているのも興味深い。2022年に起きた「白紙運動」では、「ウイグルと台湾問題」が関連付けられていた。『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』のp.243とp.263に書いたように、「白紙運動」は台湾における統一地方選挙で民進党が大敗した直後に起きている。

言うまでもなく、言論弾圧には絶対に反対である。

自由と民主は尊い。

しかし「民主」という美名の衣をまといながら「民主の輸出」を通してアメリカ的価値観の「米一極支配」を維持しようと試み、戦争ビジネスで儲けようとするアメリカに賛同することはできない。

これらの事実を直視しなければ、気が付けば日本は戦争に巻き込まれていたということになる。拙稿が、その警鐘となり得ることを願ってやまない。

本日は広島への原爆投下78周年に当たる(8月6日夜執筆)。

言論弾圧とともに、戦争にだけは絶対に反対する。それが筆者の揺るぎない立場だ。

 

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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