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台湾野党の動向: 抗議デモか? それとも公正と正義の祭典か?
蔡 英文は、中華民国の政治家、法学博士。第7代中華民国総統。
蔡 英文は、中華民国の政治家、法学博士。第7代中華民国総統。

7月16日、台湾の政局は「公正と正義で台湾を救う(Saving Taiwan with Fairness and Justice)」と題した野党合同による抗議デモという、重大な出来事を目撃するだろう。このデモ行進には、2024年の総統選挙に向けた組織動員状況を占うための重要な前哨戦という意味もある。抗議デモの発起人となったのは、「時代力量党(New Power Party、NPP)」の元立法委員、黃國昌(こう・こくしょう)と著名ネットタレントの陳之漢(ちん・しかん、通称「館長」)である。中国国民党(Chinese Nationalist Party、KMT)の侯友宜(こう・ゆうぎ)、台湾民衆党(Taiwan People’s Party、TPP)の柯文哲(か・ぶんてつ)、総統選に積極的な郭台銘(かく・たいめい)らがいずれも参加の意向を示している。各政党も支持者を動員して抗議デモに参加し、野党の総統候補のために企画されたお祭り騒ぎのような様相を呈している。

 

今回のデモ行進が掲げる目標は、2011年8月に当時の民進党主席、蔡英文(さい・えいぶん)が記者会見で行った、「今日の台湾社会における最大の分断は、独立派か統一派か、あるいは青か緑かという政党の違いではなく、国民が社会の公正と正義を実現できないことによって生じている」と強調した発言に端を発している。当時、台湾の人々は民進党に改革のチャンスを与えたが、今や再び失望している。デモ行進の主催者たちは、台湾では住宅価格の高騰と賃貸市場の不透明化によって、住まいを手に入れるという基本的権利が贅沢品に変わってしまったと指摘する。不正行為の蔓延、政治家とブラックマネーの密な関係、そして単なるお飾りと化してしまった司法によって、真の公正と正義の実現が妨げられている、というのである。

 

今回の抗議デモは、住宅価格の高騰、賃貸市場の不透明性、司法制度といった問題に関する一部国民の懸念を反映しており、支持者が一堂に会して自らの要望を表明する場を提供し、世論を集約し、これらの問題に対処するよう政府に促すための一助となっている。その一方で、抗議行動の参加者や支持者が、さまざまな社会階層や家庭環境など、多様な社会的背景を持つ人々であることは注目に値する。また、こうした多様性は、公正と正義に関する問題の普遍性とその影響力をも反映している。選挙オブザーバーとしては、野党が優位な立場を確立して与党に挑戦している、という点において、抗議デモが重要な意味合いを持っていることを強調しておきたい。政治的競争と民主主義が機能を果たすためにも、こうした要素は不可欠である。

 

柯文哲は今回のデモ行進への参加を約束し、その行動をもって、公正と正義の問題を重要視していることを表明し、改革ならびに社会問題に臨むにあたっての決意を示した。このイベントは彼の支持者の熱狂に火をつけ、台湾民衆党内での影響力強化につながるだろう。さらに、今回のデモ行進への参加は、独立した考えを持ち、伝統的な政治の枠組みにとらわれないことで知られている、柯文哲の一貫した政治イメージやスタイルにも合致するものだ。加えて、選挙戦略という点を考慮するなら、柯文哲は現在、世論調査で野党候補トップの位置をキープしている。今回のイベントへの参加は、世論調査における支持基盤の拡大につながり、とりわけ公正および正義に関心のある有権者を引きつけることで、最終的には2024年の台湾総統選挙におけるチャンスにつながるだろう。

 

郭台銘の参加もまた、その動機や真意が注目ならびに疑念の的となっている。現在、無所属である郭台銘は、大統領選のための選挙運動を積極的に展開している。今回のデモ行進への参加は、公正と正義の問題に取り組むという真摯な姿勢を示すものだ。郭台銘はそれまで、社会的ケアと慈善活動で知られていたが、今回のデモ行進への参加を通じて、公正と正義の問題に取り組む姿勢を示し、解決に向けて積極的に貢献したいという意志を有権者に示している。特に大統領候補の指名を目指すという意味においては、参加することで政治的基盤の拡大に役立つこととなるだろう。今回のデモ行進は、野党がその強さと団結力を示すための重要な機会であると考えられており、郭台銘もまた参加を通じて、より多くの支持者を集め、有権者の間での彼のイメージと競争力向上を果たすことが期待できよう。

 

抗議デモで掲げられる要求は、与党・民進党の統治に向けられている。国民党の一員である侯友宜のデモ行進参加は、与党のパフォーマンスに対する不満や批判であると世間の目には映るかもしれない。参加が本当に、公正と正義への関心を反映したものであるのか、それとも単なる政治的な振る舞いなのか、その真偽を問う向きもあるだろう。現状、世論調査において侯友宜は下馬評の最後尾にいるため、今回のデモ行進への参加は選挙前戦略の一環という可能性がある。

 

今回の抗議デモは、野党すべての支持者が一堂に会する好機と見なされている。国民党はデモ行進に参加することで、公正と正義への関心が高い有権者を引き付け、有権者基盤の拡大を目論んでいる。侯友宜の意図も、参加を通じて公平と正義に関する問題を強調し、社会問題に関心を寄せていると示すことにあるのだろう。こうした振る舞いからは、開放的でオープンマインドな指導者としてのスタイルを示し、より幅広い支持者を引きつけようという狙いも見て取れる。

 

野党が手を組んだからというだけの理由で、民進党がこの抗議デモを否定することはない。民進党はこれまで常に、正義、公正、社会進歩といった価値観を優先してきた。今回のデモ行進の焦点とされているのは、台湾社会が直面する課題を的確に言語化した、蔡英文総統による2011年の声明である。当面の優先課題となるのは、住宅価格の高騰、先行き不透明な賃貸市場、より強力で独立した司法の必要性といった問題への取り組みなどである。

 

民進党は与党として、人々の懸念に正面から向き合い、より公平で公正な社会をつくるための現実的な解決策を模索することに全力を尽くさねばならない。また、今回のデモで民進党は、真の変革と進歩を求める人々の声に耳を傾けることも目指している。そして今回のデモ行進が、支持者のさらなる団結、動員につながり、今後もすべての人に対して正義、公正、機会均等を保障する政策を推進するための機運になるものと期待している。

 

抗議デモが掲げる要求の多くは与党民進党(DPP)への反発というよりは、その統治に向けられたものである。ゆえに、抗議デモ参加者が抱える多様な動機ならびに背景に目を向けることも重要になる。抗議行動は、民進党の統治下における正義と公正に関する懸念に向き合おうとするものであるが、郭台銘を始めとする特権的な背景を持つ個人が支持を表明したことは注目に値する。抗議行動の意味するところは、野党の支持を固め、野党の主要勢力としての地位を獲得し、ひいては民進党の賴清德(らい・せいとく)党主席に対抗できるための力をつけることにある。ここには、政治の世界に働いている複雑な力学と戦略的考察が反映されている。

 

公正と正義を掲げる運動に富裕層が参加するというのは、どこか胡散臭さを感じさせなくもないが、社会的・政治的変革にはしばしば多様な背景を持つ個人の力を総動員することも必要であるという点は、認めるべきだろう。彼らの参加は、台湾社会において公正と正義への関心が広まっていることを浮き彫りにし、問題への取り組みが急務であることを際立たせる役目を果たしている。

 

矛盾や批判がつきまとっている点はさておき、抗議デモは与党の統治に対する不満を野党が表明し、支持者を結集させるための場としては機能している。野党の側には、国民の不満を汲み取り、公正と正義の問題に焦点を当てることによって、支持を集め、より多くの有権者を引きつけ、次期大統領選挙で現政権に対抗するための統一戦線を構築できれば、という思惑がある。

 

政治運動というものは複雑かつ多面的なものであり、たいていは多様な動機、利害、戦略が絡んでいることは意識しておくべきだろう。特権階級の参加は一見矛盾しているようではあるが、そもそも政治運動においては、対象となる問題について個人的な利害関係を持つ人々を含め、さまざまな背景を持つ人々が参加することも珍しくはない。デモ行進が実際にどういう影響や効果をもたらすかは、国民の反応と、提起された懸念事項に対処するため野党がその後に取る行動にかかっている。

 

今回の抗議デモは、真の変化と進歩を求める人々の声を増幅させる場としての役割を果たし、また、万人のための正義、公正、平等を確保する政策変更を推進するため、支持者を団結させ、動員する機会を提供するものとなるだろう。

 

結論、今後の展望

台湾の野党陣営が組織した抗議デモは、公正と正義に関する懸念を各党支持者らが表明するための強力な「場」となった。場の引力によって、さまざまな社会的背景を持つ人々から多様な声が集まったことで、社会改革が急務であることが浮き彫りにされた。特権的地位にある人々をも含めた著名人が参加したことは、差し迫った問題が幅広く認知されていることの証である。今回のデモ行進は、より公平な社会という共通の願望を示すだけにとどまらず、野党陣営が与党の政策に異議を唱え、意味ある変化を提唱するための重要な機会にもなった。

 

今後は、与党および野党いずれも、デモ行進において表明された真の不満に目を向け、提起された懸念に取り組むための具体的な行動に移すことを迫られる。今回の抗議デモの成否は結局のところ、その後の対応と実践によって測られることとなるだろう。与党にとっては、国民の要求に耳を傾け、社会の進歩と正義に取り組む姿勢を示すことが不可欠となる。一方で野党陣営は、今回のデモ行進で得た勢いを利用して支持を固め、政策を練り直し、将来に向けて強力な代替案を示さなくてはならない。

 

今回の抗議デモの意義は、単なるイベントの範疇を大きく超えている。台湾社会における公正と正義のあり方について考える契機を与え、また、継続的な対話と行動の必要性を浮き彫りにした。我々は国民として、より公平で公正な台湾を支援するという責任を共有している。オープンで建設的な対話に参加し、現状に異議を唱え、指導者たちにその責任を問うていくというやり方によって、我々は一致団結して公正、正義、そしてすべての人に平等な機会を提供する社会を目指すことができるだろう。

 

結局のところ、この抗議デモが後にもたらす影響は、野党陣営の団結と動員にとどまらず、国民の懸念に対処するため与野党双方が今後いかなる行動を取るかによって左右される。そこでの行動こそが、公正と正義の願望を具体的な成果につなげるものとなるだろう。今回のデモ行進を、集団の声の力を改めて知らしめ、台湾の政治的状況に前向きな変化をもたらす端緒としたいものである。

陳建甫博士、淡江大学中国大陸研究所所長(2020年~)(副教授)、新南向及び一帯一路研究センター所長(2018年~)。 研究テーマは、中国の一帯一路インフラ建設、中国のシャープパワー、中国社会問題、ASEAN諸国・南アジア研究、新南向政策、アジア選挙・議会研究など。オハイオ州立大学で博士号を取得し、2006年から2008年まで淡江大学未来学研究所所長を務めた。 台湾アジア自由選挙観測協会(TANFREL)の創設者及び名誉会長であり、2010年フィリピン(ANFREL)、2011年タイ(ANFREL)、2012年モンゴル(Women for Social Progress WSP)、2013年マレーシア(Bersih)、2013年カンボジア(COMFREL)、2013年ネパール(ANFREL)、2015年スリランカ、2016年香港、2017年東ティモール、2018年マレーシア(TANFREL)、2019年インドネシア(TANFREL)、2019年フィリピン(TANFREL)など数多くのアジア諸国の選挙観測任務に参加した。 台湾の市民社会問題に積極的に関与し、公民監督国会連盟の常務理事(2007年~2012年)、議会のインターネットビデオ中継チャネルを提唱するグループ(VOD)の招集者(2012年~)、台湾平和草の根連合の理事長(2008年~2013年)、台湾世代教育基金会の理事(2014年~2019年)などを歴任した。現在は、台湾民主化基金会理事(2018年~)、台湾2050教育基金会理事(2020年~)、台湾中国一帯一路研究会理事長(2020年~)、『淡江国際・地域研究季刊』共同発行人などを務めている。 // Chien-Fu Chen(陳建甫) is an associate professor, currently serves as the Chair, Graduate Institute of China Studies, Tamkang University, TAIWAN (2020-). Dr. Chen has worked the Director, the Center of New Southbound Policy and Belt Road Initiative (NSPBRI) since 2018. Dr. Chen focuses on China’s RRI infrastructure construction, sharp power, and social problems, Indo-Pacific strategies, and Asian election and parliamentary studies. Prior to that, Dr. Chen served as the Chair, Graduate Institute of Future Studies, Tamkang University (2006-2008) and earned the Ph.D. from the Ohio State University, USA. Parallel to his academic works, Dr. Chen has been actively involved in many civil society organizations and activities. He has been as the co-founder, president, Honorary president, Taiwan Asian Network for Free Elections(TANFREL) and attended many elections observation mission in Asia countries, including Philippine (2010), Thailand (2011), Mongolian (2012), Malaysia (2013 and 2018), Cambodian (2013), Nepal (2013), Sri Lanka (2015), Hong Kong (2016), Timor-Leste (2017), Indonesia (2019) and Philippine (2019). Prior to election mission, Dr. Chen served as the Standing Director of the Citizen Congress Watch (2007-2012) and the President of Taiwan Grassroots Alliance for Peace (2008-2013) and Taiwan Next Generation Educational Foundation (2014-2019). Dr. Chen works for the co-founders, president of China Belt Road Studies Association(CBRSA) and co-publisher Tamkang Journal of International and Regional Studies Quarterly (Chinese Journal). He also serves as the trustee board of Taiwan Foundation for Democracy(TFD) and Taiwan 2050 Educational Foundation.