訪中したマクロン大統領と北京で会談した習近平国家主席は終始上機嫌で、広州に行ったマクロンを追って広州へ。マクロンはウクライナ戦争「和平案」にも賛同した。驚くべきことに、共同声明には中仏軍事協力がある。
◆マクロン、習近平「和平案」に賛同――バイデンからも頼まれ
4月5日から7日の日程で、フランスのマクロン大統領は国賓として訪中し、閲兵式や公式会談、晩餐会など、習近平国家主席から盛大な歓迎を受けた。習近平は滅多に記者会見などには顔を出さないのだが、マクロンとの会談後、共同で記者会見にも臨んだのだから、尋常ではないサービスぶりだ。
マクロンは、5日に北京に着くなり、駐中国フランス大使館で在中のフランス人に向けて講演をしている。講演でマクロンは、「習近平が提案しているウクライナ戦争に関する政治的・外交的解決案である和平案を歓迎する。フランスは和平案の内容全体に同意するわけではないが、和平案は紛争の解決に寄与する」という趣旨のことを述べた。
実は、マクロンは訪中に先立ち、アメリカのバイデン大統領と電話会談し、「ウクライナでの戦争終結加速に向けて中国の関与を求める立場で一致した」とフランス大統領府は発表している。
何のことはない、バイデンは習近平の「和平案」によってウクライナ戦争が停戦に向かうのを阻止しながら、結局のところ、国内世論や次期大統領選のことなどに翻弄され、そろそろウクライナのゼレンスキー大統領に引導を渡そうとしているのだ。あれだけウクライナが完全勝利を収めるまでウクライナを支援し続けるとくり返し表明した手前、自分からはゼレンスキーに「そろそろ矛(ほこ)を収めては?」とも言えず、マクロンに本音を託したといったところか。
バイデンの言質を取ったマクロンは、もう怖いものなし。
習近平と公式会談をする前の4月6日(中国時間)午後3時22分に以下のようなツイートを中国語と英語とフランス語で公開している。
曰く:私は、中国が平和の構築に重要な役割を果たしていると確信しています。これは正に、私がこれから議論し推進しようとしているものです(後半省略)。
3ヵ国語のツイッターをまとめると以下のようになる。
◆終始上機嫌だった習近平 マクロンとの公式会談
4月6日午後3時45分から、習近平とマクロンは公式会談を行った。リンク先の一番下の方にも動画があるが、習近平の口調に驚く。
おや?と思うほど、言葉遣いがフランクで親しみ深げなのだ。
たとえば「そこで、われわれは」というべきところ、「そこでね、われわれとしてはですね…」というニュアンスを与える漢字1文字を、あちこちで語尾に入れているのである。何ともリラックスしている。
マクロンの方はと言えば、いかにも「あなたを尊敬しています」と言わんばかりに、習近平の言葉を一言も聞き逃すまいと、背筋を伸ばして真っ直ぐ習近平の顔を凝視しているのだ。台湾問題などおくびにも出さす、「中国と関係を断つなど、バカげている」と暗にアメリカのデカップリングを批判し、かつ習近平の唱える「和平論」を褒めちぎった。
習近平もフランスを絶賛し、中国とフランスあるいは欧州で、習近平が力説するところの「多極化」を進めていこうとラブコールを送っている。3月25日のコラム<中露首脳会談で頻出した「多極化」は「中露+グローバルサウス」新秩序形成のシグナル>に書いた世界新秩序を形成する「一極」を、フランスを通して、何なら欧州にも担ってもらおうかという意味だ。
マクロンも積極的で、本コラム冒頭の写真にある通り、マクロンの方から習近平の腕に手を伸ばすほど、アツアツだ。
習近平と欧州委員会のフォンデアライエン委員長との距離感は、この写真が如実に表している。彼女は親米で対中強硬派のため、中国から国賓として招待を受けたわけではなく、あくまでもマクロンが、自分が「親中だ」と批判されないために、「どうか同行してくれ」と頭を下げたために、仕方なく訪中した形だ。マクロンは2019年11月に訪中した際にも、当時の欧州委員会の農業・農村開発担当(2019年12月からは通商担当)委員フィル・ホーガン(Phil Hogan)に同行してもらっている。
というのも、欧州諸国の中には中国に批判的な国もあるため、マクロン単独で行くと「お前は親中だ」として批判される可能性があるので、それを回避するためであろう。
ただ、注目すべきは二人とも、習近平が「タイミングと条件が合えば、ゼレンスキー大統領と会談してもいい」と言ったと認めている点だ。
この「条件」というのは、ゼレンスキーが習近平の「和平案」をどこまで飲むかということもあろうが、3月30日のコラム<岸田首相訪ウで頓挫した習近平・ゼレンスキーのビデオ会談と習近平の巻き返し>で書いたように、日ウ共同声明で、岸田首相がアメリカの要求を受けゼレンスキーに対中批判を盛り込ませたことをも指していると思われる。
◆広州に行ったマクロンのあとを追って習近平も広州へ
4月7日、マクロンは広州に行ったが、その理由はただ一つ。フランス企業の多くが広東省にあるからだ。
かつての植民地時代、フランスはベトナムを占領していたが、フランスは上海や天津などに加えて、1861年からベトナムの近くにある海岸沿いの広東省に租界地を作っている。特に、1899年11月16日に清王朝に99年間の租借権で広州湾租界条約を締結させた。日中戦争時代には日本が広州湾を占領し、日本投降後は中華民国に返還された。
その意味でフランスと広東省はつながりが深いのだが、約40年前の1984年、フランス最大の電力会社であるEDF(エレクトリシテ・ド・フランス)は広東省と協力して大亜湾原子力発電所を含む多くのプロジェクトを開発。今般のマクロン訪中には、そのEDFをはじめ、アルストム、ヴェオリア、航空宇宙大手エアバスの代表者を含む50人以上の大手企業家が同行していた。
習近平政権になったあとの2015年から2022年までの間、広州に本社を置く中国南方航空を中心として中国はエアバスから合計340機以上の航空機を購入(一部購入契約)している。今般も中仏間で20以上の商業契約を結び、たとえば中国はエアバスに160機の航空機(約2.6兆円)を発注し、天津では二本目の製造ラインを設立することを約束。フランスの海運会社CMA CGM社には中国船舶グループ(CSSC)が16隻のコンテナ船(約4000億円)を発注した。
一方、広東省とフランスは、孫文を介して文化・教育などにおいて深い関わりを持ち、1920年、北京大学や広東高等師範学校(中山大学の前身)が協力して、フランスのリヨンに中仏大学を設立したことがある。
また、拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』に書いたように、1918年4月、毛沢東は湖南省・長沙で「新民学会」を組織し、フランスへの勤工倹学(きんこうけんがく)(働きながら学ぶ)運動を起こして、進歩的知識分子(のちに中国共産党員)を数多くフランスに留学させた。
そのような経緯から、マクロンは広州に行き、中山大学に立ち寄ったのだが、中山大学では、「フランスではこんな歓迎を受けることはないだろう」というほど熱烈な歓迎を受け、中国のネットのウェイボー(weibo、微博)に上がった動画 には「フランスでは彼の行くところ全て抗議デモばかりだが…」などと、いたずら書きがしてある。フランスでは不況でデモばかり起きていることを指している。
注目すべきは、広州には習近平の父・習仲勲がいたことだ。
詳しくは拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』に、簡潔には『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』に書いたように、習仲勲は1962年に鄧小平の陰謀により16年間も牢獄生活を強いられたあと1978年に政治復帰して、最初に赴任した先が広東省だ。省の書記を務めていたので、広州に住居があった。したがって習近平は、北京で熱烈にマクロンをもてなした後、さらにマクロンを追って広州まで行き、晩餐会を共にしたのである。習近平の広州への思い入れは尋常ではない。
習近平とマクロンの非公式会談では、互いにノーネクタイで気さくに散策する姿も数多く報道されている。その中の一枚を以下に示す。
◆共同声明の中に中仏軍事協力
4月7日に発布された「中華人民共和国とフランス共和国の共同声明」は51項目もあり多岐にわたっているが、注目すべきは、「4」に、「太平洋海域における中国人民解放軍南方戦区とフランス軍との対話交流を深め、国際と地域の安全保障問題について相互理解を深めていくことで一致した」とあることだ。
フランス軍太平洋管区には、フランス領ニューカレドニアやポリネシアが含まれており、中国が狙う太平洋諸島への進出にも大きく関わってくることだろう。
その背景にはオーストラリアがフランスから購入することになっていた原子力潜水艦の契約を反故にし、イギリスに鞍替えして、アメリカが主導する米英豪AUKUS(オーカス)結成により、未だに「アングロサクソン系ファイブアイズの塊」で動こうとすることに対するフランスの意地が透けて見える。
もともとフランスはNATOからやや距離を取っており、1966年にNATOを脱退して、2009年NATOに復帰した経緯がある。
また昨年12月アメリカ訪問時にマクロンは、アメリカのインフレ抑制法や国内半導体業界支援法は<米国経済に非常に有利だが、欧州諸国との適切な協調はなかった>として「アメリカの公平な競争の欠如」を批判している。
習近平にとっては、今般のマクロン訪中は、アメリカ一極支配による対中包囲網を崩すきっかけにもなると狙っているにちがいない。
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