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防衛費削減のための中国「軍民融合」に貢献する日本――中国宇宙戦略巨大組織図
中国の有人宇宙船打ち上げ(写真:ロイター/アフロ)
中国の有人宇宙船打ち上げ(写真:ロイター/アフロ)

習近平は軍事・宇宙戦略を遂行するため軍民融合を導入した。本稿ではアメリカを抜く宇宙力を支える巨大な宇宙戦略組織図を披露し(本邦初公開)、その軸を成す軍民融合に貢献している日本の実態に警鐘を鳴らしたい。

◆アメリカを凌駕する中国の宇宙ステーションと宇宙開発

かねてより、アメリカが主導する国際宇宙ステーションに加入させてもらえなかった中国は、独自に中国の宇宙ステーションを開発し、昨年末から有人飛行で稼働している。

アメリカが主導する国際宇宙ステーションの有人飛行の部分に関しては、これまでロシアが担っていたが、ウクライナ戦争によるアメリカからの制裁を受け、ロシアは国際宇宙ステーションから抜けて中国宇宙ステーションに乗り移ることになった。

中国の宇宙ステーションにはロシア以外にも20か国近くが協力しているので、宇宙ステーションに関しては中国がアメリカをリードすることになる。

どの国が、どのような形で協力しているかに関しては、拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の【第四章 決戦場は宇宙に――中国宇宙ステーション稼働】のp.161に掲載した【図表4-1 中国宇宙ステーションと協力関係を結んでいる国・研究機関・領域など】で詳述した。

宇宙においては、そうでなくとも中国がアメリカをリードしている。

たとえば月の裏側への着地だ。

月は公転と自転の周期が一致しているため、地球からは常に月の一つの側面しか見えていない。それを「月の表側」と称すれば、「月の裏側」は地球からは永久に見えないのである。ということは地球からシグナルを発信してコントロールすることができないので、中国は月の近くにあるラグランジュ点に中継通信衛星を打ち当てた。

ラグランジュ点というのは、理論物理の多体問題において、いかなる力も働かない点のことで、ラグランジュ点に打ち当てることができれば、地球からラグランジュ点に「固定」されている中継通信衛星にシグナルを送り、そのシグナルを反射させて月の裏側に送ることができるので、地球からは絶対に見えない月の裏側を地球上からコントロールすることができる。このことに成功したのは中国だけで、アメリカの科学者はアメリカにも使わせてくれと中国に頼んだほどだ。

つぎに中国がアメリカよりも先んじているのは量子通信衛星である。

量子通信に関して中国は早くから着手し、1970生まれの潘建偉は1996年に26歳でオーストラリアに留学し、宇宙航空科学における最高峰であるツァイリンガー教授に師事した。ツァイリンガー教授は2022年、ノーベル物理学賞を受賞した、量子通信領域の最高権威だ。

中国は2016年8月に世界に先駆けて量子通信衛星「墨子号」の打ち上げに成功している。その意味で中国は量子暗号においてアメリカをリードしているのである。

中国の量子暗号技術と量子衛星通信に関しては『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』のp.150~154で詳述した。

◆防衛費削減のための習近平の「軍民融合」戦略と巨大な宇宙戦略組織図

こういったことを可能ならしめたのも、習近平が「軍民融合」国家戦略を走らせているからだ。習近平は政権が誕生した2013年から本格的にハイテク国家戦略「中国製造2025」に着手し、その中で「軍事力増強と経済発展の両立を図る」重要戦略である「軍民融合」を推進するように指示した。

中国の防衛費はGDPの1.7%を占めているが、14億の人民の生活を支えていくには、軍事のためにのみ、それ以上の国家予算を割くわけにはいかない。

そこで思いついたのだ「軍民融合」だ。

民間企業を軍事産業に参入させれば、民間企業が儲かり、民間企業で働く一般庶民の収入が増える。一般庶民の生活が向上すれば中国共産党による一党支配体制を支持するようになる。その結果、中国の軍事力が強化されるようになるのだから、習近平としては最も力を入れている戦略といっても過言ではないだろう。

一挙両得どころではなく、三得、四得にもつながる。

以下に示すのは、宇宙開発における国家戦略の組織図である。

これは本邦初公開だ。

図表:中国の軍民融合と宇宙開発の組織図

出典:『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』p.176-177

組織図の軸になっているのが「軍民融合」であることは一目瞭然だろう。

◆中国の「軍民融合」に貢献する日本と日本学術会議

さらにその「軍民融合」の中心にあるのが「中国科学技術協会」である。

中国科学技術協会というと、何を思い出されるだろうか?

そう、日本のあの「日本学術会議」だ。

2015年9月、日本学術会議は中国科学技術協会と提携を結んでいる。

一方、同じく2015年、日本の防衛省・防衛装備庁は、日本の防衛にも応用可能な先進的な民生技術を積極的に活用することが重要であると考え、日本の大学や研究機関あるいは中小企業などに研究費を供与する公募制度「安全保障技術研究推進制度」を立ち上げた。

すると日本学術会議は、日本の大学や研究所あるいは民間企業が防衛装備を生産する事業に関わるのは、「軍事目的のための科学研究を行わない」という日本学術会議の趣旨に反するとして、2017年3月に反対声明を発表した

図表をご覧になると明瞭な通り、中国科学技術協会はチャイナ・セブンの真下にある「中共中央書記処」の管轄下にある。しかも軍民融合を、中国にある全ての大学や研究機関あるいは民間企業に呼び掛けるための中心的な存在だ。

ここに示したのは宇宙開発に関してだが、主たる仕事は軍事装備の製造だ

中国の軍民融合には協力して、日本の軍民融合には反対声明まで出す日本学術会議の在り方は、きちんと糺(ただ)すべきだろう。この問題を風化させてはならない。

日本はいま、防衛費をどこから捻出するかに関して議論が始まろうとしている。

中国の軍民融合の下、中国のほとんどの民間企業も何らかの形で中国軍の防衛装備品製造に関わっている。

日本は安保三文書を閣議決定し、主として中国の脅威を意識して防衛費の増額を唱えながら、実は中国の防衛装備を強化していくことに大きく貢献していることを知っているのだろうか?

日本の最大貿易相手国は中国だ。

多くの大学や研究機関も中国の大学や研究機関と提携している。

そこで何が行われているのか、日本政府は目を覚まして分析していくべきだと提言したい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(2022年12月中旬発売。PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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