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感染爆発、中国は世界を巻き込むな
世界各国に向かう中国からの出国者(写真:ロイター/アフロ)
世界各国に向かう中国からの出国者(写真:ロイター/アフロ)

コロナ感染者数が9億とされている中国大陸の人の出国を中国政府は解禁したが、それは3年前の春節における武漢でのコロナ発生時の過ちをくり返すことにならないか。人類は3年間も耐えてきた。中国には責任がある。

◆中国国内で感染が落ち着く3月過ぎまで出国させるべきではない

1月8日から実行されることになった<新型コロナウイルス感染症“乙類乙管”実施方案>の【三、主要措置】の(十二)に書いてあるように、中国当局は「1月8日を以て、国際的のコロナ感染の形勢と各方面のサービス保証能力に基づき、中国公民が出国して旅行することを認める」ことになった。

しかし、その時点でも中国国民の35%~80%はコロナに感染していると計算する学者がいたわけだし、今では9億人(約65%)が感染しているという試算さえある。また、コロナ感染関連の専門家は何度も、全国的なコロナ感染は春節休暇期間(1月21日~2月5日)前後にピークを迎えるだろうと予測し、「3月に入ってから落ち着きを見せるだろう」という予見を発信してきた。

中国政府もそれを否定せず、半ば、それは政府見解のような形で動いてきた。

だというのに、今から感染のピークに差し掛かるという春節前の1月8日に、中国大陸内にいる中国公民を世界に向けて開放してしますのは、無責任ではないのか。

中国大陸という国境内で、中国政府がどのようなコロナ政策を実施しているかに関しては、中国大陸の事情もあり、それは一定程度その国の自由だ。

これまでコラムで数多く書いてきたように、中国は武漢のコロナ発生以来ゼロコロナ政策を実施しながら、少なくとも2021年1月からは規制緩和策を打ち出してきた。しかし、それは中国の中央政府と地方政府との関係により、末端の現場では実施されて来なかった。実施しないのなら逮捕するぞと中央が脅しをかけた頃には、すでに中国全土のコロナウイルスは感染力が強いオミクロン株系列のBF.7の類に変わってしまっており、もはや緩和したとしてゼロコロナでは防げない状況に至っていた。

そこで2022年12月26日に、1月8日から実施する「乙類乙管」方案へと移行していったのだ。検査をしても追いつかないし経費も高額になるので、PCR検査も廃止した。

こうして感染爆発を起こし、集団免疫を付けさせてしまう以外に方法はなくなったのである。

それは中国の事情で、仕方のない結果だとは思う。

これはある意味での「大地における壮大な実験」であり、その実験結果が出るまでは大陸の者を海外に出してはならないと思うのである。

3月に入り、本当に感染が落ち着くならば、その落ち着いた状況で、ウイルスの種類なども検査し、これなら大丈夫となってからなら、まだ出国を許してもいいかもしれないが、今は出国させるべきではない。

「大地における壮大な実験」に世界を巻き込むなと言いたいのだ。 

◆中国からの入国者に対する水際対策の各国比較

中国の「第一財経」が「2023年1月9日21時までの各国の措置」としてまとめた図表が中国のネットを賑わしている。微妙に実態と異なる表現もなくはないが、それを忠実に日本語に翻訳したものを作成したので、以下に記す。

第一財経が作成した図表を筆者が翻訳して作成

このように、赤で示した国以外は、「制限なし」か「特殊制限」あるいは「証明書の提出」程度で、割合に水際対策が緩い。

その違いは決して「政治的な友好関係の度合い」を反映しているのではなく、主として「中国人観光客が来ないと経済が成り立たない」という側面の方が強いだろう。あるいは、自国も似たり寄ったりの情況で大差ないという国もあるかもしれない。

結果、受け入れた見返りに中国の「感染爆発」も引き受けるわけで、「大地における壮大な実験」に参加することになるのである。

◆中国のコロナ対策は「科学的」なのか?

中国の外交部報道官は、日本や韓国が水際対策を厳しくしていることに対して「科学的でなく、コロナ感染問題を政治化している」と強い口調で非難したが、中国は「大地における壮大な実験」に際して世界を巻き込んでいることを、「科学的だ」と思っているのだろうか?

ちょうど3年前の春節のときに、武漢で起きたコロナに関して、中国は春節前に大量の感染者を中国全土に、そして世界各国に移動させてしまった。そのことに強い憤りを覚え、数多くのコラムを日夜書き続けたものだ。

たとえば2020年1月24日の<新型コロナウイルス肺炎、習近平の指示はなぜ遅れたのか?>や、2020年1月27日の<「空白の8時間」は何を意味するのか?――習近平の保身が招くパンデミック>あるいは2020年1月29日の<一党支配揺るがすか? 「武漢市長の会見」に中国庶民の怒り沸騰>などである。

3年間で世界各国は、それぞれの方法で免疫を付けたり、一定程度のコロナ防疫制御にそれなりの成功を収めても来ている。

しかし、ワクチンによる免疫取得が少なく、感染爆発している中国大陸から多くの旅行客を迎える各国で、今後、どのような新しい事態が生じないとも限らない。現に上海ではBF.7よりもさらに感染力の強い、アメリカで流行しているXBB.1.5感染者が発見され、中国では緊急体制を取っているという。

「大地における壮大な実験」は中国国境内で行ってほしい。その実験に人類全体を巻き込むべきではない。

3年間、人類は、どれだけ耐え難い苦難に耐え、親しい人たちを失ってきたかしれない。その苦しみと哀しみを軽視すべきではない。「科学的姿勢」は「人類への愛」に満ちていなければならないはずだ。そうでなかったとしたら、人は何のために生きているのか…。

それを振り出しに戻すな。

なお、今年1月12日のコラム<中国、ビザ発給停止の背後にある本音>や、1月13日のコラム<中国、韓国に対するビザ発給停止の舞台裏>で、中国の国際ニュースは「日本と韓国」に集中していると書いたが、案の定、岸田首相が日本に帰国すると、突然のように元に戻った。

本日(1月15日)の国際ニュースの冒頭は、従来通り、ウクライナがトップに来て、次にアメリカ、スペイン、ハンガリー、イギリスの順番になった。日本と韓国は、話題にさえのぼっていない。中国がいかに政治的目的でビザ発給の一時的停止を行ったかが明瞭に見えてくる。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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