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中国、韓国に対するビザ発給停止の舞台裏
相手の目を見ない握手 出典:環球時報
相手の目を見ない握手 出典:環球時報

中国は日本に対してだけでなく韓国に対してもビザ発給を停止したが、その背景には何があるのかを、中国共産党系メディアを通して読み解く。アメリカのお荷物になりながら先走りする韓国の尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領の動きが目立つ。

◆韓国に対してもビザ発給を停止した中国

日本へのビザ発給停止に関しては1月12日のコラム<中国、ビザ発給停止の背後にある本音>で考察したが、中国は同時に韓国に対してもビザ発給停止を通告していた。日本に対するのと同じように、中国からの旅行者に対して厳しい入国検査をしていることに対する対抗措置だとしている。

特に韓国に関しては中国からの入国者に対して、空港で黄色の標識を掛けさせられることを屈辱的として、「まるで犯人扱いをしている」といった不満が中国のネットに溢れた。そのため1月10日の環球時報(中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版)の英語版Global Timesで<South Korea should give a rational explanation for Chinese travelers’ revelation(韓国は中国人旅行者の摘発について合理的な説明をすべきだ)>という社説を掲載したほどだ。

しかし日本の場合と同じく、韓国をターゲットとした背景には、韓国に対する安全保障上の不満が渦巻いている。

◆韓国が積極的にTHAADミサイルを完備することを批判

まず挙げられるのは、韓国がアメリカの迎撃ミサイルTHAAD(終末高高度防衛ミサイル、Terminal High Altitude Area Defense missile=THAAD=サード)配備を完成させることに対する警告だ。

事実、ビザ発給停止を告知した1月10日、環球時報は<韓国メディア:韓国国防部は早ければ3月にも韓国での「THAAD」の公式配備に必要な手続きを完了する>というタイトルの社評を掲載した。概要は以下の通りだ。

  1. 韓国の聯合通信、10日報道によると、韓国にある米軍のミサイル迎撃基地THAADについて、韓国国防部が関連手続きを早ければ3月中に完了する見通しと表明。国防部報道官が定例記者会見で述べた。
  2. 報道によると、尹錫悦(ユン・ソギョル)政権は発足当初から、THAAD基地を正常化し、環境影響評価、二次的な土地供給、人員や設備の輸送を加速すると表明していた。 昨年9月、韓国外交部の関係者と在韓米軍の司令官で構成される在韓米軍地位協定(SOFA)は、土地供給文書に署名した。韓国側はTHAAD基地用にさらに40万平方メートルの土地を米国側に提供した。
  3. THAADシステムに関して、韓国の文在寅前政権は2017年に「三不一限」を宣誓していた。すなわち「韓国政府はアメリカの対ミサイルシステムに加入しない」、「日米韓安全保障協力は決して日米韓三国軍事同盟に発展しない」、「韓国政府はTHAADシステムの追加配備を検討しない」という「三つの不」と、「既存のTHAADシステムの使用を制限し、中国の戦略的安全保障に害を及ぼさない」という制限を誓っていたのだ。
  4. この問題に関して、中国外交部はかつて、「アメリカによる韓国への THAAD 配備に中国が反対するのは、決して韓国に対して向けられたものではなく、中国の戦略的安全保障を弱体化させようとするアメリカの悪意のある試みに向けられたものである」と述べたことがある。 新しい政権(尹錫悦政権)は、その前の政権の中国に対する約束を無視するということはできない。近隣諸国の安全保障に関わる重要かつデリケートな問題については、韓国は引き続き慎重に行動し、根本的な解決策を模索する必要がある(報道引用ここまで)。

つまり中国が言いたいのは、「これまでは韓国は受け身だったので韓国を責めずに、韓国を利用して中国包囲を狙うアメリカを責めていたが、しかし今はむしろ韓国の方が積極的にアメリカの軍事力を取り入れようとしているので、批判のターゲットは自ずと韓国になる」ということだ。

◆韓国が積極的にアメリカと核共有を切望

その証拠に、環球時報はビザ発給を停止した同じ日の1月10日に<(韓国が望む)核兵器共有を否定する米国の姿勢が興味をそそる>というタイトルの評論を掲載している。それによれば、「最近、韓国の尹錫悦政権はアメリカと核演習を行なうことを検討しており、かつアメリカと核共有することを模索している」と表明したが、アメリカ側は「そのような事実は全くない」と、断固として否定しているとのこと。環球時報は、「これは実に興味をそそる話ではないか」と評している。

つまりアメリカよりも韓国の方が積極的にアメリカに軍事的ににじり寄っているのだと批判しているわけだ。

1月9日の中央テレビ局CCTVも、<アメリカと韓国が「核演習」問題で意見が食い違うのはなぜか?>という討論番組を報道しており、韓国の尹錫悦大統領が自らアメリカとの軍事関係を緊密化させようと、先走りしているという批判が専ら多い。

また1月12日の環球時報は<尹錫悦が北朝鮮との緊張が高まったら、韓国は核兵器使用を検討していると宣言した>と報道している。それによれば、ロシア・トゥデイとニューヨークタイムズが、「韓国の尹錫悦大統領が11日、北朝鮮との緊張が高まり続けた場合、韓国は戦術核兵器で武装するか、朝鮮半島に核兵器を再配備するようアメリカに要請する可能性があると初めて述べた」と報道した。尹錫悦はまた「私たちの科学と技術により、韓国はすぐにでも核兵器を持つことができる」と語ったという。環球時報は続ける:

――最近、韓国政府が核兵器について言及したのはこれが初めてではない。 韓国の尹錫悦大統領は最近、北朝鮮の核兵器とミサイルの脅威に対応して、韓国とアメリカが「アメリカの核戦争プログラムを使用するための共同計画と共同演習」について話し合っていると述べた。 しかし、年末年始の休暇からホワイトハウスに戻ったバイデン大統領は、記者団から、この計画について尋ねられた際、「ノー!」と答えている。これに対し、韓国の大統領府は3日、バイデン氏の否定は記者団の不適切な質問によるものだと主張した。(環球時報の報道はここまで)

つまり、ここでもまた、韓国の尹錫悦がひとり先走りして、韓国の方が積極的にアメリカとの軍事協力を進めようとしていることに対する中国の苛立ちが目立つ。

◆中国の国際ニュースは日本と韓国の軍事的言動に集中

これまで中国の国際ニュースはウクライナ戦争とアメリカに関する報道が多かったが、最近では、「世界には日本と韓国という国しかないのか」と言いたくなるほど、日本と韓国の安保体制や軍事関係に関するニュースによって占められている。日本と韓国の安保・軍事関係ニュースが終わるとワシントンのニュースになり、それからウクライナ問題が出てくるという順番になってしまったと言っても過言ではない。

だからこそ、ビザ発給停止の対象国が、なぜ日本と韓国になったのかに関して、「それは政治的問題であって入国検査の問題ではない」と判断できるのである。もちろん今後他の国にも発給停止が及んでいくかもしれないが、「なぜ日本と韓国だけが?」という疑問に関しては、中国の国際政治的視点を無視して分析することはできないということだ。入国審査の厳格化は、むしろ逆に口実に使われているとさえ言ってもいいほどである。

中国こそ「科学的でなく、政治利用している」と言っていいだろう。

◆日韓両国とも首脳の支持率低下と関係

それも、偶然というか、日本も韓国も首脳の支持率が極端に低下している。

だから両国とも自分の支持率アップのために必死で積極的にアメリカに接近し、「アメリカを超えて軍事的に急進的言動に走ろうとしている」という特徴があると、中国はみなしている。

1月12日のコラム<中国、ビザ発給停止の背後にある本音>で岸田首相が必死で支持率を上げようとしていると中国が報道しているとして以下の写真を張り付けた。

1月10日のCCTV報道から

同様に今回は、昨年環球時報が<支持率が低下し、アメリカの負担になっている尹錫悦>というタイトルで載せた尹錫悦の写真をご覧に入れよう。

出典:環球時報

環球時報はフィギュア・キャプションに「相手の目を見ることなく握手するバイデンに遭遇した尹錫悦」という趣旨のことを書いてある。アメリカには重荷だが、韓国の大統領の方から独り歩きして「アメリカと緊密気分」になり、それを装っているということを皮肉ったもので、この写真は、今般の韓国へのバッシングと共に、中国のネットで再燃している。

このことから、ビザ発給を停止は、中国人に対する入国審査の厳格化とはあまり関係ないところで動いていることが理解できよう。

中国では「ついでに」、民主主義国家の選挙に関して、自分が当選したいために極端に右傾化したことを国民に見せることによって受けを狙っていると批判している。そのために戦争が起きるのは、人類の悲劇だというネットのコメントが多い。

以上は、あくまでも中国における真相を紹介したまでだ。上述した:

中国こそ「科学的でなく、政治利用している」と言っていいだろう。

以外は、筆者本人の主張と無関係であることを最後に付言したい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(2022年12月中旬発売。PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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