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欧州、習近平への朝貢外交が始まった
APEC2022における習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
APEC2022における習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

11月4日のドイツ・ショルツ首相の訪中を筆者は「欧州対中戦略の分岐点」と位置付けたが、事実、12月1日にはミシェルEU大統領が訪中し、年明けにはフランス・マクロン大統領の訪中も予定されている。

◆ドイツのショルツ首相の訪中は欧州の分岐点

11月4日、G20(11月15、16日。インドネシア・バリ島)を前にして、ドイツのショルツ首相はフォルクスワーゲン(VW)やシーメンスなど大企業12社のトップを率いて習近平に会いにいった。

「欧州の分岐点」にも等しい大きな出来事だった。ショルツは人民大会堂で習近平や李克強とも会談し、「中独間のディカップリングをしないこと」や「ロシアの核兵器使用を認めないこと」などで合意している。

メルケル政権時代からロシアとの経済連携を深め、ノルド・ストリーム2を通したロシアからの天然ガス輸入に国運を懸けてきたドイツは、アメリカに急かされて強行せざるを得なかった対露経済制裁に悲鳴を上げている。ドイツ国内には訪中反対派もいたが、それでももう中国に頼らざるを得ないほどドイツ経済は衰退へと向かっている。

喜んだのは習近平だ。

中国航空機材集団公司とエアバスが、「132機のA320シリーズ機、8機のA350型機を含む140機のエアバス航空機の一括調達契約を北京で締結し、総額約170億ドル相当の航空機を発注した」とい大判振る舞いをしただけでなく、ドイツ企業代表団はショルツ帰国後も中国に残って大型の商談をつぎつぎと進めた。

ショルツにすれば「やれやれ、これでようやくドイツ経済も息を吹き返せそうだ」といったところだろうか。

習近平はショルツとの会談で、何度も「中欧関係」の重要性を解き、ドイツを介して念願の「中欧投資協定」を締結しようと、まだ諦めていない。

浙江省義烏市を出発点としてドイツのデュースブルクを終点とする経済貿易のための中欧列車「義新欧」(「新」は新疆ウイグル自治区の「新」)の貿易額は年平均64.7%増の勢いで成長し続けていることも、中独貿易を象徴するものとして高く評価されている。

欧州、ひいては世界の動向にとって分岐点となるのは、ショルツ訪中の陰にノルド・ストリーム2の海底爆発がちらついていることだ。バイデンは欧州諸国にロシアの天然ガスではなくアメリカの天然ガスを購入させるためにウクライナ戦争を煽ったという目的があった。だから、ノルド・ストリームを諦めきれないドイツには業を煮やしていた。そこで海底のパイプラインを爆破したのだろうか。

爆破した犯人に関しては「アメリカだ」という見方が世界的に多いが、一部には「イギリス」という指摘もあり、イギリスに大きなメリットがあるとは思えないので、やはり「アメリカだろう」という指摘が大勢を占めている(現在調査中)。

いずれにせよ、ノルド・ストリーム2のパイプライン爆破が、ドイツを中国に近づけることに作用したとなれば、結局のところ、やはり「ウクライナ戦争によって笑うのは習近平」になってしまう。

というのも、ドイツが中国に舵を切ったということは、習近平念願の「中欧投資協定」が復活するかもしれない可能性を高めるからだ。

周辺事情は12月中旬に出版する『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』に書いたが、ショルツ首相は11月14日にシンガポールを公式訪問し、リ・シェンロン首相と会談したあとの共同記者会見で「中国とのディカップリングはやめるべきだ」という趣旨のことを述べている。

案の定、欧州の習近平に対する朝貢外交が始まった。

◆12月1日にはEUのミシェル大統領が訪中

11月24日のフィナンシャル・タイムズは、12月1日にEUのミシェル大統領が訪中し、習近平と対談すると報道している。EU大統領が中国で習近平と会ったのは2018年以来のことだ。

EUも同様のことを発表しているのでミシェルの訪中は確実なことなんだろうと思われる。

一方、11月25日付のVOAの報道によると、どうやらミシェルは何か月も前から習近平との会談を求めており、11月15、16日のバリ島におけるG20開催中に中国政府側と交渉して日程を決めたとのこと。会う目的の一つは、ウクライナ戦争を終わらせるに当たって習近平の助けが必要であることと、欧州と中国の貿易を再調整しないと欧州経済が非常に厳しいところに追いやられているといった裏事情があると、関係者は語っているようだ。

ロシアへの制裁は、結局のところ欧州経済への圧迫につながっており、どの国も本音としては悲鳴を上げている状況を反映しているのではないだろうか。

◆フランスのマクロン大統領も訪中

11月17日付のSouth China Morning Postは、<フランス大統領はウクライナに対するロシアの戦争を仲介するよう中国の助けを求めるために北京訪問を計画している>というタイトルでマクロン大統領の訪中を伝えている。訪問は2023年の早い時期に行われるようで、ウクライナ戦争において、来年2月初旬からロシアによる激しい攻撃が再開されるだろうことを避けるためだと説明している。

そもそもマクロンは、インドネシアのバリ島で習近平に会ったあとの記者会見で、「中国が今後数ヵ月で私たちを協力して、より重要な調停の役割を果たすことができると確信している」と述べている。バリ島での中仏首脳会談において、すでに習近平との間で訪中の調整をしている。

ちなみにイタリアのメローニ首相も、それに続いて訪中を予定しているようだ。

こうして、ショルツの訪中が切っ掛けとなって、欧州の「北京詣で」が始まり、「あの国が行くならわが国も」というドミノ現象となって「朝貢外交」へとつながっているのである。

習近平を取り巻く国際情勢は『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の第七章で詳述したが、習近平三期目政権誕生に伴う、世界の動向に注目したい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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