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本当はラブラブな中豪経済 オーストラリアの鉄鉱石貨物船が人民元決算で山東省に初入港
2015年の山東省日照港の鉄鉱石(写真:ロイター/アフロ)
2015年の山東省日照港の鉄鉱石(写真:ロイター/アフロ)

7月10日、世界最大のオーストラリアの鉱業企業BHPが山東省の港に人民元決済で初めて入港。日米豪印クワッド対中包囲網の足元では中豪蜜月が展開している。オーストラリアのリチウムの96%も中国に輸出。

◆人民元決済で山東省の日照港に入港したオーストラリアBHPの鉄鉱石貨物

7月12日の中国共産党機関紙「人民日報」電子版は<BHPの船が初めて人民元決済の鉄鉱石を積んで日照港に寄港>と伝え、BHPのホームページにも同様の報道が載った

7月11日には「環球時報」の英語版に少し異なる角度からの情報が発信され、中国では今BHP鉄鉱石の人民元決済の話題で持ちきりだ。

というのは、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』に書いたように、そうでなくともアメリカの制裁によって「ペトロ人民元」が石油取引の共通通貨になりつつある中、ウクライナ戦争におけるアメリカの激しい対ロシア制裁が「人民元取引」を石油以外の領域においても加速しているからだ。

これら複数の情報に基づいて、BHPの「事件」にも似た現象を考察したい。

BHPというのは世界最大級の鉄鉱石企業で、西オーストラリア州の鉱山で掘削された鉄鉱石は7月10日、Vittoria(ヴィットリア)号に積まれて山東省の日照港に到着した。カウンターパートは山東港口集団(山東港湾グループ)でその提携事業が成功したことを祝って、日照港でテープカットが華やかに行われた。

Vittoria貨物船はオーストラリアのヘドランド港を出発し、2週間の航海の後、日照港に到着したが、それは同時に、BHP鉱業上海有限公司が本格的に操業を開始したことを意味している。

BHPのグローバル鉄鉱石マーケティング担当のジェレミー・ルイス副総裁は、以下のように述べている。

――われわれは鉄鉱石販売チャンネルと柔軟性を継続的に拡大しながら、従来の鉄鉱石ドル販売の主要チャンネルを維持しながら、相手国の製鉄所のユーザーの長期的かつ安定した供給を確保するために、港湾人民元スポット市場の特性と利点を相補的に共存させることができると信じている。日照港の鉄鉱石の対外貿易輸入は中国沿岸港で第1位であり、今日の成功は、中豪貿易が新たな段階に入ったことの証しであり、日照港はグローバルな商品と原材料の輸送基地建設に関して新たな一歩を踏み出したことを意味する。(引用ここまで)

祝典に参加した業界関係者は「鉄鉱石の人民元ベースの取引の開始は、オーストラリア企業が中国市場に近づくための重要な一歩であり、アメリカの高インフレによって点火された米ドルからの潜在的なリスクと不確実性のバランスを図るためでもある」と述べている。

◆日照港における実際の光景

文字ばかりではピンと来ないかもしれないので、まずは日照港に入港したVittoria号の姿をご覧に入れよう。

提供:山東港湾グループ株式会社(環球時報に掲載)

中国一の鉄鉱石貿易港・日照港の鉄鉱石の情況も見ものだ。

日照港の鉄鉱石 その1

出典:大衆報業

日照港の鉄鉱石 その2

出典:大衆報業

日照港の鉄鉱石 その3

出典:大衆報業

まだまだ尽きないが、この辺にしておこう。

◆世界最大の鉄鉱石消費国、中国

中国は世界最大の鉄鉱石の消費国である。

たとえばWorld Steel Associationのデータによれば、世界の鉄鉱石消費国の割合は以下のようになっている。

出典:World Steel Association

中国が全世界の62%と、圧倒的な消費量だ。

一方で、中国自身も鉄鉱石を生産している。

出典:World Steel Association

中国は世界の12%と多くはないものの、自国で生産しているのに、オーストラリアから大量に輸入するのは、製造業が盛んだからだ。世界は相変わらず中国の製造業に依存しており、そのサプライチェーンを切断すべくバイデン大統領はインド太平洋戦略においてオーストラリアやインドをアメリカ側に引き寄せようとしているが、反対の方向に向かって動いているのが現実なのである。

インドに関しては拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』にだけでなく、7月17日のコラム<バイデン「中東への旅」を痛烈に笑い飛ばす台湾のTV>で、新たな状況をご紹介した。

◆EVの電池に不可欠のリチウムに関してもオーストラリアの96%は中国に輸出

7月13日の「環球時報」英語版は<オーストラリアのリチウム輸出の急増は中国との深い絆を浮き彫りにする>という見出しで以下のような報道をしている。記事で使っている写真とともに、概略を示す。

出典:新華社(中国河北省唐山にあるリチウム電池工場で電池製品をチェックしている)

オーストラリアのリチウム濃縮物の総輸出は、2022年上半期で、前年比15%増加し、中国はその全体の96%を占めている。新エネルギー車(EV)産業を統合し、炭素排出量削減目標を達成するための措置を講じる際に、原材料に対する強い需要があるからだ。

業界関係者は、「中国の、オーストラリアからのリチウム輸入は、相互依存的なサプライチェーンに火をつけて、今年の残りの期間にさらに拡大するだろう」と予測している。中国非鉄金属工業会(CNIA)リチウム産業支部の呉延華事務総長は、環球時報に対し、「下流市場全体の爆発的な成長と大きな可能性を反映して、原材料貿易において中国とオーストラリアの間には強い相互依存的なつながりがあるため、オーストラリアの中国へのリチウム輸出の成長は期待通りだ」と述べたとのこと。

今年1~6月の中国の新エネルギー車の国内生産台数は前年比1.2倍の266.1万台に達し、EV市場シェアは21.6%に達し、「2025年までに20%を」という目標を前倒しで達成した。中国のリチウム資源への依存度は輸入に大きく依存しており、総消費量の65%は海外から来ており、オーストラリアが大きな部分を占めていると、リチウム産業支店のデータは示している。

オーストラリアの貿易データによると、中国の下流生産者からの需要の高まりに対応して、オーストラリアの重要なリチウム源であるスポジュメンの中国への輸出は、1月から5月にかけて前年比14.9%の大幅な増加を見せ、906,000トンに達した。メディアの報道によると、中国の顧客からの強い需要により、オーストラリアのスポジュメンの平均価格は5月にトン当たり2,873ドルに上昇し、前年同月比541.3%、前月比43.2%上昇した。(引用ここまで)

鉄鉱石だけでなく、リチウムにおいても中国とオーストラリアの相互依存関係を切り離すことはできず、オーストラリア自身も中国への大量輸出なしで経済が成立せず、密接に統合された産業チェーンを形成している。

こんなにラブラブな中豪経済関係を、バイデン大統領は切断できるのだろうか?

バイデン大統領の言うままに動いている日本の生き残りを、静かに観察したい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(2022年12月中旬発売。PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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