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バイデン「中東への旅」を痛烈に笑い飛ばす台湾のTV
7月16日、サウジアラビアを訪問したバイデン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

ガソリン価格高騰などを受けバイデン大統領は石油増産依頼のため中東を歴訪したが、13日の台湾TVは「中東やインド」と「中露」との結びつきに言及し、バイデンの行動を笑い飛ばしている。結果はトークの通りだった。

◆バイデンの本心をあばく台湾のトーク番組

7月13日、台湾のテレビ局TVBSは「新聞大白話」という人気番組で、バイデン大統領の中東歴訪と「イスラエル、インド、アメリカ(USA)、UAE」4ヵ国ビデオ会談(14日)に関して激しいトークを展開した。やや国民党系という色彩はあるものの、司会者の女性の話しっぷりが豪快なため、台湾の一般庶民の間では非常に人気の高い番組だ。

彼女が何を言ったかを逐一書くと長くなるので、ゲストのコメントも含みながら、概略をご紹介したい。但し報道されたのが中東歴訪開始の初日だったので、歴訪の結果を受けてのトークではない。結果に関しては後半で考察する。

番組で話し合われた中東諸国とアメリカの関係および「中国、イラン、ロシア」との関係を、見た目に分かりやすいように作図してみた。

筆者作成

この図表を参考にしながら、以下に示すトーク概要をご覧いただきたい。

  1. バイデン大統領は7月13日から7月16日まで、「イスラエル、パレスチナ、サウジアラビア」を訪問し、同時に14日に4者会談と呼ばれるビデオ会談を「イスラエル、インド、アメリカ(USA)とアラブ首長国連邦(UAE)」と開催する。「イスラエルとインド」の頭文字が「I」でアメリカとUAEの頭文字が「U」なので、バイデンはこれを「I2U2」と呼び、インド太平洋構想の日米豪印「クワッド」に相当する「中東版クワッド」と位置付けている。
  2. バイデンのこの中東の旅を知ったプーチンは、19日にイランを訪問し、トルコのエルドアン大統領もイランを訪問した、「ロシア、イラン、トルコ」の3ヵ国首脳会談を対面で行うと発表している。これは明らかにバイデンの中東訪問に対抗したものと受け止めることができる。
  3. バイデンの中東訪問の、本当の目的は何なか?中東歴訪国の「共通の敵はイランだ」とバイデンは言っているが、実は本当の敵は「ロシアと中国」最終的には「中国」だ。しかし、サウジアラビアは中国と仲が良いし、イスラエルとアラブ首長国連邦も中国が最大貿易国であり投資先でもあるため、バイデンは「本当の敵は中国」とは絶対言えないし、インドはロシアと仲が良いので「本当の敵はロシアだ」と言うこともできない。「本当の敵はロシアと中国」を口に出すと中東歴訪も「I2U2」も崩壊してしまうので、バイデンはそれを口にせず、こっそり骨の中に隠し持っている。
  4. 「バイデンはウクライナ戦争を仕掛けるだけでは気が済まず、中東の火薬庫をも爆発させるつもりか」と多くの人は見ているだろう。アジアで起こそうとしているが(=台湾と中国本土で戦争するように仕掛けているが)、その前に中東でイランとの仲たがいを利用し、それを煽って「中東で戦争を仕掛ける気か」と思ってしまう。
  5. バイデンは「中東は外国の力によって支配され手はならない」と言っているが、その「外国」とは、バイデンから見れば「中国とイラン」だ。バイデンは「中国、イラン、ロシア」を「鉄のトランアングル(鉄三角)」である「悪の聯盟」と位置付けている。だから本当は「I2U2」のターゲットはこの「鉄のトライアングル」なのだが、それを骨の中に隠し持ちながら、バイデンは中東に接近し始めた。
  6. サウジアラビアはかつて88ヵ国に「砂漠に高速鉄道を建設する」ことをお願いした。どの国も「不可能だ」として断ったが、中国だけが引き受けて、10年の歳月をかけて完成させた。中国はこのプロジェクトで40億米ドルの損失を被ったが、サウジアラビアは、その埋め合わせに「5年間の管理権」を中国に与えた。そのためサウジと中国の深い縁の間に、アメリカが割って入ることはできない。
  7. UAE(アラブ首長国連邦)の鉄道プロジェクトも中国本土が担った。最大207億米ドルのエネルギープロジェクトも中国本土が獲得している。だから今アメリカは焦っている。
  8. しかしアメリカ本国で支持率が極端に下がっているバイデンが、突然、選挙のために中東にやってきても、サルマン皇太子を殺人事件で激しく非難して「民主主義や人権問題などの価値観」を前面に出してきたのだから、今さらアメリカ国民を裏切ることはできないだろうし(裏切ればもっと人気が落ちるし)、うまくいくとは思えない。中国本土とサウジアラビアは石油の購入に米ドルを使わず、人民元を使って取引する約束をしており、バイデンは何としてもそれを阻止したいだろうが、バイデンが仕掛けたウクライナ戦争は、その可能性を加速させているので、うまくいかないだろう。
  9. 今年11月にアメリカでは中間選挙があり、バイデンはそれに有利になるように躍起だ。バイデンの最大の功績は、ロシアをウクライナ戦争に引きずり込み、ロシアの経済を15年前に戻したと信じている。また、インド、オーストラリア、日本、韓国を魅了したので、バイデンは満足しているかもしれない。しかしアメリカは常に世界各地で戦争を巻き起こしている国。中東は過去に米国によって屈辱を与えられ、すべての国がアメリカによって破壊された。世界のイスラム教徒の死者の95%がアメリカ人によって殺されている。カダフィでさえアメリカによって殺害された。アメリカは「平和と民主のため」と「聞こえはいい」が、実際は戦争を仕掛けてあらゆる残酷なことをしている。
    2010年、米国がイランのボイコットを主導し、財政と核兵器を制限すべきだと言った。当時、反対票はトルコとブラジルの2つだけだった。中国本土、ロシアを含むすべての人が同意した。しかし、10年後の2020年に、アメリカイランへの制裁を継続したいと主張したが、賛成票は2票のみで、1票は米国、もう1票はアルバニアだった。これは何を意味しているか?アメリカの衰退である。他国に戦争ばかりさせてアメリカが儲かりアメリカがそれでも力を持続する時代は終わったのだ。(ここまでがトークの要約)

◆バイデンとサウジアラビアとの対談の結果

7月16日付のシンガポールの聯合早報は、サウジアラビアのムハンマド皇太子と会ったバイデン大統領は、皇太子の指示で殺害された新聞記者(カショギ氏)に関して、堂々と人権問題を主張したと、会見後に表明したと伝えている。

7月15日のホワイトハウスも同様のことを伝えバイデンが正義を貫いたように書いているが、しかし、そのようなことをしたらサウジアラビアがアメリカの要望通りに石油増産に応じたりするはずがないだろう。ホワイトハウスの発表では、ガソリン価格に関しては、「あと数週間もすればわかるだろう」と濁している。

しかしサウジアラビアの外相(アデルアルジュベイル氏)は「石油に関する合意はなく、サウジアラビアとOPEC諸国は<ヒステリー>や<政治>ではなく、<市場>に基づいて決定を下す。ロシアを含むOPEC+グループは、次の8月3日に会議を開催する」と述べている。

加えて、7月14日のロイター通信によると、「サウジアラビアは、発電用のロシアの第2四半期の燃料油輸入を2倍にする」とのこと。

同じく7月14日、中国・ロシア・インドなどが主導する新興国BRICSフォーラムの責任者プルニマ・アナンドが「サウジアラビア、トルコ、エジプト」などが「一刻も早く」BRICSに参加したいと言っていると発表している

事態はまさに台湾のトーク番組の通りに、現実は進んでいるように見える。

拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』でくり返し書いたように、アメリカからの制裁を受けているイランをはじめ多くの中東産油国は、互いの利害は異なっても、少なくとも中国とは、より強く結びつくようになっている。その意味でウクライナ戦争は中国の強大化に寄与しているということが言えよう。

米中覇権競争という意味からは、決して中国に不利になっているとは言えない。2009年以来の「プーチン政権打倒」というバイデンンの思惑は成功に近づきつつあるかもしれないが、肝心のアメリカ本国におけるバイデンの人気は支持率30%と下落するばかりで、今年11月における中間選挙だけでなく、バイデンの大統領再選を望んでいる人は民主党の中でさえ非常に少ない。

◆日本は世界で最も「国のために戦場で戦いたくない」と思っている国

バイデンが仕掛けたウクライナ戦争は、たしかにバイデンの目的通りロシアの孤立化と弱体化には成功しているが、しかし世界全体には計り知れない災禍をもたらしている。そうでなくともコロナで世界経済が弱っているところに、さらにウクライナ戦争が加わり、全世界は混乱と衰退に苦しんでいる。この罪は重い。

他国を焚きつけて自国の武器を売りつけるばかりで自国の民は戦わないという、今般のバイデンの戦略は、少なからぬ国に「次に餌食になるのはわが国か」という疑念を抱かせるに至っている。

4月20日のコラム<台湾の世論調査「アメリカは台湾を中国大陸の武力攻撃から守ってくれるか」――ウクライナ戦争による影響>の「図3」で示したように、台湾はウクライナ戦争後、アメリカが台湾のために戦ってくれるだろうとは思わなくなっている。武器はいくらでも売ってくれるだろうが、戦うのは台湾人で、「きっと日本の自衛隊なら助けてくれるのではないか」という「現状ではありえない」期待を日本に抱いていることが分かった。

それでも、「いざとなったら国のために戦う」という台湾人は少なくないが、実は日本は全世界で最も「国のために戦って命を落としたくない」と思っている者の割合が多い国であることが、World Values Survey の調査で分かった。このリポートの一つであるWVS Results By Country 2017-2022 v4.0.0.pdfのp.411には、「あなたは国のために喜んで戦いますか?」という問いに対する回答に関するデータがある。2022年第一四半期までの最新版データを以下に示す。

出典:World Values Surveyのデータに基づいて筆者が編集作成

このグラフから明らかなように、日本は世界で一番「国のために戦場で戦いたくない」と思っており、「国のために戦ってもいい(命を落としてもいい)」と思っている人は、わずかに13.2%しかいない。台湾と中国本土はかなり多いが、香港、アメリカ、韓国は中程度だ。

ともかく世界で最も戦いたくないと思っている日本が、実は「世界で最も戦争を起こさせたいと思っている国、アメリカ」の言いなりになっていることには気が付いている人は多くはないのだろう。

5月12日のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?―米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>や6月15日のコラム<台湾問題を生んだのは誰だ? 次に餌食になるのは日本>などに、もう一度お目通しいただければありがたい。二度と戦争を起こしてほしくないというのは、中国で凄惨な戦争を経験してきた者の心からの願いである(詳細は『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』)。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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