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習近平には恐怖!――ウクライナの二つの「独立国家」承認はウイグル族の独立を刺激
2月4日、北京冬季五輪に合わせて会談したプーチン大統領と習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

ウクライナから分離独立していた二つの自称「人民共和国」をプーチンが承認したことは、習近平にとっては恐怖に近いほど手痛い。新疆ウイグル自治区の独立を認めるのと同じ構図になるからだ。

◆ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国をプーチンが承認

ロシアのプーチン大統領は2月21日、ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州にある「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を独立国家として承認する大統領令に署名した。

2014年にドネツク州とルガンスク州の親ロシア派住民は住民投票を行い、親ロシア独立派が圧勝したため、ウクライナから独立してそれぞれ建国を宣言していたが、プーチンはその時は独立国家として認めなかった。

「認める、認めない」という権限は他国の大統領にはないが、「認める」とか「承認する」というのは、その地域が独立国として宣言した時に、その国を「国家」として認めて「国交を樹立するか否か」ということを意味する。

このたびは、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国から「(クリミアと同じように)ロシアの統治下に入りたい」という申し出があり、ロシア議会を通してその要求があったが、プーチンは「合併」は断り、「独立国家」として承認することにしたという。

ロシア管轄下に入ると、結局のところ隣にNATOに加盟するかもしれないウクライナがいることになるので、NATO陣営に対する緩衝地帯を増やしたかったものと推測される。

ドネツク・ルガンスク両州のロシア人の割合は約40%で、ウクライナ人の半分以上も母語はロシア語であるため、住民の約75%が地域言語としてロシア語を使っている。 

しかしウクライナ政府は2014年頃から両州の住民にロシア語の使用を禁止し、2020年1月16日にはウクライナ語以外で書かれた広告を禁じる法が施行され、出版物やテレビ番組、ネットサイトから街の手書き看板などすべてが対象となった。

アメリカで中国の新疆ウイグル自治区のウイグル族への人権弾圧を「ジェノサイド」と言うようになってから、プーチンは「これは一種のジェノサイド」だと皮肉っている。

◆習近平にとっては恐怖!――新疆ウイグル自治区と同じ構図 

新疆ウイグル自治区に住んでいたのは「ウイグル人」で、そこでは「ウイグル語」を話していた。

しかし中国はウイグル自治区のウイグル族の割合を減らす政策を次々に打ち出し、「新疆生産建設隊」という漢族の入植者を増やしたりウイグル族に堕胎などの手術を施したり、学校教育では漢語(中国語)を使うように強制するようになった。

2016年に陳全国が新疆ウイグル自治区の書記になると、職業訓練所と称して強制収容所を多数設置し、およそ百万人のウイグル族が強制収容されているという事態になったことは周知の事実で、アメリカはこれを「ジェノサイド」と称して非難し制裁を続けている。

ウクライナ政府がウクライナ東南部にあるロシア人が多い地区に対して施行してきた措置は、まさに習近平が新疆ウイグル自治区に対して強化してきた措置と同じで、習近平は何としてもウイグル族による独立を鎮圧したいと必死だ。チベット族による独立志向も、何とか抑え込むことに成功している。

習近平が恐れていたのは、まさに今日ウクライナのロシア人地区で起きている現象である。

それを今年2月4日の中露首脳会談で「歴史上かつてなかったほど親密だ」と言って喜んでいた、あのプーチンが支援しているのだ。

こんな手痛いことがあるだろうか?

「住民投票」などに至っては、習近平にとっては絶対にあってはならない「民族自決」の手段に相当する。

◆沈黙する中国の報道

2014年のクリミア併合のときも、習近平は沈黙を続けた。

もちろんクリミアがロシア領になったことは今も認めていない。

「無視」しているだけである。

このたびの「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」に対しても、中国が承認するなどということは「絶対にない」と言っていいだろう。

それを承認したら、ウイグル族の独立を奨励することにつながる。

中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVが、プーチンによる「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」承認に関して触れたときの報道の仕方が興味深い。

主としてウクライナやAFP(フランス)あるいはニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど西側諸国が「独立を批難している」という「他国の情報」を報道しているのだ。制裁に至っては、日本政府の制裁を説明するなど、非常な違和感を与える。

話をかわそうとしているようで、中国の「本音」をチラリとだけ見せたという印象を覚えた。

ちなみにロイターの報道によれば、王毅外相は2月19日 にドイツのミュンヘンで開催された安全保障会議にオンラインで出席し、「すべての国の主権、独立、領土保全は尊重され、保護されるべきである」とした上で、「これらは国際関係の基本的な規範であり、国連憲章の目的を反映しており、中国は常に支持してきた。ウクライナも例外ではない」と述べたとのこと。

さらに「ウクライナは、大国間の対立の最前線ではなく、東西間の架け橋であるべきだ」と位置付ける一方で、「ロシアの合理的な安全保障上の懸念は尊重されるべきである」とも付け加えた。

新疆ウイグル自治区の「強制労働」と「再教育訓練所」に関する質問に対しては事実無根の偽情報であるとしている。

ところが、中国外交部の報道では同じミュンヘン会議に関して、「ウクライナ」の文字も出てこなければ「新疆ウイグル自治区」も出てこない。王毅演説を、北京冬季五輪への感謝などで締めくくっている。

ウクライナ問題をスルーしたいという気持ちに溢れているとしか言いようがない。

◆習近平がプーチンと共有したのはNATOやアメリカに対する抗議のみ

2月19日のコラム<習近平はウクライナ攻撃に賛同していない――岸田内閣の誤認識>に書いたように、日本では「習近平がロシアによるウクライナ軍事侵攻を支援している」という勘違いがあるようだが、それは事実に反する。

2月4日の「習近平vs.プーチン」会談の国際問題に関する共通項は、「NATOの東方拡大反対」と「米国の覇権主義反対」および「ミンスク合意重視」くらいで、「ウクライナ」の「ウ」の字も出てこなかった。

その理由を以下のような図にして表してみた。

ウクライナにとってのドネツク・ルガンスクなどの東南部にあるロシア人地区は、中国にとっての新疆ウイグル自治区やチベット自治区に相当する。広い意味では民族は重なっているが、「台湾」さえ含めることができる。

それらの異民族(少数民族)あるいは「異なる政権」の独立を支援しているのは、ウクライナの場合はロシアだが、中国の場合はアメリカを中心とした西側諸国だ。「人権弾圧を非難する」ことによって「異民族地区の少数民族を応援している」。

台湾はまだ「中華民国」として存在しているが、国連に加盟することは許されず、中国(大陸側)は「一つの中国」とみなしている。

台湾を支援しているのは、もちろんアメリカを中心とした西側諸国だが、「中国を代表する国」としては「中華人民共和国しかない」として「中華民国」を国連から追い出したのはアメリカだ。ニクソン元大統領が、大統領再選を狙って、キッシンジャーに忍者外交をさせた。

その台湾を含めて、習近平はどんなことがあっても、これらの地区に「独立」を認めないという絶対的な立場を崩していない。

その習近平が、なぜプーチンによる「ウクライナからの独立を果たした国」の承認などを応援することができようか!

あり得ないのである!

それにしても、アメリカおよび西側諸国が、プーチンが承認する「イデオロギーの異なる異民族の独立承認」は「悪」だが、習近平が弾圧する少数民族地区の独立あるいは人権を応援するのは「善」だと認識しているのは興味深い。

その上で、習近平のプーチンに対する、この捻じれに捻じれた「矛盾」を認識した方が、ウクライナ問題における中露関係(=中露は一枚岩ではないこと)がより明確に見えて、西側諸国の政策決定には有利に働くのではないかと思う。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(4月16日出版予定、PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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