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米軍のバグラム空軍基地放棄がテロを世界に拡散させる
アフガニスタン最大の米軍のバグラム空軍基地(2014年)(写真:AP/アフロ)
アフガニスタン最大の米軍のバグラム空軍基地(2014年)(写真:AP/アフロ)

中国ではタリバンの治安に関心が集まっており、米軍がバグラム基地を放棄したことがテロ拡散を招いたとする米共和党議員やペンタゴンの発言に基づいて報道している。英語の原文(日本語版を含む)にも当たって真相を解明したい。

◆米軍によるバグラム空軍基地放棄に関する中国での報道

8月29日のお昼のニュースで、中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTV国際は、

<米共和党員は、カブール空港での爆発事件に関してバイデンに責任があると追求した>というテーマで特集番組を組んだ。

また中国政府の通信社である新華社の電子版・新華網は、<空軍基地放棄が悲劇を生んだのか?バイデンは「アフガン撤退ロードマップには如何なる問題もない」と発言>という見出しで、米共和党議員によるバイデンの撤退指示の稚拙さと無責任さに対する非難を報道している。

二つとも米共和党議員としてクルーズ議員など数名の議員の名前を挙げている。

他にもさまざまな報道があるが、それらをまとめると、概ね以下のようなことを中国では報道している。なお、カブールの近くにあるバグラム空軍基地はアフガニスタンにおける最大の米軍基地で、米軍が反テロ活動を行う際の拠点となり、数千人の犯罪者を収容することができる刑務所を付設している。

  1. バグラム空軍基地放棄は災難性の政治決定だ。絶対に最後まで放棄すべきではなかった。あれを放棄したからこそタリバンが勝利してしまったのであり、今回のようなテロ事件が起きたのだ。アメリカ人のアフガニスタンからの避難に関しても、バグラム空軍基地ならセキュリティが高いので、テロの犯人が勝手に近づくこともできなかったはずだ。
  2. バイデン大統領はテロ事件があった26日の記者会見で、なぜバグラム空軍基地を放棄したのかという記者の質問に対して「撤退の組織化についてアフガニスタンのすべての主要軍司令官と国防総省の意見を聞いた結果、『バグラムはあまり役に立たず、カブール空港に集中する方がはるかに賢明だ』という結論に達し、私はそのアドバイスに従った」と答えたが、その責任は償いきれないほど重い。
  3. 米軍は7月1日の真夜中(から7月2日にかけて)、誰にも知らせずに突如バグラム空軍基地から撤退した。アフガン政府軍は当時、引き渡しはおろか、米軍が基地から撤退することも知らされていなかったという。
  4. タリバンは8月15日にバグラム空軍基地を占拠し、カブールを占領した。米軍がいなくなっていたので、アフガン政府軍には戦闘意欲はなく、付設する刑務所も含めて空軍基地はあっさりとタリバンの手に渡った。
  5. 8月27日に行われたアメリカの国防総省(ペンタゴン)の記者会見によると、刑務所にはISIS-Kなどのテロ集団を含む数千人の犯罪者がいたが、タリバンが占拠したあと釈放された。バグラム空軍基地放棄とテロリストの釈放との関係に関して、ペンタゴンの報道官は基本的に認めた。しかし人数がどれほどいたのかは言えないとした。

概ね以上だが、念のため、中国の報道が正しいか否かを英文の原情報あるいはその日本語版で確認してみよう。

◆アメリカ政府やメディアなどの原情報(英文とその日本語情報)

まず、クルーズ議員の発言を見てみよう。

8月28日のNewsweekにTed Cruz Says ‘Political’ Decision to Close Bagram Air Base Was ‘Catastrophic’(テッド・クルーズは、バグラム空軍基地閉鎖の「政治的」決定は「破壊的」だったと語った)という見出しで詳細に書いてある。そこにはクルーズ議員のツイッターもあるので、興味のある方はご覧いただきたい。

実際、7月2日朝までに米軍が誰にも知らせず、こっそりとバグラム空軍基地を去った様子に関してはAP NEWSがUS left Afghan airfield at night, didn’t tell new commander(米軍は新司令官には伝えずアフガンの空軍基地を夜間に放棄した)という見出しで報道している。そこには概ね以下のように書かれている。

――アフガニスタン軍関係者によると、アメリカはアフガニスタンのバグラム空軍基地を去る際、電気を止めて夜のうちにそっと立ち去った。アフガニスタン(政府)軍は月曜日(7月2日)に広大な空軍基地を公開し、タリバンを打倒し、9.11同時多発テロの犯人であるアルカイダを追い詰めるというアメリカの戦争の震源地であった場所を、初めて見ることができた。(中略)バグラムの新司令官であるミール・アサドゥラ・コヒスターニ元帥は、「米軍がバグラムを離れるという噂を聞いてはいたが……、朝7時になって初めて米軍がすでにバグラムを離れてしまっていることを知り、確認した」と語った。(中略)米軍報道官のソニー・レゲット大佐の声明によると、「今年4月中旬にジョー・バイデン大統領が最後の軍を撤退させると発表した後、すぐに多くの基地の引き渡しが進められていた」という。レゲット氏は声明の中で、彼らはアフガニスタンの指導者たちと離脱を調整したと述べている。(中略)アフガニスタン軍の関係者によると、米軍はカブール空港から電話をかけてきて、「我々はカブールの空港にいる」と言い、さらに戦場でタリバンが相次いで勝利しているにもかかわらず、「アフガニスタン国家安全保障・防衛軍が重厚に要塞化された基地を安全に保持できる」と主張した。この飛行場には、約5000人の囚人がいる刑務所もあり、その多くはタリバンとされている。一方、わずかこの2日間で、数百人のアフガン兵が反乱軍(タリバン)と戦うよりも、国境を越えてタジキスタンに逃げ込んだ。(引用ここまで)

こうしてタリバンが圧倒的勝利を収めるのだが、囚人の中にいたISIS-Kが何人くらい、そしてどのようにして社会に放たれてしまったかに関して、8月27日におけるアメリカ国防総省(ペンタゴン)のプレス・ブリーフィングでは以下のように説明されている。なお、ISIS-Kはシリアとイラクで台頭したテロ組織ISISの分派で、「K」はアフガニスタンやパキスタンなどの地域をさす「Khprasan(ホラサン)」の名称に由来する。

記者とペンタゴンのカービー報道官との間の問答だ。

記者:バグラムに残されたISIS-Kの囚人のうち、何人がバグラムの刑務所から解き放たれたと考えられますか?また、アメリカが撤退する前に、なぜ彼らをGitmoのような場所に移送しなかったのでしょうか?(筆者注:Gitmoとはキューバのグアンタナモ湾にあるグアンタナモ米軍基地にある共同機動部隊運営の収容キャンプで、主としてテロ犯罪者を収容する。)

カービー報道官:えー、そうですね…正確な数はわかりません。まあ、数千人単位であることは明らかでしょうね…二つの刑務所を考えればですね……だって、二つともタリバンに占領されて空になってしまったわけですからね……しかし私は…正確な数字は言えません。空っぽになってしまったということに関してですが、まあ、覚えておいてほしいのですが…、つまり、私たちはアフガン国家安全保障部隊に業務を引き渡していたのですよこれは撤退プロセスの一つですから、アフガン政府は刑務所と、その刑務所がある基地に責任を持っていました。もちろん、タリバンが前進するにつれて…いくつかの領土や基地を保持するためのアフガン政府軍の抵抗は見られなくなりました。しかし、これらは、4月に決まった撤退計画に従って行われたもので、全ての責任は既にアフガニスタン政府に引き渡されていたのですよ(筆者注:すべてバイデンが4月に決めたロードマップ通りにやったので、我々に責任はなく、撤退計画を決めたバイデンとアフガン政府に責任があると言っているに等しい)。

一方、8月25日付のCNNの英文情報あるいはその日本語版によれば、ISIS-Kのメンバー数百人が刑務所から脱走した可能性があるとのことなので、ペンタゴンの報道官の言葉とはかなり違う。アフガン政府の元当局者によると、バグラム刑務所では7月の時点でタリバンやアルカイダ、ISISのメンバーや犯罪者など約5000人が服役していたとのこと。

重要なのは24日にはバイデン大統領は「ISIS-Kが空港を狙って米軍や連合軍および罪のない市民を攻撃しようとしている」と述べていたことだ。バイデンは予めテロが起きるのを知っていたことになる。

中国の報道が基本的に嘘ではなかったことを証拠づける英文情報は拾いきれないほど多数あるが、これではクルーズ議員が「バグラム空軍基地放棄は壊滅的(カタストロフィー的)な政治決定だ」とバイデンを非難したのもうなずける。

◆世界にテロ集団が拡散していく

なぜ今ここでこの問題を取り上げたかと言うと、私たち日本を含めた世界各地にテロ集団が拡散されていく危険性があるからだ。

脱獄にしろ釈放にしろ、米軍が無責任な形でバグラム空軍基地を放棄したことが、結果的にテロ集団をアフガニスタンに解き放ち、アフガニスタンの一般市民に扮装して「避難民」としてカブール空港から世界各地に飛んで行ったかもしれないし、また地続きのパキスタンやタジキスタン、トルクメニスタン、イランなど、どこにでも山岳地帯に潜り込みながら逃げていくことは可能だろう。

だから今後世界は再びテロの恐怖にさらされる危険性を孕んでいる。

それだけではない。

米軍が完全にカブール空港を撤退する前に、もう一度大規模なテロ爆発があるかもしれないという危険が目の前に迫っているということに注目しなければならないのである。

もちろん何も起きないことを心から祈っているが、今日(30日)か明日(31日)までには大規模テロがあるかもしれないので、世界はそのつもりで警戒しておいた方がいいだろうと思った次第だ。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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