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中国選手を絶賛するバッハ会長と五輪を政治利用する菅政権
IOCのバッハ会長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
IOCのバッハ会長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

7月29日、バッハ会長は中国の単独取材を受け中国選手の活躍を絶賛した。一方21日にIOCは北京冬季五輪有観客開催の期待を表明している。日本では政府のコロナ感染に対する国民の不満をかわすために東京五輪を開催したと31日に河村議員が明言した。

◆中国メディアの独占取材で中国選手の成績を絶賛するバッハ会長

7月29日、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長は東京大会国際放送センター(IBC=International Broadcasting Centre)にある中国の中央広播電視総台(中央ラジオテレビ総局)CMG(China Media Group)を訪れ、単独取材に応じた。この取材に関して北京のCCTVは<東京オリンピックにおける中国選手の活躍を誇らしく思う>というバッハの言葉をタイトルにして大々的に報じた。

それによれば、バッハは以下のようなことを言っている。

  • 東京五輪に参加した中国の選手たちは、オリンピック精神に満ち溢れ、その成績を誇らしく思う。今日、私は水泳競技に立ち会う機会を得て、中国選手がまた新たな金メダルを獲得したのを目撃した。
  • 私が初めて中国に行ったのは1980年だが、現在の中国はスポーツにおいてだけでなく、あらゆる面で劇的に変化している。私は、さまざまなスポーツイベントにおける中国のアスリートたちの傑出した活躍に感銘を受けている。中国は世界に驚くべき速度で発展している中国の姿を見せている。
  • 習近平国家主席の北京冬季五輪に対するイニシアチブに感謝し、3億人の中国人を雪と氷のスポーツに参加するように持って行くと約束したことに感謝する。
  • 2022年の北京冬季五輪において、熱情的に客をもてなす中国の人々が、世界に又とない記憶をもたらすと確信している。
  • IOCと中国のCMGは常に密接な協力関係を保ってきた。北京冬季五輪は、私たちの協力関係におけるもう一つの重要なマイルストーンを創り上げると確信している。IOCは常に継続的にオリンピック・ムーブメントを支援し続けている貴局に心から感謝している。

◆中国のCMGが、わざわざバッハ会長を招いていた

中国の中央テレビ局CCTVは同日、もう一つの情報を発信していた。

<バッハはCMGから東京五輪の中国チーム・ユニフォームを受け取った>というタイトルの情報の中で、CCTVは「バッハはCMGの独占取材を受けるためにIBCにあるCMGのスタジオにわざわざ特別に出向いた」と書いている。

中国語の簡体字で「専程」という文字があるが、これは「ある目的を達成するために、わざわざ、そこへ行く」という意味で、その目的とは、CMGの単独取材を受けるためだったことになる。

だから「わざわざお越しいただいたお礼に」と、CMGは東京五輪の中国チーム・ユニフォームをバッハにプレゼントし、バッハは喜んで受け取ったということが書いてある。

日本では、バッハはIBC視察に行っただけだと報道されているが、実態は違う。

7月13日のコラム<バッハ会長の頭には「チャイニーズ・ピープル」しかない>に書いたように、バッハの頭にはあくまでも「中国」しかないのである。日本はその通過点に過ぎず、利用しているだけだ。

◆IOCは北京冬季五輪の有観客開催に期待

東京大会開会式2日前の7月21日、IOCは来年の北京冬季五輪の成功には観客が必要だという見方を示した。発言したのはIOCの北京大会調整委員会のサマランチ(ジュニア)委員長で、「北京大会では大きな成功が必要」で、そのためには「観客が必要だ」と明言した。「中国の人々のもてなしを誰もが楽しむ機会を実現したい」とも語った。

23日から東京大会が無観客で開催されることを決めながら、一方では「五輪の真の成功は観客があってこそだ」と言うことは即ち、「東京は無観客で失敗だ」と言ったに等しく、対照的に「北京ならば(コロナ感染をコントロールしているので)有観客が可能で、成功するだろう」と言ったに等しいのである。

これではまるで、日本は弄ばれているようなものではないか。

そのような中で必死で頑張る日本選手をもバカにしていると言っても過言ではないだろう。

日本国民全体の命に関しては、五輪開催に集中する分だけコロナ感染抑制への努力がそがれて感染は拡大し、医療資源も枯渇して、日本人の命を奪っていく可能性は否定できない。IOCにバカにされながら、日本人は命を犠牲にすることにつながっていく要素を秘めている。

◆河村議員――五輪開催はコロナ対策に対する国民の不満をそらすため

このような中、自民党の河村建夫議員は7月31日、コロン感染拡大の中での五輪開催に関して、なんと、「五輪がなかったら、国民の皆さんの不満はどんどんわれわれ政権が相手となる。厳しい選挙を戦わないといけなくなる」と語ったという。

共同通信が伝えた。

共同通信によれば、それは山口県萩市における会合での発言とのことだが、ここにきて国民から受けていた「国民の命を軽視し、コロナ下でも五輪を強行開催するのは選挙のためだろう」という批判が真実だったことを露呈したことになる。

日本人の命を軽視しているのはIOCだけではなかったのだ。

菅内閣自身が「自公政権与党は選挙しか考えておらず、東京五輪開催によって急拡大していくコロナ感染など眼中になく、日本国民が選手の活躍に目を奪われてくれれば『選挙に有利になる』という思考しかない」ことを証明したようなものだ。

河村議員の「正直さ」にわれわれは深く感謝しなければならないだろう。

私たちが今、いかなる現実に置かれて、いかなる意志によってコントロールされているかを、ここまで「見事に」表現してくれた言葉は滅多にないからだ。

◆「アフター東京五輪」のシナリオ

東京五輪開催とコロナ感染拡大は無関係だと菅政権もバッハも主張しているが、「五輪は開催していいのに、なぜ自分たちはここまで自粛しなければならないのか」という庶民の声は大きく、自宅でテレビ観戦しろと言われる中「家族感染」がコロナ感染拡大の一番大きな原因になっているなど、矛盾だらけの政策と現状だ。

五輪が開催されているのだから、「これくらいは許されていいだろう」という気の緩みを招くこともあろうが、緊急事態宣言など出しても、国民は政府など信用していないから「行動変容」には結びついていない。

となると、一桁台でも感染者が出たら都市封鎖をするほどの厳重体制で動いている中国に比べて、このまま行けば日本は爆発的なデルタ株の感染を抑えることが困難になるだろう。

宴(うたげ)が明けて、東京はパンデミックに見舞われ、北京が有観客北京冬季五輪で勝利宣言をすることにつながらないとは限らないのだ。

現時点(7月31日統計)での中国(本土)全体および北京の感染者数と(1日当たりの)新規感染者数を日本全国および東京と比較すると以下のようになる。

2021年7月31日における感染者数と一日当たりの新規感染者数の比較

2021年7月31日における感染者数と一日当たりの新規感染者数の比較(筆者作成)

この数値を見ただけでも、来るべきシナリオは歴然としているだろう。

中国は総人口14億人の中で、現時点(7月31日で)1025人しか感染者がおらず、北京に至っては猫の子一匹看過せぬ厳しさで厳重警戒している。

しかし、東京の新規感染者数4058人は、日々膨らんでいき、五輪開催中にもデルタ株パンデミックが起きないとも限らない。

その結果、いかなる事態が待ち受けているかと言うと、「民主主義体制」がいいのか、「専制主義的(独裁主義的)体制」がいいのかという、米中両大国を中心とする世界覇権の問題が人類の前に大きく立ちはだかる中で、「専制主義体制」に軍配が上がる危機が横たわっているということなのである。

言論弾圧をする国家の価値観によって支配されたくないと思っているのが民主主義体制の中で生きている人々の共通の思いのはずだ。その思いが踏みにじられるシナリオが待ち構えている方向には動きたくないのもまた、私たちの共通の思いだと信じる。そのためにはいつもグローバルな視点を持っていなければならないのではないかと自らに言い聞かせている次第だ。

(なお、南京の空港において新たに発生したデルタ株感染者に関しては、必要に応じて別途考察することとする。)

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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