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「バイデン・習近平」会談への準備か?――台湾問題で軟化するアメリカ
2013年、バイデン副大統領が訪中し習近平国家主席と会談(写真:ロイター/アフロ)
2013年、バイデン副大統領が訪中し習近平国家主席と会談(写真:ロイター/アフロ)

米軍高官は「中国の6年以内台湾武力攻撃」説を取り下げただけでなく、米政府高官は「台湾独立を支持しない」や「中国との平和共存」をさえ唱え始めた。その背景に何があるのか?麻生発言にも言及して考察する。

●中国による台湾攻撃の警戒レベルを下げているアメリカ

今年3月9日、インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官は、米議会公聴会で、「中国(大陸)は6年以内に台湾を武力攻撃する」と指摘していた。

「それはあり得ない」として、私は4月21日のコラム<「米軍は中国軍より弱い」とアメリカが主張する理由>で詳細を考察した。

案の定、6月17日になると、米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は米議会下院軍事委員会の公聴会で「近い将来に台湾武力侵攻が起きる可能性は低い」と述べ、6月23日になると、さらに一歩進んで「中国が台湾に2年以内に軍事侵攻する兆候は、現時点ではない」との見解を示した。

なぜ同じ米軍高官がトーンダウンしたのかに関して、ミリー議長は相当に苦しい、以下のような弁明をしている。

――デービッドソン等が言ったのは、「台湾侵攻のための能力向上を、中国が2027年に向けて加速している」という意味で、2021年から数えれば6年(筆者注:27-21=6)ということを指しています。(中略)少なくとも近い将来、まあ、ここ1,2年の間と言ってもいいかもしれませんが、中国がいきなり何かを決意して行動することはないでしょう。

要は、「目下のところ、中国には台湾侵攻の意図はない」と言ったことになる。

前述の4月21日のコラム<「米軍は中国軍より弱い」とアメリカが主張する理由>では、「台湾が独立を宣言したとき以外は、中国は台湾を武力攻撃しない」と書いたが、ミリーの証言が6月17日、23日であることを考えると、もう一つ、別の風景が見えてくる。

すなわち、デービッドソンの「6年以内台湾攻撃」説は、6月11~13日にイギリスのコーンウォールで開催されたG7首脳会議(サミット)のコミュニケのために発せられたもので、それが終わってしまえば、あとは「習近平と仲良く」という方向に早くも向かっているように思うのである。

●台湾独立を支持しない――中国に対する負けを認めたキャンベル

その証拠に、カート・キャンベル米国家安全保障会議・インド太平洋調整官は7月6日、アジア協会(Asia Society)というシンクタンクにおける講演で、「アメリカは中国と平和的に共存できる」とし、「台湾の独立を支持しない」と述べていることに注目したい。

キャンベルの主張のいくつかをピックアップして以下に記す。

  • 中国が主張する「一つの中国」を認め、その枠内でのみ、台湾との「力強い非公式関係」を支持する。
  • 中国はますます自信を付けている。現在の米中関係は冷戦の枠組みではなく、あくまでも競争関係だ。
  • アメリカはアジアにおいて強大な地位を持っているが、しかしこの地位は既に滑り落ちており、アメリカは危機に面しているので、アジアに全面的に大量投資していかなければならない。
  • アメリカの課題は、中国にチャンスを与えると同時に、中国が「平和と安定の維持に反する行動」を取った場合に対応する戦略を打ち出すことだ。
  • バイデン政権の今年の焦点は、国内の復興、ワクチン、同盟国との関係にある。

何ということだ。

これではまるで中国に対する負けを認めたようなものではないか。

特に最後の「バイデン政権の今年の焦点は、国内の復興、ワクチン、同盟国との関係にある」は、これまで私が疑問を呈してきた「バイデン政権の対中強硬策」が、やはり「虚勢」であったことを示唆する。

◆バイデンは習近平との会談を準備しているのか?

なぜアメリカは台湾をパラメータとして、このように強硬レベルを下げていくのか?

その解答は、やはり上述のキャンベル演説に垣間見られる。

キャンベルは同じ講演で、「習近平とバイデンの初の会談は10月のG20サミットという可能性はあるか」との質問に対して「私の予想では、そう遠くないうちに何らかの関わりを持つことになるでしょう」と答えている。

つまり、バイデンは習近平との会談を実行するために環境づくりを準備していることになる。

6月のG7サミットの後に、バイデンはロシアのプーチンと対面で会談したが、その直後にホワイトハウスは、バイデンと習近平との会談が「あるかもしれない」と、その可能性を示唆していた。これは習近平に対して、「私は決してあなた(習近平)に対抗するためにプーチンに会ったわけではないので、誤解しないでね!」というシグナルを発したという意味合いを持つ。

ミリーのトーンダウンに続く、キャンベルのこの講演は、「バイデンvs.習近平」会談の環境づくりの一環だと位置づけるのが適切だろう。

キャンベルは講演で、年内に日米豪印の4首脳会談(クワッド)実現の可能性にも触れたが、トランプ支持派に責められないためのエクスキューズに過ぎないように響く。

◆中国の反応

キャンベル発言に対する中国外交部の発言は、当然穏やかで歓迎的なムードになっている。外交部ウェブサイトに載せている報道官(汪文斌)の表情からも中国の歓迎ぶりが伺える。

汪報道官は、鳳凰衛視の記者の質問に対して、以下のように答えている。

  • 米中関係についてだが、中国は誰かの施しを受けて発展してきたわけでなく、あくまでも中国人民の奮闘がもたらした結果だ。アメリカが中国に対して合理的かつ実務的な政策を採用し、協力に重点を置き、相違点を調整し、中米関係の健全で安定した発展を促進することを期待する。
  • 台湾問題に対する中国の立場は、一貫しており明確だ。 世界には「一つの中国」しかない。台湾は中国の不可分の領土だ。「一つの中国」原則は中米関係の政治的基盤だ。
  • 中国は、アメリカが、中米関係と台湾海峡の平和と安定を損なわないよう求める。  (他は常套句なので省略する。)

報道官は台湾問題に触れた後、習近平が建党百年演説で述べた主張を、第一から第四までとして、滔々と述べた。これも長いので省略するが、これらは明らかにキャンベルが言った「中国はますます自信を付けてきた」に対する「証拠」として列挙したと解釈できる。

◆麻生発言「台湾有事なら日米で防衛」

このような折も折、麻生財務大臣兼副総理は、7月5日の講演で、「台湾で大きな問題が起きれば、存立危機事態に関係する」として、「日米で台湾を防衛しなければならない」と語った。

「台湾有事」は「日本有事」と受け止めるべきで、この時にこそ日米安全保障条約の下に日本はアメリカと共に戦わなければならないということになる。

これに対する中国外交部の反応は激しいもので、戦狼性の高い趙立堅報道官が眉間にしわを寄せて「強烈な不満」を表明し「断固反対!」と声を荒げた。

キャンベルが「中国とは平和的共存」をすべきで「台湾独立を支持しない」と驚愕的な講演をしたのは、麻生発言の直後のことだ。これでは日本は梯子を外されたような格好ではないか。

 

何度も例に引いて申し訳ないが、前述した4月21日のコラム<「米軍は中国軍より弱い」とアメリカが主張する理由>で私は、アメリカが「米軍は中国軍より弱い」とか「6年以内に中国は台湾を武力攻撃するだろう」などと発信し続けるのは、「台湾有事の時には、日本が矢面に立って下さいね」ということを暗示しているに過ぎないと書いたが、今般の「キャンベル発言と麻生発言」は、まさにその予測をそのまま見せてくれたような対比を成しているように思われる。

私は他のコラムでもバイデン政権の「対中強硬政策の本気度」を慎重に見極めなければならないと書いてきた。このたびのアメリカの一連の流れを受けて、ますますその警戒感を強めた次第だ。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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