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「米軍は中国軍より弱い」とアメリカが主張する狙いは?
2021年4月21日
米中の国旗(写真:ロイター/アフロ)
米中の国旗(写真:ロイター/アフロ)

米アジア太平洋軍の司令官は「米軍は中国軍より弱いし、中国は6年以内に台湾を武力攻撃する」と言っている。本当か?アメリカが、自国軍が弱いと主張する目的は何か?それは日本にどういう影響を与えるのか?

◆米軍が中国軍に負けると主張するアメリカ

2020年9月1日、アメリカ国防総省(DOD)が「中華人民共和国を含めた軍事・安全保障に関する2020年版報告書」を発表した(DOD Releases 2020 Report on Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China)

報告書はミサイルと造船技術に焦点を当て、ミサイルについては、中国軍が射程500~5500キロメートルの中距離弾道ミサイルを1250発以上保有しているのに対し、米軍は全く持っていないと指摘した。アメリカは元ソ連時代からロシアと締結してきた中距離核戦力(INF)廃棄条約に拘束されてきたからだ。

したがってもし米中が軍事衝突に至った場合、米軍は中国軍に勝つことができない恐れがあると報告書は書いている。中国軍が中距離ミサイルの大量発射という手法で、グアムや在日米軍基地を攻撃した場合に、米軍には抵抗手段がないというのが報告書の見方だ。

さらに、中国軍が現在200発以上保有する核弾頭数が、今後10年で2倍以上になる可能性があり、このうちアメリカにまで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)に装填する弾頭数は今後5年で200発以上に膨れ上がるだろうとしている。

海軍力に関しては、米軍の水上艦や潜水艦の数が293隻であるのに対して、中国海軍はすでに350隻を有しており、中国海軍の力は「世界最大である」と高く評価している。

このままではインド太平洋地域における米軍の優位は保たれないと強い危機感を表明した。

そのインド太平洋に関して、今年3月9日、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官が米上院軍事委員会の公聴会で、今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性があると証言した。たとえばこちらのニュースや、こちらの情報で確認することができる。

一方、Clinton Hinote(クリントン・ヒノテ)という米空軍中将は、3月11日、米中両軍の軍事力に関するシミュレーションを行った結果、「ウォーゲームの傾向は、単に米軍が敗けるというだけではなく、敗けるまでの時間が年々短くなってきて、最近では瞬時に米軍が中国軍に敗ける傾向にある」という趣旨のことを言っている。

本当だろうか?

とても中国軍の全体的軍事力がアメリカを凌駕するとは思えないのだが。

◆中国は中国軍の実力をどう見ているのか?

では、中国自身は中国軍の実力をアメリカと比較して、どのように見ているのか。

アメリカ国防総省の報告書を知り、少なからぬ中国人が本気で「中国の軍事力がアメリカを上回ったのか」と思いこんでいる実情に関して、軍事評論家の張召忠氏(国防大学教授、元海軍少将)は「中国軍の実力に比べて、米軍の実力は遥かに上で、米軍のその地位は揺るぎない」と、今年2月に語っている。

彼の主張を書くと、概ね以下のようになる。

1.どうやら勘違いしている人が多いが、それは正しい認識ではない。

2.たしかに中国は長い時間をかけて大きく発展を遂げることは出来たが、しかし「アメリカが、中国の軍事力がアメリカの軍事力より強大だ言うこと」と、「実際にアメリカの軍事力が中国より弱いのか」ということとは全く二つの異なる概念だ。

3.そもそも軍事費から考えても、2018年までアメリカの軍事費は群を抜いて世界トップで、7000億米ドルに達している。これは2位から20位までの全ての国の軍事費の合計よりも(アメリカ一国だけで)上回っているのである。これは、どんなに恐ろしいデータであることか。

4.ピンと来ない人には、空軍の戦闘機の数を例に挙げれば、理解できるかもしれない。たとえばアメリカの戦闘機の数は13000機だが、2番目に多いロシアはわずか5000機しか持っていない。それを見ただけでも軍事力の差は歴然としている。

5.総合的な戦闘力に関して、アメリカは数において他国を圧倒しているだけでなく、そのレベルにおいて絶対的な優位性を持っている。たとえば世界で最も先進的な第5世代の戦闘機を300機以上持っているだけでなく、核兵器や強力な空軍と科学研究の強さは、まちがいなく世界最先端のレベルを有しており、圧倒的な軍事力を有している。

6.もちろん我々中国も確実に大きな発展を遂げてきたが、しかし中国の真の発展を確実なものにするには、他の国の軍事力に関して客観的な視点を持たなければならない。そうしてこそ本当に中国の発展に寄与することができるのである。(引用はここまで。)

概ね以上だ。

これが現実であると思う。総合的に見て、中国の軍事力の方が強いはずがない。

◆米軍側が「米軍は中国軍よりも弱い」と主張する目的は何か?

では、なぜ米軍側は自国の軍事力が中国軍よりも弱いと言い張るのか?

どのような国でも、普通は「我が国の軍事力はこんなに強い」と自慢するものだ。

したがって、「わが軍はこんなに弱いです!」と自慢したりする背景には、よほどの目的があると考えなければならない。

まず昨年の国防総省(ペンタゴン)リポートは、そもそも「議会用」に発表されたものなので、米軍側が「国防費の予算を獲得するために、議会に向けて発信したもの」と解釈することもできる。

しかし、それは国際社会にもオープンにされるので、中国を含めた多くの国の知るところとなる。

となると、もっと別の目的があるだろうことが考えられる。

それを理解するには、今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性があると証言したデービッドソン司令官が、公聴会で「(中国が)やろうとしていることの代償は高くつくと中国に知らしめるために、オーストラリアと日本に配備予定のイージス・システムに加え、攻撃兵器に予算をつけるよう議会に求めた」ということに注目しなければならないだろう。

すなわち、「中距離弾道ミサイルの日本配備」を求めているということだ。

前述したように米露間にはINF廃棄条約があったため、中国軍が中距離弾道ミサイルを1250発以上保有しているのに対し、米軍は全く持っていなかった。そこでトランプ元大統領はINF廃棄条約から脱退し(2019年8月2日)、アメリカも自由に製造することができるようにして、ポストINFを配備してくれる国を探していた。韓国の文在寅大統領は習近平に忖度して断ったが、オーストラリアの首相は親中派のターンブル氏から嫌中派のモリソン首相に替わったので、候補地としてはオーストラリアと日本ということになる。

6年以内に中国が台湾を武力攻撃すると言ったのは、日本には尖閣諸島があり、すぐさま影響を受けるだろうことを示唆したものだ。日本が自国を守りたければ、矢面に立つ覚悟を持てという意味で、「米軍は中国軍より弱い」と誇張して、本気で「中国軍に脅威を感じている」と日本にシグナルを発する。

もっとも、米軍全体の軍事力は中国軍より強かったとしても、第一列島線の戦闘において中国は、いざとなれば全ての軍事力(中国人民解放軍200万人以上)を投入することができるのに対して、有事の時にアメリカが投入できる軍隊は30万人にも満たない。それも在日米軍や在韓米軍および第七艦隊も含めてのことだ。これは全米軍の20%程度で、中国が100%の兵力を使えることと、中国には航空母艦からでなく「陸地にあるミサイル全てを使うことができる」というメリットがあることを考えれば、たしかに米軍は弱いことになる。

となればなおさら、日本には以下のようなことが求められていることになる。

 (1)ポストINFとして中距離弾道ミサイルを日本に配備すること。

 (2)憲法を改正して日本が軍隊を持つこと。

 (3)在日米軍の経費を日本が増額すること。 

 (4)何よりも残り80%の米軍に代わって日本が矢面で戦う覚悟を持つこと。

日本にとっては実に厳しい現実が目の前に横たわっている。

◆中国が台湾を武力攻撃するのは、どういう場合か?

それでは、中国は本気で台湾を武力攻撃するだろうか?

アメリカが日本に「脅し」をかけている前提が、正しいか否かを先ず考察してみなければならない。詳細なシミュレーションはまた別途行うとして、中国が台湾を武力攻撃する場合をストレートにひとことで言うなら、「台湾政府が独立を宣言しようとした時」である。

台湾政府が独立を宣言しようとする動きに出なければ、中国(大陸、北京政府)は台湾を武力攻撃することはないだろう。

理由はいくつかある。

 その一:たとえ上記のような米軍に関する不利があろうとも、中国軍の軍事力はまだ不十分で、米軍に完全に勝利できるという保証がない。負け戦をすれば、一党支配体制は崩壊する。

 その二:戦争を起こせば、人心が乱れて社会不安が増す。社会不安が増せば、一党支配体制は揺らぐ。

 その三:戦争になれば台湾の無辜の民の命を奪うことになり、国際社会からの厳しい制裁を受ける。その制裁の程度は天安門事件や香港問題あるいはウイグルの人権問題の比ではなく、中国は孤立して中国経済が成立しなくなる。そうすれば一党支配体制が崩壊する。

このように、いくつもの理由があるため、台湾政府が独立を叫ばない限り、中国が積極的に武力攻撃することはない。

ならば、なぜ現在、台湾周辺で中国軍の軍事活動を活発化せているかと言うと、アメリカが台湾を支援して政府高官を台湾に送り込んだりしているからである。活発な軍事活動は2020年8月のアザール厚生長官の台湾訪問から始まった。だからアメリカと、それを喜んで受け入れている蔡英文総統に威嚇しているに過ぎない。

ではトランプ政権はなぜアザールを訪台させたかと言うと、そこには米中のハイテク競争がある。これに関しては、追ってまた機会を見て分析する。

(なお、中国が軍事活動を活発化させたもう一つの理由に、香港デモに影響を受けた台湾独立派の動きがある。これは習近平の自業自得で、書きたいことが多いが、文字数の関係上、別途考察することとする。)

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.