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ケリー特使訪中――アメリカ対中強硬の本気度と中国の反応
ケリー米大統領特使(写真:ロイター/アフロ)
ケリー米大統領特使(写真:ロイター/アフロ)

アメリカのケリー気候変動特使が14日に訪中するようだ。その真意はどこにあるのか?アメリカの対中強硬姿勢は本物なのか。中国の反応を含めて考察しようとしたところ、とんでもない結果が待っていた。

◆ケリー特使訪中に関する報道

4月11日、アメリカのワシントン・ポストはケリー大統領特使(気候変動問題担当)が週内に中国を訪問すると報じた。訪問地は上海で、解振華・中国気候変動事務局特別代表と会談するとのこと。もし実現すれば、バイデン政権では初めて訪中する高官となる。ワシントン・ポストによれば、アメリカが4月22日と23日に「気候変動サミット」を主宰するので、中国に協力を求めるためだという。

本日(13日)の報道によれば、どうやらワシントン・ポストの報道は正しく、14日に上海に行くようだ。

日本の一部メディアは、「中国側には深刻になっている米中関係の改善に向けた糸口を探るねらいがあるとみられる」と勝手な憶測をしているが、本当だろうか?

◆ケリーに関する中国での報道

ケリーに関する中国での大きな報道の一つは、2月4日にさかのぼる。この日ケリーが大統領特使として、初めて中国に関して言及したからだ。

ロイター電によれば、ケリーは以下のように述べているという。

――私は間もなく解振華(Xie ZhenHua)と会うでしょうが、彼は地球温暖化問題における中国の「リーダー」であり「強力な推進者」です。私は解振華とは20年ほど一緒に仕事をしてきたので、彼のことはよく知っています。彼は2007年から2018年まで、世界の気候変動交渉において中国代表団を率いていました。バイデンは、前任者であるドナルド・トランプが地球温暖化に取り組む国際的な気候協定であるパリ協定から米国を脱退させた後、米国を再びパリ協定に戻しました。

2014年に米国と中国が気候変動問題で提携したことは、バイデンが副大統領だった2015年のパリ協定の仲介に極めて重要な役割を果たしたと思います。解振華氏は長い間リーダーであり続けました。私たちはお互いを知っており、これまでの互いの努力に互いが敬意を払っていると私は思っています。(以上、引用)

このようにケリーは、今回会うことになっている解振華を褒めちぎっている。それも尋常ではない褒めようだ。

それもそのはず。3月23日に中国とEUおよびカナダが主催するオンラインでの第5回気候行動に関する閣僚会議(Ministerial on Climate Action=MOCA)に、アメリカは久々に戻ってきて「参加させてください」という立場にあったからだ。

解振華はこのオンライン会議でアメリカがパリ協定に戻ってくることを「歓迎する」と表明した。

この一言が欲しかったからだと推測される。

◆ケリー特使の祖先は上海でリッチになったフォーブズ・ファミリー

それだけではない。

実は200年ほど歴史を遡らなければならないほどの、ケリーと中国の深い縁(えにし)がある。

ケリーのフルネームはジョン・フォーブズ・ケリー(John Forbes Kerry)だ。

つまりフォーブズ・ファミリーの一族なのである。

フォーブズ・ファミリーの財産は、主として19世紀初頭における北アメリカと中国の間でのアヘンとお茶の取引によって蓄えられたものだ。フォーブズ・ファミリーが1840年のアヘン戦争以降にアヘン貿易で設けた財産は、上海の銀行に置いていたらしい。

だからケリーはこれまでも、何かにつけて訪中しては訪問地として「上海」を選んでいた。

今般、中国側代表の解振華と会うのも上海である。

言うならば上海は彼の祖先の故郷、おそらく「心の故郷」でもあろう。

◆ケリー訪中に対する中国の反応

ケリーは「気候問題で中国と協力するからといって、それは決して中国と妥協したり、取引をしようと思っているということにはつながらない」と言ってはいるが、「果たしてどうだろうか?」というのが中国報道のニュアンスだ。中国側は「上から目線」に立っている。

したがって日本の一部のメディアが報道しているように、中国側に「米中関係の改善に向けた糸口を探るねらいがある」というのは日本側に都合のいい邪推であって、中国のネットでも「ケリー、来るな!」といったトーンのネットユーザーたちのコメントが多い。

要するに、中国側が米中の融和を求めてアメリカにすり寄ったという要素はほぼ皆無で、むしろアメリカが「本当に対中強硬姿勢を貫くつもりなのか」と第三者に疑念を抱かせる要素の方が多いのである。

◆「ケリー来るな!」が、やがて日本批判に

もっとも、中国のネットでは最初の内は「ケリー、来るな!」だったのに、時間がたつにつれて「おい、ケリーよ!本気で環境問題を考えているのなら、まず日本に行け!原発処理水を海に垂れ流すなと日本に言え!」というのが増え始めた。

「近隣諸国や国際社会に相談もなく、人類共通の海を日本が一方的に汚染させることは許さない!」といった対日批判が湧き出し始めたのだ。中央テレビ局CCTVには日本の福島県の漁業従事者たちの不満の声が「日本語」で流れるので、どの国のテレビを観ていたのかと混乱してしまうほどだ。 

しかし、それは紛れもない「日本人の声」である。

「何の相談もなかった」とか「きちんと説明してから実行に移して欲しい」あるいは「絶対に反対だ!」といった日本人の漁業関係者の声を、CCTVは「これでもか」とばかりに拡散させている。

この時期に、こういう事態を惹起させるような動き方を日本政府にはしてほしくない。

アメリカの本気度を分析しようと原稿に手を付けたが、蓋を開けてみれば、なんと、ケリー訪中にかこつけた日本批判が中国のネットに溢れているではないか。

何とも不愉快な現実だ。

東京オリンピック招致に当たり、安倍前首相は「福島はコントロール下にある」と高らかに英語で国際社会に宣言している。だとすれば同様に、「どのようにコントロールされているから、このような措置を採る」といった類の説明を、日本国民に対してだけでなく国際社会にも丁寧に発信してから決定の表明をすべきだったのではないだろうか。

このようなことで日本が批判にさらされるのは不愉快でならない。日本にとって不利でもある。絶対に避けてほしかったと強く思う。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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