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軽症者自宅待機の危険性、アメリカ医師会論文が警鐘
2020年4月24日
軽症患者を集中的に隔離・治療する臨時病院(写真:新華社/アフロ)
軽症患者を集中的に隔離・治療する臨時病院(写真:新華社/アフロ)

日本でも自宅待機軽症患者の死亡が報道されたが、アメリカ医師会雑誌には軽症者を隔離しないと感染拡大は止まらないという論文が発表された。日本も緊急に軽症患者の隔離を進めるべきだ。

◆JAMA「アメリカ医師会雑誌」、武漢を例に分析

今年4月10日のAmerican Medical Association(AMA=アメリカ医師会)がウェブサイトで出版している学術誌JAMAは、“Association of Public Health Interventions With the Epidemiology of the COVID-19 Outbreak in Wuhan, China”(中国武漢におけるCOVID-19 のアウトブレイク疫学に対する公衆衛生的介入による関連性)という論文(以下、論文)を掲載した。

論文の作者は武漢にある華中科技大学やアメリカのハーバード大学の研究者(博士)など5名である。

論文は、武漢における新型コロナウイルス肺炎(COVID-19 )(以下コロナ)の患者に対する各時期の処置と効果の相関関係を分析している。

分析対象としたのは感染爆発を起こしたあとにコロナから脱却した中国湖北省武漢市における軽症者の扱いと感染減衰との相関である。

結論を先に言えば、武漢市も初期の間は軽症者に対する隔離治療を行っていなかったのだが、そのままでは感染拡大が収まらなかった。そこで軽症者を隔離病棟に入院させると、感染者数が「急激に」減少し始めたという分析である。

軽症者を隔離治療させなければならないと強調したのは、中国の伝染病学や免疫学の権威である鍾南山院士だ。3月18日のコラム<中国はなぜコロナ大拡散から抜け出せたのか?>に書いたように、鍾南山は「軽症者が自宅にいて家族に感染させたり、全く外出しないというわけにはいかないので周辺住民にも感染が広がったり、何よりも軽症者が突然重症化するケースがあるからだ」と何度も言っている。

軽症者が突然重症化することに関しては、鍾南山は別のコメントで何度も警鐘を鳴らしている。それは現場における経験からの警鐘だった。

その忠告により軽症者をも方艙(ほうそう)医院(急遽建てた臨時病院)などに隔離して医者の観察を続けることにした。

論文は、その論理的根拠に対して数量的分析をしたものだと位置づけることができる。

これは、現在の日本における軽症感染者の措置に関して、非常に有効な判断基準の一つとなり得るので、以下に詳細にご紹介する。

◆感染拡大プロセスを5段階に分けると見えてくる軽症者の扱いの重要性

日本では、ともかく重症者を最優先というベッドの奪い合いをしているが、もちろん重症者を優先するのは重要であるとしても、国家の方針としては、本気で感染拡大を抑えようと思うのなら、軽症者の扱いが、その国にとっての分岐点になることが見えてくる。

以下の図をご覧いただきたい。

この図は論文が描いたコロナ感染者数と軽症者の扱いにフォーカスを絞った考察である。本来ならフーリエ変換やラプラス変換などをして大型プログラムを組めば「相関関数」が出て来るし、かつて数理統計学的に分子動力学の相関関数のコンピュータ・シミュレーションに燃えた経験のある筆者としては非常に興味をそそられるところだが、まあ、生データがあるわけでもないし、そのような体力が残っているわけでもないので、ここではあくまでも論文での分類に従って解説することとしよう(論文執筆者の中には純粋な数理統計学者も入っている)。

説明しやすいように、論文で描かれている図に、筆者が独自に「1」~「5」の番号を記入した。加筆したのはサーモンピンクの数字のみである。他は論文通り。

1. 第1段階(Start of the Chunyun period)

2020年1月10日以前の春節の大移動(Chunyun、春運=春節運送)を第1段階とした。この時期、コロナに特化した介入(政府の対策)が何も行われていない。

2. 第2段階(Announcement of human-to-human transmission)

第2段階は、大規模な人口移動が発生し、コロナの伝播を加速させると予想された2020年1月10日から22日の春節期で、1月20日に医療従事者の間における「人から人への感染」が公表された。(筆者注:これはこれまでのコラムで何度も書いてきたように、1月19日に鍾南山が武漢協和医院に行き、「人-人」感染があると直感して北京に戻り李克強に報告して、1月20日に習近平の「重要指示」が出されてことを指しているものと思う。科学的論文なので、その辺の政治的動きを一切省略したのだろう。)
この段階においては、強力な公衆衛生上の介入を行っておらず、病院は発熱や呼吸器症状のある患者で過密状態になり始めた(→医療崩壊に近づいた)。
この段階で感染者はひたすら増え続けている。

3. 第3段階(Start of Wuhan cordons sanitaire=武漢封鎖開始)

1月23日に武漢封鎖が始まった。第3段階は「1月23日から2月1日までの間」で、自治体はまず市内からの交通機関を封鎖し、その後、公共交通機関の運行を停止し、市内の車両の通行を全面的に禁止した。また、公共の場でのマスク着用の義務化や懇親会の中止など、社会的距離を縮めるための措置がとられた。この時期は医療資源が不足していたため、確定・推定患者の多くがタイムリーな診断・治療を受けることができず、自宅での自己隔離を余儀なくされた。
特に2月1日に急増しているのは、確定患者であるか否かに関する判断基準を変えたからである。湖北省におけるPCR検査キットが不足したので、CTスキャンで胸に影がありコロナに相当する症状がある者は「とりあえず陽性」扱いとして入院治療するようにしたからである。

4. 第4段階(Centralized treatment and quarantine strategies for 4 categories of people)

この期間は2月2日から16日までで、集中的な隔離と治療を伴う対策が強化実行された。感染者のカテゴリーは以下の4つに分類された。これに関しては3月26日のコラム<中国の無症状感染者に対する扱い>に詳述したが、論文の分類と多少異なる。より詳細な分類はコラムの方を参照して頂きたい。以下は論文に従う。

  • 確定患者
  • 推定患者
  • 熱と呼吸症状のある患者
  • 濃厚接触者

2月2日には、医療資源の改善に伴い、陽性確定者・推定者、発熱・呼吸器症状のある者、確定者の近親者を指定の病院や施設に隔離して治療する集中検疫政策が実施された。

何よりも重要なのは、この時期から「軽症者を施設に隔離し、観察・治療を行ったこと」と「無症状感染者の施設隔離観察」が徹底されたことである。

その結果、第4段階から急激に感染者数が減少し始めている。

5.第5段階(Universal symptom survey)

期間は2月17日から3月8日まで。政府は数千人のコミュニティワーカーの支援のもと、武漢全住民(隔離されていない一般市民)を対象に戸別・個人別の症状スクリーニングを開始した。そのため2月17日に感染者の増加が見られる。全住民に対する無差別抽出(統計的に有効性のあるランダムサンプリング)によって調査したため、その結果が感染者数の増加に現れている。

しかし、それは逆に感染者の減少に貢献し、3月に入ってからの劇的減少につながった。

以上から論文は軽症者を隔離させることがいかに重要であるかを強調している。

◆イギリスのテレグラフ紙「隔離だ、隔離だ、そして隔離だ」

この論文を受けて、4月20日のイギリスのテレグラフ紙はGlobal Health Security(公衆衛生セキュリティ) Science & Disease(科学&疾病)面で“Isolate, isolate, isolate: China’s approach to Covid-19 quarantine could be the most effective”(隔離だ、隔離だ、そして隔離だ:中国のコロナ隔離へのアプローチが最も有効的だ)という報道を載せている。

報道では上記のJAMA論文を基にしながら「武漢は初期段階において軽症患者を自宅待機するようにしていたが、それでは効果がなく、感染を蔓延させていた。しかし臨時病院という隔離施設を作って軽症患者を隔離してから、感染が急落した」としている。

日本は何と言っても経済再生担当大臣をコロナ対策の司令塔に任命するという状況なので、人命は二の次になっている。政府のお金を出し惜しんで、「休業補償」も全国的に制度化することもなく、これまでは、「軽症者の隔離治療」や「無症状感染者の隔離」に国家予算を注ぐ方針を取らなかった

自宅待機を余儀なくされた軽症者から死亡者が出たことにより、ようやく全国的な措置の方向に動き始めてはいるが、それも緊急に徹底させるという感じではない。

東京都などの自治体が先行してホテル借り上げを実施し始めたために、ここに来てようやく一部のホテルを一部の自治体で隔離のために確保する動きに出始めているが、それも国家の決断として一律に行っているわけでなく、無償提供という、経営難に陥っているホテル側にとっては二重の苦しみに追いやられているケースもある。

これではいつまでも感染拡大を防ぐことはできないだろう。

できるだけ80%の「自粛」ではなく、国が「休業補償」を付けて短期間に休業の指示をすべきなのである。「自粛」は「自己責任」に等しい。おまけに補償しない。

日本人のモラルの高さに頼って「責任を個人に転嫁」しているのと同じだ。

カビだらけのマスクを2枚配布することで責任を逃れるなどは言語道断。このようなことで人命を守れるとでも思っているのだろうか。

安倍内閣はコロナ対策に関して無責任だ。猛省を求める。 

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.