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中国の無症状感染者に対する扱い
2020年3月26日
体育館から改造された武漢の臨時病院(提供:新華社/アフロ)

中国では新型コロナウイルスによる無症状感染者を患者として扱っていないためデータ公表しておらず、本当は累積12万人以上の感染者がいたのではないかと推測されている。中国はどのようにして無症状感染者を見つけ対処したのかを考察する。

◆無症状感染者に対する中国の対策

3月24日、日本のメディアは一斉に「中国湖北省では無症状の新型コロナウイルス感染者がいまだ相次いでいる」と報じた。3月23日付けの中国メディア「財新」が報道したからだ。また香港のサウスチャイナ・モーニング・ポスト (South China Morning Post、南華早報=南早)が「中国政府の機密情報により、先月末時点で無症状の感染者4.3万人以上が統計から外されていた」と報じていると、RFIも同時に報道している。

この中に「機密情報」という言葉があるために「中国は今もなお感染者数を隠蔽しているのではないか」という疑念が世界を駆け巡った。

しかし、この対策が良い方法であるか否かは別として、中国は早くから「無症状感染者は患者の数の中に計上しない」と宣言している。そのことは前掲の3月23日付けの「財新」にも明記してある。

ただ、ウイルスの正体と症状と推移が、中国の衛生保健当局にも十分にはつかめなかったので(今も未知の部分が多いため)、無症状感染者の取り扱いに関する対策は試行錯誤的で、たしかに二転三転している。

たとえば2月5日には中国のCDC(Centers for Disease Control and Prevention)(アメリカ疾病管理予防センター)に相当する中国疾病制御センターは「しばらくの間、無症状感染者を患者数(治療すべき確定患者数)に含めて同時に報告すること」という指示を出したが、2日後(2月7日)には、「両者を分けて、無症状感染者は単独で別途の人数として報告するようにせよ」と変更した。

つまり、「無症状感染者と確定患者を分けて管理する」という「第四版防控方案」(疾病防御方案、第4ヴァージョン)に基づいて報告するというやり方を採用することになったのである。それまで診断基準には

  • 症状
  • CTスキャン
  • PCR検査

の3種類があり、この3つの条件がそろわないと「確定患者」には分類されていなかったが、第4ヴァージョン報告書では、湖北省におけるPCR検査キットの数が不十分だったため、湖北省に限り「症状とCTスキャン」で診断されれば「患者」とみなして「確定患者」を計算することになった。その結果、以下のように分類して、重症軽症の区別を考慮して入院や隔離などの対応を決めることになったのである。

  1. 確定患者(症状+CT+PCR陽性)
  2. 臨床診断患者(症状+CT)(湖北省限定)
    この内PCR陽性となった者は「1」に分類して統計
  3. 疑似感染者(症状+CT)(湖北以外)
    この内PCR陽性になった者は「1」に分類して統計
  4. 無症状感染者(PCR陽性)

この基準の採用を開始したのが2月12日だったため、湖北省ではその日だけ突然患者数が激増(1日で1.4万人増)しているというデータが出ている。

2月14日には国務院の記者会見で、行政組織である国家衛生健康委員会が「無症状感染者に関しては対外的に公表しないと決定した」と正式に公言した。

「公表しないという決定」が妥当であるか否かは別として、「公表しないという決定をした」という事実を、正確に認識しなければならないだろう。

この決定に関しては中国国内でも少なからぬ疑問と批判がネット上で見られた。

これはたとえば日本の専門家会議で決定を出しても「それはおかしいだろう」という声がメディアで上がるのと類似の性格の「声」である。

◆無症状感染者の割合

国によって無症状感染者の統計的扱いは異なるようだが、ネイチャーの論文によると、無症状(asymptomatic)感染者は全感染者数の30-60%を占めるようだ。したがって中国のこれまでの累積患者数が8万強であるなら、無症状感染者数が4万人強いたというのは、論理的範囲内であるように思われる。

ただ、中国以外のどの国も、中国ほどに「一に検査、二に検査!」と、「ともかく検査が何よりも優先される」という対策を実施しているわけではないので、無症状感染者の数は、他の国でも同じ程度に(場合によっては、もっと)多いのではないだろうか。

日本でも、もし「検査を優先する」という対策を実施していたとすれば、日本の無症状感染者の数はかなり多いかもしれない。街で元気に動き回っている若者の中には、全く無症状でもPCR検査をすれば実は陽性だったという者が相当数いるかもしれないのである。それは私たちのすぐ隣にいるかもしれず、無症状感染者をチェックできるか否かは、今後の感染拡大を予測する重要なファクターの一つになり、対策の取りようも違って来るはずだ。ただ日本では「医療機関や医療関係者の数に限りがあるので、PCR検査を積極的には行わない」と専門家会議で決めているので、日本人はおとなしく専門家の決定に従っているだけのことである。

◆中国はどのようにして無症状感染者を把握したのか

では、中国はいったいどのようにして無症状感染者を把握できたのかを考察してみよう。

それは「濃厚接触者」をほぼ確実に掌握していることに起因する。

中国では3月10日ごろまで、日夜24時間を通して、1時間おきくらいに上記の「1~3」の分類に従って報道していた。各直轄市・省・自治区別に報告が上がってくるので、実際上は2,3分に一回くらいの割合で報道され、そのデータを追いかけていると、一日中何もできないというほど頻繁にデータが更新されインパクトと恐怖を与えた。

もちろん退院者数や死者の数も時々刻々報道していたので、その緊迫度は巨大地震や津波が起きた時のような強烈な印象を与えた。

こうした中で、特徴的なのは濃厚接触者の数が、これも時々刻々更新されて報道されたことである。

この「濃厚接触者を(かなり)正確に掌握している」というのが中国の特徴だ。

たとえば、確定患者およびその患者と接触したAさんが、その後どこでどういう行動をしたかに関する追跡は、中国にとっては「お手の物」なのである。

なんと言っても3億台近い監視カメラが全国くまなく張り巡らされ、14億の全ての人民に身分証番号があり、顔認識カメラにより、顔をレンズが捕えさえすれば身分証番号が出て来る。

番号を入力(あるいはパソコン画面に現れた番号をクリック)しさえすれば、何年何月何日どこで生まれたかに始まり、両親の名前や職業、財産(持ち家の有り無し、貯金残高、借金、車の有無と種類・プレートナンバー…)、犯罪歴…等や、本人の学歴、職歴、趣味、電話番号、交流関係、購買動向など、全ての個人情報が一瞬でパソコン画面上に提示される。

患者を特定すれば、その身分証番号との濃厚接触者を見つけることができ、今度はその複数の濃厚接触者を監視カメラが徹底して追跡してくれる。こうして割り出した濃厚接触者を、まるで犯人捜査のように追跡して「捕まえ」、検査を強行するのである。その中に「無症状だけど、陽性」という人たちが出て来るわけだ。逃げようがない。

まるでブラックユーモアのような逸話もある。

湖北省以外に住む男がいた。ある晩、公安から男に電話が掛かってきて「あなたの奥さんは武漢人ですね。最近武漢に戻ったことはありませんか?」と聞いてきた。男は「はい、妻は武漢人ですが、ここ数ヶ月は武漢に戻ったことはありません」と答えた。すると公安は「そうですか。ただあなたの奥さんは昨日ホテルを取りましたよね。武漢人がホテルを取ることに関して私たちは非常に神経質に監視しているので、念のため何の目的でホテルを取ったのか確認しただけです。武漢に戻ってないのなら大丈夫です」と公安は言い残し電話を切った。少しも大丈夫でないのは男の方で、これにより妻の不倫がばれたという話だが、要は、これくらい緻密に監視網が張られているという逸話である。

◆無症状感染者をどのように扱うのか

問題は、こうして検出した無症状感染者をどのように扱うのかである。

まず一人残らず「施設」に入れて14日間「隔離」し観察する。14日間経っても症状が出ず、かつPCR検査で陰性になれば、そこから24時間後に再度検査し、それでも陰性であるならば、晴れて「無罪放免」となり隔離を解除する。

14日後に相変わらず陽性で症状が出ない者は隔離を続ける。陽性で症状が出れば、当然「患者」となるので、治療病棟に入院させる。

隔離先も入院先も基本的には鍾南山の提案で突貫工事により建てられた方艙医院(コンテナ病院)だ。今では閉鎖されてしまったが、武漢だけでも6万ベッド数あったので、既存の病院と合わせれば医療崩壊を起こさず受け入れることができた。

武漢以外の地域では、たとえば貴州省貴陽市で3月17日に海外から戻ってきた者1名が無症状陽性であることが判明した。この場合は、軍山医院という所に入院させている。

因みに国家衛生健康委員会のHPによれば、最大ピーク時(2月7日)には濃厚接触者数は18万9千660人だが、3月1日の濃厚接触者数は4万6千219人で、3月24日の濃厚接触者数は 1万3千356人となっている。したがって、これから発症して「確定患者」になり得る候補者が相当数いることになる。

その意味で、ここのところ、湖北省や武漢で新規患者数が「ゼロ」であるということが報じられていても、まだ「患者候補者がいるのではないか」ということになるのは事実だと考えていいだろう。特に最近は海外から戻ってくる「逆輸入」患者が湖北省以外で増えている。

3月25日現在における中国の累計患者数は8万1千218人で、累計退院者数は7万3千650人。したがって現在の入院患者数は7,568人である。

中国における、この無症状感染者の推移と対応は、これからの日本における感染の拡大を抑えるために、いくらかでも参考になる部分があるかもしれない。

習近平が人類にコロナ・パンデミックをもたらした真犯人であることに違いはないが、今はともかく日本で感染爆発が起きないように祈るのみだ。

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.