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「習近平が倒れた」という噂の正体 BRICS首脳会議で
インドで開催されたBRICS首脳会議における習近平国家主席とモディ首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

9月12日、BRICS首脳会議に参加していた習近平国家主席が脳卒中を起こして今は北京で昏迷状態にあるという「噂」が世界を駆け巡り、日本でもそれに飛びついている一部のメディアがある。9月24日には訪米を控えているだけに、中国に関心を持っている人なら誰でも、多少はその「噂」の真偽のほどを知りたいと思うだろう。

そこで、その噂がどこから出て、実際はどういう状況であったのか、証拠写真を交えながらその「正体」を示したい。

◆噂を流したのは在米華人の謝万軍で、補強したのはゴードン・チャン

習近平が9月12日、インドのニューデリーで開催されていたBRICS首脳会議でモディ首相が演説しているときに、習近平の席にスタッフが駆け寄り、何か対応しているような状況があった。モディは演説を一時止めて、“Is it OK?” と聞き、習近平が「あ」(=OKです)と短く答えたので、演説を再開したという経緯がある。

その状況は< LIVE: BRICS Summit 2026 at Bharat Mandapam, New Delhi – YouTube>の4:40~5:11あたりの動画で確認することができる。その場面を図表1に示した。習近平と駆け寄ったスタッフを白丸で囲んだ。

図表1:モディ首相が “Is it OK?” と聞いた時の習近平国家主席周辺の状況

インド国営放送DDナショナルのBRICS首脳会議中継動画の一場面

ところがこの動画を基に、「習近平の具合が突如悪くなり、脳卒中を起こして倒れ、早めに北京に引き上げて、301病院に救急搬送され、その後、昏迷状態にある」という一連のポストをXに投稿した人物がいる。在米華人の謝万軍氏だ。8月14日からこのことに関する投稿を始めたのだが、8月15日に、対中強硬的な政治評論家として有名な米国のゴードン・チャンが謝万軍のポストを引用してXに投稿したので、謝のポストは権威づけられ勢いづいて激しさを増していった。

ゴードン・チャンは、2001年に『やがて中国の崩壊がはじまる』(邦訳)という本を著し、「2011年に中国は必ず崩壊する」という予測をしたことで知られる、日本でも「もてはやされた評論家」だ。これが信憑性を招き、英文メディアでも取り上げられたために、世界中に広まったのである。

では以下、9月14日から17日までの謝の一連の投稿の一部を、ゴードン・チャンの投稿とともに列挙する。

●9月14日
最初は<習近平がBRICS会場で失神したらしい、医療チームの処置で回復し、予定を切り上げ帰国。歩き方やタラップの上り方を根拠に「過去にも脳卒中・一過性脳梗塞があった」と推測>。その後、<夕食会欠席、モディの “Is it OK?” という言葉を失神の傍証とした>

さらに<習近平の姿をAI加工して、習近平が苦しんでいるような顔を創り上げている>https://x.com/WanjunXie/status/2099354941995258189。(筆者注:なぜかここだけハイパーリンクができないので、URLをこのまま残します。)

謝がAI加工した習近平の顔と姿勢を図表2に示す。

図表2:謝がAI加工で創り上げた習近平の姿

謝のポストの画面キャプチャー

●9月15日
すると、翌15日、ゴードン・チャンが謝のポストを引用しながら<習近平の体調が良くない。今回ばかりは、中国は彼の容態を隠し通すことができない>と投稿。その画面を図表3に示す。

図表3:米国の著名な政治評論家ゴードン・チャンがXに投稿したポスト

ゴードン・チャンのポストの画面キャプチャー

謝はその後、<「301病院の専門家が虚血性脳卒中/一過性脳梗塞と診断した」と、病名を具体化>https://x.com/WanjunXie/status/2099711606343008276するに至る(筆者注:ここもなぜかハイパーリンクができないので、URLをそのまま残します)。

9月16日
謝は、<「習近平は北京到着後、軍用ヘリで301病院へ搬送」、「重度の虚血性脳卒中」、「治療の好機を逸した」>などと投稿。さらに<手術後ICUに入り、生命の危険がある>と具体化が続く。

●9月17日
謝は勢いづいて<飛行の中で脳梗塞の範囲が拡大し、北京到着時には昏睡状態で、重症化>と投稿し、さらに<15日から301病院の習近平治療区域が戒厳・通信遮断状態になった>とも投稿している。

●9月18日

謝は<「5日間姿を見せなかったのは昏睡していたため」、「18日になって反論が増えたのは、意識を回復したため」>などと説明しているが、事情は全く違う。

インドだけでなくロシアやトルコなどが、別のアングルから撮影した証拠写真を公開し、謝が掲載した習近平の画像を「AI合成された偽物だ」と断定し始めたからだ。

◆実際は同時通訳イヤホン受信機の不具合

この噂があまりに世界に広がったため、まずインディアン・エクスプレスが<インドの外務省が、習近平が体調を崩したとの噂を否定した>

続いてロシア国営テレビ「ロシア1」がBRICS会場で撮影した別アングルの映像を用いて、インドのメディアWION が9月17日に、<事実確認:モディ首相はなぜBRICS首脳会議で習近平国家主席に「それでよろしいですか?」と尋ねたのか?新たな動画が明らかに…>というタイトルで紹介した。

その映像では、モディが “Is it okay?” と尋ねる直前、習近平の同時通訳用イヤホン・受信機に不具合が生じ、中国側・インド側スタッフが機器を調整している様子が確認できる。それら一連の画像を図表4に示す。

 

図表4:同時通訳イヤホン受信機の不具合を訴える習近平と駆け寄って対応する会場のスタッフ

ロシア国営テレビ「ロシア1」動画の画面キャプチャー

これに関しては短いYouTube動画もあるので、読者の方々には是非ともご確認いただきたい。

9月18日になると、フランス24も<この動画は習近平氏がBRICS首脳会議で失神したことを証明するものではない>として、同様の画像情報を公開した。

またトルコ系メデイアClash Reportが同じ動画を投稿しながら以下のように分析している

  • ニューデリーで開催されたBRICS首脳会議で習近平国家主席が失神した、あるいは脳卒中を起こしたという主張は、虚偽であることが判明した。
  • インド外務省は公式に「偽情報警報」を発令し、これらの投稿を「悪意のあるもの」と指摘した。
  • この噂は、中国の亡命反体制派人物から発信されたもので、習近平国家主席が晩餐会を欠席したことや、モディ首相が演説中に言葉を詰まらせる様子を映した動画が公開された後に広まった(後に、これは習主席がイヤホンの通訳音声が途切れたことを合図したものであり、健康上の問題ではないと説明された)。
  • 習国家主席は両日とも出席し、モディ首相と二国間会談を行い、予定通りに出発して北京に戻った。(以上、フランス24より抜粋)

 

◆現状

現状としては、習近平はまだ公けに姿を現していない。しかしたとえばインド政府の報道情勢局などのフォト・アルバムなどを見ると、図表5のように、倒れているはずの9月13日、習近平はモディやプーチンらとにこやかに談話している。

図表5:9月13日、モディ首相やプーチン大統領と談笑する習近平国家主席

インド政府の報道情勢局のフォト・アルバムから転載

おそらく9月24日に予定されているトランプとの会談に向けて体力を温存すべく、習近平は今ごろ中南海で休養を取っているにちがいない。23日には北京を出発するだろうから、世界はその姿を確認することができるかもしれない。

なお、本来、今回の原稿は「習近平訪米の計算式」Ⅳ(BRICS編)を書くつもりでいたのだが、とんでもないフェイクニュースが世界を水面下で駆け巡る事態になってしまったので、やむなくその真相解明を試みた次第だ。

こういったフェイクニュース、ほとんどの場合、在米華人華僑から湧き出てくる。米国に渡った華人華僑の「目立たなくては生きていかない」という「生計のためのあがき」が成せる業(わざ)で、なんとも哀しい。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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