
7月2日、米政府のトミー・ピゴット報道官は、ルビオ国務長官と中国の王毅外相が6月30日に行なった電話会談に関して、「トランプが提唱した建設的な戦略安定関係構築の重要性を協議した」と発表した。5月14日の北京における米中首脳会談において習近平が提唱した「米中の建設的な戦略的安定関係」提案を、なんと、トランプが提唱したと表明したのだ。
これは5月17日の論考<米中首脳会談 台湾問題で譲歩引き出せず 習近平「米中の建設的な戦略的安定関係」でトランプを逆縛り>の分析が正しかったことを証明してくれると言っていいだろう。すなわち、習近平が提唱した「米中の建設的な戦略的安定関係」は、まさにトランプが唱える「G2構想の裏返し」であったことになる。
◆ルビオが「建設的な戦略的安定関係」はトランプが提唱したと位置づけ
冒頭に書いた米側の発表は米政府の国務省ウエブサイトに掲載されている。タイトルは「ルビオ国務長官と中共中央外事工作委員会主任兼外相の王毅氏との電話会談 – 米国務省」だ。そこには以下のような非常に短い文章がある。
――以下は広報担当のトミー・ピゴット氏によるものだ。マルコ・ルビオ国務長官は、中国共産党中央外交委員会弁公室主任兼外相の王毅氏と会談した。ルビオ長官は、トランプ大統領が提唱した「公平性と相互主義に基づく建設的な戦略的安定関係」構築の重要性について話し合った。(米国務省の発表は以上)
こんな短い文章の中に、【トランプ大統領が提唱した「公平性と相互主義に基づく建設的な戦略的安定関係」】という、とてつもなく決定的な文言があることを見逃してはならない。
5月14日に北京で米中首脳会談があった後、日本のメディアは横並びで、押しなべて習近平が提唱した「米中の建設的な戦略的安定関係」を「日本人が好む、日本人だけに通用する中国問題」の視点から解説し、誰一人この言葉をトランプの「G2構想の裏返し」であることを指摘できる中国問題研究者はいなかった。そういうことをしない無難な日本流解釈でお茶を濁し、テレビ番組を終わらせるというのが日本のテレビの役割のようで、観るに値しないのに、何度も同じことを言われて、結果、洗脳されていくというのが日本だ。洗脳というか、それによって平均的意識が形成されていくというパターンだと言っていいだろう。
思考能力の劣化を招き、日本国民に如何なるメリットも運んでこないと思うが、日本のメディアはそういう循環で成り立っているから筆者一人が何か言っても何がしかの効果を惹起することもないかもしれない。
しかし、国際的な視点に立ち、ファクトのみを追いかけていけば、確実な証拠が手応えある形で存在しているのを発見することができる。
ルビオが言った【トランプ大統領が提唱した「公平性と相互主義に基づく建設的な戦略的安定関係」】という言葉は、習近平の提唱した「米中の建設的な戦略的安定関係」は、まちがいなくトランプのG2構想の裏返しであり、昨年10月30日の韓国での米中首脳会談後に発したトランプの「中国を倒すのではなく、協力することによってアメリカは強くなる」という名台詞と同等だということが、ルビオの言葉によって証拠づけられる。
このことに関しては拙著『G2構想 勝つのは米国か中国か』のp.209~p.221にある【G2構想 習近平「時間はわれわれの味方」】で詳細に考察した。
◆中国側発表にある「台湾問題」が米側発表にないわけ
中国政府の通信社である新華社は7月1日、<王毅は米国務長官ルビオと電話会談した>という見出しで、二人の会談内容を概ね以下のように紹介している。
- 王毅は、「今年5月に習近平国家主席とトランプ大統領が北京で一連の重要な合意に達し、建設的で戦略的かつ安定した中米関係の構築、戦略的指針の提供、今後3年間およびそれ以降の中米関係の方向性の明確化などを達成した」と述べた。
- 王毅は「建設的な戦略的安定関係」の構築は(米中)両国の人々の意思であり、国際社会の希望であり、中国と米国の根本的利益でもある。両国は干渉を排除し、障害を乗り越え、この正しい方向に断固として前進すべきである」と述べた。
- 王毅は「建設的な戦略的安定関係」を築くことは単なるスローガンではなく、行動を起こし、互いに近づき、時間をかけて成果を上げることが必要だ。この目的のために、両国は協力リストを拡大し、より前向きな議題を作り出し、同時にさまざまなリスクや隠れた危険を管理するための課題リストを減らすべきだ。台湾問題は密接に絡み合っており、米国が台湾関連問題を最大限慎重に扱うことを望む」と述べた。(新華社情報の概略は以上)
いつものことだが、中国側の発表は常に長い。
ルビオと同じく「建設的な戦略的安定関係」ばかりを唱えているが、最後に違うのは「台湾問題」に関して、である。さまざまなリスクや隠れた危険を管理するための課題の一つとして「台湾問題は密接に絡み合っており、米国が台湾関連問題を最大限慎重に扱うことを望む」と述べている。
「台湾問題」に関して米側が発表しないのは当然のことで、5月14日の北京会談でも習近平が「台湾独立」問題に関して「処理を誤れば、両国は対立し、場合によっては衝突に至り、米中関係全体を極めて危険な状況に陥れることになる」とトランプに迫ったのに対して、会談ではトランプは何も切り返さなかった。しかし会談後の翌15日の取材に対しては個別にトランプ個人の見解として「台湾独立を望まない」ことと「(台湾有事が発生した際)米軍が援軍に行きたいとは思っていない」主旨の回答をしている。
これに関しては前述の5月17日の論考<米中首脳会談 台湾問題で譲歩引き出せず 習近平「米中の建設的な戦略的安定関係」でトランプを逆縛り>でも触れたし、拙著『G2構想 勝つのは米国か中国か』でも詳述した。
しかしアメリカ全体としては、6月28日の論考<日本の言論も対象になる習近平の「民族団結法」はなぜ生まれたのか? トランプのG2構想への影響は?>に書いたように、地球上から共産主義国を消滅させるべく、1950年代から米国のCIAが動いてきた。これは1998と2006年に機密解除されたCIAの文書が明らかにしている。1984年以降は「第二のCIA」と呼ばれるNED(全米民主主義基金)が活躍しており、また台湾関係法などもあって、公けに習近平が望む方向の台湾問題に関する(トランプの個人的)見解を発表することなどできるはずがない。
特に11月には中間選挙があるので、トランプとしては米選挙民の心をつないでおくためにも公式には発言しないようにしているものと解釈される。
米国側発表にないからと言って、それを特別の事と解釈する必要はないだろう。9月には習近平の訪米もあるわけだから、ここは触れないまま通り過ぎていくのが、おそらくトランプがいま置かれている立ち位置ではないかと思われる。
以上から読み取れるのは、トランプの「G2構想」への本気度の強さで、それが形成するこれからの世界の新秩序を覚悟しておいた方がいいということである。
なお、7月3日、トランプは米国独立250周年の記念日に際し中西部サウスダコタ州で演説を行い、米国内で再び台頭しつつある「共産主義」を「アメリカの自由に対する致命的な脅威」と表現して激しく非難した。これはあくまでも、中間選挙における予備選で民主党の民主社会主義系候補が相次いで勝利したことを指している。トランプは、これらの候補を「共産主義者」と呼んで攻撃し、中間選挙に勝とうとしている。ベネズエラやイランを攻撃したことの正当性を主張する一環として米国内の民主党を罵倒するための発言であって、習近平が統治する中国共産党を念頭に置いたものではないことを留意しなければならないだろう。
習近平の9月訪米を成功させて中間選挙に有利な方向に持って行こうとしているトランプにとって、G2構想の成功を自ら否定するような言動をしているとは思えない。そのことを念のため付言しておきたい。
この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。
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