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ホルムズ危機を予測してか、ロシア石油輸入を40.9%も増やしていた習近平
習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

中国の税関総署は3月20日、今年1月と2月におけるロシアからの石油輸入が40.9%も増加していたことを発表した。習近平はホルムズ海峡危機を予め予測していたのだろうか?

◆ロシアからの石油輸入が40.9%も増加していた

今年3月20日、中国の税関総署は今年1月と2月におけるロシアからの石油輸入量が40.9%も増加していると発表した。そのデータは税関総署の検索システムのデータで確認することができるが、そこにたどり着くには非常に複雑な手順を必要とする。公表したデータだけを説明すると「2026年1月から2月にかけて、ロシアは中国に2179.5万トンの石油を輸出し、前年同期比で40.9%増加した」となる。このことは同日、ロシアのスプートニク通信社も発表している

2026年3月20日時点における中国税関総署のデータにより、中国の石油輸入先国のシェアを表すと図表1のようになる。但し、イランからの迂回ルートによる輸入は、フランスにある原材料·物流データ提供企業Kpler(ケプラー)のデータ(データ自体は有料)に基づく。

図表1:2026年1月‐2月 中国原油の主要輸入先国のシェア

Kplerと税関総署のデータを基に、図表は筆者作成

これを3月3日の論考<イラン爆撃により中国はダメージを受けるのか?>の図表2と比べてみよう。

図表2:2025年 中国原油の主要輸入先

Kplerと税関総署のデータを基に、図表は筆者作成

図表2と図表1を比較すると、今年1-2月の時点で、明らかにロシアやブラジルからの輸入が増え、中東諸国からの輸入が減っている。

しかし、ここに非常に不可解なことがある。

アメリカ・イスラエルによるイラン攻撃は2月28日なのに、なぜ1月、2月のロシア石油が増えたのか、という問題だ。その「なぜ?」を解明しよう。

 

◆習近平はトランプの対イラン姿勢を察知していた

その回答は、トランプ2.0になってからの、トランプの対イラン姿勢にある。

まず昨年6月23日の論考<トランプがイラン核施設爆撃 中東に底なしの復讐を招く選択をしたトランプの心理と、爆撃効果への疑問>に書いたように、トランプは昨年6月21日夜、いきなりイランの核施設を爆撃した。このときトランプは、昨年6月27日の論考<トランプ「原爆発言」の前にイラン爆撃を「撃て!撃て!」と軽快なロックに乗せて発信 怒る中国のネット>に書いた通り、トランプが広島や長崎への原爆投下を例に取りながら「撃て!撃て!」と軽快なロックのリズムに乗せてイランの核施設と思しき場所を爆撃した。そのことを中国のネット民は怒りを以て非難し、ネットが燃え上がったことがある。

一方、2023年3月12日には、論考<中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元>を書いた。習近平としては「イランとサウジアラビアの和解仲介」の後に起きた中東諸国の和解雪崩現象によって、中東における経済貿易秩序を新たに築くことを狙っていたのだ。

それを「中間選挙に勝つために」木っ端みじんに破壊するトランプのイラン攻撃を、習近平は特別に強い関心と警戒を以て注目していたにちがいない。と同時に、この人(トランプ)は何をやるか分からないと、複雑な思いで警戒してもいただろう。

だから昨年末(2025年12月28日)にイラン反政府デモが起きると同時に、咄嗟にホルムズ危機を予測した。反政府デモの背後にはイスラエルのネタニヤフがいることは分かっているので、トランプとつながりながら行動することは習近平には見えていたはずだ。

案の定、今年1月2日にトランプはイランの反政府デモ参加者に対する弾圧に対して軍事介入の意向を宣言した。1月3日にはベネズエラを奇襲して大統領夫妻を拘束連行している。

次はホルムズ危機だと見越して、陸続きのロシアと中国をつなぐ石油パイプラインを活かして輸入量を増加させ始めたものと推測される。

 

◆中国大陸とロシア・中央アジア諸国をつなぐ石油と天然ガスのパイプライン

習近平が「陸続きの利」を活かして張り巡らしたパイプライン戦略を、視覚的にご覧いただくために図表3を作成した。

図表3:中国大陸とロシア・中央アジア諸国をつなぐパイプライン

公開されている情報に基づいて筆者作成

赤色で示したのが石油パイプラインで、青色で示したのが天然ガスパイプラインだ。北に連なる二大パイプライン以外にも南方に第三のパイプラインがあるが、このたび大きく活躍しているのはロシアへと伸びるパイプラインである。

なぜならアメリカはウクライナ戦争が起きるとロシアからの石油や天然ガスおよび液化天然ガスなどのエネルギー資源の輸入を禁止していた。それは国連制裁ではなくアメリカによる制裁なので、中国は従っていない。

ところが昨年10月29日になって、トランプが再びロシアからの石油輸入に制裁を科した。「俺が大統領になったら、ウクライナ戦争を1日で終わらせてやる」と豪語していたのに、なかなか話がまとまらないので、プーチンに脅しをかけるために石油制裁を宣言したのだ。

バイデン政権の時には従わなかった習近平だが、その翌日の昨年10月30日には韓国で米中首脳会議があり、トランプがそれを「G2会議」と称したりして、和気あいあいと会談したものだから、習近平はトランプのメンツを立てるためにロシアからの石油の輸入を少しだけ減らしたのだった。

プーチンとの関係にヒビは入らないのかとヒヤリとして見ていたのだが、 習近平としては、この時期に入ると、トランプとの関係を重んじた方が得だという計算が働いたのだろう。

しかし「気まぐれトランプ」は、今年3月に入って対露石油制裁を解除しているが、習近平は韓国でのトランプとのG2会談を終えたあと、昨年12月からはロシア石油輸入を増やし始めている。

強(したた)かな習近平はトランプに破格の笑顔をふりまきながらも(参照:2025年11月5日の論考<トランプが「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」と発言! これで戦争が避けられる!>)、トランプの中で爛々と燃えている野心を読み取っていたにちがいない。

その証拠に、今年1月2日にトランプはイランの反政府デモに対する軍事介入宣言などをしており、すでに不穏な空気が流れていた。

習近平はすかさず、激しい勢いでロシアからの石油輸入を増加させたという芸当も演じている。

今後はこの増加率がこれまでより激しくなっていくことだろう。

イラン攻撃に関する停戦を呼び掛けながら、それでもトランプに対する名指し批判は避けて、トランプのG2構想に乗りながら、台湾統一に関するディールを仕掛けていこうというのが習近平の戦略だ。

必死になって関連諸国に停戦を呼び掛けながら、習近平は一方では、図表3にあるパイプラインを目一杯活用していくことだろう。

選挙のために、武力によって力づくの戦争を四方八方で仕掛ける、いわゆる「力による平和」を展開するトランプと、経済繁栄のために国際情勢の趨勢を機敏に読み取り、声を潜めて「貿易による離れられない関係」を陸続きで広げていく習近平。

西を見ればパキスタンやアフガニスタンなど、中国の支援を受けている国々が連なっている。そして隣接するのはイランだ。この地政学的利点も活かしながら、習近平の「陸続き戦略」は一層強化されていくにちがいない。

なお、眼前に「ロシア」という「石油と天然ガスの宝庫」を抱きながら、トランプ2.0になってもなおウクライナ戦争で(バイデン政権的思考にとらわれたまま)欧州側に立ち対露制裁から抜け出さない高市政権が、もう少し大局的な視点で世界情勢を俯瞰する思考回路を持っていたら、日本の石油危機は完全に救えるのに、高市総理にはその道を選択する度量がない。習近平の豪快な戦略を見るにつけ、高市氏の狭量さを憂う。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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