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日本に憧れた中国動漫新人類は今どこに?アジア最大級イベント「ビリビリワールド」が席巻する中国発ゲーム
中国の動画配信サイトbilibili(ビリビリ)(写真:VCG/アフロ)

今年7月10日から上海でアジア最大級のイベント「ビリビリワールド」が開幕した。これは決して90年代から2000年代初期にかけて開催された日本動漫(動画=アニメ、漫画)展の中国版ではなく、産業構造そのものが大きく変化している。

2008年に筆者は『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』という本を出版したが、あれから約20年。中国の製造業が日本を追い抜いて世界トップに躍り出たのと同様、今や日本の動漫はかつて中国の若者を惹きつけた圧倒的な魅力と力を失い、むしろかつての日本動漫ファンたちが今や中国のゲーム企業を運営し、その中国製ゲームが日本にも輸出されるようになり、中国国内だけでなく世界を席巻している。

◆日本の動漫に飛びついた1980年代の中国の若者たち

改革開放が動き始めた1980年代初期、鉄腕アトムが上陸すると、中国の若者はおろか大人さえみな「アトム」に憧れ涙した。こんな夢のような世界を楽しんでいいんだ。1966年から76年まで吹き荒れた文化大革命の残虐性から解き放たれた人々は、いやが上にも日本への尊敬と憧憬を掻き立てられた。

映画界でも高倉健が主演した「君よ、憤怒の河を渉れ」が1978年の日中友好条約締結の際に中国の主要都市で初めて公開された時には、中国の社会現象を巻き起こすほどの衝撃を与えた。無実の罪で連行される主人公の姿と、文化大革命での理不尽な扱いを受けた中国人自身の姿を重ね合わせ、観客は涙しながら映画にのめり込み、90年代末になってもなお、友人の北京大学教授が「どうだい?」と言いながら高倉健のポーズを真似するほど、中国人の心に食い込んだものだ。

日本動漫に至っては海賊版の普及により、貧困地でも観ることができるようになったので、2000年代初期で、日本動漫を見ずに育った「80后(バーリン・ホウ)」(1980年以降生まれ)はほとんどいないほどの席巻ぶりだった。

日本に留学する理由が、「日本の先進的技術を学びたい」から、やがて「日本動漫が好きだから」に変わり始めたのは90年代末で、「80后」が留学する年代に入ったころだった。面接する中国人留学生のほとんどが「日本を選んだ理由」として「日本動漫」を一番に挙げる者が急増し始めた。

何ごとか?

何が起きているんだろうという関心を持ったのが『中国動漫新人類』執筆のきっかけだった。留学生教育の現場にいた感触からの着眼だ。

それが今ではどうなっているのか、『中国動漫新人類』を書いた者として気になる。

◆かつての日本動漫愛好者が中国製ゲームを製造し日本にも輸出 

あそこまで圧倒的な影響を中国にもたらした日本の動漫は、まちがいなく中国のかつての若者たちの心に深く刻み込まれており、見向きもされなくなったわけではない。このことは日本のJETROが<中国のアニメに関する市場調査 2025年度更新版>で詳細にリポートしている。ただ日本一強の時代は終わったと言っていいだろう。

問題は日本動漫愛好者だった若者たちが大人になり、かつての愛好を自分の中で消化し、中国独自のビジネス化に動いたということだ。日本動漫に釘付けになったのは、何も1980年に生まれた「80后」ばかりではない。その時に5,6歳だった人、10代だった人たちを含めれば、今はすでにおおむね45歳~55歳の年齢層をカバーしていることになる。日本動漫から受けた影響をビジネスに発揮する年齢はむしろ超えていると言っても過言ではない。

日本動漫全盛期だった90年代、中国政府は「精神汚染」を恐れて、中国製動漫制作の政策を奨励したが、許可制が厳しいので、「まるで幼稚園生に見せる動漫か」と若者たちにバカにされ普及しなかった。

そこで抗日戦争ものなら許可が下りやすいということで奇妙奇天烈な抗日戦争ものが流行り、むしろ中国政府の方で禁止したほどだ。なぜなら、たとえば無数の日本軍を倒すのに一人の軍人が奇術を使ったりなどして一網打尽にするといったバカげた設定で観客を引き付けようとしたりしたので、本当に抗日戦争で犠牲になった人々がかえって侮辱されるというのが、禁止した理由だ。

そんな時代を経ながら、中国では3Dアニメとゲームの世界が激しい勢いで成長し始めた。3Dアニメでは、たとえば特に去年の「哪吒(ナタ、魔童の大暴れ)」は159億人民元(約21.5億ドル、約3800億円)という史上最高の興行成績を出している。日本の手書き2Dアニメの技術を中国は持っていないので、逆にパソコン内で立体的に作りあげる3Dアニメ技術に特化した。

さらに特化したのはゲームだ。

筆者が『中国動漫新人類』を書くための取材を行なっていたときさえ、中国産動漫がまったくダメな状況にあっても、ゲームだけは中国もなかなかに強い側面を持っていた。

中国ではテレビそのものが普及していなかったので、いわゆる任天堂のような外部からテレビに接続する「ゲーム機」はまったくダメだったが、固定電話もなかったことから、いきなり携帯電話が発達したことが幸いして、スマホゲーム全盛時代がいきなりやってきた。

2017年に中国の動画配信サイト「ビリビリ(Bilibili」が始めたBilibiliWorld(BW)というイベントは、いわゆる中国版アニメ展ではなく、「中国企業のゲーム、配信者、バーチャルアイドル、コスプレ、グッズ・・・」などを中心として中国独自の巨大ゲーム産業と結びついた商業イベントへと発展した。

スマホゲームに火を点けたのは、「継続課金モデル」とアニメのように単なる視聴者から、「企業に介入する組織化されたファン」へと変貌していったからと言っていいだろう。

「BW2026」は170社以上、700ブース規模で開催され、ゲーム企業が約130社を占めているという。『原神』や『明日方舟』など中国発ゲームが主役で、上海に住む教え子の一人によれば、上海市も「ゲーム動漫月」として都市政策に組み込んでいるそうだ。

2025年の中国国内ゲーム市場は3,507.89億元(約8.4兆円)程度だが、2023年二次元産業の統計では「二次元ゲーム:803億元(約1.9兆円)(約67%)、アニメ:324億元(約7700億円)(約27%)、漫画:68億元(約1600億円)(約6%)」となっている。興行成績は明確に算出されるが、動画サイトでの収入はやや不透明なので、二次元に限定せず、全体としての正確な統計はない。したがって単純比較は正確には難しい。それでも金額的に比較すれば、大雑把に言って市場規模は「ゲーム全体:90%、アニメ全体:8%、漫画全体:2%」程度になるのではないかと思われる。

この中国産ゲームは海外にも輸出され、たとえば輸出比率は「アメリカ:32.31%、日本:16.35%」などとなる。

◆中国製ゲームの「逆襲?」に遭う日本

日本でもゲームが占める割合が大きくなった理由は、課金とか、スマホでできるといったファクターが考えられる。日本では、中国製ゲームが本格的に進出する前から、スマホの普及と基本無料・課金モデルにより、スマホゲーム市場が大きく成長していた。現在、日本におけるゲーム市場はアニメや漫画よりも規模が大きく、その主因は中国ではなく、スマホの手軽さと継続的な課金モデルにあった。

ところが2017年から中国製ゲームが収益性の高い日本市場に本格的に進出し始め、2020年頃あたりから定着するようになり、現在では主要な一角を占めるようになっている。

日本のスマホゲームの課金収益の25%~26%は中国製である

スマホゲームは日本ゲーム市場の約60%~70%であることを考えると、日本のゲーム市場全体で見た場合、約16%~18%%が中国製ゲームだということになる。

これをまだ少ないと見るのか多いと見るのかは微妙だが、少なくとも圧倒的な魅力と力で中国に上陸した日本動漫最盛期の状況から考えると、ある意味、日本動漫を堪能し吸収した元「中国動漫新人類」たちの日本への「逆襲」であるという見方もできる。

彼らの反日感情との折り合いはどのようにつけているのだろうか?

◆反日感情との折り合いは?

拙著『中国動漫新人類』にも書いたが、あの当時の「80后」たちも、「日本動漫大好き」という気持ちと「中国を侵略した日本は許せない」という気持ちの間を行ったり来たりしていた。1994年から江沢民による「愛国主義教育」が始まっていたので、ダブルスタンダードの中で生きていたと言っていい。拙著『中国動漫新人類』の中でも、かなりのページ数を割いて「中国動漫新人類のダブルスタンダード」に関して考察している。

事実、『中国動漫新人類』が出版された2008年当時、筆者は北京で開催された「遠藤を囲む会」に出席したのだが、会場にいた女子学生が声を震わせて「遠藤先生は日本が中国を侵略したことをどう思っているのですか?」と質問してきた。質問というより「詰問」である。その声の激しさは彼女が「申し訳ありませんが、ここからは中国語で話させてください」という言葉にも表れていた。集まったのは日本動漫愛好者ばかりだったので、みなそれなりに堪能な日本語をこなしていた。しかしそれでももどかしく、中国語で思い切り「憤りをぶつけたい」という闘志が醸し出されていた。中国語で「あなたは侵略戦争をした日本という国の国民ではないか!」と言われた時には、小さい頃に天津の中国人ばかりの小学校で日本人として陰湿を極めた激しい虐めを受けた日々を思い起こさせ、「ああ、こんな集まりに出るのではなかった」と深く反省したものだ。

あの頃でさえ、日本動漫ファンの集まりで「遠藤を囲む会」に出席しながら、あのような状況だったのだから、「高市発言」があったあとの現在の中国では、なお一層、このダブルスタンダードは激しくなっているだろう。

上海にいる教え子に、その辺りの状況を聞いてみたところ、「日本動漫を愛していても、高市首相の台湾有事発言、靖国神社参拝、歴史認識、軍備拡張に反発することは矛盾しません」という回答が戻ってきた。ただし、「日本語や日本社会に詳しい層ほど、日本政府、日本の右翼、一般の日本人、日本文化を区別して見る場合もあります」とのこと。

やれやれ…。

何とも複雑な気持ちだが、最後に「日本動漫ファンには、日本側の発言への反感だけでなく、『なぜ日本の政治家の発言の代償を中国の日本動漫ファンが負うのか』という不満も生まれています」という言葉がせめてもの救いとも言えなくはない。要するに「日本動漫への愛着は、無条件の親日感情ではありません。日本文化を愛しながら、日本の軍事化や歴史認識には反発し、同時に中国側による文化イベントの一律中止にも不満を持つという二重の態度があります」とのこと。

やはり『中国動漫新人類』で書いた「ダブルスタンダード」は消えていない。

いや、日本愛と日本に対する尊敬の念が薄れ、中国への自負心と愛国心が強まったというバランスでのダブルスタンダードであって、消えてはいないが色合いが違ってきているのを否定することはできないだろう。

こんなわけだから、アジア最大級の「ビリビリワールド」が開幕したなどというニュースがネットに流れると、なんとも心穏やかではない複雑な思いが湧いてくるのを抑えがたいのである。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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