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イラン「ホルムズ海峡通行、中露には許可」
2026年3月5日、全人代に出席する習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

3月5日、イランは「米・イスラエル・欧州の船はホルムズ海峡通行禁止」と発表した。ということは「中国やロシアには通行を許可する」と宣言したのに等しい。

日本のメディアではアメリカ・イスラエルのイラン攻撃によって中国が非常に不利な状況に追い込まれたとして「中露敗北」という言葉までが躍っているが、実際は逆である現実を直視しなければならない。

 

◆イランが「米・イスラエル・欧州の船はホルムズ海峡通行禁止」と発表

中国政府の通信社・新華社の電子版「新華網」は3月5日、<イラン:米国・イスラエルおよび欧州の船舶によるホルムズ海峡通過禁止>という見出しで、「テヘラン新華社電」として以下のように報道している。

  • イラン(イスラム)革命防衛隊は5日、「戦争期間中、イランはホルムズ海峡の通航と航行を管理する権利を有し、米国・イスラエル・欧州諸国の船舶の通航を禁止する」と発表した。
  • イラン革命防衛隊は、「米国・イスラエル・欧州諸国、そしてそれらの支援国に属する軍用船と商船のホルムズ海峡通航を禁止し、イラン革命防衛隊が発見した場合、必ず打撃する」と述べた。
  • イラン革命防衛隊は「同日早朝、(イラン革命防衛隊の)海軍の戦闘機がペルシャ湾北部で米軍の石油タンカーを攻撃し、タンカーは現在炎上中だ」と発表した。
  • さらに複数のイランメディアは5日、イラン軍将校の発言を引用し、「イランはホルムズ海峡を封鎖していない」と報じた。この将校は、イランは「国際協定に従って通過船舶を扱い、 “商船に偽装した軍艦のみを拿捕する”のみだ」と述べた。(以上、新華網より)

 

これは裏を返せば、「中国やロシアなどの友好国の船舶通航は自由ですよ」と言っているようなものである。

日本はイラン自身との関係は悪くないものの、イラン革命防衛隊が言っているのは「イランが米国・イスラエルに攻撃されている最中に、イラン攻撃に強烈な批判を表明せずに、アメリカ・イスラエル側に立っているような国は、支援国として通行禁止の対象にする」と言っているのと同じなので、日本は「通行禁止側」に入る可能性がある。そうなると、日本は石油産出資源国ではない上、石油輸入の約90%が中東に依存し、70%ほどがホルムズ海峡を通過して輸入されているので、非常に厳しい状況になるだろう。

また、欧州の中でもスペインなどはキッパリと「イラン攻撃反対!」の意思表示をしているので通行禁止対象外となるだろう。スペインはそもそもホルムズ海峡を使用する頻度が低いから、影響は小さいかもしれないが、トランプに威嚇されても「戦争は反対!」とを貫けるのは実に立派だと思う。日本にはとてもスペインのように「戦争反対!」などと表明する勇気はないだろうから、禁止対象国になっても、やむを得ないかもしれない。

 

◆ガザ紛争中の紅海における中国の「漁夫の利」に類似

2024年4月8日の論考<習近平「漁夫の利」 ガザ紛争中の紅海で>に書いたように、イエメンの反政府武装集団で親イラン勢力の一つである「フーシ派」は、パレスチナのハマスとイスラエルとの戦いを受けて、イスラエルを支援する国の船を紅海で攻撃した。あのときもシーア派は中露の船だけは守ろうとしたために、中国の船に成りすましたり、中国の巨大船舶の傍にコバンザメのようにくっ付いて航行したりする船などが見られた。

今回も、日本時間3月6日のロイター電(有料)によると、今般も「アイアン・メイデン」号という船舶が、船籍を「中国」に変更したところ、夜間にホルムズ海峡を通過できたとのこと。また中東の砂糖業界幹部が「現在同海峡を通過している船舶は数隻あり、いずれも中国船籍かイラン船籍だ」とロイター社に言ったと報道している。

3月5日のブルームバーグも<中国船籍を主張するばら積み貨物船がホルムズ海峡を通過>(有料)という見出しで、同様のことを報道している。

 

◆王毅外相の八面六臂(はちめんろっぴ)な外交

ここまで持っていくには、3月3日の論考<イラン爆撃により中国はダメージを受けるのか?>でも触れた王毅外相兼中共中央政治局委員のイラク攻撃への強烈な批判と八面六臂な各国との接触があるとみなしていいだろう。彼の外交努力を図表で一覧表として表した。

図表:イラン攻撃が始まってからの王毅の外交活動

公開されている情報を基に筆者作成

これは一つには3月5日に始まった全人代(全国人民代表大会)までに何とか目途を立てたいという意図があったからにちがいない。その結果、3月5日ギリギリで新華網が発表できるところまで持っていったのだろう。

この保障さえあれば、3月3日の論考<イラン爆撃により中国はダメージを受けるのか?>で書いた疑念を払しょくでき、中国は「ダメージを受けていない」という姿勢を習近平が全人代で示せるように動いたものと解釈することができる。

イラン攻撃中のトランプ訪中を実現させるか否かは、習近平の決意一つにあるが、また一つ、やっかいな情報が飛び込んできた。

3月6日のロイター電は<トランプ氏、ネタニヤフ氏の恩赦を再度要求>(日本語)と報道している。

何ということだ…。

ネタニヤフが「逮捕されないために、ひたすら戦争を続けている」ということは世界の多くの人が知っている事実だろうが、それを証明するかのようにトランプが「イスラエルのヘルツォグ大統領に、汚職​容疑で起訴されているネタニヤフ首‌相に対する恩赦を認めるよう改めて要求した」というのだ。

一人の汚職容疑者の恩赦を実現するためにイラン攻撃を断行した。

米国内におけるイスラエル支持派の票田が欲しいからだ。

これが民主主義国家の大統領の選択であるという事実に、力も抜けてしまう。

わが国の高市首相は、そのトランプを讃え、日本船舶がホルムズ海峡を通過できないようにするのだろうか。暗澹たる思いだ。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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