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習近平「漁夫の利」 ガザ紛争中の紅海で
フーシ派が紅海で貨物船拿捕(提供:Houthi Military Media/ロイター/アフロ)

2023年10月7日にハマスがイスラエルに対して大規模攻撃をかけてから、昨日(4月7日)で半年が経つ。「ウクライナ紛争における最大の勝利者は習近平だ」と少なからぬ世界の人々が見ているが、ガザ紛争においても最も「漁夫の利」を得ているのは習近平であると言えるのかもしれない。

ガザ紛争により、紅海で米中の力関係が逆転したことに関して、今年1月30日のコラム<米中の力関係が微妙に逆転? ガザ紛争が招いた紅海危機問題で>で書いたが、その傾向は今も変わっていない。

4月2日にはバイデン大統領の方から習近平に電話をかけて会談し、やがてイエレン財務長官やブリンケン国務長官も訪中するだろうと語った。事実4月4日からはイエレンが訪中しており、続いてブリンケンも訪中することになっている。これら一連の米政府高官による北京詣では、まさに紅海における米中関係の現状を反映したものと受け止めることができる。

一方、中国のネットでは、この「紅海問題」に関して早くから中国視点ならではの情報が溢れている。その中の一つをご紹介したい。

主として知識人が集まる観察者網(guancha.cn)にときどきコラムを書いている「一顆青木(一本の青い木)」というハンドルネームのネットユーザーが1月24日に書いたコラムは格段に面白く、ユーモアと頓智に満ちているので、「一顆青木」さんのコラムをご紹介したい。タイトルだけを見たのでは、中国語で読んでも何のことだか分からない。あえて日本語に訳すと<紅海で「船のただ乗り現象」が発生 外国船の群れが中国船を取り囲んで強引にチーム編成を偽装>とでもなるだろうか?

では、謎解きをするために、何が書いてあるのか、「一顆青木」さんのコラムを先ず読み進めてみよう。

――新たなパレスチナ・イスラエル紛争の勃発後、イスラエルによるパレスチナ民間人への残忍な虐殺に直面し、フーシ派は紅海海域でイスラエル関連の船舶を攻撃することによって、パレスチナへの支持を表明した。米軍が介入し、フーシ派の拠点にミサイルが発射されると、アメリカとイスラエルに関連する船舶への攻撃へと変わっていった。フーシ派が支配するバブ・エル・マンデブ海峡は極めて狭く、陸地からの射撃で全ての航路をコントロールすることができ、かつ両側に多数の浅瀬があるため、船舶の航路は非常に限定され、おまけに紅海を抜け出すまでに通過しなければならない航路は極めて長い。

攻撃されるリスクを回避するために、多くの船舶会社は紅海の航路を迂回しているが、すべての船舶が迂回できるわけではない。なぜなら迂回すると輸送コストが最大600%も急騰し、会社によってはそれだけの金銭的ゆとりがなく、結局のところ少なからぬ貨物船が紅海を通るしかない。

そこでこれらの貨物船は、それぞれ自らの安全を確保するために、さまざまなアイデアを考え出していたのだが、結果的に突拍子もないものになってしまった。

米軍がフーシ派の拠点を爆撃する前では、たとえば一部の貨物船は「目的地」欄の内容を書き換え、目的地を特定の場所から「イスラエルとは関係ない場所」に変更していた。中には「目的地」の備考欄に「乗組員は全て中国籍である」と書く船もあった。また、一部の船では、船舶状況の備考欄に「乗組員は全て中国から来た人々だ」に変更したりしているのもあった。

しかし、米軍がフーシ派の拠点を5回も連続してミサイル攻撃をした後は、紅海情勢は一気に緊迫し、フーシ派は船への攻撃をエスカレートさせた。

1月15日午後4時、フーシ派が発射したミサイルがアメリカの貨物船「ジブラルタル・イーグル」号に命中した。すると、1月16日、アメリカのシェルと日本郵船は紅海輸送の停止を発表し、紅海の貨物船は約70%減少した。しかし、残り30%の船は紅海を通るしかない。迂回する費用が高すぎて手が届かないからだ。

ならば、これら30%の船の航行安全を確保するにはどうすればよいのか?

1月19日、フーシ派政治局員のムハンマド・バキティは、ロシア・メディアとのインタビューで、「ロシアや中国などの国々からの船舶は紅海を安全に通過でき、同海域を航行する際に脅威にさらされることはない」と公言した。紅海を安全に航行できることに加えて、フーシ派は、「紅海を航行するこれらの国々(=中露やその友好国)からの貨物船の安全を、責任をもって確保する」と述べている。

フーシ派が紅海を航行できる船舶について公式声明を出したのは今回が初めてであり、フーシ派は自らを紅海の安全航行の守護者として明確に位置付けおり、しかも「友好国」の船舶に対してのみ責任をもって保護すると表明している。(引用をここで中断する。)

「一顆青木」さんは、ここで図表1のようなイラストを載せている。図表1に示したのは、日本語訳を筆者が付け加えたものである。

図表1:中露の船は紅海を安全通過できる

「一顆青木」さんのコラムにある図表に筆者が和訳加筆

「一顆青木」さんのコラムにある図表に筆者が和訳加筆

「一顆青木」さんは、さらに図表2のようなものを掲載して説明している。これも面白いので、日本語訳を加筆した。

図表2:兄貴のそばにいれば大丈夫

「一顆青木」さんのコラムにある図表に筆者が和訳加筆

「一顆青木」さんのコラムにある図表に筆者が和訳加筆

「兄貴」=「中国」の船のそばにさえいれば大丈夫というイラストである。

笑ってしまうのは、「一顆青木」さんが組み合わせた図表3だ。筆者はこの図表に「小判鮫」という名前を付けた。

図表3:小判鮫

「一顆青木」さんのコラムにある図表の「小判鮫」を筆者が白で囲んだ

「一顆青木」さんのコラムにある図表の「小判鮫」を筆者が白で囲んだ

この船自身は、もともと大連船舶重工業集団のウェブサイトに載っている二艘の船だが、そこに中国の国旗「五星紅旗」を掲げたさまざまな国の人たちの一群(映画「戦狼」から切り取ったもの)を填め込んで、

   中国の船のそばにくっついてさえいれば大丈夫!

ということを表したわけだ。大きな船は中国の船で、左下に「小判鮫」のようにくっついているのが、「他国の船」ということになる。白い囲みは筆者が付けた。

そこで「一顆青木」さんが使った言葉が

   我见过蹭饭的,见过蹭热点的,第一次看到蹭船的。

    (私は今まで、何かの恩恵に預かった「ただ食い」や「(ネットの

     ホットスポットにあやかって)ただ乗り」をする人を見たことは

     あるけれど、さすがに他の船に寄り添って「ただ添い運航」をする

     のを見たのは初めてだ。)

なのである。なんと頓智の効いたことを書き、ユーモアのある図表を作成する人だろう!その聡明さに感心してしまって、何としてもこのコラムを紹介したいという気持ちになったわけだ。

「一顆青木」さんは続ける(以下に示すのは概要であり意訳でもある)。

――アメリカはドル覇権を利用して世界から税金を徴収し、その税金を軍事費として使って国際海運秩序を維持しており、国際海運秩序はドルと米軍の覇権の基本的な支えの一つと言える。したがって、世界のどこかで海運秩序に問題が生ずると、すぐにアメリカが軍隊を派遣して介入する。

しかし今回、米軍が発砲した後は、紅海の海運秩序が回復しないばかりか、現地の状況を悪化させるばかりで、米軍は攻撃の激しさを強化しても秩序を回復することができなかったためにメンツを潰し、フーシ派と膠着状態になるしかなかった。

このようなときに中国船が無傷で紅海を通過できたのは、アメリカが軍事力を行使して中東に不謹慎な干渉を行ったとき、中国は中東をいじめなかっただけでなく、中東の偉大な和解運動に専念し、敵対する中東諸国が「敵意を平和に変える方向に」持って行ったために、中国は中東諸国の友情と尊敬を勝ち取ったからだ。だからこそ、最終的に中国の貨物船が自由に紅海を安全に通過できる結果を得たのである。(中略)それにしても、紅海の貨物船は、船舶情報を修正する際に、なぜ中国関連の情報だけを記入し、「ただ添い運航」をする際に、なぜ中国船だけを選ぶのだろうか。そこには「ロシア」も出て来なければ、「他の国名」も出てこない。

(中略)これは即ち、「寄り添うべきは中国だ」ということを表しているのではないだろうか?

フーシ派が中露とその友好国の船舶を優遇しているのも、中東諸国が中露とその友好国に関しては、アメリカ・イスラエルとその友好国に対するのとは、まったく正反対の気持ちを持っていることの証しではないだろうか?紅海航路はアメリカ・イスラエルとその友好国以外の国々の航路となり、中露とその友好国の専用航路とさえ言える。これが中東の心だ。(「一顆青木」さんからの引用は以上)

なるほど――。

実は「一顆青木」さんは中国語の文章自体もうまいのだが、「小判鮫」を使って「寄り添うべきは中国だ」という論理に持っていく文章構成にも感心した。

結論の是非はともかくとして、こういう中国人が多いのかもしれないという、中国社会の心を垣間見たような気がする。

日本人も、井の中から頭を出して外界を覗(のぞ)けば、全く違った光景が見えてくるのかもしれない。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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