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高市政権誕生 国交大臣がようやく公明党でなくなったのは評価するが、金子恭之新国交大臣の発言には失望
高市早苗総理大臣(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

高市早苗自民党総裁が総理大臣になった。「おめでとう!」と言いたい。政治信条や理念、あるいは連立による自民党政治の延命とか人事などを別として、彼女の「何が何でも総理大臣になってやる!」という強烈な思いが叶ったことに対して、すなおに「良かったですね」と言ってあげたい気持ちなのである。

特に俊敏な判断次第では野党が有利になったかもしれない中での、国民民主党の玉木代表の「欲をかいた見苦しい優柔不断さ」を見せつけられるに及び、「勇猛果敢な」高市氏の前では全てが霞む。彼女はなるべくしてなった唯一の資格を持った総理大臣だと言っていいだろう。

しかし、これで少なくとも国交大臣が公明党の指定席から自民党へ移ったので安心だと思っていたところ、なんと、新しく国交大臣に就任した金子恭之氏は「公明党の大臣がやってきたことをしっかり受け継ぎながら前に進める」と発言しているではないか。

これには驚いた。

ということは、高市政権は、公明党が自公連立でいかなる禍根を残したのかを、何も分かってないということにつながる。高市政権誕生には祝意を表したいが、数多くの問題があり、今回はまず国交大臣の話に限定する。

◆なぜ公明党が国交大臣であり続けるのは好ましくなかったのか?

ひとことで言うなら、公明党の対中理念が中国政府の日中関係に対する要望と完全に一致しているために、自公連立を通して日本政府を中国がコントロールしていたからだ。 

これに関して、筆者はこれまで以下のような考察をし続けてきた。

 1.2021年10月7日:<「公明党から国交大臣」に喜ぶ中国――「尖閣問題は安泰」と>

 2.2021年10月27日:<日本を中国従属へと導く自公連立――中国は「公明党は最も親中で日本共産党は反中」と位置付け>

 3.2022年12月14日:<日本の防衛を危機に!なぜ公明党は中国に配慮するのか?>

このコラムでは、日本の安全保障に関する「安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)」の文案討議に関して論じた。自民党側が当初示したのは「中国が日本の排他的経済水域(EEZ)に弾道ミサイルを打ち込んだ事例」に触れた上で「わが国および地域住民に脅威と受け止められた」とする文案だった。しかし公明党が反対した。公明党は「わが国および」を削除するように主張して公明党案の通りになった。「わが国および」を削除したら、「日本国は脅威を受けていない」ということになり、防衛費を増額する理由も立ちにくい。

中国のメディアでは、公明党が「わが国」を削除したことに関して礼賛の声が高く、「日本は結局、中国を脅威とは位置付けていない」というコメントがネットにも満ち溢れた。中には公明党を「中国の戦友」と位置付ける動画も現れた。このコラムでは、その動画の内容を詳細に紹介したが、動画は「日中間に横たわる多くの問題に関して、公明党は基本的に私たち中国と同じ立場に立っていると結論付けることができます。これこそが、わが国(中国)の指導者が、公明党を日本の政界との重要なコミュニケーションのチャネルとして積極的に利用する理由なのです」と結論付けている。

 4.2023年9月13日:<戦略なき内閣改造ながら尖閣だけは対中譲歩 国土交通大臣に公明党>(以上)

◆公明党の理念が自民党の「精神文化」に深く浸透

今般の金子国交大臣の発言が露呈しているのは、あまりに長きにわたって自公連立を続けたために、公明党の理念が自民党の精神文化に深く浸透してしまっているという現実だ。もともと保守(右)だった自民党は、左派あるいはリベラルな政党と連立を始めてからというもの、自分自身が与党議員であり続けるために、左派&リベラルな思想を半分ほど受け入れるようになった。特に公明党は背後に創価学会があり、「票集めマシーン」として機能していたので、その味をしめ、鈍感になっていったと言っていいだろう。だから参政党など、「純粋な右派」に票を奪われていく結果となった。

いかに自民党が「政府」として鈍感になっていったかを、海上保安庁の「中国海警局に所属する船舶等による尖閣諸島周辺の接続水域内入域及び領海侵入隻数(日毎)」に関するデータを参考にしながら、図表に示したい。

図表:近年の国土交通大臣の名前と政党および尖閣諸島における中国船舶の現状と日本政府の対応など

海上保安庁のデータを参考に、公けの事実に基づき筆者作成

いうまでもなく、海上保安庁は国土交通省の管轄下にあるわけだから、国交大臣が認めない限り、中国の船舶等がどんなに尖閣諸島周辺の接続水域内入域及び領海侵入をしたとしても、それを防ぐための行動に出ることができない。

日本政府は、ただ単に「遺憾である」とひとこと言うだけで、それ以上のことをしようとしなかった。

金子国交大臣は、公明党のこの「実績を受け継ぐ」と意思表示したわけだ。それに高市総理が反応しないというところに、残念ながら公明党の理念の、自民党への精神文化の浸透の深さと危うさを覚える。高市政権がこの事実に気が付いて、その麻痺してしまったような精神文化から抜け出すことができるのか否か、静観したい。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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