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中国製港湾クレーンはスパイ兵器だ! 米国が新たなカード
CCTV番組「今日亜州」より
CCTV番組「今日亜州」より

中国の中央テレビ局CCTVは2月26日「今日亜州(アジア・トゥデイ)」という番組で<中国製クレーンが「スパイ兵器」だって? 米国は再び「国家安全保障カード」を切った>というタイトルの特集を報道した。その概要を通して米中関係の新たな側面を考察する。

◆複数の米メディアが「中国製クレーンのスパイ兵器」説を報道

CCTVは先ず以下のように報道している。

 ●ブルームバーグのテレビ局がロサンゼルス港湾事務局ジーン・セロカ局長との対談を報道。テレビ局側の「最近、米国では中国製クレーンがいわゆるスパイ兵器として宣伝されていますね」という問いに対して、ロサンゼルス港湾事務局長は「中国製クレーン業者はデータを収集し、情報を調べている。 ロサンゼルス港の企業の53%が中国と貿易関係を持っている。問題はデータをどのように使用するかだ」と回答している。さらに事務局側は「中国製クレーンは国家安全保障に潜在的なリスクをもたらすが、このような巨大なコンテナ荷役機械を製造できる国はほとんどないため、この問題を解決するのは難しい」と述べた。さらに「ここ米国でこの産業をどうやって生み出すことができるのだろうか? 高さ 175 ~ 200 フィートの港湾クレーンですよ」と嘆いた。

 ●ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、バイデン米大統領は2月21日、港湾クレーンに代わる新型港湾クレーンの米国内での生産を含め、今後5年間で港湾警備に200億ドル以上を投資することを提案する大統領令に署名した。米国の国家安全保障に対する潜在的な脅威を排除するためだ。同時に米国沿岸警備隊は、米国の戦略的港湾に現在配備されている外国製クレーンに特定のデジタルセキュリティ要件を満たすことを要求するセキュリティ指令も発表した。実際、アメリカの政治家たちはほぼ1年前から中国製クレーンに注目し、特に米国防総省や国家安全保障当局者の中には、中国の上海振華重工(ZPMC)製の貨物用クレーンを「トロイの木馬」と警戒する者さえもいた。

◆日本の三井E&S米法人が米国内クレーン生産を代替

CCTV報道は続ける。

ホワイトハウスによると、日本の三井E&S米法人が代替クレーンを生産する予定で、米国が国内でクレーンを生産するのは30年ぶりとなるとのこと。

中国製クレーンを代替するという決定には、一部の米国の港湾労働者も驚いた。

バージニア港の広報担当者は現地時間2月24日、中国振華重工にクレーン8基を発注したばかりで、そのうち4基は今年の末には中国から納入されることになっているとの声明を発表した。バージニア港は中国製クレーンが安全で信頼できると考えており、使用前にサイバーセキュリティ検査を実施しているが、連邦当局との協議はまだ終わっておらず、スパイ活動やその影響の可能性についての報告は受けていないと述べた。

米国港湾管理者協会も、「警戒心を煽るメディアの報道にもかかわらず、米国の港ではクレーンによる安全違反は今のところ知られていない」と述べている。

◆中国側の反応

中国外交部の毛寧報道官は2月23日の定例記者会見で「中国の遠隔操作港湾クレーンによるデータ収集など、まったくナンセンスだ。中国は、米国による国家安全保障の概念の一般化、国家権力の乱用、中国製品や企業への不当な弾圧、経済貿易問題の政治化・兵器化は、世界の生産サプライチェーンにおける安全保障リスクを悪化させるだけだ。最終的には他国に損害を与えることに断固反対する」と強く批判した。

振華重工取締役会秘書室は、「ZPMC の米国事業は 10% 未満であり、本件による同社への影響は比較的限定的である」と述べた。

港湾は米国貿易の主要な出入口であり、3,100万人が雇用され、米国経済に毎年5兆4000億米ドル以上の収益をもたらしているが、中国製の港湾クレーンは世界最大の市場シェアを占めており、200基以上が稼働している。現在米国で稼働している中国製クレーンは、世界中の港湾や規制施設で使用されており、米国の港湾クレーンの総使用量の80%近くを占めている

◆オバマ元大統領演説中、振華重工商標を隠していた星条旗が風に煽られ

1994年には、すでに米国フロリダ州マイアミ港が振華重工業から一度に4台の「超大型ネオ・パナマックス クレーン」を購入したが、これは当時の中国の製造分野では画期的なことだった。

2013年、オバマ元大統領はマイアミ港で演説し、米国の製造業を強化するよう奨励したが、ターミナルのクレーンは中国振華重工製だったため、恥を避けるために、振華重工の商標ZPMCを星条旗で覆っていた。ところが演説中に強風に煽られ星条旗がめくれあがってしたために、ZPMCの商標が露出し、会場は騒然となった。まさに「化けの皮が剝がれた瞬間」だ。

以下に示すのはその場面の写真である。

 

出典:CCTV番組「今日亜州」

出典:CCTV番組「今日亜州」

 

2021年11月、バイデンはメリーランド州ボルチモア港を訪れ、米国のインフラ計画について演説した。演説はオバマ政権時同様、振華重工が製造したネオ・パナマックスクレーンがある海洋ターミナルを背景に行われた。

そこにあった4台の中国製ネオ・パナマックスクレーンはバイデン演説のわずか2か月前にボルチモア港に到着したばかりだった。ネオ・パナマックスクレーンは高さ約137メートル、重さ約1,740トンで、車50台分に相当する約85トンのコンテナを吊り上げることができる。これを使用すると、船体を回転させる必要がなく、港湾業務が大幅に向上する。

アナリストらは、トランプ政権はファーウェイ通信機器の規制を強化し、バイデン政権は標的を中国製クレーンにまで拡張したと見ている。

◆英KHLが調べた世界大手クレーンメーカーのランキング

番組は続けて、イギリスのKHLグループが発表した2023年世界最大手クレーンメーカー上位10社の一覧表を紹介している。それを日本語訳して見やすいようにしたのが下記の図表だ。

図表:英KHLが調べたクレーンメーカーのランキング

 

CCTVの番組に掲載された図表(英KHLデータ)を筆者が和訳し調整

CCTVの番組に掲載された図表(英KHLデータ)を筆者が和訳し調整

 

上位10大企業に中国企業が4社も入っている。特に振華重工(ZPMC)は世界最大の港湾機械および重機メーカーであり、世界のコンテナ・クレーン受注で 18 年連続で世界第 1 位にランクされている(とCCTVが報道)。

◆他国の発展を阻害しても自国の生産能力向上にはつながらない

番組は中国国際経済交流センターの研究者に、概ね以下のように語らせている。

 ●世界経済における米国の優位性を維持するために、米国は国家安全保障概念を一般化して、経済・貿易・技術問題を政治化し武器化している。

 ●(ファーウェイのような)ミクロな半導体技術から始まり、今度はクレーンのようなマクロなインフラ技術に至るまで、あらゆる分野で少しでも中国が発展しそうな分野があると、それを叩き潰して米国が優位に立てるような策略を継続している。

 ●しかし、他国を抑圧することによって自分自身を向上させることはできない。国内代替を達成するために他国製品を排除することは短期的な効果しかない。

 ●しかも米国の対中抑圧策は、国際貿易の基本規範に完全に違反しており、米国が常に誇示してきた自由市場の経済原則に反している。

 (CCTV番組の概要紹介は以上)

◆米一極のゼロサム戦略は“Lose-Lose”になるのか?

米国は対米隷属的でない大国が現れるのを最も嫌い、2月27日のコラム<NHKがCIA秘密工作番組報道 「第二のCIA」NEDにも焦点を!>でも触れたように、かつてはソ連&その衛星国などを倒し、今はロシアと中国を潰そうと躍起になっている。しかし対米従属をする国の数は、全世界の中で40ヵ国程度に過ぎず、残りの全人類の85%の人々は対露制裁を拒否している。

2月19日のコラム<「ミュンヘン安全保障2024」の“Lose-Lose”とは? 習近平の“Win-Win”論理との対比>に示した通り、米一極のゼロサム戦略には「勝者はいない」。

米国とその従属国は、中露を潰そうとして金融制裁まで科しているので、人類85%の「非米陣営」は金融においてまで米国離れを始めており、米一極のゼロサム戦略が生き残るとは考えにくい。

特に拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で詳述したが、米国が中国を外そうとすればするほど、逆に中国と非米側国との結びつきが強化され、米一極時代の終焉を早めているのではないのかと思う。

トランプ政権が戻ってくれば、ディールは強化するだろうが、ネオコンが主導するNED(全米民主主義基金)の力は弱体化し、欧州での大きな変動が起きるにちがいない。

習近平はいま虎視眈々とその時勢に備えている。

対米従属でいながら、真の民主主義を会得していない日本は、俯瞰的に世界を見る目を養った方がいいだろう。

追記:文中にあるホワイトハウスは2月21日のブリーフィング・ルームで、「三井E&S(日本)の米国子会社は、クレーン生産能力を米国現地に移設することを計画している」と情報公開している。

 一方、2月26日、日本の三井E&SはIR情報で「一部報道について」という見出しで「一部、当社および当社の米国子会社の港湾クレーン生産に関連する報道がございました。当社にて未だ本件に関する具体的なことを機関決定した事実はございませんが、今後、詳細を改めて確認の上、対応方針を検討して参ります」と書いている。

 この二つの情報から以下のことが考えられる。

 ▼ホワイトハウスが、三井E&Sの在米子会社に連絡することなく情報公開するはずはないので、在米小会社にコンタクトし、肯定的な反応があったので正式に公開した。

 ▼しかし日本の本社としては「機関決定」(この事業に着手する決議)がまだなされてないので、株の変動などに対する責任上の配慮から、IRリリースした。

 ▼今は検討中なので、今後何らかの変化があれば告知する。

ということではないかと推測される。決議されれば日本にはインフレ要素(コストが余分にかかる)を、中国にはデフレ要素(国内に過剰供給)をもたらす可能性をはらんでいる。米中覇権競争は日本人にも無関係ではない。読者と共に成り行きを見守っていきたい。(2024-03-01記)

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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