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ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartⅢ 2009-2015 台湾有事を招くNEDの正体を知るため
2009年、ウクライナを訪問した当時のバイデン副大統領(写真:ロイター/アフロ)
2009年、ウクライナを訪問した当時のバイデン副大統領(写真:ロイター/アフロ)

少なからぬ日本人は、プーチン大統領がウクライナを武力攻撃したように、独裁体制の中では、トップにいる独裁者が武力攻撃すると決断しさえすれば一方的に攻撃を始めるので、台湾の場合も「習近平国家主席が決断すれば一方的に台湾を武力攻撃し始める。だから台湾有事の有無は習近平の意思一つにかかっている」と思っているのではないかと思う。

もしそうだとすれば、日本人自らが、知らず知らずの内に台湾有事を招くような事態に陥るだろう。それを避けるために、バイデン大統領が副大統領時代から、いかに激しくウクライナの内政に関わってきたか、そしてバイデン率いるNED(全米民主主義基金)がいかに強力に親ロシア政権を倒すために暗躍したかを、NEDの年次報告書に基づいて分析する必要が出て来る。

それを知れば、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』に書いたように、台湾有事を必死になって創り出そうとしているのは「第二のCIA」と呼ばれるNEDであることが見えてくるにちがいない。

なお本稿は10月4日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か? 露ウに民主化運動を仕掛け続けた全米民主主義基金NED PartⅠ>(以下、PartⅠ)と10月9日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartⅡ2000-2008 台湾有事を招くNEDの正体を知るために>(以下、PartⅡ)に続くシリーズの3回目で【2009年から2015年まで】をPartⅢとして分析する。10月7日にガザ問題が起き、台湾総統選では藍白合作(野党一本化)などの緊迫した情勢が続いたので中断した(お詫びしたい)。

大きな流れとしてはアメリカがソ連を崩壊させた1991年前から始まるので、興味のある方は8月21日のコラム<遂につかんだ! ベルリンの壁崩壊もソ連崩壊も、背後にNED(全米民主主義基金)が!>をご覧いただきたい。

◆NED年次報告書から見るロシアとウクライナにおけるNEDの活躍

前掲の10月4日のコラムPartⅠに、NEDの支援金額とその推移のグラフがあるので、ここでは、その金額に基づいた2009年から2015年までの間の、NEDの活動内容を見てみよう。

図表1:NEDが露ウで行った民主化運動のための活動(2009年-2015年)

 

NEDの年次報告書により筆者作成

NEDの年次報告書により筆者作成

 

図表1から明確に見て取れるのは、NEDは徹底してウクライナに入り込み親露政権打倒のためのあらゆる画策を行って、マイダン革命を起こさせ、遂に親露のヤヌコーヴィチ政権を倒すことに成功したということだ。

拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』でも詳述したように、NEDの常套手段は選挙を利用して非親米的な政権を転覆させ、親米政権を打ち建てることにある。東欧革命やアラブの春などと同様に、NEDが起こした一連の革命を「カラー革命」と呼んでいる。

注目すべきはロシアにまで入り込んで、あたかも市民運動が主体となって反プーチン政権のデモを起こしているかのように見せかけ、その実、市民団体をNEDが助成金まで出して支援しているということが、NEDの年次報告書で明らかになった。

だから、台湾有事を創り出すために「第二のCIA」と呼ばれているNEDが大活躍しているのは当然のことで、そのデータは『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で明示した。

◆バイデンによるウクライナ内政干渉と打倒ロシアのための政治情勢推移

それでは次に、2009年から2015年にかけてのロシアとウクライナおよび関連諸国の政治外交情勢を時系列的に図表2で示したので、それに基づいて考察を試みる。

前掲の10月9日のコラムPartⅡに書いたようにブッシュ政権によって中露が強大化し、NEDの理事でアメリカ外交戦略の最高ブレインでもあったズビグネフ・ブレジンスキー(1928年-2017年)の「ユーラシア大陸を押さえろ」という戦略は失敗に終わった。そこでブレジンスキーは徹底してバラク・オバマを支援し、次の標的である「ウクライナ」に戦略の軸を移すべく2009年1月に誕生したオバマ政権と、その副大統領であるジョー・バイデンを操った。

図表2:露ウおよび関連諸国の政治外交情勢の時系列(2009年~2015年)

筆者作成

筆者作成

 

図表2において赤文字で示したのはオバマ政権やバイデン副大統領あるいはその統率下にあるNEDの活動だが、この赤文字部分を見ただけでも、いかにアメリカがウクライナをコントロールし、ロシアのプーチン政権を潰すべく暗躍したかが一目瞭然だろう。

オバマ政権は2009年1月に誕生しているが、早くも半年後の7月にはバイデンは副大統領としてウクライナを訪問し「ウクライナのNATO加盟を強く支持する」と発言。PartⅠで書いたように、ソ連崩壊前は「NATOを1センチたりとも東方に拡大しない」とアメリカは誓ったのに、ソ連が崩壊すると早々に旧ソ連構成国家を次々とNATOに加盟させる戦略を実行してきた。

ブレジンスキーの操り人形だったクリントン政権は、NATO拡大を堂々とやってのけたが、同じくブレジンスキーのバックアップで大統領に当選したオバマも、同じように、というか、それよりも激しくブレジンスキー路線に沿って動いた。

中でもバイデンの積極性は尋常ではなく、息子ハンターのエネルギー資源における利権とも重なり、マイダン革命勃発と親露政権打倒に向けて全力を投じている。

NED設立の母体になっているアメリカのネオコン(新保守主義)の根城を形成しているヌーランド国務次官補(当時)もバイデンとペアでマイダン革命勃発と親米(ポロシェンコ)政権誕生に没頭した。

こんなことをされたためにプーチンはクリミア半島を地元住民の選挙を通して併合したわけだが、ここまでアメリカがウクライナの内政干渉をしたことは、日本のメディアでは、ほぼスルーするようになっている。

そこの真実は、都合が悪いので、見たくないのだ。

NHKでさえ、クリミア半島という言葉の枕言葉に、必ず「ロシアが一方的に併合した」という接頭語を付けないで「クリミア半島」という言葉を使ったことがない。驚くほどの徹底ぶりだ。

◆中国はどう見ているのか?

では中国は、クリミア半島合併をどう見ているのかというと、たとえば2014年3月17日の中国共産党機関紙「人民日報」電子版「人民網」は<クリミア半島併合(に関する国連での議決に) 中国は棄権>という見出しで中立の態度を示した。そこには以下のように書いてある。

――中国の「棄権」は一種の明確な意思表明である。各国の主権と領土一体性を尊重するという中国政府の一貫した立場を反映するもので、クリミア問題に関しても「すべての出来事には原因がある」という中国の見解を改めて表明する内容も含まれている。クリミア問題は白か黒かで決まるものではなく、西側諸国によるこれまでのウクライナ介入により、この地区一帯は既に非常に混乱させられており、ロシアの反発も早くから予想されていたものだ。問題は、西側とロシアが対立を激化させ続けるのではなく、いかに解決していくべきかにある。

欧米は今や、その脅威の声を高め、経済制裁という杖を振りかざすことさえしているが、ワシントンとその同盟国は、そうすればプーチンが言うことを聞くとでも思っているのだろうか。(中略)西側諸国をパニックに陥れたソ連は激しく崩壊し、東欧のほぼ全域が一気にNATOと欧州連合の手に落ち、旧ソ連の多くの共和国がNATOに加盟した。欧米の過ちは、モスクワの立場に立ったことは一度もなく、モスクワの危険をほくそ笑み、利用し、モスクワだけがその苦痛を受け止め耐えていることを少しも考えてないということだ。

先月ウクライナで起こったことを、ロシア人は容易に「カラー革命」と定義するだろう。(中略)今般のクリミア危機は、第一に、キエフの「カラー革命」(マイダン革命)に対する反発であり、「ロシアの領土拡大」とは違う。(中略)欧米のダブル・スタンダードを許してはならない。なぜなら、国際法を重んぜよとする欧米が、「ワシントンにとって良いことは、世界が従うべきだ」という西側世界の暗黙のルールで動いているのだから。クリミア危機を契機に、世界全体、特に西側諸国が率先してこの問題を明らかにすべきだ。この危機の最終結果は、欧米の権益の優位性を新たに実現することであってはならない。(引用は以上)

これはまるで、その後に起きたウクライナ戦争を予期するような言葉だ。

中国が常に「カラー革命」という言葉を使ってNEDの動きを警戒しながら外交戦略を練っていることは『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で詳述したが、「カラー革命」とはNEDが「民主の輸出」として世界各地で起こして来た非親米政権の転覆で、常に「市民運動の衣」を着てやってくる。

NEDが創り出す「台湾有事」は、正にその象徴のようなものであることに、日本人は一刻も早く気づくべきではないだろうか。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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