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習近平を「賢く強く偉大な指導者」と絶賛しインド太平洋軍からインドを削除したトランプのG2構想の本気度
トランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

トランプ大統領は6月19日、米メディアのアクシオスの取材を受け、習近平国家主席を「頭がよく、強く、しかも見た目がいい偉大な指導者である」と褒めちぎった。

注意しなければならないのは、北京で米中首脳会談を終えた翌月の6月16日には、「米インド太平洋軍」から「インド」を削除し、元の「米太平洋軍」に名称を復活させていることだ。これは対中包囲網的戦略を破棄して、「トランプ・習近平」で構築する「G2構想」に対するトランプの本気度を示すものと解釈することができる。

「自由で開かれたインド太平洋」戦略を喧伝する高市総理は、ここでも梯子を大きく外されたことになる。日本の立ち位置はどうなるのか?

 

◆6月19日、習近平を再び褒めちぎったトランプ

6月19日、トランプはアクシオスのテレビ番組「アクシオス・ショー」に出演しインタビューに応じた。アクシオスは動画を公開すると同時に、その文字起こしも公開してくれているので、非常に助かる。

アクシオス側の質問は、「あなたにとって偉大なリーダーとはどのような存在ですか?どのように定義しますか?」から始まるのだが、トランプの特徴として質問にストレートに回答するのではなく、あれこれ頭に浮かんだことを思いつくままに喋るので、議論が拡散している。キーポイントだけを拾い上げて以下に列挙してみる。

  • まず、優れたリーダーは賢くなければならない。とても賢いのは誰かというと、中国の習近平国家主席だ。彼はとても賢い人だ。
  • 私たちは非常に良い関係を築いている。習のどんな点が最も素晴らしいかと言うと、昨日も言ったが、イランとの一件に彼が関わらなかったことに感謝したい。彼はやろうと思えば、関わることもできたはずだ。たとえば、12隻の駆逐艦に囲まれた立派な石油タンカーを送り込んで、信じられないほどの軍事力で封鎖を突破できるかどうか試すこともできただろう。これは偉大な軍事作戦の一つとして歴史に残る可能性もあった。私たちが行なった爆撃と同じくらい重要な作戦となっただろう。しかし私は習には、関わらないでほしいとお願いした。すると彼は関わらなかったのである。彼は実に素晴らしい人物だ。
  • 私は習とは仲が良い。彼は実に強い男だ。彼は駆け引きをしない。
  • 習の毎日は、まるで仕事場のようだ。それが又いい。最高だと思うよ。
  • (「中国の制度の中で、習にとって有利に働く要素で、あなたがこちらにもあってほしいと思うものはありますか?」という質問に対して) まあ、たとえば起業家精神とか、実際には不利になるはずだが、ところが彼らは私たちとほぼ同じ速さでやって来る。何かが流行っているところに私たちが行き着くと、中国人が私たちの前に立ちはだかっていたり、私たちが少しだけ彼らを上回っていたりする。しかしAIに関しては、私たちが彼らを上回っているけどね。軍隊に関しても。習は私に、「あなたは最も強力な軍隊を持っている」と認めた。
  • (「もし私があなたに、世界で最も偉大な指導者、あるいは最も好きな指導者は誰かと尋ねたら、そのうちの一人は習だと答えるだろうと私は思いますが」という質問に対して) ああ、そうだとも。リーダーシップという点では、それは正しい。
  • (「もう一人は誰か?」という質問に対して) モディ首相かな。彼が戦争に関わらないのは賢明だ。しかし、モディも素晴らしいが、習も素晴らしい。まさに古典だ。つまり、この二人のどちらかを題材にした映画を作ろうとしたら、ハリウッドでその人物を見つけることはできないだろう。たとえば、習主席の容姿は素晴らしい。容姿は重要ではないのはわかってる。見た目の話はしたくないし、そういう言い方もしない方がいいと言われているけれど、それでも彼は背が高い。身長は6フィート2インチで、堂々とした体格をしている。自信に満ち溢れ、頭も良い。モディとは全く違うタイプだ。とにかく尊敬されている
  • モディが非常にタフな人物だということは知っている。あまりよく知らなかったモディと知り合う機会があったから。(インタビューからの抜粋は以上)

6月19日の論考<イラン停戦合意に漕ぎつけたトランプ、又もや習近平に感謝 トランプにはG2構想しかなくG7では孤立か?>に書いたように、トランプは何かにつけて習近平を礼賛してきた。それはG2構想を着想する原点ともなっている(詳細は『G2構想 勝つのは米国か中国か』)。

ただ、いつもは習近平とともに名前が挙げられるのはロシアのプーチン大統領であって、モディの名前が出てくるのは異例だ。そこに違和感を覚えたが、これは冒頭でも述べた「米インド太平洋軍」から「インド」を削除して「米太平洋軍」に戻したことによる、モディへの配慮であったことが見えてくる。

 

◆6月16日、トランプは「米インド太平洋軍」から「インド」を削除

6月16日、米国防総省(戦争省)が<米太平洋軍の名称を復活させる>という速報を発表した。そこにはハワイ州キャンプ・H・M・スミス発の情報として、「米国防総省は本日、米インド太平洋軍(USINDOPACOM)が正式に米太平洋軍(USPACOM)に名称を戻すと発表した」と書いてある。

そもそも「米太平洋軍」を「米インド太平洋軍」に名称変更したのはトランプ1.0のときのトランプ自身で、2018年5月30日のことだった。

米軍は第二次世界大戦後、「太平洋軍」を創設し司令部をハワイのホノルルに置いて以来、2018年まで「太平洋軍」で通してきた。

ところが2016年に日本の安倍元総理が発表した「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンに感銘したトランプは、2017年にベトナムを訪問した時に「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを表明し、「太平洋軍」を強化するために2018年に「米インド太平洋軍」と改名したのである。

安倍元総理の「自由で開かれたインド太平洋」は、たとえば「オーストラリア、インド、日本、アメリカ」などの民主主義国が協力して、中国の拡大を阻止しようという、対中包囲網の一つだ。

2012年から2015年ごろにかけて、筆者は盛んに自民党議員を中心とした学習会などに呼ばれて「成長発展する中国」に関する講演をしてきたが、自民党議員から「じゃあ、日本はどうすればいいんですか?!」という、憤りにも似た質問が出ていた。そのたびに「インドです!今はもうインドしかありません」と回答したものだ。

というのは、中国がWTOに加盟する前後、筆者はカリフォルニアにあるシリコンバレーに滞在しては、シリコンバレーの白人が少なくなり、インド人と中国人ばかりに占められていた現実を見てきたからだ。当時、シリコンバレーではIC(Integrated Circuit、集積回路)のことをIndian Chineseという言葉に置き換えることが流行っていた。このことは『中国がシリコンバレーとつながるとき』という本で詳述した。

それからほどなく、安倍元総理が「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを発表したので、学習会や講演会などで主張してきた論理が、わずかではあっても少しだけ影響を及ぼしたかもしれないと、心密かに嬉しく思ったものだ。

しかし、それは「中国の成長を阻止する」という色彩を帯びていき、筆者が意図していた「日本が成長する成長戦略」とはニュアンスが異なる方向に動き始めた。

結果、トランプ1.0では大いにトランプに感銘を与えたのに、トランプ2.0になったトランプは、「1.0」の時とは完全に対中方針を変えてしまい、「対中包囲網」の要素を含んでいる「インド」という言葉を削除するに至ったものと解釈される。

昨年11月5日の論考<トランプが「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」と発言! これで戦争が避けられる!>や今年5月17日の論考<米中首脳会談 台湾問題で譲歩引き出せず 習近平「米中の建設的な戦略的安定関係」でトランプを逆縛り>で書いたように、トランプは「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」と発言し、米中二極化の「G2構想」を提唱している

そのトランプにとって「対中包囲網」的な要素を持つ「米インド太平洋軍」は似つかわしくない。ここから「インド」を削除したことは、トランプの「G2構想」に対する本気度を表すものとして、高市政権は真剣にこのファクトに向き合わなければならない。善し悪しは別として、中国と対立する日本の現状は、やがて容赦ないトランプのお荷物になり、立ち位置を迫られることになる可能性がある。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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