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「台湾有事」はCIAが創り上げたのか?!
アヴリル・ヘインズ米国家情報長官(写真:ロイター/アフロ)
アヴリル・ヘインズ米国家情報長官(写真:ロイター/アフロ)

4日、米国家情報長官は台湾有事で世界経済は年間134兆円の打撃を受けると警告した。しかし台湾を自国領土と位置付ける中国には台湾を武力攻撃する理由はない。武力攻撃させるため台湾の独立派を応援しているのは日米ではないのか。

◆台湾有事で年間134兆円の打撃を受けると米国家情報長官

5月5日、「ワシントン共同」は<台湾有事で130兆円打撃 米長官、半導体生産停止>と報道した。それによれば、アヴリル・ヘインズ米国家情報長官(元CIA副長官)は4日、中国による武力侵攻で世界的なシェアを占める台湾の半導体生産が停止すれば「世界経済は甚大な影響を受ける」と指摘した。最初の数年間は年間6千億~1兆ドル(約80兆~134兆円)以上の打撃となる可能性があると、上院軍事委員会の公聴会で証言したとのこと。

ヘインズは、台湾は半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)を抱えており「台湾の半導体は世界中のあらゆる電子機器に組み込まれている」と説明し、生産が止まれば米経済への影響は避けられないとしつつ「中国経済が受ける打撃の方が深刻だ」と強調したという。(以上、ワシントン共同の報道から。)

アメリカ合衆国国家情報長官(Director of National Intelligence=DNI)は、アメリカ合衆国連邦政府において情報機関を統括する閣僚級の高官である。インテリジェンス・コミュニティーを統括し、アメリカ合衆国連邦政府の16の情報機関の人事・予算を統括する権限をもつ。

以前は中央情報長官(DCI)が中央情報局(CIA)とインテリジェンス・コミュニティー全体の両方の統括を行っていた。しかし、DCIが自分の統括する組織であるCIAの指揮に集中してしまったり、情報活動の8割以上を行っている国防総省との対立が原因でインテリジェンス・コミュニティーの指揮や調整の役割を果たしていなかった。2001年の同時多発テロを防げなかった一因には、情報機関の連携不足が指摘されている。そこで、2004年に情報改革とテロ予防法(Intelligence Reform and Terrorism Prevention Act of 2004)により国家安全保障法が改正されて国家情報長官が新設されたという経緯がある。

それまでの中央情報長官は、CIA専属の長官である中央情報局長官(CIA長官, D/CIA)に改められた。本稿でCIAと称しているのは「中央情報局」のことである。

◆中国大陸から見たら、台湾問題は内政干渉

1971年7月9日、当時のアメリカのリチャード・ニクソン大統領(共和党)は、ニクソンの下で国家安全保障担当大統領補佐官(のちに国務長官)を務めていたヘンリー・キッシンジャーを、誰にも見つからないような形で極秘裏に訪中させた(忍者外交)。キッシンジャーは当時の中国の国務院総理であった周恩来と会談し、米中国交樹立の用意があることを告げた。

その際、中国側としては「一つの中国」原則を断固として要求した。

すなわち、「中国」という国家には「中華人民共和国(=共産中国)」しか存在せず、「中国という国家を代表するのは中華人民共和国のみである」という大原則で、もし「中華人民共和国」と国交を樹立したければ、その絶対的な前提条件として、「中華民国」台湾とは国交を断絶しなければならないということが強く要求された。

これらを水面下で了承した上で、1971年7月15日に、ニクソンは「1972年2月に中国を訪問する」と発表し世界を驚かせた。だからこそ、1971年10月25日、第26回国連総会で、中華人民共和国(中国)が「中国を代表する唯一の合法的な国家」として国連に加盟することができたのである(第2758号決議)。同時に「中華民国」台湾は国連脱退へと追い込まれた。

こうしてアメリカは1979年1月1日に正式に米中国交正常化を成し遂げ、同時に「中華民国」台湾との国交を断絶している。日本の場合はその前の1972年9月29日に日中国交正常化共同声明を発表した。もちろん同時に「中華民国」台湾と国交を断絶して、日華平和友好条約を破棄したのである。

その結果、中国は中華人民共和国憲法の序文に、「台湾は中華人民共和国の神聖にして不可侵の領土である」と明記するに至っている。

ここまで国連で法的に整然とした経緯を経ているので、これを覆したければ国連で決議すべきだ。国連の第2758号決議を否決しなければならない。それができないのなら、中国が台湾を自国の領土と主張するのには正当性があることになる。その統一をどのような形で実現するかに関しては、これは既に中国国内の「内政」になると見ていいだろう。

したがって中国にしてみれば、「平和統一」以外に考えていない。

武力統一の可能性が出てきたのは2005年で、当時の陳水扁総統が台湾独立を叫び始めたために「反国家分裂法」を制定し、もし台湾が国家として独立しようとしたならば、「国連で認められた『一つの中国』を分裂させる政府転覆罪として処罰するために武力攻撃する可能性を否定しない」ことになった。

その後、親中の馬英九政権が誕生したので、中国は台湾周辺での軍事演習をその間は一度もやっていない。

全米民主主義基金(NED)は台湾においては2003年以前から浸透しており、NEDは2003年にNEDと同じ機能を持つ「台湾民主基金会」を台湾に設立させている。

これは中国を国連に加盟させた時の日米側の中国に対する誓いとは、完全に逆行した「内政干渉だ」と、中国側には映るだろう。

◆中国にとって台湾武力攻撃のメリットはゼロ!

そもそも中国にとって、台湾を武力攻撃する必要はなく、武力攻撃などしたら大きな損失を中国がこうむるだけだ。その例をいくつか列挙してみよう。

1.現段階では中国の軍事力はアメリカの軍事力に勝てないので、台湾を武力攻撃したらアメリカが台湾を支援することは歴然としているため、中国が惨敗する。惨敗すれば、中国共産党による一党支配体制は崩壊するので、絶対に自分の方から戦争をしかけるようなことはしたくない。

2.台湾には中国が喉から手が出るほど欲しい半導体産業があるので、それをそのまま頂きたいと思っているため、武力攻撃などするつもりはない。武力攻撃などして、万一にも半導体産業が破壊されたら、統一後に中国が非常に大きな損をする。そのため『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の【第七章 習近平外交とロシア・リスク】に書いたように、2022年11月18日、APECに台湾代表として参加していたTSMCの創設者・張忠謀(モリス・チャン)のもとに、習近平はわざわざ自ら足を運んで会いに行った。二人は互いを褒め合い友好的に会話したが、インドネシアで開催されたG20と、タイで開催されたAPEC全てを通して、習近平が自ら会いに行ったのは、TSMCのモリス・チャン一人である。それくらい習近平はTSMCを重要視している。

3.武力攻撃などで台湾を統一したら、台湾の人々が中国共産党政権に対して強い反感と怨みを持つようになり、統一後に一党支配体制が崩壊する可能性が大きくなる。

4.特にウクライナ戦争におけるロシアに対する西側諸国の制裁の仕方を十分に知っているので、ここで武力攻撃に出るほど、中国が無策であるということは考えにくい。

ほかにも色々あるが、ざっと見ただけでも、少なくとも以上のような基本的な状況がある。

◆中国が台湾を平和統一したら、困るのはアメリカ

ならば、なぜ、アメリカはかくも激しく「中国が台湾を武力攻撃する」と叫び続けるのだろうか?

それは、中国が平和統一などしたら、経済的にも軍事力的にも中国の方がアメリカを凌駕するので、アメリカとしては何としても、そのような絶望的未来が到来するのを阻止したいからだ。

だから、何としても、中国には台湾を武力攻撃してほしいのである。

そのために頻繁に米政府高官に台湾を訪問させ、独立を支援している。そうすれば中国が怒って、台湾周辺で激しい軍事演習をしてくれるので、「ほらね、中国はやっぱり台湾を武力攻撃しようとしてるでしょ?」と台湾の人々に言って聞かせ、来年1月の「中華民国」台湾の総統選で、親中派の国民党候補に投票せず、親米で独立志向の強い民進党に投票すれば、親米政権が台湾で継続され、中国を追い詰めることに成功する可能性が高くなってくる。

したがって今年は来年1月の総統選まで、アメリカによる「中国が台湾を武力攻撃する」という喧伝あるいは扇動は、加速的に強まっていくと判断される。

アメリカは米中覇権において、それでいいかもしれないが、追い詰められた中国が本気で武力攻撃をしたときに、最前線で戦うのは台湾と日本だ。

日本の政治家は、アメリカに追随して台湾を訪問することを重視するのか、それとも日本国民の命を重視して現実を直視するのか、真剣に考えろと言いたい。 

今年2月15日のコラム<「習近平は2027年までに台湾を武力攻撃する」というアメリカの主張の根拠は?>にも書いたように、「中国が2027年までに台湾を武力攻撃する」という「神話」はCIAが中心になって創り上げたものだ。2020年10月26日から29日まで北京で開催された第19回党大会の五中全会(第五回中央委員会全体会議)の最終日に、<第19回党大会五中全会公報>が中国共産党網で発布され、そこに「建軍百年に向けて頑張ろう!」と書いてあることを根拠にしている。習近平が中国人民解放軍の百周年記念である「2027年」に触れたのは、この時が最初だ。このあとの2021年3月から「台湾武力攻撃2027年説」が世界中を飛び回るようになった。

アメリカの調査報道ジャーナリストであるニコラス・スカウの書いた『驚くべきCIAの世論操作』という本の日本語版が2018年にインターナショナル新書から出版されている。その本にはCIAがいかにしてアメリカに都合が良いように事実を捏造して世論操作を行っているかという実態が、実に克明に描かれている。一読をお勧めしたい。

筆者自身は、NEDのホームページを当たり、多くのファクトを拾い上げて7月出版予定の『習近平が起こす地殻変動「米一極から多極化へ」』の中でリストアップした。そのリストを作成して驚いたが、世界の紛争のほとんどは1983年まではCIAが創り上げていて、1983年にNEDが創設されてからはNEDが創り上げていることがわかった。世界のどこかに内紛があると、必ずそこに潜り込んで既存の政府を転覆させ、親米政権を樹立させるということをくり返してきたことが、リストから歴然としてくる。NEDはその創設者が語った言葉から、「第二のCIA」と呼ばれているが、この「第二のCIA」が「台湾有事」という「神話」を創りあげているとしか言いようがない。

日本の内閣が、アメリカに追従することばかりを重視せず、日本国民の命を守ることを重視すれば、おのずと見えてくる現実である。もし本気で「国民の命こそが最も大切だ」と思っているのなら、国会議員の一人一人に、現実を直視する勇気を持ってほしいと切望する。

 

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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