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「モスクワの友人」から――コロナウイルスへの対応
新型ウイルス肺炎が世界に拡大 武漢滞在のロシア人らが帰国
新型ウイルス肺炎が世界に拡大 武漢滞在のロシア人らが帰国(映像:Russian Look/アフロ)

3月1日付けの論考<中国人全面入国規制が決断できない安倍政権の「国家統治能力」>に関して多くの方から貴重なご意見を頂いたが、その中にモスクワにおられる「友人」からのお便りがある。この方はプーチン大統領の側近とも接触があるため、ロシアのナマの動きを知る上で非常に参考になる。豊かなロシア経験による非常に高くて鋭い知見を持っておられ、これまでも、どれだけ多くのことを学ばせて頂いたか知れない。

そこで匿名を条件にご本人の了解を得たので、頂いたメールをそのまま以下にご紹介したいと思う。[ ]内は筆者注。

――――― ◆ ―――――

遠藤先生

ご無沙汰しております。

先生の本件をめぐっての、中国人の入国禁止を未だ宣言しない安倍政権に対しての鋭い舌鋒記事、本日拝読しました。120%全く賛同します。

記事でも触れられておられますが、この件に対するロシアの対応は素早かったです。恐らく世界で最も早く(台湾も早かったようにも思いますが)中国との国境閉鎖、中国人観光客の訪問禁止、中国人留学生を全員検査という厳格な措置を取っています。受け入れているのは、公用と商用のビザを取ってきているものに限定し、それでも当局は厳格な監視をしています。

日本人もパスポートを携帯しないと、中国人に間違われ、市内で職務質問を受け、タクシーでも乗車拒否ということが起きています。

これすべて習近平氏の国賓訪日ありき、かつ、経済を国家安全保障よりも優先した、ということと思います。

全くの平和ボケ日本は、いまだ中国人の入国はほぼ自由で、元を絶たない限りダメなのに、どうなっているのかと思います。

日本が最初に言い出す勇気はなかったとしても、もはや、小国のウズベキスタンやカザフスタンもロシアが強硬措置を取ったのを見て安心して中国人入国禁止を決定しました。さらに韓国人も禁止となりました。

日本にはまだ大目に見てくれていますが、カザフスタンでは日本人の入国は認めるが入国後2週間の経過観察、が義務付けられることになりました。

問題は、[日本が]こんな対応をしていると、本当に中国に舐められる、ということだと思います。

国際社会では優しさは、弱さのあらわれでしかなく、弱きものは苛め抜かれるということを本当に分かっていない感じがします。

ロシア関係では、[安倍]総理は5月9日の対独戦勝記念日の式典に来る意向らしいですが、これもロシア側に最終的には利用されるだけ、逆の立場ならプーチンは絶対に行かないと思います。中国もロシアも、ここでは同じで、強きには敬意を払うが、弱いものは苛め抜け、だと思います。

現在の中国共産党の姿を見ると、チェルノブイリの時のソ連共産党の時と似ているように思います。

情報は上にはきちんと上がらず、神聖不可侵の共産党という組織こそ、いかに恐ろしい存在か、ということと思います。

この話をロシア人にすると、中国の危険性を瞬時に見抜きます。ロシアも問題ありの国家ですが、今回のような国の安全にかかわる話になると、危機管理が良くできているなあ、と感心します。経済最優先で、国家の背骨をなくしてしまっているような日本とは対象的でした。

ここからは小生の推測なので、邪推の可能性もあるのですが、ロシアは弱点も種々ある国ですが強さの源泉は防衛力のみではなく、外交力と諜報力だと思っております。

ロシアはいち早く今回のコロナウイルスの発生状況とその感染力につき、現地にいる諜報機関の人間等から得ていたのではないか、その上で中国当局にも国境封鎖、中国人入国禁止(中国から入国する人でなく、中国人という市民、国民全員―除く公用、商用ビザ取得者)とする旨、直前に通告していたのではないか、と推測しています。

中国側が本件に関しては全くの沈黙を保っているように見え、状況把握で重要なのは発言よりも沈黙ということも共産党支配の国では重要なことだと思うのです。

但し、ロシアでは中国の様子はそれほど大きくニュースでは映像として出ておらず、映像はダイアモンドプリンセスやイタリア、韓国、イランだったりして、必要以上に中国の危険性を煽る報道とはしていないように思います。なお、ロシアの市民たちは中国人を極度に警戒しています(日本人も顔が似ていて危ないのですが、パスポートを見せることによって難を逃れることができます)。

同盟国を持たないロシアという国にいると、安全保障が経済よりも大事なことなのだ、ということが良く分かります。

少しでも参考になればと思い記載しました。

――――― ◆ ―――――

以上だ。

最後の文章「同盟国を持たないロシアという国にいると、安全保障が経済よりも大事なことなのだ、ということが良く分かります」は、ハッとさせられた。

日本は安全保障に関してはアメリカに頼りっきりで、今でも毎日、我が国の領土である尖閣諸島が中国によってどれだけ侵犯されていようとも、「日中関係は正常な軌道に戻った」と安倍首相も河野(元)外相も豪語していた。我が国の領土が中国によって侵犯されていることが「正常なことである」と認識している安倍内閣のなんと卑屈で「平和ボケ」していることか。

尖閣諸島が侵犯されている状況は下記の図によって一目瞭然である。これは海上保安庁のHPにある「尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処」 にある「接続水域内で確認した中国公船の隻数(延隻数/月)(青色の折れ線)」と「領海に侵入した中国公船の延隻数/月」(赤色の棒線)」を表したものである。

尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処

中国が全世界に新型コロナウイルス肺炎を巻き散らして世界を恐怖と不安に追い込んでいる今年の2月29日までの時点においてもなお、尖閣諸島への侵犯は続いていることに驚きを禁じ得ない。この状況下で安倍政権は「日中関係は正常な軌道に戻った」として、習近平を国賓として日本に招くために力を注いでいるのである。

その必要性に関して、国会でも「問題があるからこそ話し合うことが重要なのです」と言っているが、話し合うのは重要であっても、その「問題のある国の首脳」を「国賓」として招聘し天皇陛下にまで拝謁させるという理由にはなり得ない。

当該HPの説明にもあるように、2008年からプロットし始めているのは、「2008年5月7日、日本を公式訪問した胡錦濤国家主席と福田康夫総理(肩書きはいずれも当時)が、「今や日中両国が、アジア太平洋地域及び世界の平和、安定、発展に対し大きな影響力を有し、厳粛な責任を負っているとの認識で一致した」というのに、その半年後の同年12月8日に、中国公船が初めて尖閣諸島周辺の我が国領海内に侵入している。

つまり「話し合い」など、如何なる役にも立たないということである。

それよりも意思表示をしたいのなら、「このような問題があるので国賓招聘は出来ない」と言うべきなのである。

なお、3月3日、安倍首相は国会で「中国人の全面的な入国規制」に関して野党議員からの質問を受け「そういう声が多いことは承知している」として、その方向で検討したい旨の回答をしている。  

もう遅すぎるのだが、筆者を含め多くの有識者からの主張が、ようやく安倍首相の「良心」にも届き、かかる回答を引き出すことに成功し始めたのではないかと思う。

「モスクワの友人」からの声が、その安倍首相の背中をもう一押ししてくれることを期待したい。 

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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