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習近平「ブロックチェーンとデジタル人民元」国家戦略の本気度
2019年11月4日
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ビットコイン(提供:Eyevine/アフロ)

習近平は10月24日の中共中央政治局会議でブロックチェーンを国家戦略として取り込めと発言。中国人民銀行はデジタル人民元に意欲的だ。実現可能性を中国の本気度と内情から読み解く。

◆中共中央政治局学習会での習近平の驚くべき発言

10月24日、中国共産党中央委員会(中共中央)政治局第十八回集団学習という会議で、「ブロックチェーンを核心的技術の自主的なイノベーションの突破口と位置づけ、ブロックチェーン技術と産業イノベーション発展の推進を加速させよ」と述べた。

具体的に何を考えているかを知るために、少し詳細に発言の内容を掘り下げてみよう。

  1. ブロックチェーン技術を他の技術 と結合させ応用することは、新しい技術革新と産業変革の中で重要な役割を果たす。
  2. ブロックチェーン技術応用は既にデジタル金融、IoT(モノのインターネット)、スマート製造、サプライチェーン管理、デジタル資産取引など、多くの領域に及んでいる。
  3. 目下、全世界の主要な国家はブロックチェーンの発展に手を付けており、我が国は特に非常に良好な基礎を築いているので、さらにブロックチェーンと産業および経済社会との融合を加速しなければならない。
    (筆者注:ここで言う「良好な基礎」とは、既に民間でのブロックチェーン応用が進められており、また一部では司法や企業登記など、お役所の仕事にも試験的に取り入れられていることを指しているものと思われる。)
  4. 我が国は、この新興領域で理論の最前線を行き、トップランナーとして世界の動向の主導権を握らなければならない。
  5. そのためには、安全で、国家が完全にコントロールできる技術の掌握が肝要だ。国家によるブロックチェーンの標準化を強化させ、国際社会における発言権を高めていかなければならない。マーケットの優勢を発揮して「イノベーション・チェーン」と「応用チェーン」および「価値のチェーン」をつなげていくのだ!
  6. ブロックチェーン産業エコロジーを構築し、ブロックチェーンとAI、ビッグデータ、IoTなどの最前線の情報技術を統合させ、それに貢献できる人材チームを養成せよ。

習近平は引き続き、「民生」との融合に関して「4つの指針」を出している。

一、「ブロックチェーン+民生領域」での応用を模索し、ブロックチェーン技術の教育、就労、養老、精確な貧困対策、医療健康、偽造防止、食品安全、公益における応用を積極的に推し進め、人民に対して、よりスマート化された快適で優秀な公共サービスを提供する。

二、ブロックチェーンの技術サービスと新型スマートシティの建設を結合し、情報基礎施設、スマート交通、エネルギー・電力などの応用を模索し、都市管理のスマート化・精密化のレベルを高める。

三、ブロックチェーン技術で都市間の情報・資金・人材・信用情報の更なる大規模流通を促進し、生産要素のエリア内での秩序のある高効率流通を保証する。

四、ブロックチェーンの情報共有モデルを模索し、政府業務データの部門間、区画間の共通維持保守と利用を実現し、業務の協同処理を促進し、「一度行けばいい」という改革を深化させ、人民に更に良い政府業務の体験を与える。

(筆者注:外部から見れば中国は一党支配体制の中央集権的国家なのだから、さぞかしピラミッド式に命令系統や業務系統がきれいに出来上がっているだろうと見えるかもしれない。しかし実際はその逆で、中国は広大過ぎて、政府にも様々な部局があり過ぎ、地方政府と中央政府、地方政府と地方政府、また各政府内における各部門の情報流通や意思疎通が非常に悪く、公務員の仕事の効率も凄まじく悪い。たとえば、ある手続きを遂行するために、某政府部門Aの窓口に行ったとしよう。すると窓口Aは、「あ、それなら窓口Bに行け」と回答する。窓口Bに行くと、「それはCがやっている。Cに行け」とすげなく断る。それをD窓口、E窓口、F……と延々と「たらい回し」にされて、互いに責任も取らない。これが中国の様々なレベルの行政の実態だ。

そのために、中央集権的なシステムを作るのは難しいという現実がある。おまけにその間に賄賂や汚職、あるいは不正決済など何でもありだ。そこで、先ずは「一度行けば、それで済む」という業務を遂行できるだけでも、ブロックチェーン応用には意義があるのである。)

◆本気度、その1――国家暗号法

国家主席・中共中央総書記・中央軍事委員会主席である習近平が言った言葉なので、中国の国家戦略としての本気度に間違いはないのだが、それを裏付けるものが、次から次へと発布された。

まず国家暗号法からご説明しよう。

10月26日、第十三回全国人民代表大会(全人代)常務委員会第十四期会議が開催されて「中華人民共和国暗号法」を可決した

便宜のため、ここでは「暗号法」と略称することにしよう。

暗号法はブロックチェーンのシステム構築には欠かせないもので、その目的は暗号法第一章の「総則」に書いてある。それによれば、暗号法は国家の安全と公共の利益を守りながら、イノベーションなど暗号産業の発展を目的とし、中国共産党の指揮の下、中央政府によって管理運営される。

また暗号法では機密度の高さによって「核心暗号」、「一般暗号」および「商業用暗号」の3つのレベルに分けている。

  • 核心暗号:国家が保護する最高レベルの機密性を持つ「絶密級=極秘レベル」
  • 一般暗号:最高機密性レベルが「核心」の次の「機密級=機密レベル」
  • 商業用暗号:公民、法人、その他の組織のネットワークと情報セキュリティを保護。

全部で44条もあるので詳細は省くが、第44条に「2020年1月1日から施行される」とある。本気だ。

◆本気度、その2――「党への忠誠」初心「ブロックチェーン」アプリ

次は「党への忠誠を誓う」という「初心」を忘れないアプリを、ブロックチェーンに填め込むという決定だ。

同じく10月26日、中国共産党新聞は「チェーン上の初心で党建設+ブロックチェーンを体験しよう」という記事を掲載した。そこには「チェーン上の初心」というアプリが今日アップされましたと書いてある。

何のことだか、大陸にいる中国人以外には「さっぱり分からない」に違いない。これは習近平が2017年10月18日に第十九回党大会で言い始めた「初心を忘れず 使命を心に刻み込め」という言葉から来ており、価値観の多様化に伴い、「中国共産党」を特に重要視しなくなった若者や中間所得層などに対して「党の初心」であるマルクス主義を忘れるなと思想教育をするために生み出した言葉である。

今回のアプリは、ブロックチェーンと「党の建設」を結びつけたもので、党員は自分の「初心」をこのアプリに記録し、改ざんできないブロックチェーンに保存して、未来の自分に見せる、もしくはみんなに公開することができるという仕組みだ。

このようなことで人民を統治できると考えるのも、何だか滑稽に思われるが、それに真剣になる者もいないわけではないのが、中国の現実かもしれない。

それにブロックチェーンが産業活動や生活上便利であるならば「初心」には目をつぶっていればいいわけだから。

◆本気度、その3――中国人民銀行が「デジタル人民元」?

10月28日になると、中国人民銀行科技司の李偉司長は、上海で開催された「中国金融四十人フォーラム」が推し進める第一回の「バンド金融サミット」で、「ブロックチェーン技術はデジタル・イノベーション発展を推進するに当たって絶大な潜在力を持っている」と語った。また民間銀行に対しても、金融事業へのブロックチェーン導入を強化するよう促した。

同フォーラムには中国国際経済交流センターの副理事長を務める黄奇帆が出席しており、ブロックチェーンを熱く語り「リブラが成功するとは思えない。中国人民銀行が全世界で最初にデジタル貨幣を使うことになるかもしれない:6大注意点」という見出しで大きく報道された。

黄奇帆はあの薄熙来が重慶市の書記をしていたころに副書記を務めていて、何かと怪しげな動きをしており、ずっとその動向を追いかけていたのだが、結局金融方面に強いことから生き残り、今では「デジタル人民元」推進の中心的存在になっている。彼を生き残らせた胡錦涛政権とそれに続く習近平政権の「人物」の使い方には、少々感心するものがある。

彼のスピーチのテーマは「デジタル化リモデリングのグローバル金融エコロジー」。

その中で彼は以下のような爆弾発言をした。

――デジタル化は天地をひっくり返すような作用をする可能性を秘めている。将来的には、定量的投資(決められた規則・モデルに沿って投資する)やロボアドバイザー投資(ロボットが自動的に設定に従って投資をしてくれる)、人工知能定価(AIで商品・中古品の価格を決める)あるいは「保険で賠償する場合の金額計算をAIで決める」とか金融クラウドサービス、「証拠・証明書をブロックチェーンに保存する」など、新金融業態が絶えず進化し、金融業界は、これまでになかった全く新しい時代に突入していく。それを中国がリードしていくことになる。

黄奇帆が語った6大注目点は、以下の6つである。

(1)ブロックチェーンはDNA技術のように、様々なレベルで基礎ステータスの底上げに役立つ。

(2)SWIFTとCHIPSは技術が古くて、効率も低い。国際送金に何日もかかるし、大規模な送金に対応できない、かつ手数料が高いという問題がある。したがって世界にはブロックチェーンをベースにする新型清算ネットワークが必要。

(3)ビットコインやLibra(Facebookの仮想通貨)が成功するとは思えない。貨幣の価値は信用から生まれる。信用のない仮想通貨は、根のない草に等しい。
中国中央銀行はすでにデジタル通貨を5-6年にわたって研究してきた。したがって最初にデジタル通貨を発行する銀行になるかもしれない。

(4)通貨のデジタル化は世界の貨幣事情を変える。昔の貨幣は金本位制、その後は国家の信用に基づくことになった。アメリカが軍事と経済の実力により、石油と国際貿易のドル決済を独占し、実質的な世界通貨となったが、それがデジタル通貨によって打破される

(5)個人の支払い方法を革新させる。中国のデジタル支払い(キャッシュレス)は世界トップクラスで、2018年の支払い金額が39兆ドルであるのに対して、アメリカは1800億ドルでしかない。ブロックチェーンは支払い機構と銀行を繋げるネットワークとなり、クロスボーダーの支払いをより簡単かつ迅速化できる。

(6)デジタル化は産業チェーンの効率を上げることができる。5Gのモノのインターネットに融合できて、消費者向けだけではなく、産業向けのインターネットを構築し、効率を大幅に上げることができる。

◆結論

結論的に言えるのは、中国という国家にとってブロックチェーンとデジタル通貨を採用することは、現金と違って履歴が残るために改ざんを防ぎ、国家の統一的な管理が容易になるというメリットをもたらす。

これにより国内的にはマネーロンダリングや詐欺、脱税などを防ぐことができる。金の流れまで記録できるのだから、人民への監視はさらに強まるだろう。

国外的には、人民元のグローバル化、延いては米ドル覇権の打破に繋がると習近平政権は考えているにちがいない。

デジタル通貨に民間が先に手を付ける前に、国家が握ってしまった方が得策だと判断したのは確かだ。

これを実行することにより果たして人民元が米ドル覇権を打破できるのか否か。

今後注目していきたい。

なお、フェイスブックのザッカーバーグCEOは10月23日、米議会下院金融サービス委員会の公聴会で仮想通貨「リブラ」の発行を阻止しようとする米議会に「アメリカは仮想通貨で中国に敗退する」と抗議した。

習近平がブロックチェーンに関する国家戦略を発表したのはその翌日の10月24日である。ザッカーバーグの警鐘は当たっているのだろうか。

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(2019年11月9日出版予定、毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Will be published in 2019/11/9, by Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.