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基本操作
緊迫下の市場開放
上海証券取引所
上海証券取引所(提供:アフロ)

中国と米国の関係はここ数十年で最悪の状態にあり、近い将来改善できると考える理由はほとんどない。ただ、悲観的な見方が支配的な中で、着実とは言えないにしても、ゆっくりとした進展は続いている。中国の金融市場の一部が前例のないレベルにまで開放されているのだ。現代中国で初めて株式が発行されてから40年、上海と深圳の証券取引所が設立されてから30年近くが経過し、現在の中国の資本市場はかつてないほど開かれたものとなっている。皮肉屋はいつものことだと言うかもしれない。中国の金融改革と外資受入れは本当に少しずつしか進んでこなかったからだ。しかし今回の状況は違う。中国の開放の度合は、外国の投資家に中国国内および国際的な投資戦略の見直しを求めるほどのレベルに達している。開放は、広範な資本市場におけるポートフォリオ投資とともに、証券や銀行、保険セクターなど金融仲介に携わる外国企業全般にも広がっている。

国際社会の投資家コミュニティーは、不条理とも言える立場に立たされていると感じている。先月、この中国問題グローバル研究所(GRICI)のサイトで発表した論考『資本戦争––破滅兵器のボタン』 で議論したように、米議会では、中国の企業や市場への米国資本の流入に狙いを定めた実質的な措置が講じられ始めている。資本戦争の今後の展開についてこれ以上議論する必要はないが、投資家は、中国における長期的な投資戦略を立案すると同時に、中国株からの迅速かつおそらく全面的な撤退の必要性も検討する必要に迫られている。

中国が突き付けている課題に対して、米国、日本、EU、あるいはその他の国が有意義な対応をする上で重要なのは、中国の行動の何が正しく何が間違っているかについて、現実的で率直な評価が必要であるということだ。中国の金融開放は完璧とは程遠い。時には、その表面上の開放においてさえ、投資家が従わなければらない面倒な手続きに対する配慮がなされていないこともある。

中国の現在の状況を理解するには、中国当局が伝統的にどのように投資家を規制してきたかを振り返ることが重要だ。第一のアプローチは、市場の外国投資家と国内投資家を常に手の届く範囲に留めておくことであった。市場は国内向けと外国人向けに分けられた。株式市場は、国内投資家向けはA株市場、外国人投資家向けはB株市場として発展した。ふたつの異なる資金プールは、どのような意味においても実際に交じり合うことはなかった。国内市場は資金調達をするには小さ過ぎたため、中国企業は外資を求めて、香港とニューヨークでの海外上場に踏み込んだ。何年もの間、中国のいくつかの大手企業に対して、東京から(カンザス州)トピカに至るまで、あらゆる海外の投資家が自由に投資することができるというのに、肝心の中国国内にいる投資家は投資できないという状態が続いた。

中国経済の成長は、国内向けのオンショア市場と海外向けのオフショア市場の双方の繁栄と成長を確実なものにしたが、取引されていたのはそれぞれ別の企業やセクターだった。債券市場の場合はオフショア市場が存在しなかった。中国国内での国債発行が大幅に増加したのとは対照的に、国際市場向けの国債発行はほとんど行われなかった。中国当局は2003年、国内市場への関心の高まりに対処するため、まず適格外国機関投資家(QFII)プログラムを導入した。この制度によって、中国がどのように外国投資家の参加を規制しようとしているかが明確になった。まず、適格条件の厳しさが挙げられる。規模、ステータス、事業期間の点で条件を満たすことができたのは世界有数の大手企業だけだった。また、投資可能額についても一定の制限または割当枠が設けられた。各段階で、申請と承認に長いプロセスが必要で、数カ月かかることもあった。投資割当枠の引き上げ申請では承認まで数年かかることもあった。これに不完全な税制やその執行の不備も加わり、外国企業によるレパトリエーション(利益還元)には何年も要することとなった。以上の簡単な説明は煩雑なプロセスのほんの一部に過ぎない。株式市場には少なくとも手続きが存在した。対照的に、債券市場では外国のポートフォリオ投資が完全に遮断されていた。

金融仲介機関による企業持分の完全所有や過半数所有が基本的にできないように規制されていた。外国企業の出資は、持分20%程度の合弁とならざるを得ず、その比率は増えても49%止まりで、過半数の支配は認められなかった。

金融セクターは長らく改革が必要な分野だった。中国はこれらのニーズに口先では対応してきた。資本の割当には良好な資本市場が重要であることは理解しながらも、市場への強引な干渉から手を引くことにはずっと消極的だった。ひどく時間を要したが、5年ほど前にようやくダイナミクスに変化がもたらされた。株式投資に関しては、香港取引所経由でのチャイナ・コネクトの導入により、投資に関するいかなる承認も不要になった。中国への資金の出入りの仕方が変わったのである。レパトリエーションのルールや税制が明確になり、QFIIのスキームが拡大。今年発表された新しいルールでは、市場や商品へのアクセスの点で、外国投資家にとっても国内投資家にとっても実質的に同じ条件が整った。

中国人民銀行は、銀行間債券市場を外国機関に全面開放して資金の自由な出入りを可能にし、最終的には、為替リスクを軽減するため国内での為替ヘッジツールの利用を認めると発表。これにより債券投資は勢いづいた。債券へのアクセスをさらに強化するため、香港取引所は2017年にボンド・コネクトを立ち上げた。これは同取引所のインフラを利用して中国国内市場で株式を売買するというアクセス・ルートと同様のモデルである。

JPモルガンと野村はともに、中国の国内証券会社の過半数の持分を保有している。銀行セクターでは、外国銀行の存在感が著しく薄いが、不良債権の増加や中国の大手銀行の確立された強大な立場を考えれば、それほど驚くことではないだろう。

重要性の高い機関投資家には、株式や債券市場はすでにかなりの部分が全面的にアクセス可能になっている。こうした投資家は、国内資金の調達や運用のため中国国内に投資事業体を設立することも、容易かつ短期間で可能になっている事にも気付いている。中国金融市場がすでに非常に開かれていて、これが継続し、さらに大幅に開放されていくように見える姿は、貿易戦争を巡るレトリックのエスカレートと矛盾しているように思われる。

ポートフォリオ投資だけを見ても、金融市場開放の複合的な影響は小さくない。外国の投資家が保有する中国国債は総額約2,400億米ドル、チャイナ・コネクトを通じた資金流入額は1,000億米ドル、QFIIはやや後れを取っているものの推定900億米ドルに上る。香港やニューヨークに上場しているオフショアの中国資産や、オフショア債券の外国保有も相当な規模だが、上記の3つのプログラムだけで現在の中国国内証券の資産規模4,000億米ドルを優に上回っている。これらの数字は一層拡大することが確実だ。市場開放により中国のA株と債券が、ファンドマネジャーが投資の基準とする世界的な投資インデックスの一部に採用され、当然のように、パッシブ投資の資金が中国の証券に配分される必要が出てくるからだ。中国は閉鎖的で投資は難し過ぎると相手にしなかった人たちもいるが、その逆を行く投資額が5,000億米ドル近くに上っている。

10年、20年前の状況と比べると開放の度合は目を見張るほどだが、比率でみれば外国人投資家の参加は依然として低調である。これまで見てきた大きな数字も、中国の証券保有額全体からみると、一桁台前半の比率を占めているにすぎない。世界における中国経済の規模から考えると期待よりはるかに低い比率であり、また外国投資が20%を占めるインドのような市場と比べても大幅に低い。

中国の市場開放の速度はあまりに遅く、この比率がそれを示している。しかし中国当局はようやく、外国の投資家や金融仲介機関をスターティングゲートに導いたのである。遅きに失した感はあるが、制度や投資の手段が整い、外国企業は少なくとも中国の国内投資戦略を適切に立案する機会を得られた。なぜ変わったのか。なぜ今なのか。いや、本当の問題は、なぜそんなに長くかかったのかである。開放すべき根本的な理由やその必要性は、中国当局の首脳もかなり前から理解していたが、国内の政治不安や外国人を管理できなくなる恐れをずっと懸念していたのだ。1997年のアジア金融危機の教訓が中国の姿勢に大きな影響を及ぼした。外国のファンドマネジャーがニューヨークでボタンを押すとタイから10億米ドルが流出するという単純な事例が、中国の規制当局者に何日も眠れない夜をもたらしたのだろう。市場の規模が拡大し、外国投資を監視・監督するための投資チャネルの構造が適切であれば、外国資金が暴れまわるわけではないということを、今や彼らは理解している。

現在の開放に意味があるのは、いくつかの事実を反映しているからだ。第一に、開放がもたらす競争に市場や国内企業が耐えられると中国が確信していることだ。すでに述べたように、資金の流れを監視できるようになったことは、バブルとその崩壊のサイクルがいかに起こりやすいかを何度も示してきた市場に対する大きな安心感を与えている。第二に、開放が中国に真の利益をもたらすということだ。海外投資家の中国向けエクスポージャーに対する需要は大きい。海外市場のほとんどで上場企業数が停滞しているか減少している一方で、中国の国内市場では毎年数百件の上場が行われ成長が続いている。中国経済は今かなり弱まっており、特にショック時には資本流出が起きるリスクが依然高いため、外国資本の流入を容認することで、中国をグローバルな資金の流れの中に統合し、自国への資金流入を見込むことができる。

中国の現在の開放が自動操縦のように進んでいると考えるのは間違いである。国内市場には、運営上の観点から改善や合理化できる面が数多くあり、さらに重要なこととして、上場企業の質と財務情報の開示は総じてお粗末だとみなされている。不良債権比率を過小報告している最大手の銀行から、架空の銀行預金残高を作成している民間企業まで、中国企業を警戒すべき理由は多い。しかし、だからこそ多くのファンドマネジャーが中国に熱狂している。悪質な企業の中に優良な企業やビジネスが隠れているので、銘柄選択を行うには最適の市場になっているのだ。日々の流動性は非常に高く、他のアジア市場を合わせたよりも高い場合が多い。このため、短期のトレーダーにとってはトレンドを追う機会が豊富な市場といえる。規制当局やその政治的指導者たちは、依然として結果を導くことを過度に重視しているため、今後何年にもわたって市場活動に介入を続けると予想されるが、国内外を問わず投資家はこれが中国におけるビジネスの一部であり、重要な部分であると認識している。中国ではゲームのルールが異なるということを理解すべきであり期待は抑える必要がある。しかしだからと言って、投資家が利益を得る機会がないということでもなければ、説得力のある投資ストーリーが存在しないということでもない。

このような金融上の関係拡大は、最終的には資本戦争の推進力を弱めることになるのだろうか。その点は全くはっきりしていない。ルビオ上院議員をはじめとする議員たちがこれまでに提案してきた措置は非常にターゲットを絞ったものだからだ。しかし、すでに中国に巨額の投資を行いその継続を望んでいる機関投資家のコミュニティーからは、資本戦争に対し大きな反発が起こることになるだろう。中国は世界第2位の経済大国であり、今後もしばらくはその地位を維持するとみられる。中国の資本市場と債券市場は世界最大規模になっている。今後も外国の金融機関には引き続き多くの機会があるだろう。何年にもわたって失望を味わってきた外国企業は、何を達成できるのか、どのように関与すべきかについて現実的である必要があるが、彼らが進んで中国を離れることはないとみられる。米国と中国の分断は現実に進んでいる。この大きなトレンドは今後何年も続くだろうが、すべての産業が同じように影響を受けるわけではない。中国は製造業の世界的サプライチェーンにおいてはそれほど重要ではなくなるかもしれないが、このまま進めば、中国が資本の流れにおいてより重要な地位につくことをあらゆる指標が示している。外国企業や投資家は中国国内の資本市場へのアクセス拡大のため数十年に及ぶロビー活動を行ってきた。そして今、好機をつかもうとしている。しかし同時に、長年求め続けてきたその関係はかつてないほどの試練にさらされている。

フレイザー・ハウイー(Howie, Fraser)|アナリスト。ケンブリッジ大学で物理を専攻し、北京語言文化大学で中国語を学んだのち、20年以上にわたりアジア株を中心に取引と分析、執筆活動を行う。この間、香港、北京、シンガポールでベアリングス銀行、バンカース・トラスト、モルガン・スタンレー、中国国際金融(CICC)に勤務。2003年から2012年まではフランス系証券会社のCLSAアジア・パシフィック・マーケッツ(シンガポール)で上場派生商品と疑似ストックオプション担当の代表取締役を務めた。「エコノミスト」誌2011年ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞し、ブルームバーグのビジネス書トップ10に選ばれた“Red Capitalism : The Fragile Financial Foundations of China's Extraordinary Rise”(赤い資本主義:中国の並外れた成長と脆弱な金融基盤)をはじめ、3冊の共著書がある。「ウォール・ストリート・ジャーナル」、「フォーリン・ポリシー」、「チャイナ・エコノミック・クォータリー」、「日経アジアレビュー」に定期的に寄稿するほか、CNBC、ブルームバーグ、BBCにコメンテーターとして頻繫に登場している。 // Fraser Howie is co-author of three books on the Chinese financial system, Red Capitalism: The Fragile Financial Foundations of China’s Extraordinary Rise (named a Book of the Year 2011 by The Economist magazine and one of the top ten business books of the year by Bloomberg), Privatizing China: Inside China’s Stock Markets and “To Get Rich is Glorious” China’s Stock Market in the ‘80s and ‘90s. He studied Natural Sciences (Physics) at Cambridge University and Chinese at Beijing Language and Culture University and for over twenty years has been trading, analyzing and writing about Asian stock markets. During that time he has worked in Hong Kong Beijing and Singapore. He has worked for Baring Securities, Bankers Trust, Morgan Stanley, CICC and from 2003 to 2012 he worked at CLSA as a Managing Director in the Listed Derivatives and Synthetic Equity department. His work has been published in the Wall Street Journal, Foreign Policy, China Economic Quarterly and the Nikkei Asian Review, and is a regular commentator on CNBC, Bloomberg and the BBC.