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映画「731」は日本のバイオハザードや韓国のイカゲームのパクリ ビジネス化する反日映画が犠牲者を愚弄
中国映画「731」のポスター

中国で9月18日に公開された旧日本軍の731部隊を題材にした映画「731」が、中国のネットで激しい批判に遭っている。それもそのはず。監督の趙林山氏は本来、731部隊とは全く無関係なアクション・スリラーものである『生化啓示録』を制作しようとしていたようだ。『生化啓示録』はカプコン社の「バイオハザード:リベレーションズ」に類似の物だが、もちろんカプコン社のゲームとは違う別の作品だ。ところが制作スタッフが「731記念館」を参観したところ、「731と関係づけると儲かるんじゃないか」という話が持ち上がり、強引に731部隊にこじつけた映画を制作したのだという。

そもそもあの悲惨な731収容所の中に「花魁道中(おいらん・どうちゅう)」が現れたり、死刑の時には白装束の武士が現れ三味線までを奏でたりという、ふざけたコメディ構成は、731部隊による真の犠牲者を愚弄するようなものだ。

反日がビジネス化した中国社会を創ったのは誰か?

歪曲した歴史は、日中戦争の犠牲者への冒涜へとつながっていく。これは国家の悲劇としか言いようがない。

◆「バイオハザードやイカゲームのパクリだ」と書いた中国の映画評論家

中国のネットで活躍している映画メディア業界の評論家の一人に「钱塘海盗龙梓轩(錢塘海盗龍梓軒)」というアカウント名の人がいる。彼は9月18日にネットに図表1のような文章を書いて発表した。右側にその日本語訳を付けてお示しする。

図表1:「钱塘海盗龙梓轩」さんの文章

中国の掲示板に貼られたチャット記録を転載し、筆者が日本語訳を加筆した

文章の内容は図表1に書いてあるのでくり返さないが、要はビジネスのために「731部隊」を利用して「金儲けをしようじゃないか」という話になったということだ。

9月26日の論考<1941年5月25日、毛沢東「中国共産党は抗日戦争の中流砥柱(主力)」と発言 その虚構性を解剖する>にも書いたように、中国は抗日戦争(日中戦争)において中国共産党が何をやったかに関して嘘でたらめの虚構を宣伝しているため、一般庶民にもその虚構性が奇妙な形でインプットされ、「抗日戦争もの映画」へのビジネス化へとシフトすることへの罪悪感がそれほどない。

因みに映画「731」の監督である趙林山氏は吉林省長春市の生まれで、そこには「731部隊」の母体となる日本軍の「関東軍司令部」があったのだが、そのことに対する厳粛な気持ちはなく、「731」でどうやって金儲けをするかしか考えないという思考が平気で生まれている。

2014年8月16日のコラム<中国、厳粛な反日ドラマは強化――娯楽化を警告したのみ>で、「商品化した反日ドラマ――娯楽化、お笑い化への警告」を中国政府が発したと書いたが、その警告を中国という国家自身が無視したことになる。

◆中国のネットに溢れる「あり得ない荒唐無稽な映画のシーン

本来、映画館で上映されている映画のシーンを撮影してはならないのだろうが、激怒した観客の何人かは、映画館で映画のシーンを撮影し、それが大量に中国のネットで氾濫している。中国のネットで大量に流れている画像であるならば、その著作権を厳格に追究する必要はないように思われるので、中国のネットで氾濫している画像のいくつかを以下にお示ししたい。

図表2:映画「731」で収容所の廊下を練り歩く花魁道中(おいらん・どうちゅう)

中国のネットより転載

凄惨な人体実験が遂行されている収容所の廊下を、いきなり花魁が練り歩くというのは、あり得ない情景だ。しかも付き人が「行燈(あんどん)」や「番傘(ばんがさ)」まで持っている丁寧さ(異様さ?)である。

図表3:映画「731」で中国流黒白無常(死神)が一瞬出現

中国のネットより転載

図表3にあるのは、中国で言うところの死神(無常)の黒装束と白装束のペアだが、映画の中ではわずか1秒ほどしか映らないと、中国のネットには書いてある。花魁が一瞬黒白無常になるとのこと。花魁道中が死への道であることを表現したいのかもしれないが、描くトーンがこのようにファンタスチックなので、731部隊の冷酷さとは相容れない(図表3の手前にある人影は、映画館における観客のようで、映画館で撮影したものをネットに上げたのだという経緯が見える)。

このファンタジー性は、図表4では、もっと顕著だ。

図表4:映画「731」で脱獄を夢見る少年収容者

中国のネットより転載

図表4では、まるでピーターパンのように、少年収容者が空を飛ぶ形で脱獄を試み、仲間がやはり喜びに満ちてはしゃいでいる。731の犠牲者を何だと思っているのか。

図表5:映画「731」で日本の民宿のように美しい牢屋に女性が斜め座り

中国のネットより転載

図表5にあるのは731収容所の「凄惨であるはずの牢屋」のシーンである。なんという美しい牢獄部屋だろうか。まるで日本の民宿のようで、ゆったりとした空間に新しくきれいな畳がある。

この映画の制作者の根性を下品だと思わせるのは、斜め座りをしている女性の座り方だ。あの頃の中国の女性の座り方を知っている者なら、誰でも違和感を覚えるのは、そこはかとなく醸(かも)し出している「艶(なま)めかしさ」だ。女囚人に「たおやかな佇(たたず)まい」をシラッと醸し出させるその「いやらしさ」に吐き気を覚える。

このようなもので観客を惹きつけようとする根性を、中国のネット民も見逃してはいない。

◆激怒する中国のネット民

やがてネットから削除されてしまうかもしれないし、また実際に書いてあったという証拠のためにも、中国語文を残して、和訳を付けながらネット民のコメントを列挙する。

  • 大便一坨,避雷!沉重的题材不应成为烂片的遮羞布!(クソの塊のような最低の作品だから避けた方がいい!重いテーマをこのような駄作で覆い隠してしまうべきではない!)
  • 观众吃了2个小时的屎。(観客は2時間もの間、クソを食べさせられ続けた。)
  • 看完了,先说结论,一坨屎,还不是一般的屎,是那种便秘三天窜稀喷涌而出的屎。(観終わって、まず結論を言おう。それはクソの山だ。しかも普通のクソじゃなく、3日間の便秘の後に噴き出すような類のクソだ。)
  • 商业电影打上爱国旗号,就需要无脑支持?(ビジネス映画が愛国心を掲げているからといって、盲目的に支持しなければならないのか?)
  • 赵林山的731是纯纯的噱头电影,主题上消费爱国情怀,营销上愚弄爱国情怀,内容上亵渎爱国情怀,和749都不配坐一桌。(趙林山の「731」は、純粋なコミック映画だ。テーマ的には愛国心を消費させ、マーケティング的には愛国心を愚弄し、内容的には愛国心を冒涜している。「749」同様、同じテーブルに着くに値しない。)(筆者注:「749局」は、2024年に上映された中国のSF映画で、凄まじい不評を買い、興行成績も大失敗に終わっている。)
  • 垃圾一样的制作水平(ゴミ同様の制作レベル)

◆歴史歪曲をした中国共産党への「しっぺ返し」

これまで何度も中国共産党が日中戦争に関する中国共産党の役割に関して歴史を歪曲していることを書いてきたが、そのしっぺ返しは、思わぬところからやってくる。

中国共産党は嘘をついているのだから、それが「嘘ではない事を証明するために」、これでもか、これでもかと反日教育を強化したり、反日映画なら審査を緩くしたりしてきたために、このようなことが起きるのである。

中国人民はバカではない。

「蟻の一穴(いっけつ)」という言葉がある。どんなに堅固に築いた堤(つつみ)でも、蟻が掘って開けた小さな穴が原因となって、そこから崩壊していくという意味だ。中国のネット民の罵倒は激しく汚い言葉を使うが、嘘を言っていない分だけ強い。そこから万里のファイアーウォールも崩れていくかもしれない。

これは中国という国家自身にとっても良いことではない。どんなにアメリカに比べて新産業に秀でていても、国家として信用されないために、世界のリーダーにはなれない。嘘をついているからだ。その真相がばれないようにするためにも言論弾圧を強化するから、ますます国家として尊敬されず損をしている。必死で努力してきたエンジニアたちがかわいそうだと思う。

一方、日本の政治家やメディアは中国の真相を指摘するのを怖がり、「731」に関しても脅威を表現していた。しかし「大日本帝国」が犯した罪を素直に認めて決別し、堂々としていれば、行き過ぎた反日行動を慎むよう、中国に対して意見を述べることもできるはずだ。

2015年3月12日のコラム<日本は中国に25回も「戦争謝罪」をした――それでも対日批判を強める理由は?>にも書いたように、日本は何度も謝罪してきた。賠償金の代わりに限りなくODA予算も注いできた。しかし中国は終戦から時間が経てば経つほど、それに逆行して「反日感情」を煽っている。毛沢東などは、生涯ただの一度も抗日戦争勝利を祝ったことがない事実を、日本人は認識すべきだ。

日本はせめて真相を見る目、真相を語る勇気を持つべきではないだろうか。

中国のネット民に学びたい。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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