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ピューリサーチ「米国民の対中感情改善」 中国のネットでは「トランプ遊び」
中国のネットに溢れるミーム:ミシンを踏むトランプ大統領とスマホのネジを止めるバンス副大統領
中国のネットに溢れるミーム:ミシンを踏むトランプ大統領とスマホのネジを止めるバンス副大統領

4月17日、アメリカのピューリサーチが米国民の民意調査の結果を発表した。対中感情が2024年よりも改善し、関税の引き上げに関しては、米国民の半数以上が「良くない」と回答している。

中国共産党の機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は大喜び。しかし中国には言論統制があるので、民意調査を行うことは基本的にできない。したがって中国の庶民がアメリカをどう思っているかという調査はない。

そこで、中国のネットで流行っている「トランプがミシンを踏む姿」などのミーム遊びを覗いてみることにした。

◆ピューリサーチの結果

アメリカのピューリサーチ(Pew Research Center)は、今年3月24日から30日にわたって、アメリカの成人3605人を対象に対中感情やトランプ大統領の関税政策などに関して民意調査を行った。その結果を4月17日に発表している

まだ4月2日の「解放の日」に宣言された「相互関税」が始まる前の段階だ。発表されたデータによるグラフは16枚もあるので、その中から2枚ほど抜き出して傾向をお示ししたい。まず1枚目は、アメリカ人の対中感情で、2025年3月時点で、2024年に比べて改善しているという特徴を述べている。それを図表1に示す。

図表1:2025年におけるアメリカ人の対中感情は2024年より良くなっている

ピューリサーチのデータに基づいて筆者作成

図表1から明らかなように、バイデン政権時代の対中感情よりも、少しだが、たしかに良くなっている。中国にいやな印象を持っている人の割合が、全体として2024年の81%から、今年3月では77%に減っている。一番顕著なのは「中国に非常にいやな印象を持っている」アメリカ人の割合が10%も減少していることだ。

中国を「アメリカにとっての最大の脅威だ」と思っているアメリカ人の割合も、2023年に比べてだが8%減っているということは、「トランプこそが最大の脅威と受け止めているアメリカ人が多いのよ」と、ペンシルバニア州に住む古くからの友人が言っていた。その友人は「トランプは世界にとって脅威かもしれないけど、アメリカを崩壊させるかもしれないんだから、アメリカにとってこそ、最大の脅威よ!」と語気を荒げた。「だからね、中国は、そりゃ言論弾圧などいろいろあるだろうけどさ、未来予測が可能で、今ではアメリカより安定しているって思っている人が、私の周りでも少なくないのよ。トランプのお陰で、なんだか中国、得してるわよね」と、お喋りは尽きない。

次にお示しするのは、米中貿易とトランプ関税に対する民意だ。

それを図表2に示す。

図表2:米中貿易の受益者と関税引き上げ

ピューリサーチのデータに基づいて筆者作成

図表2における原典の表現は、そのまま和訳したのでは日本人にとって理解しにくい表現なので、「つまり、こういうことを言っている」という日本人にわかりやすい表現に書き換えた。内容は原文に忠実である。

その上でご説明すると、このグラフは二つの調査を一つにまとめたもので、上半分の調査は「米中貿易の受益者は米中どちらか」を問うていて、下半分は「関税引き上げは良いことか否か」に関する問いだ。

まず上半分に関して言うと、「中国に利益をもたらす」と回答した人は46%で、「両国に均等に利益をもたらす」は25%、「アメリカに利益をもたらす」はわずか10%でしかない。

すなわちアメリカにとって、米中貿易は「損をしている」と受け止めている人がほとんどだということになる。

それならアメリカは中国から輸入しないで、他の国から輸入すればいいじゃないかと思うが、実際上、アメリカはその道は選んでいない。

そこが間違っているのだ。

アメリカの輸入業者が中国を選びさえしなければ、中国がアメリカの輸入業者に「中国製品を買え」と強制することなどできるはずもない。多少割高になってもアメリカの輸入業者が中国から輸入しなければならない義務などない。

アメリカが国家として、「中国製品がアメリカに溢れないようにしたい」と思うなら、輸入業者に規制をかけて、「何%以上は中国から輸入してはならない」とか、「輸入相手国の多角化を狙え」といった行政上の規制を徐々にかけてくれば良かったはずだ。

しかしアメリカはそれをやってこなかった。

その怠慢を続けていながら、いきなりアメリカと貿易している全世界の国や地域に「高関税をかけて、アメリカの製造業を取り戻す」というようなことをしても、アメリカには製造業に従事するエンジニアがいないのだから、「アメリカの製造業が戻ってくる」はずがない。

何度も引用して申し訳ないと思うが、この論考を読んでくださっている方が、必ずしも過去の論考を読んでくださっているとは限らないので、拙著『米中新産業WAR』の序章にある図を図表3として以下に転載する。

図表3:アメリカ製造業従事者の激減

『米中新産業WAR』序章より転載

『米中新産業WAR』序章より転載

図表3から明らかなように、アメリカ自身が金融業ばかり膨らませていったため、製造業に従事するエンジニアがいないのだ。金融部門の従事者もそれほど増えてないのは、一部の少ない金持ちが大儲けをしてアメリカのGDPを支えているからである。その図表は『米中新産業WAR』序章の図表1に描いている。

トランプ大統領は「高関税をかけられたくなければ、どの国もアメリカに製造業の拠点を移せ」と威勢よく言っているが、結局は「他の国の製造業の拠点をアメリカに移す」だけで、アメリカ自身が製造業を創出できるわけではない。結局のところ他国頼みで、アメリカの従業員には技術がないだけでなく、数も少ないから、アメリカに拠点を移す海外企業は大変だ。自国のエンジニアを連れていくか、アメリカ人を最初からトレーニングするしかない。

さてピューリサーチのデータに基づく図表2の後半の解説をしよう。

これはトランプによる「関税の引き上げ」は「アメリカという国家にとってどうだと思うか?」という質問と「あなた自身はどう思いますか?」という質問に対する回答を組み合わせて描いたものである。

「アメリカという国家にとって悪い」と回答した者の割合は52%で、回答者個人にとって悪い」と回答した者の割合は53%だ。半数以上が「トランプ高関税」は「悪い」と回答している。

これはトランプにとっては深刻なデータで、彼がどのように弁明しようとも、アメリカの大統領中間選挙で低い支持率に陥ることは明白だ。

◆相互関税後、中国ネットで流行っている「トランプのミシン姿」ミーム

これに対する中国の官側の姿勢は冒頭に書いた通りなので、解説してもあまり意味がない。そこで、4月2日の相互関税発布以降の中国のネット民の反応を見てみよう。多くの論説もあるが、それも政府側に立ったものが多いので目新しい発見は少ない。それよりも10億を超えるネット民のミームによる反応の方がおもしろい。

4月2日にトランプが発布した相互関税の中に、レソトというアフリカの最貧国がある。主として縫製業で生業を立てている小さな国だ。ミシンを踏んでアメリカにリーバイスなどを輸出して生きているのに、トランプはそのレソトになんと50%という高関税をかけたのである。「これは死ねと言っているのに等しい」と、世界中から激しい批判が巻き起こった。

すると、中国のネットに、AIで生成した「トランプがミシンを踏む姿」や「バンス(副大統領)がスマホのネジを止める姿」などのミームが一気に湧き出してきた。その中のいくつかをお示しする。

図表4:中国のネットで流行っている「トランプのミシン姿」や「バンスのネジ姿」などのミーム

 

中国のネットより

中国のネットより

Make America Great AgainのMAGAキャップの多くは中国で製造されている。アップルのスマホも主として中国工場で製造されている。ナイキのスニーカーは主としてベトナムで製造されているが、高関税をかけられているので、中国と類似の立場だ。

これらのミームは中国ネット民の怒りではなく、「遊び」だ。

トランプをいじって、楽しんでいるのである。

「じゃあ、トランプさん、自国で作ったら?自分でミシン踏めばいいじゃない」とふざけている。

だから筆者はこれを「トランプ遊び」と名付けている。

◆トランプ1.0時代の「中国を再建国するトランプ」のイラスト

中国のネット民は、実はトランプが大好きだ。

トランプ1.0では、「トランプが中国を再建国してくれる」という意味の「川建国」という言葉が流行った。「川」はトランプの中国語表現の一つ「川普(Chuan-pu)」の最初の文字を示す。すなわち、「トランプ」の意味である。「川建国」は「トランプが中国を再建国してくれる」という意味だ。当時はまだAI生成技術が今ほどは発展していなかったので、イラストで描いた「川建国」の姿を図表5に示す。

図表5:トランプ1.0で流行った「中国を再建国するトランプ」のイラスト

中国のネットより

写真の下に書いてある中国語「我住长江头,君住长江尾。日日思君不见君,共建社会主义新农村」の意味は「私は揚子江の源流に住んでおり、君は揚子江の下流に住んでいる。日々思いは募るが会うことはできない。共に力を合わせて社会主義新農村を建設していこう」という意味だ。「新農村」は毛沢東が革命時代に主張した概念で、日本の作家・武者小路実篤(むしゃのこうじ・さねあつ)の主張に共鳴したものだった(拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』で詳述)。

中国の若者はトランプが大好きで、いつもトランプをいじってはさまざまな画像でネットを賑わせる。

トランプが好きな理由は、単純にトランプが正直でおもしろいということではあるが、トランプ1.0だろうと、トランプ2.0だろうと、トランプは結局のところ、「中国を偉大にさせてくれる」というのが、ネット民の心情だろう。

事実、4月16日のニューヨーク・タイムズも<ドナルド・トランプの関税は中国を偉大にするだけだ>という見出しの報道をしている。登録しないと読めないので、その中国語版がニューヨーク・タイムズ中文網にあるので、念のためご紹介しておきたい。

◆赤沢大臣がトランプにプレゼントした金色のミャクミャクは中国製?

蛇足ではあるが、先般、日本の赤沢亮正・経済再生担当大臣が訪米してトランプに会ったときに、トランプにプレゼントした金色のミャクミャクは、なんと「中国製」であったようだ。

日本のANN NEWSの「報道ステーション」が<パジャマ姿で知った大統領“参戦”赤沢大臣が明かした“トランプ関税”交渉の舞台裏【報道ステーション】(2025年4月18日)>の3:05頃で報道している。そのスクリーンショットを図表6に示す。右下の所に「税込み8800円(中国製)」とある。

図表6:赤沢大臣がトランプ大統領にプレゼントしたミャクミャクは中国製

ANNニュースのスクリーンショット

ちなみに、大阪万博の公式ショップにも、ミャクミャクは「原産国 中国」と書いてある。

「アメリカは製造業を取り戻すのだ!」と、悲壮なまでに闘っているトランプが、赤沢氏からもらったミャクミャクの裏に「made in China」と書いてあるのを発見したら、どんな気持ちになるのだろうか?

2012年の中国にける反日デモで、デモを呼び掛けるスマホのパーツは「日本製」だったことを発見した中国の若者が、その怒りと屈辱感を中国政府に向けていった時の風景を彷彿とさせる。習近平はそれを見てハイテク国家戦略「中国製造2025」を発布し、今日の新産業における世界一の地位を勝ち取っていった。その過程を描いたのが『米中新産業WAR』である。逆の光景が日米に重なる。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。『米中新産業WAR』(仮)3月3日発売予定(ビジネス社)。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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