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トランプ「報復関税を表明した中国に50%の追加関税」 習近平はどう出るのか?
トランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)
トランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

4月6日の論考<トランプ関税は「中国を再び偉大に(Make China Great Again)」 英紙エコノミスト>で、トランプ大統領が4月2日に発表した対中相互関税34%に対して、中国が報復関税34%を表明したと書いた。さらにホワイトハウスの大統領令には、別途、「報復関税をした国・地域には、さらに相互関税を増額させる」という趣旨の文言がある。

中国はそれを承知で報復関税を宣言したのだろうが、トランプは4月7日、自身のSNSで「中国が8日までに34%の報復関税を撤回しなければ、9日から50%の追加関税を課す」と書いている。

4月2日の「相互関税」発表までは、対米貿易をしている全ての国・地域が対象だったが、中国の報復関税により事態は一気に米中貿易戦に引き上げられた感を呈している。

◆50%の追加関税は、すなわち対中関税合計104%を意味するのか?

トランプが7日に自分のソーシャル・メディアTruth Socialに投稿した英文を読むと「もし中国が2025年4月8日までに34%の報復関税を撤回しなければ」、the United States will impose ADDITIONAL Tariffs on China of 50%, effective April 9th.(米国は4月9日から中国に対して50%の追加関税を課すことになる)と書いている。

この“ADDITIONAL”が、「新たに50%を追加」なのか、「34%を50%にする」なのか、この英文では判然としない。

日本の、たとえば毎日新聞は<トランプ氏、中国に50%の追加関税を示唆 報復関税の撤回要求>と書いており、本文では「8日までに撤回しない場合、中国に対する50%の追加関税を9日に発動すると表明」と書いている。まさに、トランプの文言からは、こういう翻訳の仕方しかない。

しかし、「追加関税」なので、「34%を50%にする」のではなく、「新たに50%を追加する」という意味でのADDITIONAL Tariffs(追加関税)であるならば、冒頭に書いた論考<トランプ関税は「中国を再び偉大に(Make China Great Again)」 英紙エコノミスト>の図表2に示した関税を合計すると

      20%+34%+50%=104%

なので、中国には「104%」の関税を課すということになる。

前代未聞だ。

◆中国の反応

これに対して中国側は直ちに抗議した。

4月8日、中国共産党の機関紙「人民日報」は<圧力と脅威は、中国に対処するための正しい方法ではない>という見出しの報道をした。そこでは主として以下のような主張が書いてある。

  • アメリカの一方的なやり方に対して、中国は断固として自国の発展と利益を守り、国際的な公正と正義に準じて必要な措置をとってきたし、これからも続けるだろう。
  • 同時に、中国は高水準の開放を揺るぎなく推進し、開発の機会を他国と共有し、相互利益とウィンウィンの結果を達成する。
  • アメリカの「相互関税」は、本質的には「アメリカの覇権」を追求する権力政治の現れだ。中国は決して、それを恐れない。歴史と現実は、圧力と脅威が中国に対処する正しい方法ではないことを証明している。
  • 自国を発展させることは世界のすべての国の普遍的な権利であり、一部の国を保護するためではない。アメリカは関税を通して、現在の国際経済貿易秩序を転覆させようとしており、国際社会から強い反発を招いている。
  • アメリカの一方的ないじめ行為に対する中国の断固たる対抗は、真の多国間主義を擁護し、多角的貿易体制を維持するために必要だ。
  • 中国の対外貿易は、これまでもアメリカによる圧力のもと、強い回復力を示している。
  • 中国は完全な産業システムを備えた超大国であり、製造国から製造大国に移行しており、国連統計グループのほぼすべての国と地域の輸出入記録があり、150を超える国と地域の主要な貿易相手国だ。
  • それに比べてアメリカは貿易赤字を削減し、製造業の復活を促進するという目標を達成するどころか、自国の企業や消費者に損失をもたらした。現在、アメリカは再び大きな関税を振り回している。
  • 中国の発展に対して短期的には一定の負の影響をもたらすだろうが、中国はショックに対処する自信を持っている。中国は(アメリカ以外の)すべての貿易相手国とウィンウィンの協力を揺るぎなく強化しており、これによりすべての貿易相手国の発展を強化するだけでなく、自国の発展の回復力を強化し、課題に対応する能力が十分にある。(人民日報からの抜粋は以上)

中国はこのまま、断固戦う方向に動くものと考えられる。

この中国の自信は4月6日の論考<トランプ関税は「中国を再び偉大に(Make China Great Again)」 英紙エコノミスト>の図表3に現れているが、もう一つは『米中新産業WAR』に書いた製造業、特に新産業における中国のアメリカに対する圧倒的優位性から来ているものと考えられる。事実、その本の中でも書いたが、中国は「アメリカに制裁されたがゆえに成長した分野」が非常に多い。

4月8日、新華網も中国商務部の報道官の発言を報道している。趣旨は「人民日報」とほぼ同じだが「さらに一歩進んで50%の関税を課す」と表現しているので、結局、中国に対する関税は合計「104%」とみなすべきなのだろう。

◆習近平は「台湾統一」以外の外的要素は軽視か

習近平にしてみれば、トランプがNED(全米民主主義基金)の活動に反対していてくれるのなら、他はすべて二の次三の次だ。関税に関しては恐れていないだろう。トランプはTruth Socialで「中国が34%の報復関税を撤回しなければ、今後は中国とのいかなる交渉にも応じない」とも書いているが、習近平が「どうか緩和してほしい」と交渉する姿勢には出ない可能性の方が高い。

なぜなら、習近平にとって「台湾統一」こそは核心中の最重要核心的使命だからだ。それ以外の問題は、たとえ関税104%であっても、重視しない可能性がある。

NEDは長年にわたって台湾独立を支援してきた。そのNEDの財政的支柱であるUSAID(アメリカ合衆国国際開発庁)をトランプは解体しようとしている。

習近平にとっては、それだけで十分のはずだ。

それさえ保証されていれば、習近平はむしろ報復関税によってアメリカに対抗し、4月6日の論考<トランプ関税は「中国を再び偉大に(Make China Great Again)」 英紙エコノミスト>の図表3の色を、より赤く染めていく方向に向かうにちがいない。

これは、アメリカ無しでも世界貿易が成り立っていくという、「新たな貿易秩序」を形成する強烈なきっかけになると、習近平は逆に野心を燃やしているかもしれない。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。『米中新産業WAR』(仮)3月3日発売予定(ビジネス社)。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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