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「米露中vs.欧州」基軸への移行か? 反NEDと反NATOおよびウ停戦交渉から見えるトランプの世界
2025年 独ローズマンデーのカーニバル(プーチン・トランプ・習近平)(写真:ロイター/アフロ)
2025年 独ローズマンデーのカーニバル(プーチン・トランプ・習近平)(写真:ロイター/アフロ)

トランプ大統領はNED(全米民主主義基金)を財政支援するUSAID(アメリカ合衆国国際開発庁)を解体すべく動き、3月19日には第二次世界大戦後米軍が担当してきたNATO軍最高司令官ポストの放棄を検討しているニュースが流れた。これはNATO解体を示唆する。3月10日にはトランプ政権のシンクタンクがEU解体に向けて動いていると報道されてもいる。

 NED解体、NATO解体は中露両国にとっても実に歓迎すべきことだ。

 加えて、トランプはプーチンとの会談の後に「プーチンとも習近平とも良い関係であり続けたい」という趣旨の発言をしている。中露は、トランプ政権が終われば元のアメリカが戻ってくることを知っているので、中露共同戦線は絶対にやめない。

 ウクライナ戦争停戦交渉においてもトランプは明らかにプーチン寄りだ。

 ゼレンスキー抜きでやってはどうかとトランプに水面下で提案したのも習近平だとウォールストリート・ジャーナルは書いている。

 となれば、「反NED」と「反NATO」および「ウクライナ戦争停戦交渉」において「米露中」が結ばれていく可能性が否定できなくなる。果たして「米露中vs.欧州」の日は来るのだろうか?

◆反NEDで結ばれる米露中

 2月12日のコラム<習近平驚喜か? トランプ&マスクによるUSAID解体は中国の大敵NED瓦解に等しい>で、現在アメリカでNEDに関して何が起きているかに関して書いた。この事象に関する「トランプ・プーチン・習近平」の立場を再確認したい。

●トランプ

 くり返すまでもなく、NEDは1983年から世界の反米的な政権に対して内政干渉を行い、その国の不満分子を支援して反米政権を転覆させ、アメリカ式民主主義を他国に押し付けてきた。最近の例としては、2013年から14年初頭にかけて、NEDはウクライナの親露政権を転覆させるべくバイデン(副大統領)の指揮下でマイダン革命を起こし、親露政権(ヤヌコ-ヴィチ政権)転覆に成功した。その報復としてプーチンはクリミア半島を合併した。その後もバイデンはウクライナに入り浸って息子ハンター・バイデンの利権のためにも動き回り、「ウクライナはNATOに加盟すべき」と煽りまくってきた。その結果プーチンのウクライナ侵略を招いたので、トランプは「ウクライナ戦争はバイデンが私利私欲のために起こしたものだ!」と何度も断言している

 そもそもアメリカファーストを唱えるトランプにとって、他国干渉をしてアメリカ式民主主義を他国に押し付けるNEDの動きはトランプの政治信条と矛盾する。

 加えてトランプ1.0の時に朝鮮半島問題を解決してノーベル平和賞を獲ろうと、北朝鮮の金正恩(総書記)と会談していたトランプを阻止したネオコン一派をトランプは憎んでいるだろう。ましてやロシアゲート等によりトランプに対する「魔女狩り」をしたネオコン一派には限りない憎しみを抱いているようだ。何といっても2月28日の米ウ首脳会談で激高したトランプは、ゼレンスキーに対して「魔女狩りでプーチンまで巻き添えにしてしまったんだぞ!」とRussia(ロシア)を4回も連発してプーチンへの同情を露わにした。

 NEDはネオコンの采配下で動いている。トランプは心からNEDを嫌っているので、2月25日にはNEDのウェブサイトに「支援活動を停止する旨の声明」が表明されたほどだ。図表1に示すのは、2月25日のNEDのウェブサイトにおける「支援活動停止声明」である。

図表1:NEDのウェブサイトにある支援活動停止声明

 

NEDのウェブサイトを基に筆者作成

NEDのウェブサイトを基に筆者作成

 

●プーチン

 プーチンはもちろんNEDを激しく憎んでいる。

前述のごとく、NEDがマイダン革命を起こして親露政権を転覆させたのでクリミア半島を占拠した。以来ウクライナにおける親米傀儡政権であったポロシェンコ政権におけるNEDの暗躍は途絶えたことがない。ロシア国内にも入り込んで反政府運動家らを支援している。プーチンにとって、NEDこそは最大の政敵だ。

●習近平

 習近平もプーチンと同じようにNEDを激しく憎んでいる。香港の民主化デモを長年にわたって支援してきたのはNEDだし、今もなお台湾独立を扇動しているからだ。トランプがNED解体に向かって動き始めたことは、習近平にとって、この上ない喜びで、これさえ方針を共有できるなら、他の関税などの貿易問題などは、いくらでも譲歩できるし、また方法もある。

 このように「反NED」に関して「トランプ・プーチン・習近平」は一致しているのである。

◆「反NATO」で結ばれる「米露中」

 「反NATO」に関しても「米露中」の利害は一致している。これも「トランプ・プーチン・習近平」それぞれに関して考察する。

●トランプ

 トランプがNATO解体論を主張していることはトランプ1.0の時から明らかだった。今般は冒頭に書いたように、3月19日にNBCがペンタゴンのブリーフィングに基づき2人の米国防当局者から得た情報として、Trump admin considers giving up NATO command that has been exclusively American since Eisenhower(トランプ政権は、アイゼンハワー以来、もっぱらアメリカが担当していたNATOの指揮を放棄することを検討している)という事実をリークしている。

 1952年以来、NATO軍の最高司令官は米軍が担ってきた。その約75年間の歴史に、トランプがピリオドを打とうとしているというニュースだ。これは即ちNATO解体へと動いていくことを示唆している。

 トランプがトランプ1.0からNATO解体論を打ち上げていたのは、NATOの軍事費のほとんどをアメリカが負担していて、あまりに不平等だという、ビジネスマン的な感覚から来ている。

 たとえば2024年のNATO防衛費上位国の割合を示すと図表2のようになる。これはNATO報告書Defence Expenditure of NATO Countries (2014-2024)にある2024年推計データに基づいて作成した円グラフである。

図表2:2024年防衛費上位国の割合

 

NATO報告書に基づき筆者作成

NATO報告書に基づき筆者作成

 

 さらにNATO防衛費主要国負担推移を描くと図表3のようになる。アメリカ一国だけがNATO財政を支えているようなもので、アメリカが抜ければNATOは自ずと解体されることになる。最高司令官から米軍が抜けるということは、NATO解体に向かってアメリカは進んでいることが窺(うかが)われる。

図表3:NATO主要国の防衛費推移

 

NATO報告書に基づき筆者作成

NATO報告書に基づき筆者作成

 

 図表3をご覧になると、ビジネスマンであるトランプが「不平等だ」としてNATO脱退を視野に入れるのも納得がいく。

 加えてトランプは何と、NATOだけでなくEU解体に向けても動いているようだ。欧州諸国がひと固まりとなって経済共同体を形成しアメリカに対峙する形になることを、トランプが喜ぶはずがないとの自明だろう。

 この動きに関しては3月10日にポーランドのメディアVSquareが報道している。

 どうやらトランプ政権に影響力のあるシンクタンクの一つヘリテージ財団のプロジェクト2025が、ポーランドとハンガリーの協力を得ながら「EU機関の解体とブロック全体の名称変更」などを検討しているのだという。

 中国ではすぐさま反応して3月18日に<外国メディア:トランプのシンクタンクはEU解体を推進:欧州は中国に支援を求めた>というタイトルで、中国目線でEU解体を分析し、喜んでいる。

●プーチン

 そもそも旧ソ連がワルシャワ条約機構を解体しソ連崩壊へと決意したのは、アメリカのベーカー国務長官が1990年2月に「NATOを1インチたりとも東方拡大しない」と約束したからだ。しかし、その後NATOは約束を破り続けてきた。あれはソ連を騙すために言ったに過ぎないと、その後堂々と表明する国家元首も現れてきた。だから、プーチンは当然のことながらNATOを心から憎んでいる。

 加えてバイデンがウクライナを唆(そそのか)して、「ウクライナはNATOに加盟すべきだ」として親露政権を転覆させた後に誕生させたバイデンの傀儡政権であったポロシェンコ政権では憲法改正までしてNATO加盟をウクライナ首相の努力義務であるとまで書かせている。

 プーチンにとってウクライナは最後の緩衝地帯としての砦だった。

 そのウクライナがNATOに加盟できないようにするためにウクライナに侵攻した。戦争中の国はNATO加盟できないからだ。

 トランプ2.0誕生によって、プーチンの思いがトランプに伝わるようになった。トランプがNATO解体に動いてくれるのなら、プーチンは全面的にトランプに協力するだろう。

●習近平

 本来習近平にとって、NATOは関係のない存在だった。しかしロシアのウクライナ侵攻とNATOとの対立により、プーチンを経済的に支えている習近平の立場は微妙に「反NATO」に傾いて行った。決定的だったのはバイデン政権が「対中包囲網」形成のために、NATOの東京事務所を設立し、東京を拠点にNATOがアジア太平洋へと動き始めたことである。岸田政権がそれに喜んで応じたため、習近平の「反NATO」的姿勢が固まっていった。

 以上、「反NATO」においても「トランプ・プーチン・習近平」の立場は一致している。

 トランプ復活により世界で地殻変動が起きようとしている。

 しかしトランプ政権が終わったら、アメリカは元に戻るので、中露が仲たがいすることは絶対にあり得ない。共同陣営を張り続ける。

◆ウクライナ戦争停戦交渉における「米露中」の立場の一致

 これに関しては2月22日のコラム<史上最大のディール! ウクライナ停戦「米露交渉」案は習近平の「トランプへのビッグプレゼント」か?>でほぼ言い尽くしたので、長くなりすぎるため本稿では省略する。

◆トランプ、FOXニュースで「中国ともロシアとも仲良くしていたい」

 3月18日にプーチンと電話会談した後、トランプはFOXニュースのインタビュー番組に出て、主として以下のようなことを言っている。

 ●私は中国の習近平国家主席と独自の話し合いをしています。彼もうまくやっていきたいと思っていますし、私たちも彼とうまくやっていきたいと思っています。そして、そうするつもりです。

 ●習近平主席は仲良くしたいと思っていると思いますし、ロシアも米国と仲良くしたいと思っていると思います。また、私たちの国はほんの数ヶ月前とはまったく違うと思います。私たちは今や尊敬される国です。私たちは尊敬されていませんでした。私たちは笑われていました。私たちの指導者は無能でした。たとえば、この戦争は、私が大統領だったら決して起こらなかったでしょう。

 ●(司会者の「中国をこの地域から締め出し、ロシアとより緊密な関係を築きたいという願望について話されていたと思いますが」という問いに対してトランプは)、「私は歴史の学生です。オバマが不自然にも中露両国を結びつけ、結婚を強制したのです。(中略)今では中露は友好的で、私は(中露)どちらとも友好関係を築くつもりです。しかし、貿易に関しては赤字を解消しなければなりません。私たちは現在、中国との赤字が1兆ドルを超えています。それに関しては(友好関係を保ちつつ、別途)何かをするつもりです。(要約以上)

 これは「トランプがウクライナ停戦問題を急ぐのは、早期解決したあとに中国攻撃に集中するためだ」という主張を真っ向から否定する。

 また、<史上最大のディール! ウクライナ停戦「米露交渉」案は習近平の「トランプへのビッグプレゼント」か?>に書いたように、大統領就任から3日後の1月23日にトランプはダボス会議にオンライン参加して「私は習近平が大好きだ。ずーっと好きだった」と公言していることは、「ウクライナ問題解決を急ぐのは、中国攻撃に集中したいからだ」と主張したがる人たちの期待を裏切っていることが見えてくる。

 実はあの激しい嫌中派のルビオ国務長官さえ、「トランプがプーチンに近づいているのは逆ニクソンではない」、すなわち「中露離間を図るものではない」と明言していると、ブルームバーグが報道している

 その意味ではトランプ2.0で、「米露中」基軸構想が暗黙の裡にコンセンサスを得ているのかもしれず、したがって世界は「米露中vs.欧州」への地殻変動へと動いているのかもしれない。

 なお、大統領選の時にトランプが暗殺に遭った後、プーチンがトランプのために教会に行きお祈りをしたと、3月21日になってウィトコフ中東担当特使が明らかにした。それを知ったトランプは感動したとpoliticoが伝えている。トランプとプーチンが深い友情で結ばれ、一方ではトランプ政権でなくなった時のためにプーチンと習近平が緊密であることを保つことによって、3人の微妙なバランスの友情が世界に地殻変動をもたらすとすれば、私たちは面白い時代を生きていることになりはしないだろうか。「米露中」三大巨頭による基軸統治など、人類史上、初めてのことだから。

 この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。『米中新産業WAR』(仮)3月3日発売予定(ビジネス社)。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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